新学習指導要領のもとでの
「書道氈v指導計画と導入実践例
「書写」から「書道」への意識改革
栃木県立宇都宮女子高等学校教諭 大浦舟人
一、はじめに
 平成十五年度から学年進行の形で実施される新学習指導要領は、学校週五日制に伴う学習内容の精選と卒業単位数の縮減に加え、旧学習指導要領の総則第3款に記されてあった「芸術について、すべての生徒に履修させる単位数は、3単位を下らないこと」という文言の削除により、芸術科にとってこれまでにない大きな改訂となりました。
 本校では現在、二学期制六十五分授業を実施していますが、今回の改訂により「書道氈vを第一学年の週1コマと第2学年の前期週1.5コマの履修、「書道」は第二学年の後期週1.5コマと第三学年の通年週1コマ、「書道。」は第三学年で通年週2コマ、単位数は各2という極めて変則的な編成を強いられることになりました。第三学年は他教科との選択ですから、実質的に書道選択者は「書道氈v2単位(五十分換算では二.二七五単位)と「書道」1単位(五十分換算では〇.九七五単位)を履修することになります。
 しかし、全国的には「書道氈v2単位のみの履修で終えることが多くの現場に広がることが懸念されます。もしこのことが不可避であるなら「芸術科書道」を通して何を伝えるべきなのか、私たちは一年間二単位で指導すべき場合の内容を再構成する必要があると思います。また、今回の改訂では、「書道氈vにおいて「漢字仮名交じりの書」が必修となる反面、「仮名の書」を学習せずに終えるおそれがありますが、日本の美意識のもとで育ち、漢字変遷の終着点ともいえる「仮名」の芸術としての魅力を伝えるには、「芸術科書道」が最もふさわしい教科であるとの自負と責任感を安易に放棄すべきではないと思います。
二、書道氓フ学習指導計画
 先に述べたように、本校では「書道氈vを第二学年の前期まで履修する形ですが、年度の区切りも考慮し、概ね右のような計画をしています。立案に際し、次の点を基本姿勢としました。
 まず、生徒に伝えたいこととして、
1.書にはいのちが宿る。
 いのちは目に見えないが感じ取れるもの。書線は心の微細な動きを余すところなく記憶し波動を発している。また、書は決して平面芸術ではなく、紙には表層部から深層部があって、その製法や筆の動きによって墨の粒子が定着する様は一律でもない。個々の粒子が互いに連関した有機的結合体として、立体空間に連続した時の流れを伴って展開する四次元上の表現である。
2.書道は自己表現する芸術であり、作品は分身である。
 書道を学ぶことは表現する喜びを味わうとともに自分自身を見つめることであり、自分自身を高めることである。そのために真に価値のあるものを求めていく姿勢が重要で、古典を学ぶ意義もそこにある。
3.墨色や筆の機能に対する理解が表現力を左右する。
 墨色に無限の彩りを見る感性や、筆が心の微細な動きを表現する優秀な機能性についての理解が表現力を向上させる。用具の手入れが重要なのはそのためである。
以上のことは特に強調し、これらのことを通して書写意識からの脱却を図ろうと考えています。また、「個性は出すものではなく育てるもの」という考えから
『今の自分の表現から課題を見つけ、古典を訪ねる。そこで学んだことを自分に生かす』
という学習の方法を繰り返すことによってその流れを浸透させ、変容していく自分を自らも評価できるようにしたいと思っています。
三、書道沒ア入期の指導例
 新入生達に中学校の書写について質問をすると、残念ながら二・三年生では書写の授業がまったくおこなわれなかったという答えが返ってきます。そこで本校では、この手当てをするという発想から転換し、書写意識からの脱却を図っています。
初めての授業から四時間分の指導実践例をあげてみます。
第一時(書への誘い1)
○日本の文字文化(漢字・仮名の魅力)について簡単に触れる。(内容 漢字は古代の情報を伝える文化遺産、仮名は漢字変遷の終着点、アルファベットの数を知り、平仮名の数を即答できない日本人 など)
○書写意識からの脱却は講義では難しい。机を移動して教室後部に広く毛氈を敷き、ジャージに着替えて示範する。車座に集まった生徒と向かいあい、用意した大きな筆など各種数本を手に取らせたり、淡墨を丁寧に磨る様子を自然と眺めさせながら、書は「自分を表現すること」であり「自分を見つめること」であること、そして筆や墨の種類についても絡めて話をする。そして生徒に補助をさせて揮毫にはいる。私は大字書や漢字仮名交じりの書の専門ではないが覚悟を決め、いのちを燃焼させるつもりで臨む。揮毫した後、生徒の表情が輝き、時には拍手が沸けば生徒との関係はその下地が築かれたことになるだろう。
【範書(三枚)の内容】左側はそれぞれのねらい
1.淡墨による示範…(半切1/2)「花舞」草書
 墨色の奥深さや繊細さ、硯や筆の手入れの重要性
2.濃墨による示範…(全紙1/2)「笠にぽったり椿だった」
 白の空間が語りかけるもの 見えないものを見る
 ※字の力の及ぶ空間領域を私は「字界」と呼んで説明しています。
3.淡墨の大書示範(全紙二枚)「燃」
 書にはいのちが宿る

