教科横断的学びの実践② 家庭科×英語科

高校家庭

高等学校の英語の授業では、CLIL(内容統合型学習)が盛んに行われています。学習指導要領の改訂に伴い、SDGsや歴史、科学など他教科の内容を英語で扱うことで、より高度な思考を促します。

栃木県鹿沼高等学校の家庭科の佐藤 祐子先生英語科の吉澤 尚樹先生と連携し、子供の食事の授業と調理実習後に英語コミュニケーションの授業で同じテーマの授業をすることにより学びを深める工夫をしました。

コラボ授業の狙い

栃木県立鹿沼高等学校は文武両道を掲げ、生徒たちは学業と部活動のどちらにも積極的に取り組んでいます。進路面では、ほとんどの生徒が四年制大学へ進学しています。お互いに切磋琢磨しながら充実した学校生活を送っています。

佐藤先生曰く、進学校における家庭科は、単なる「受験に関係ない科目」ではなく、生徒が社会に出てから自立し、持続可能な生活を営むための基盤となり、生涯にわたる生活を主体的に営む力を育てる教科でありたい。進学校であるからこそ、知識偏重に陥ることなく、家庭科を「生活者教育」として位置づけることが、教育全体のバランスを保つ鍵になるのではないかと考えています。そこで、他教科、特に受験教科とコラボレーション(教科横断的な連携)を行い、学びを「知識」にとどめるのではなく、「実生活で活用できる力」へとつなげたいという思いから、今回の連携授業に取り組みました。

単元の目標

単元:「子どもの生活」子どもの食事(10時間)
本時は2時間の授業で幼児の食事の授業(調理実習含む)を実施

目標
幼児期の発達段階に応じた食事の役割や栄養の基本を深く理解し、咀嚼力や食べやすさに配慮した安全な調理・提供方法を身につけます(知識・技能)。

単なる栄養供給に留まらず、将来の食料危機や環境問題といったグローバルな視点から食資源の持続可能性や植物性たんぱく質の重要性を捉え、大豆ミートを含む適切な食材選びや調理方法を多角的に判断します(思考・判断)。

さらに、幼児の健康と地球環境の両面を意識し、自ら主体的に「環境に優しい食事」や「幼児が食べやすい形」を考えようとすることで、次世代に向けたより良い食育の実践に意欲的に取り組む姿勢を目指します(主体的な態度)。

授業の流れ

本実践では、持続可能な社会の担い手を育てるべく、最新の食糧事情と幼児食調理を組み合わせた多角的な学習を展開しました。

まず導入として、テレビ番組「2030年の食卓〜美味しいを世界へ〜」の視聴や調べ学習を通じ、2030年に予測されるタンパク質危機の可能性について深く掘り下げました。生徒たちは、牛などの家畜とコオロギ等の昆虫食における、温室効果ガス排出量や水資源使用量、さらには餌の効率といった環境負荷の差を具体的に比較し、代替タンパク質の必要性と将来的な可能性を学びました。

生徒に提示し、試食させた食品

次に、学習への興味を深め、幼児食実習をより具体的にイメージさせるため、大豆タンパクや昆虫食の試食体験を取り入れました。特に昆虫食については、食用のコオロギを扱い、既存の食肉(牛・豚・鶏)との栄養価の違いを体感的に理解する機会としました。同時に、実習に向けて大豆タンパクの原材料や栄養価、価格面でのメリットを把握させ、調理素材としての理解を促しました。

これらの学びを踏まえ、「未来の食事と食環境への理解」をテーマとした幼児食の調理実習を実施。実習では、主食を「ご飯」とするA班と「パン」主食とするB班に分かれ、大豆タンパクを幼児が好む味付けや形態に整え、彩りにも工夫を凝らした献立を考案しました。調理時間は「30分以内」という制約を設けましたが、生徒たちは短時間で効率よく作業を進めることができました。調理実習後、各班の作品を並べ、作成者が記入したアピールポイントを共有しながら相互評価を行うことで、互いの工夫を学び合う貴重な時間となりました。

味,見た目,調理時間に留意しながら、グループごとに行った調理実習の様子

A班(ご飯)

