字画像」 
〜書で自己表現するためのパソコン教材〜

清水 亮(山梨県立吉田高等学校教諭)

一、はじめに
 つめ込み教育が非難をあびた後、ゆとり教育が標榜されたが、学力低下の懸念からこれもまた方向転換を余儀なくされている。学力を維持し、かつ健康な心を育むためにはどのような教育が必要なのであろうか。
 それは、「ゆとり」というつめ込み速度の鈍化ではなく、「表現」という自我の放出であると私は考える。知識を入力し知識を出力するだけでは、機械的で不健全だ。大きく知識を吸い込み、吐き出されるのを待っているものは、これに若い感性と経験とが絡み合うことで形成された自我である。この個々に異なるものを表出することで、健全な心が育まれると確信する。
 今回、報告する「字(じ)画像(がぞう)」は、以上のような考えにもとづいて制作した、自己表現のための教材である。

二、字画像について
1.字画像とは 
 字画像とは造語で、写真を下地にして、その上に書の作品を重ねて組み合わせた平面作品のことをこう呼んでいる。パソコンの画像処理ソフトを用いて、書と写真とを合成させたものを字画像と名付けた。つまり、「字(書)」+「画像(写真)」=「字画像」〈図1〉である。
 作り手は、制作の過程で作品を構成する言葉やその書き振り、組み合わせる画像、配置・配色などのさまざまな要素に自らの趣向を凝らし、葛藤しながら推敲を重ねる。その中で、自己表現と呼ぶにふさわしい作品が作られ、自我が放出されることがねらいである。


〈字(書道)〉




〈画像(写真)〉




〈図1〉
三、単元「字画像」の授業の進め方
1.作品制作
 言葉を考え、写真を選び、書き振りを工夫する。そしてパソコンを使って合成し、作品づくりを終える。

2.プレゼンテーション
 次に、自分の作品のプレゼンテーションをする。プロジェクターからスクリーンに作品を映し出して行っている。

3.相互評価(作品観賞)、自己評価
 続いて、プレゼンテーションの際に、他の生徒の作品を鑑賞しながら、採点によって相互評価を行う。次に、活動全体を通しての自己評価を行う。

4.作品展示
 作品を額に入れ、生徒自身の作品解説を付して展示する。今回は、地元のテレビ局のギャラリーをお借りした。

5.成績
 採点対象は、制作過程と作品である。前者の成績は、制作シートの点数化によった。記入事項は、作品制作前の作品の案、制作中に工夫したところ、制作後の展示用作品紹介文と自己評価である。後者は、相互評価の際に、生徒と教員(計四十名)が採点した得点の平均を成績とした。

四.作品紹介
 ここで生徒の授業作品を紹介する。作品の解説は生徒自身の言葉である。生徒の持つみずみずしい感性を、作品と共に鑑賞して頂きたい。

・「あの夏に生きて」〈図2〉
 この写真は原爆で被害を受けた原爆ドームです。今年は戦争が終結して六十年が経った節目の年(二〇〇五年制作)ということもあり、多くの人に戦争について考えてほしいと思い、この写真を使いました。「あの夏に生きて」という言葉は昭和二十年八月六日に広島の地にいて、犠牲になった人達のやるせない思いを表現しました。工夫した点は、文字に影をつけ、たった一つの原爆によって一瞬で影になってしまった人を表現しました。

・「愛響奏音」〈図3〉
 この言葉は私が所属していた音楽部のモットーです。”響きを愛し、音を奏でる“という意味で、音楽をしている人には欠かせない言葉だと思います。この作品で一番工夫したことは、文字をバラバラにすることで文字を音符のように見立てたことです。文字が音楽のようになれば、ピアノの写真と面白い調和を演出できるかなと考えました。


〈図2〉


〈図3〉
五.おわりに
 健全な心の育成には、自己表現活動が不可欠である。高校生に十分に供給されていない自己表現のきっかけや手段、またその機会と場を提供することは、芸術科書道の教員としての使命だと考えている。今後も、多くの先生方のご意見をいただきながら、謙虚に学び、よりよい教材づくりに励んでいきたい。

平成18年度「字画像展」より










  
「えがお」
私は黄色い一輪の花に「えがお」という文字を合わせました。「えがお」という文字を、あえて平仮名にすることで、全体的に柔らかいイメージを持たせました。そして、文字をオレンジ色にして少し丸い形に文字を置いて太陽をイメージしました。
 私自身この黄色の一輪の花のように、日々最高の笑顔を輝かせて生活していきたいと思います。

「果てなき地球」
 これは、森から広がる空の写真です。なぜ、この写真にしたかと言うと、この写真は、空の広がりが果てなき地球を想像することができるからです。文字については、緑の大地や青い海を表すために、漢字の部分に緑を使用し、ひらがなの部分に青を使用しました。今回、苦労した点は、文字の配置です。文字の配置が異なるだけで、いろいろな感情を表すことができるからです。この作品は、果てなき地球を表すために写真や文字の色を選びました。今回は、字画像に時間があまりかけられなかったけれど、良い作品になったと思います。

「将に来んとす」
 この作品には、希望あふれた未来へ前向きに走っていこうという思いを込めました。今は大学受験をひかえ、不安いっぱいの暗闇の中ですが、いつかきっと出口を示す光のように明るい世界へ飛び出したいという気持ち、また、まぶしい光が目に入ってきても、目をつぶらず、しっかりと将来を見つめられるようにしたいという願いを込めています。
 充実した高校生活があっという間に過ぎ、大人へ成長する準備をしている状況を漢文で表現してみました。来年の春、笑顔でこの色のような桜を見ることができたらいいなと思います。


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