感性を豊かにし表現意欲を高める書道授業の工夫
―音楽を用いた創造的な表現活動を通して―

津能 宏明(広島県立祇園北高等学校教諭)

七、創造的書道学習
(1) 科目 芸術科( 書道ll,1単位 )

(2) 期間 65分授業にて4時間,秋に実践
     (2単位であれば6時間で展開)

(3) 対象 広島県立祇園北高等学校     
      2年生 書道選択者

(4) 単元名「 漢字仮名交じりの書の創造的な表現 」

(5) 単元設定の理由
 子どもの「文字離れ」が叫ばれる昨今であるが文字を素材にして用と美の二面性を持つ書道の役割は大きいと考える。また書を通して豊かな人間性をはぐくむとともに,一人一人の個性を生かしてその能力を伸ばしたい。
 生徒の感性を豊かにし,表現意欲を高めるために,音楽を参考にして創作イメージをふくらませ,これまで漢字や仮名の古典で学習してきた伝統的な表現方法を生かし,また独創性を生かしてより自由で個性的な表現を試みる。
 感興や意図に基づく創作の工夫に楽しみを味わいつつ,推敲を重ねて完成する喜びを得させたい。又,芸術としての書への興味・関心を高めるとともに、生活の中に書を生かし、自らの生活に潤いを持たせる。

(6) 単元の目標
音楽を参考にして,自分の意図に基づく表現の構想を練って創造的な表現活動を楽しむ。
文字の配置,大きさ,余白等,書の構成要素を工夫して表現し,書技能を高める。
推敲を重ねて,練度のある個性的な作品を仕上げる。
他とのかかわりの中で,表現意欲を高める。

(7) 評価の観点
創造的な表現活動を通して,書の楽しさや充実感を味わうことができたか。
書の構成要素をとらえて,自らの構想に沿って作品ができたか。
練度のある個性的な作品ができたか。
鑑賞および表現意欲が高まったか。

(8) 音楽を参考にした創造的学習の流れ


☆音楽鑑賞とその成果
・豊かな心像(聴覚的イメージ)が得られること
・美的感性が培われること
・美的良心の形成がなされること
・精神を解放し心身の発達を促すこと
・構造的,分析的に把握しようとする意欲を育てること
             淺香淳編 「音楽と教育」 音楽之友社より抜粋


(9) 単元の学習過程 
 全4時間の学習の内容を時間毎に次に示す。 (1時間は,65分の授業展開とする。)

 

八、書の構造
 書の美を考えるには先ず書の構成要素を分析してみる必要がある。書家の上田桑鳩は「書道入門 創作篇」(創元社刊)のなかで、書の構造を下のような表にまとめている。
 この表の示すとおり、書作品は構図・点と線・墨色の三本の大きな柱によって成り立っており、この柱は更に複雑な美の組み合わせによってできていることがわかる。書を表現するに際しては、制作の意図を明確にし、これらの要素を工夫・錬磨して書の美を創造しなければならない。


九、評価について
(1) 下記のような評価活動を,学習場面に即して効果的に展開していくことによって,生徒の意欲を高め,個の変容を促していくことができると考える。

目標や課題を設定させ,制作カードを用いて評価活動を行う。 (自己評価)
他の作品を参考に,客観的に自分の表現をとらえさせる場面をもち,互いのよさを認め合う。 (集団による相互評価)
全体指導と個別指導を行い,その評価・評定を一体化させる。 (教師による評価)

 表現を柱とする書道の評価では,作品に依存する度合いはきわめて大きい。作品の評価の客観性を高める工夫として発展した分析的評価法は,作品の全体的価値をいくつかの観点から分析して評価するやり方であり,これに対して,作品全体の価値を一体として評価するのが総合的評価法である。
 これらの表現評価の方法としては,評定尺度法,チェックリスト,選別法,一対比較法などが用いられ次の図のような関係になる。



(2) 観点別評価表

観点
評価内容 評価方法
関心・意欲・態度 ・積極的に工夫し,表現意欲が高まった
・意欲的に鑑賞や表現の工夫をしている
・創造的な表現活動を通して,書の楽しさや充実感を味わうことができた
・実態調査
・記述法
・観察法
・評価法
芸術的な感受や表現の工夫 ・遅速や抑揚の変化による線質の違いについて理解して工夫している
・用具,用材による線質や表現の変化を理解して工夫している
・余白の理解ができ工夫している
・漢字と仮名の調和を考えて工夫している
・文字の書体と,大きさ,配列,全体構成を考えて工夫している
・実態調査
・記述法
・観察法
・評価法
創造的な表現の技能 ・2曲の音楽を参考にして草稿に表現できた
・自らの構想が小筆による草稿に表現できた
・書の構成要素をとらえて,音楽を参考にして自らの構想に沿って試作ができた
・工夫を生かして練度のある個性的な清書ができた
・実態調査
・記述法
・観察法
・評価法
鑑賞の能力 ・主体的に鑑賞の活動をしている
・友人の作品を見て,親しみを持つとともに,表現の意図やよさを感じ取っている
・試作や清書作品から自分らしさを感じ取れた
・実態調査
・記述法
・観察法
・評価法