大豆ミート(ミンチタイプ)を野菜と共に焼いたハンバーグ
大豆ミート(ミンチタイプ)を野菜と共に炒めたガパオライス

B班(パン)

大豆ミート(ブロックタイプ)と炒めパンを小さく切り、ホワイトソースをからめたグラタン
大豆ミート(ミンチタイプ)を野菜と共に炒め、ミートソースにしパンに乗せたトースト
他者評価後の試食

授業後のアンケート結果からは、生徒たちが予想以上に高い関心を持って取り組んでいたことが明らかになりました。

英語コミュニケーションの授業

本実践は、家庭科で学んだ「未来の食事と食環境への理解」というテーマを、吉澤先生が英語という異なる言語ツールを用いて再構築し、他者へ発信することを目的としたCLIL(内容統合型学習)の授業を実施しました。教科横断的学習の試みです。家庭科の授業からあまり時間を空けずに実施されたことで、生徒たちの意識に強く残った内容をそのまま英語でのコミュニケーション活動に活用することができました。

授業の導入では、家庭科で学んだキーワードを振り返ることから始めました。生徒たちは、”Protein Crisis”(タンパク質危機)や “Alternative Food”(代替食)といった専門的な語彙を英語で学び直し、地球規模の課題に対する認識を英語の視点からも再確認しました。家庭科ですでに学んだ牛肉生産と大豆ミートにおける環境負荷の差についても、英語で示されたテキストや図表を読み解く(Input)活動を通して、知識を言語的に定着させました。

授業全体を通して、英語科の授業内でも家庭科で伝えたかった核心的な内容が英語で示し、それに対する生徒たちの反応は非常に良好なものでした。家庭科で得た「知識・体感」を英語科で「表現」へと繋げるこの一連の流れは、学習内容をより強固なものにしただけでなく、地球環境と幼児の健康という多角的な視点から、より良い社会のあり方を主体的に探究し発信する力を養う貴重な機会となりました。

生徒の感想

生徒は予想以上に興味・関心をもって授業に取り組んでいたことが分かります。家庭科の授業で本内容を扱った後、あまり時間を空けずに英語科の授業が行われたことにより、学習内容がより生徒の意識に残り、深く定着した点が挙げられます。英語の授業内でも、家庭科で扱った食に関するテーマが英語で示されており、それに対する生徒たちの良好な反応を確認することができました。この経験を通じ、教科横断的な視点を持った授業展開が、生徒の多角的な視点を養う上で極めて有効であることを再確認できました。

先生の感想

佐藤先生(家庭科)の感想:知識と実践の有機的な結びつき

佐藤先生は、家庭科が抱える「実習そのものに意識が向きやすく、学習目的が伝わりにくい」という課題に対し、他教科との連携が解決の鍵になりました。

  • 深い理解への発展: 他教科の学びの中に家庭科を位置付けることで、知識と実践が有機的に結びつき、単発的な理解を超えた「記憶に残る学び」へと発展した。
  • 主体性の向上: 各教科間の関連性を意識させることが、生徒の学習意欲や主体性を高める上で極めて有効であることを実感した。

吉澤先生(英語科)の感想:社会課題の自分事化と発信力の強化

事前に家庭科で基礎知識を体感で習得していたことが、英語の授業における表現の質を大きく変えました。

  • 自分事化の深化: 食糧問題や代替タンパク源を「自分や将来の家族の生活」に結びつけて考える姿勢が見られ、意見交換においても「将来の食卓」を視点とした深い思考形成が確認できた。
  • 今後の課題: 実習を伴う体験的学習の有無が、理解の深まりに影響することがわかったが、全クラスで体験的要素をどう補完するかが今後の検討事項である。

家庭科で得た「知識と体感」が、英語科での「思考と発信」を支え、教科横断的な学びが教科の枠を超えた多角的に実現したことが確認されました。今後もこのような連携を積極的に取り入れ、家庭科のような体験的要素は他教科での補完によるさらなる学びの向上を目指せるのではないでしょうか。

佐藤先生、吉澤先生ありがとうございました。

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