時代が家庭科に追いついた! 新しい教科書『ウェルビーイングにつなぐ 家庭基礎』『ウェルビーイングにつなぐ 家庭総合』に込めた想い
高校家庭

教育図書は、令和8年度から新しい教科書『ウェルビーイングにつなぐ 家庭基礎』(家基006-901)と『ウェルビーイングにつなぐ 家庭総合』(家総006-901)を発行します。
本教科書の監修者である東京学芸大学名誉教授・小澤紀美子先生に「Well-being(ウェルビーイング)とは何か」についてお話しを伺いました。
小澤 紀美子
東京学芸大学名誉教授
文部科学省・環境省にて、小中高教育に係わった後、現職。
こども環境学会会長、日本環境教育学会会長、NPO法人こども環境活動支援協会代表理事などを歴任。
専門は、住環境教育、環境教育。
2024年に瑞宝中綬章を受賞。

ウェルビーイングとは何か
――新しい家庭基礎・家庭総合の教科書のコンセプトをWell-being(ウェルビーイング)としましたが、そもそも、ウェルビーイングとはなんでしょうか。
最近、さまざまな場面でウェルビーイングという言葉が使われ始めましたが、実は1946年の世界保健機関(WHO)の憲章の前文(1946年61ヵ国で署名され、1948年に効力が発生、日本では、1951年6月に条約第1号として公布)ですでにこの言葉が示されています。

肉体的、精神的と続いて「社会的」と記述されているのがポイントですね。
家庭科で学習する家族関係や地域という要素が含まれていると考えてよいでしょう。
なぜ、今、ウェルビーイングなのか
――なぜ、今、ウェルビーイングが注目されているのでしょうか。
文部科学省が平成30年に告示した高等学校学習指導要領の前文に「持続可能な社会の創り手」という記述があります。「つくりて」が「Create」を意味する「創り手」と書かれたことは、大きな意味があると思います。
また、文部科学省は第4期(令和5年度〜令和9年度)教育振興基本計画のなかで「持続可能な社会の創り手の育成」に加え、「日本社会に根差したウェルビーイングの向上」をコンセプトとして掲げました。
この新しい学習指導要領に基づいて教育課程が編成されるようになったことや、新しい教育振興基本計画教育において教育政策全体の方向性が定められたことが、教育においてウェルビーイングが注目されている理由、と考えています。
平成29・30・31年改訂学習指導要領(本文、解説):文部科学省
もうひとつ、社会の変化も影響していると思います。
「人は多様であり、違い認めて尊重することが大切だ」「多様な人々が自分らしく生きられる社会にするべきだ」とみんなが気づき始め、時代にフィットする言葉として「ウェルビーイング」が広がっていったのではないでしょうか。
時代が家庭科に追いついた!
――教育振興基本計画で示された「教育に関連するウェルビーイングの要素」は、家庭科で学習する内容と重なりますね。

自己肯定感や協働性、安全安心な環境や多様性への理解など、まさに家庭科で学び・教えられてきたことそのものですね。
そのように考えると、「ようやく時代が家庭科に追いついた」といえるかもしれません。
つまり、ウェルビーイングは昔から掲げられてきていたけれど、教育のあり方が変わって、ウェルビーイングが生き生きと蘇ってきたのだと思います。
これらを背景に、「ウェルビーイングを軸に、家庭科の教科書の内容を再構築してみよう!」となり、新しい家庭基礎・家庭総合の教科書を編修しました。


――最後に、家庭科の先生に向けてのメッセージをお願いします。
先生方は日々ご苦労されていらっしゃることと思います。
学校の教材研究をしなくてはいけないけれど、家庭生活もあるし、一方で働き方改革によって残業はできないなど、板挟みになることも多いでしょう。
児童生徒も疲れている子が多い時代かもしれません。
そんなときに必要なのは「拠りどころ(根拠)」です。
拠りどころは個人の年代や生活環境などによっても違ってくると思いますが、やはり「人とのつながり」を感じることができる場所が、拠りどころになるのだと思います。
先生方には、教師になったときの情熱を思い出して、ただ知識を伝達するのではなくて、ぜひ生徒一人一人をケアして、育ちをサポートしてあげる立場になってほしいです。
それには、自分一人ではなかなか難しいですから、先生自身も一人で抱え込まずに、いろいろな人と「縁をつない」で「互いに支え合いながら」進めていただけるとよいと思います。
先生というのは特別で大切な職業です。
私は、先生という仕事は子どもたちの「根っこ」を育てる仕事だと考えています。
植物は、根が出て初めて茎が出る、そして枝を張ることができます。
人も一緒です。
個性というのは枝につけた葉っぱのようなものです。
今は葉っぱである個性の部分ばかり注目されていますが、まずはしっかり根を張ることが大切です。
根を張らないと、土から養分(育つ地域の風土:自然・文化)を吸収することもできないですから。
「人間は一人で生きているんじゃない」というのがすべての基本です。
人とのつながりや支え合いを意識して、自分自身だけでなく、生徒同士や生徒と社会のつながりも促してあげられるといいですね。
私は、最近起きているさまざまな問題は、世の中に「余白」がないことが要因のひとつなのではないかと感じています。
心理的・物理的距離を含めた人と人との関係性を維持することが困難な時代になってきている気がします。
特に情報化社会になって、「尖っていないと認められない」と感じてしまう人も多いのではないでしょうか。
そんな時代だからこそ、「つながり」の大切さを生徒と先生で学び合ってください。
家庭科には、その力があると思います。
ウェルビーイングという言葉が定着してきたということは、家庭科が「生きる力」を育む教科であることに社会が気づいたということです。
ぜひ自信をもって突き進んでください。