公民科×家庭科でコラボしてみませんか?
高校家庭

このたび、教育図書は、高等学校の公民科・家庭科の先生方に向けた新刊図書『高等学校公民科×家庭科コラボによる「18歳成年」教育教材の開発」』を発行しました。
本書では、公民科・家庭科で行われた授業実践・計11事例について、授業計画案やワークシート、解説を掲載しています。
「18歳成年」と特に関連の深い公民科と家庭科が「コラボ」するためのヒントが満載です。
公民科・家庭科どちらの授業にも活用できますので、ぜひご一読いただけますと幸いです。
今回は、著者である「18歳成年」教育教材開発研究会の藤井剛先生、仲田郁子先生、野中美津枝先生から、本書の魅力や、「公民科×家庭科コラボ」が秘める可能性についてお聞きしました。
Q1. どのようなきっかけ、目的で、「公民科×家庭科コラボによる「18歳成年」教育教材の開発」がスタートしたのでしょうか?
藤井剛先生
「18歳成年」教育教材の開発をスタートした理由は大きく2点あります。
1点目は、「18歳成年」となり、高校生向けに多くの「18歳成年教材」が開発・提案されていますが、その教材の大半は消費者教育の色彩が強く、「大人になること」を多角的・多面的に考えさせる教材としては不十分だと感じているからです。
2点目は、成年になるとアパートの貸借、クレジットカードの作成、進学や就職などの進路決定、さらに結婚についても自分の意思で決めることができるようになります。
つまり消費者教育だけではなく、キャリア教育や、人生設計、経済教育なども含む必要があるのです。
そのため成年教育は教科指導だけではなく、ロングホームルームや総合的な探究の時間など、教科を超えて行うこととなります。
さらに、弁護士、消費者教育アドバイザー、ファンドマネージャーなど外部専門家と連携する方が生徒の理解を深めます。
このような教科や学校を超えたカリキュラム・マネジメントの視点に立った教材が、ほとんど開発されていないと考えているからです。
以上の理由で、消費者教育を超え、カリキュラム・マネジメントを意識した教材を開発しようとしたのです。
Q2.「18歳成年」の学習において、公民科と家庭科の共通点や違い、相互に補える部分はどのようなものがあるでしょうか?
仲田郁子先生
まずは以下の「家庭基礎」「公共」シラバス対照表をご覧ください。

これは本書の著者が協力して作成した公共と家庭基礎の内容の対照表の一部です。
このようにたくさんの内容が相互に関わり合っていることは、私たちにとってもはるかに予想以上でした。
まずはじっくり見ていただき、ここは家庭科(公民科)にお願いしたらどうかとか、この単元は公民科(家庭科)のこの題材の学習終了後に実施するとよいのではなど、自分の授業に役立ちそうなことをさがしてみてください。
家庭科は自分の生活を見つめることから始まって、これからの人生を考え、自分らしいライフスタイルを目指します。
一方で公民科は私たちが生きる今の社会を見つめ、その枠組みや制度を知り、よりよい社会の構築を目指します。
最終目標はほとんど同じ。充実した人生を送ることです。たどる道筋にそれぞれの教科の特徴があります。
互いに2つの教科内容を理解した上で、生徒の興味・関心や実態に合わせて、授業を計画していきましょう。
Q3.本書で扱われている教材の特色について、生徒からどのような反応がありましたか?
藤井剛先生
本書の教材は、すべてアクティブ・ラーニングの手法をとっています。
そのような授業については、「『○○について学ぶ』というと、『暗記することが多くて、テスト対策が大変』と思ってしまうが、今日のような授業だと『覚える』のではなくて『納得する』ので、学んだことがすぐに使えると思った」との反応が多く見られました。
コラボの授業については、「家庭科の時間に公民の先生が来て、株などの金融商品や投資信託の勉強をするなんて、正直びっくりした。でも、家庭科と公民に共通の項目があることが良く分かった」との意見がありました。
最後に外部講師の招聘(しょうへい)について、「授業に2人も弁護士さんが来て、違う意見を話してくれたとき、2人とも納得する主張だったのでビックリした。専門家の意見をたくさん聞くといろいろな考え方が出来るようになると思う。次は誰が来るのか楽しみだ。」との感想がありました。
このように生徒たちは、開発した授業・教材を通して、様々なことを学んだと思います。


