家庭科×ウェルビーイング

高校家庭

こちらの記事はてくテクVol.17より転載したものになります。

家庭科の領域でも、近年注目を集めている「ウェルビーイング」という言葉ですが、 定義が広く、授業への取り入れ方が難しいと感じている先生もいらっしゃるのではないでしょうか。そんなウェルビーイングと家庭科との関係や可能性について、ウェルビーイング研究の第一人者、前野 隆司先生にお話を伺いました。

ウェルビーイングとは?
ウェル(well =よい)ビーイング(being =状態)という意味で、「身体的、精神的、社会的に良好な状態」を指す。1946 年制定の WHO 憲章前文では「Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity(健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが良好な状態(well-being)にあることをいう)」と示された。

注目されるウェルビーイング

なぜ、今の時代に「ウェルビーイング」という言葉に注目が集まっているのでしょうか。

新しい言葉ではない「ウェルビーイング」という言葉が注目されるようになった理由は大きく2つあります。ひとつ目は、「幸せになるにはどうすればよいか」「どういう人が幸せと感じるのか」といった研究の知見が集まってきたためです。そして、幸せを感じている人ほど、仕事での生産性や創造性が高いという数値も出てきたことで、企業などを中心に注目が集まっています。
ふたつ目は、現在の世相の中で不安や不幸を感じる人が増えている現状があります。心の病が増えたり、自殺率が高かったり、その他にも少子高齢化や貧困の問題、戦争など、現代社会の問題も大きく関係していると思います。

私たちが少しでもウェルビーイングな状態に近づくためにできることはありますか。

介入研究(*) が進み、いろいろと方法がわかってきています。例えば、毎日寝る前にその日にあった良いことや、感謝したことを3つ書き出すワークを行うと、幸福度が上がります。また、人とのつながりの大切さもわかってきました。孤独感の高い人は幸福度が低くなりがちなので、外出が面倒だなと思う休日でもちょっと人に会いに行くだけで幸福度は上げることができます。

家庭科 × ウェルビーイング

生活者の視点が大切な家庭科とウェルビーイングは相性がよさそうですね。

相性はよいと思います。ワーク・ライフ・バランスという言葉がありますが、「ワーク」である「職場」についてのウェルビーイングは近年急激に注目されている分野です。働く社員が幸せだと生産性が高くて離職率が低くなるので、ウェルビーイングに関する専門部署を置いて対応する企業も増えています。
一方、「ライフ」の方の「家庭」におけるウェルビーイングはあまり進んでいないように思います。家族の幸せ、地域の幸せは、仕事の幸せと同様に大切なものです。そういう意味でも、家庭のウェルビーイングを考える基盤として、家庭科が担う役割は大きいと感じています。家庭科は、社会を変えるひとつの起爆剤になりうると思っています。

教員 × ウェルビーイング

生徒だけでなく、教員のウェルビーイングについても重要視されてきていますね。

そうですね。2023 年に閣議決定された「第 4 期教育振興基本計画」で、子どもと先生双方のウェルビーイング向上について言及されました。子どもたちのウェルビーイング実現のためには、教員自身のウェルビーイングも不可欠と明記されました。

教員のウェルビーイング実現に向けて何か参考にできるものはないですか。

例えば、看護学ではアサーションという手法を学びます。看護師が患者とどう接するかについての話なのですが、揉め事が起こった時、攻撃的に怒るのではなく、消極的に何も言えなくなるのでもなく、自分の意見を丁寧に冷静に伝える方法です。こういった他の領域の知見を参考にしてみるのもよいかもしれません。人の悩みを聞いて問題を解決するカウンセリングや傾聴、さらに良い状態に向けて質問していくコーチングなどの手法も学校現場で役立つのではないでしょうか。

先生に向けてアドバイスはありますか?

教員という職業は、本来とてもやりがいのある仕事です。それでも、日々の業務に追われるなどの理由で働きすぎになってしまう人もいます。ワークエンゲージメントという言葉があります。これは心の良い状態で仕事をしていることで、やりがいを感じて、楽しく仕事をしている状態です。
一方で、ワーカホリックという言葉もあります。これはやらなければならない仕事を義務感でやっている状態です。ワーカホリックが続くと、心の病になってしまうこともあります。自分がワーカホリック気味だなと思ったら、休暇を取るなど休むことが大切です。ただ、ワーカホリックかどうか自分で判断するのは大変かもしれません。自分をふり返るきっかけとして、私も開発に関わった幸福度診断サービス「Well-Being Circle(ウェルビーイング・サークル)」というものもあります。もし興味があれば無料で活用できますので、チャレンジしてみてください。

幸福度診断 「Well-Being Circle」
https://www.lp.well-being-circle.com/

前野先生からのメッセージ

©大崎えりや

最後に家庭科の先生に向けてメッセージをお願いします。

AI が発達し、さまざまな仕事が AI に代わられると指摘されています。学びも大きく変わっていくことになるでしょう。私はもともと AI ロボットの研究者をしてましたが、今後重要度を増していく教科は「人間が人間らしく生きる教科」だと感じています。より良い生活のための知識や技術を学ぶ家庭科の重要性は、芸術科目や体育と同様にさらに増していくと思います。
ぜひ「家庭科の先生は最高です!」と胸を張ってください。先生自身のウェルビーイングが、子どものウェルビーイングにもつながっていきます。

*研究者が対象に対して、意図的に介入(intervention)を行って、効果を測定・評価する研究手法。

前野 隆司 (まえの たかし)

キヤノン株式会社に勤務後、慶應義塾大学理工学部機械工学科教授などを経て、2024 年 4 月より武蔵野大学ウェルビーイング学部長。慶應義塾大学名誉教授、ウェルビーイング学会会長。(2025 年 9 月現在 )
著書 :『幸せに働くための 30 の習慣』(2023 年 )、『ディストピア禍の新・幸福論』(2022 年 )、『幸せのメカニズム―実践・幸福学入門』(2013 年 ) など多数。

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