『會津八一(秋艸道人)の歌碑』を題材にした授業展開

田村 裕(学校法人 鎌形学園 東京学館新潟高等学校教諭)

一、はじめに
 本校は創立者故鎌形剛先生の提唱により、書道教育に力を入れ、「賞揚激励」の教育活動として、今年十二回を迎える県下児童生徒対象の展覧会を主催している。授業生徒も古典臨書を題材にして、作品制作の成果 を問う機会として全員これに出品する。同様に書道系大学主催の公募展へも出品を続けてきた。十六年間のこうした取り組みと、部活動の実践成果 を基礎に、本年度、首都圏の文系私立大学を目指した「書道(特別文系)コース」が二年次一クラス発足した。
 新学習指導要領準拠の教材として、書道コースは、表現・鑑賞の両面から、1.書美としての評価、2.文学歴史的要素、3.地域社会との関連等、書の本来の価値を網羅するテーマを求めた。
 平成九年、ある書道研究会のテーマに「秋艸道人」を企画し、私は市内に建立されている歌碑採拓に歩いた。この年、校舎に隣接する劇場で「早稲田大学における道人と学生の交流」を描いた舞台が上演され、新潟日報社事業部の御配慮で生徒と共に観劇した。昨年十二月、奈良県桜井高等学校(全国書道高等学校協議会加盟校)の校外展を見学後、奈良に縁の道人の歌碑を巡り歩いた。鹿鳴集をはじめ、珠玉 の歌は勿論の事、植田重雄先生著「會津八一の短歌とその生涯」(文藝春秋社)(現在は恒文社より「會津八一の芸術」・「會津八一の生涯」として発行されている)を見ると、今日の碑学系書の師とされる西川寧先生との交流も興味深い。
 戦後の混乱期を一人生きぬき、実証的で卓越した学識の裏付けと、研ぎ澄まされた審美眼を持ち、今尚、放光の作品群を残した「秋艸道人」こそ、これからの本校の書のテーマに相応しいという確信に至った。『新潟に建つ秋艸道人の歌碑』を主題に、二千年一月開催の校外展を目指して、授業展開を計画した。

二、具体的展開例から

  1. コース編成の制度上、二年次書道コースに入って、初めて書道授業に触れる者も少数ながら含まれる為、一学期前半は字形(結体)のとらえ方に重点を置いた。公募展出品の為に、明瞭な筆勢を伝える「木簡」を課題として、半紙から半切へ、一行から二行・三行へと拡大発展させながら、条幅も指導する。

  2. 新潟市會津八一記念館の見学鑑賞
     五月中間考査最終日の午後、コース全員で訪問した。  道人の自詠短歌や書に少しでも親しめるよう展示品を調べ、生徒見学用の列品解説プリントを用意し予め指導する。新潟市が制作したビデオ映像も道人の理解に有効な教材として活用した。生徒は印象的な作品のメモを取り熱心に鑑賞し、事前指導の有効性が充分実感できた。館長小柳マサ先生から、生徒一人ひとりにカードに印刷した「学規」を頂戴し、道人との交流について貴重なお話を直に伺った。この行事は新潟日報で紹介された。

  3.  大東文化大学主催書道講習会と大正大学入試説明会参加
     早稲田大学會津八一記念博物館見学
     コースの主要行事が、夏休みに実施したこの三つである。二日間にわたり、大東文化大学教授陣による高度な実技理論指導を受講。三日目には、大正大学で特別 に入試説明会を開催して戴き、最新の入試情報を聞く。最後に早稲田大学會津八一記念博物館で秋艸道人が私費を投じて収集した文物を見学した。丁度、博物館のホームページが開設された直後で、学芸員金澤邦夫先生の解説で生徒はパソコンに向かっていた。これらの行事は、書技の向上や鑑賞体験と同時に、書を通 じて大学進学への直接的契機を作る大きな狙いがある。生徒の感想文には、「進学への意欲や、クラスの士気を高める刺激があった。」と記された。

三、「秋艸道人の短歌輝」
 恒例の公募展出品を終え、実質この課題に入ったのは、十月となった。秋艸会一道人を敬慕する会一会報・山崎馨先生著「曾津八一の歌」・墨スペシャル等を参考に、生徒に身近な地元新潟に建つ歌碑十二碑十四首の資料を作成し、生徒が建立年月日や場所・歌意とその背景を書き込みながら、理解できるよう指導する。その後、十四首から各自が選択し題材を決定した。

  1. 辞書・字典での校字、草稿作り。 〔道人は音調美を尊び、詠唱を本来とする歌を仮名表記で残された。ここでは生徒の理解を考え、一部、漢字表記を含めた書作とし、新潟市會津八一記念館に自筆原稿等を確認した。〕
  2. 書作・八ツ切りによる草稿作りから開始し、半切へ拡大する。
  3. 全作品を掲示し、批評し合い、感想を記録する。
  4. 添削指導〔構成・字形・墨量・筆勢に留意させる。〕一部生徒は、表現効果 を考え、長鋒・淡墨の活用を試みた。
  5. 歌碑見学〔選択した歌碑を、班ごとに実際に訪ねる。〕
  6. 3.を再び実施し、最終的な作品制作のヒントとする。線細く「弱々しく見える」と感想にあり、墨量 ・筆勢に注意した。
  7. 出品作品の選出後、今回の取り組みの感想をまとめた。
  8. 校外展の開催と、作品集の編集刊行。


歌碑見学

生徒作品(半切)
四、まとめ
 これまで本校は、賞揚激励の具体的機会として、公募の展覧会に取り組んできた。今後は、より合理的に活用しながらも、本来書の持つ「力」…例えば、時間を超える力(記録保存性)気持ちを伝える力(意志表現・伝達)、無二固有の力(独自性)等、書が、優れた総合的表現方法である事を掘り下げ、あらゆる角度から工夫し、生徒の深い理解へ結び付けて行きたい。

(「芸術科書道情報 No.30」H12.1.10掲載)



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