第二時(書への誘い2)
○書による表現を体験する
・中学校まで使用していた筆を持参させ、毛の付け根に凝固した墨を落とすことで筆のいのちが蘇ることを体験する。
持参させた生徒の筆の中から毛の付け根に墨が固まり膨らんでいる筆を選び、洗い方を説明する。寿命が尽きたと考えていた筆が見事に蘇るのを見てささやかな感動が生まれ、「筆も呼吸をしたがっている」というたとえも納得するようになる。この後、硯の扱い方について理解が早くなるのはいうまでもない。
・できるだけ澄んだきれいな墨色(淡墨)という条件で好きな漢字を自由なイメージで表現する。(磨墨の仕方、硯の手入れの大切さ)
・線質による表現の多様性を体験する。(線の細太、墨色、墨量(潤渇)、運筆の速度、筆圧などの役割)
・目を閉じて引いた線と筆に含ませた墨を半紙に数滴垂らした姿から想像してイメージを描く。(想像力は創造力へ)



・・・の変化の原因となる複雑でもやもやした
「悩み」「不安」「もどかしさ」などが
まとわりつくかのように存在している。

海の中を魚が泳いでいる感じで
のように見えました。

第三時(書と自己表現1)
○自作の短いことばを自由に表現する
※ここでは作品を仕上げるのではなく課題を見いだすことを目的としている。
・生徒には柔毛と剛毛の二本の筆を持たせているが、今回は硯も淡墨用・濃墨用それぞれに用意し、考えてきたことばを自分がイメージしたものに近づくように筆や墨色の選択に配慮しながら表現に工夫させる。いろいろな組み合わせによって様々なイメージの表現が可能になること、逆にねらい通りのイメージを表現するのはなかなか難しいことを体験する。
・自己評価する。自分が表現したものをみて、まだ足りないことがら(自分の課題)を分析する。

生徒作品
第四時(書と自己表現2)
○各自の課題について集計分析した結果からこれからの学習の方向性を探る。
・出てきた意見をまとめるとクラスにより若干の差はあるが、概ね次の三つに分類できる。
1.用具や用材に対する知識や扱い方
2.感情の移入と抑揚、想像力
3.書法や分析力
古典に学ぶ必要性
○現代の書作家達の書に対する姿勢と作品制作の様子をビデオで鑑賞する。
・様々な個性の作家達も書に向かう情熱は同じであることを感じ取り、かつ、彼らも一様に古典の学習を重視していることを確認する。
※ビデオを見た感想の中で「書にはいのちが宿る」という考え方に対して自由な意見を書かせると殆どの生徒が共感しているのがわかる。
○今後の学習は「古典を学び」「古典を生かす」という学習を交互に繰り返しながら深化を図ることを確認する。
四、最後に
 日常通用の文体であるにもかかわらず、「漢字仮名交じりの書」の指導については、私自身、各種公募展に見られる師風追従で奇抜さを追い求めているかのような画一的作風への反発もあって、これまで正面から取り組もうとすることを避けてきたきらいがあります。そして今でも、縦書きで育った漢字や仮名が現在の横書き文化の中で本来の美しいフォルムを失っていくのではないかという危惧を抱いたり、縦書きの連綿によって最大の美しさが発揮される仮名の書の魅力も、もしかすると「漢字仮名交じりの書」を通すことでよりはっきりするのではないかとも考えたりと、この迷いはまだまだ続きそうです。授業時数が削減され、限られた少ない機会のもとで不易なる真に価値のあるものを生徒に伝えていくのはとても難しいことですが、教師としての基本姿勢に還り、失敗を恐れず自ら学ぶつもりでいきたいと考えています。



(c) 2003 Kyoiku-tosho,Co.,Ltd All right reserved


|戻る|