 

十、生徒の感想より(抜粋)
音楽から悲しさが伝わってきたので,「月みれば・・・」の句を選んだ。
音楽を聴いてイメージが膨らみ,集中できたような気がします。
「月の光」と「AKASAKA MOON」とでは,月のイメージが違い,「月の光」は,月がとてもやさしく輝いている感じがしたので,少しくずした行草体で書いた。
書けば書くほど作品のイメージも変わり,一枚一枚違った感じがしてよかった。音楽も聞くときの心情により同じ曲でも違った感じに聞こえるし,書道も書くときの心情でいろいろな作品ができる。月をテーマとした二曲も,光り輝く月と,少し寂しげな月と,イメージが違うように感じた。
「月の光」は,やわらかく細い線のイメージ。「AKASAKA MOON」は,ゆったりとした感じの中にズバッと力強さがあるので,秋風,雲,月を特に強調しました。そしてあえて中途半端なところで空間を作ってみました。
「月の光」を聞いて,月の光がやさしく照らし,辺り一面をきれいで明るい光が包み込んでいるような曲だったので文字をやわらかく表現してみた。音楽を参考にするのは大変だったけどいいことだと思います。
神秘的な月の感じを,流れるように滑らかに書こうと思い,仮名風に表現した。「絶え間」と「影」はどうしてもかすれた感じにしたかったので渇筆にしました。
音楽の流れを生かすつもりで書いたが,最初のイメージとは少し違う感じになった。まずまずの出来だった。
音楽から,月の光がきれいに輝いたり,雲に隠れて月が見えなかったりしているのをみて,そのたびに自分の心が揺らぐ感じをイメージした。自分の中でいろいろとイメージして作品を完成させたので,出来上がったときとてもうれしかった。
音楽を聞いていると心が落ち着き,集中できてよかった。音楽を聴きながら和歌の意味と比較したり,作者の思いを考えたりしながら文字の配置や線の太さなどを工夫して書いた。
私は「月の光」が,すごく好き。月は神秘的でとてもきれいなイメージ。だから,書体は行書か草書にしたい。「AKASAKA MOON」を聞いて月にはいろいろな表情があると思った。だから,わざと文字の大きさや太さや墨の濃さを変えていろいろな月を表現してみた。
「月の光」を聞いて穏やかで少し悲しい感じだったので,悲しい感じの大江千里の歌は「月の光」の曲のイメージで,「AKASAKA MOON」を聞いて左京大夫顕輔の歌のように雲がすうっと流れてその隙間から月がきれいに輝いている感じがしたのでこの歌はこの曲のように書いてみたいと思った。
音楽にあわせて激しく書いたり,ゆっくり書いたりしてリズムの強弱を意識してみるとうまく書けた。
音楽を聞きながら書くと何も考えずに手が動くので流れるような字が書ける。
音楽を参考にするのは難しいと思っていたけど冷静に曲を聞いていると自分でも驚くほどイメージが湧いてきた。曲の強弱を文字の大小にしたり,文字が歌っているように楽しい感じにしてみた。文字に動きを持たせることは難しいけど楽しく書いていこうと思う。
月はとてもきれいで何か不思議な感じがするものかなと思いました。月の力の強さから,月を大きく濃く書いて,月の不思議なところから水を多くして文字がにじむようにしました。
参考文献
・広島大学附属三原小学校教育研究会著
 「一人ひとりを伸ばす授業の進め方」 明治図書出版 1988
・文部省「指導計画の作成と学習指導の工夫」 教育図書 1992
・文部省「高等学校学習指導要領解説」 教育芸術社 1999
・木村信之著「創造性と音楽教育」 音楽之友社 1968
・門馬直美編「感性と芸術」 第一法規出版 1974
・平山観月著 「書の芸術学」 有朋堂 1975
・永渕正昭著 「聴覚の世界」 光生館 1979
・玉岡忍著 「音楽心理学」 理想社 1966
・淺香淳編 「音楽と教育」 音楽之友社 1982
・金井達蔵編著「新版 教育評価の技術」 図書文化社 1981
・片岡徳雄著「子どもの感性を育む」 日本放送出版協会 1990
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