石碑レプリカによる指導実践例
劣等感を一掃する授業を目指して -指導実践例-
“創作(ものつくり)の楽しみを全員に”

橋本 剛(学校法人 佐藤栄学園 花咲徳栄高等学校教諭)

一、序
 私の勤務校では、第一学年芸術教科において、「美術1」「音楽1」と並んで「書道1」を全員必修としている。いきおい、得手と不得手とを一斉授業に迎えるとき、悩むのが実力格差の大なることである。そこで、打開策の一案として今回は、「石碑レプリカ」を使用した「書道1」を取り上げ、広く江湖に問うものである。


二、本論

 毎年四月、新入生を前に「書道1」を開講するとき、期待に輝く瞳とはうらはらに、生徒諸君の机上には、くたびれ果 てた書道具が並ぶ。《文房四宝》の学習を通して、各人に道具選びから執筆法まで教示して、第一講の時間とする。この時に、市井では少なくなった書専門店を紹介し、次時までにと、道具そろえを指示する。が、部活動等もあり、全員の準備に得心がいくのには更に時間を要する。
 そこで、次時の予告で《タンポ》(*1)の作成も同時に指示しておく。万が一にも忘れてきても、《タンポ》の代用であれば、携帯ティッシュで事足りるので、授業展開に支障はない。

(1)準備
◆「石碑レプリカ(九成宮醒泉銘・部分B4)」
◆タンポ、墨汁、雑巾、歯ブラシ、霧吹き、画仙紙

(2)目的
◆拓本(蝉翼拓)製作を通じ、“ものつくり(創作)”活動の楽しさを体感させる。併せて、書活動への興味と関心を高めさせ、「書道1」への導入とする。

(3)内容
◆二人一組で実習する。指導事項(*2)を基に、生徒相互で検討協議し、授業担当者は机間指導による助言に徹する。
◆本時は、あくまでも「書道1」への導入を円滑に行うためのものであり、作品(蝿翼拓)を評価するものではない。


(4)展開
時間 学習内容 留意点
3分 ・「拓本レプリカ」配布(二人で一枚)
・画仙紙配布(一人一枚)
・二人一組にて机をつけさせ環境整備
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・実習(生徒)A-1

  1. レプリカ(以下原拓と呼ぶ)の文字溝を歯ブラシで清掃
  2. 霧吹きで原拓表面を湿らせ、その上から画仙紙を張る
  3. 張った画仙紙の上から、更に霧を吹き、雑巾で文字溝内の空気を抜く
  4. 原拓上の画仙紙の湿気をとり、半乾き状態にする
  5. 墨汁を吸わせた親タンポに打ちタンポをつけ、4を満遍なくたたく
  6. 乾燥(約10分)

・原拓は堅牢だが、取り扱い注意

・雑巾を湿らせ丸めてローリングさせながら完全に空気抜きをさせる

・紙全面に薄く墨をたたき、付着させる

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・検討(まとめ)

  1. 各自、書道具片付け
  2. 実習体験を発表、協議
・実習した生徒A、補助実習の生徒Bとそれぞれの立場から発表
※生徒Bには次時に実習するための参考とさせる
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・実習(生徒)A-2

  1. 画仙紙を原拓からはがし、原拓を雑巾で清掃
  2. 原拓を回収
・完成した拓本は新聞紙にはさみ、各自保管させる
※次時以降の臨書手本


実習風景と生徒の実習作品

 

三、結
 本実習を通して、「石碑レプリカ(九成宮醒泉銘・部分B4)」という原寸版を使用させることにより、
  1. 既習得の《習字》から、未習得の《書道》への移行を、円滑に意識化できる。
    (国語科書写教育から芸術科書道教育へ)
  2. 完成した拓本は、原寸=本物であり《楷書》学習の手本にもなるため、臨書学習の際、教科書中心授業に比べ、熱心にテキストと して利用する。
というような利点を確認した。
 特筆すべきは、「石碑レプリカ」が原寸版である、ということであり、その事が、書道の初学者である生徒にとって、如何に説得力のある教材であり、魅力のある先達であるか、という点にある。
 最新技術の粋を結集したこのレプリカは、重量感といい、風合いといい、作品の持つ文字一つ一つの風化に到るまで精確に再現している。つまり、教科書(二次的資料)による臨書学習からは到底得られない臨場感を、レプリカ(一時的資料)から自身で拓本取りすることにより、“拓本=本物”式に体感できるのである。生徒の心を確実に書芸術の世界に導くのも頷ける。本物のみが持つ強みである。
 更に、付加的に得られたものとしては、
  1. 共同作業のため、新入生同士親近感を強める。
  2. 《習字》の段階から筆書きに劣等感を持っている生徒にとり、拓本は違和感なく《書道》に取り組める、よい機会となり得る。
という事がある。
 この事こそ、本論考の主題である、「劣等感を一掃する授業」の実践にほかならない。
 入学式以来、初対面に等しいクラスメートとの共同作業。初めこそ口数は少ないが、作業を通 して徐々に笑顔に変わる。しかも、習字に自信のない生徒にとって、“書かない書道”は不必要な緊張感を醸し出さない。以前は、《篆刻》も考えたが、不器用な生徒にとっては、却って重荷になるだけのようであった。書道具の不備を補いながら、確実に《芸術書道》を体感できるこの「石碑レプりカ」は生徒にとって、まさに、チョベリグ教材である。
 いかに、ワープロの普及(*3)を見ようが、毛筆の大切さや魅力は年々強くなっている。(*4)いよいよ、《芸術科書道教育》の果 たす役割は大きく、この「石碑レプリカ」にかかる期待も大きい。
参考
*1『書道資料集』九一頁 教育図書刊
*2『書道資料集』九一頁〜九二頁 教育図書刊
*3『アンケート四季報』一九九一第10号二一八頁
  『アンケート四季報』一九九一第10号二二二頁
*4『青少年白書』平成七年度版二二〇頁




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