第Ⅱ部 第三分科会 法的責任 事例1「だます側」から特殊詐欺を考える ワークシート
このワークシートは本書に収録されているワークシートです。
ご覧のように、実際にありそうな(あった)SNSでのやりとりを教材化し、「だまし手」の思惑・手口を中心に考えることにより、生徒が自分事として特殊詐欺などを考えられるように構成されています。
Q4. この本の活用の仕方、見どころなどを教えてください。
野中美津枝先生
本著書第Ⅱ部には、「18歳成年」教材開発研究会が第一分科会から第六分科会に分かれて開発した全11個の授業実践事例を掲載しています。
研究会で実際に授業実践した学校はバラバラでしたが、下図は、開発した授業実践事例を基に学校全体で取り組む「18歳成年」の指導におけるカリキュラム・マネジメントの可能性として、第Ⅲ部(p.175)に示しました。

第Ⅲ部 「18歳成年」の指導におけるカリキュラム・マネジメント
「18歳成年」の指導で育む資質・能力は、一人ひとりがよりよい人生や社会の創り手となるように、「自他の個性を尊重し、集団や社会で適切な人間関係を築き、よりよい人生や社会を切り拓くための資質・能力」「社会の一員として、主体的に社会の形成に参画し、持続可能な社会づくりに貢献できる力」です。
各分科会の実践事例は、家庭科や「公共」などの教科・科目だけではなく、「総合的な探究の時間」や「特別活動」でも実践可能であり、また、弁護士などの専門家や地域包括センター、消費生活センターなど地域の資源を活用して学校教育活動全体で計画的に取り入れることで一層効果が期待できます。
Q5. 高校の先生方へのメッセージやアドバイスなどをお願いします。
仲田郁子先生
毎日忙しくお過ごしと思いますが、だからこそ、全部を自分ひとりで抱え込まないようにしましょう。
Q2でも触れましたが、職場内で上手にコラボ授業を計画することで、限られた時間を有効に使うことができ、他の教科の内容を知ることで、自分の担当科目の学習効果を高めることができます。
コラボ授業は「手間がかかって大変」ではなくて「分担することで効果を高められる」ものなのです。
本書は全編を通してコラボ授業を意識していますが、特に第Ⅲ部では、授業実践者が対談でコラボ授業の魅力をたっぷり語っているので、ぜひ読んでみてください。
野中美津枝先生
「18歳成年」になり、生徒一人ひとりが社会の一員として生きていくためにどんな力が必要なのかを考えて、いずれの授業実践事例も、社会とのつながりを自分ごととして捉えられるように教材を開発しました。
高校生に考えてほしい内容がたくさん入っています。
ぜひ、いろいろな教科やホームルーム活動などで、ご活用ください。
藤井剛先生
本書は、「カリマネとはなにか?」「コラボを行う『第一歩』はなにか?」「外部との連携は、『誰と』『どのような窓口から』『どのように』行うか」を紹介するものです。
さらに、すべての教材を実践しており、ワークシートなどもダウンロードできます。
その意味で、明日からすぐ使える教材ばかりです。
「他教科とコラボをしたい」「外部専門家を招きたい」と考えている先生は、ぜひ一度手に取っていただきたいと思います。
藤井剛(ふじいつよし)
1983年から千葉県の公立高校教員として、法教育、主権者教育、NIE、アクティブ・ラーニングなどの実践を行なう。2015年4月より2025年3月まで、明治大学文学部特任教授として社会科・公民科教育法等を担当し、教員養成に務める。専門は、教科教育法。現在、主権者教育アドバイザー(総務省)として全国で講演等を行っている。主な著書は、『主権者教育のすすめ』(清水書院)、『公共の授業と評価のデザイン』(清水書院)、『「なぜ!?」からはじめる政治・経済』(山川出版社)など。

仲田郁子(なかだいくこ)
國學院大學短期大学人間教育学科教授。(一社)日本家政学会認定家庭生活アドバイザー。
千葉県立高校教諭を長年務めた後、2020年より現職。専門は家庭科教育学。
主な著書:「公共の授業と評価のデザイン」(共著、清水書院)、「あんころ~家庭科の授業案がころころ出てくる本~」「あんころ~家庭科の授業案がころころ出てくる本~持続可能な社会へ、学び合い、つなぐ編」(いずれも共著、教育図書)など。

野中美津枝(のなかみつえ)
茨城大学教育学部教授。博士(教育学)。管理栄養士、消費生活アドバイザー。公立高等学校教諭、私立高等学校教諭として約18年間高校で家庭科を教え、その後大学教員になり、九州女子大学、愛媛大学、茨城大学において家庭科教育法等を担当し、教員養成に務める。専門は、授業研究、消費者教育、食育。主な著書は、「新しい消費者教育-これからの消費生活を考える-」(共著、慶應義塾大学出版会)、「生活課題解決能力を育成する授業デザインの実証的研究-授業評価・改善に関するモデル」(単著、福村出版)、「ロールプレイングと導入した新しい家庭科授業」(共著、教育図書)など。

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高等学校公民科×家庭科コラボによる「18歳成年」教育教材の開発
定価:3,080円(本体:2,800円)
コード番号:2146690