家庭科での「消費者すごろく」を活用した実践授業(筑波大学附属駒場高等学校)
高校家庭

【公民科×家庭科】「18歳成年」授業紹介
『高等学校公民科×家庭科コラボによる「18歳成年」教育教材の開発』(教育図書・刊)では、公民科・家庭科のコラボを通じたさまざまな授業実践を掲載しています。
今回は、本書の第四分科会「消費者の責任」を実際に学習に取り入れている、筑波大学附属駒場高等学校での家庭科の授業を取材しました。
本書の著者が開発に携わった「消費者すごろく」を活用した、消費者市民としての意識を育む授業の様子をご紹介します。ぜひ日々のご指導の参考としていただければ幸いです。
目次
「消費者すごろく」の特徴
消費者すごろくは、野中美津枝・髙﨑昌己(2018)「消費者市民を育成する『すごろく』の開発と授業実践」で開発された、中学校家庭分野の消費者教育用教材をベースに改良を加えたものです。
4人グループで「A 生産者」「B 製造者」「C 販売者」「D 消費者」の役割を分担して、それぞれの当事者になりきってすごろくに取り組み、実際に起こった社会問題やアクシデントを当事者の立場で影響を実感することができるゲームです。
すごろくの盤面とルール、4者の役割は以下のとおりです。



【このすごろくをする時のポイント】
・自分に割り当てられた役割に徹すること。
・アクシデントでそれぞれが影響を受けます。どんな影響を受けるか、割り当てられた役割の人の「気持ち」を考えながらプレイしていきましょう。
消費者すごろくでは、参加者が止まったマスごとに、例えば以下のようなさまざまな出来事が発生します。

出来事によって、A・B・C・Dで割り振られた初期ポイントが増減していき、ポイントが0やマイナスになった人が出た時点でゲームオーバー、「全員」が振り出しに戻る仕組みになっているのがポイントです。
教材開発の経緯
18歳成年の実現に伴い、高校生が当事者として消費行動が社会に及ぼす影響を自覚して持続可能な社会の形成に参画する「消費者市民」の育成が求められています。家庭科、公民科「公共」が中心的な役割を担っています。しかし、消費行動が社会や経済活動にどうかかわっているのかを高校生が理解するのはなかなか難しいという課題があります。
家庭科と公民科「公共」の学習指導要領を比較して、いずれも「消費者市民」の育成を目的としながらも、学びの流れには以下のような違いがありました。
・家庭科:消費行動が社会や経済活動に深くかかわっていることを理解して自らの消費行動に落とし込む
・公民科:社会経済システムに重点を置き国際経済の理解につなげる
そこで、ゲーム感覚でその原理を体験できる「消費者すごろく」を公民科「公共」と家庭科それぞれの授業に取り入れる試みがスタートしました。
授業導入に至るまでの経緯
筑波大学附属駒場高等学校 家庭科教諭の植村徹先生は、今回、家庭基礎のC領域(消費・経済、環境)の題材として「消費者すごろく」を実施する試みに取り組まれました。
消費者にとって必要な知識・技能の習得や思考力・判断力・表現力等の育成を図りつつ、統括的に「消費生活・環境」の「持続可能なライフスタイルと環境」の要素を学習する教材として「消費者すごろく」に着目しました。
筑波大学附属駒場高等学校での授業実践
筑波大学附属駒場高等学校では、高校2年の「家庭基礎」(2単位)の中でこの授業を取り入れています。全部で2時間ありますが、1時間ずつ別日に実施し、各回の生徒のフォーム回答を集約したシートを作成しています。

1時間目:「消費者すごろく」の実施とふり返りにより、消費者と生産者・製造者・販売者との立場の違い、利害の違いを擬似的に体験し、4者間の関係をとらえ直します。
2時間目:映画『The True Cost』(2015)を視聴し、プリントを参考に協議することで、ファストファッションの問題点などを知り、持続可能な消費を踏まえて消費者の責任を考えます。
※『高等学校公民科×家庭科コラボによる「18歳成年」教育教材の開発』では、「消費者すごろく」を衣生活の授業のまとめとして活用する事例も掲載しています。そこでは、3時間目に、各自の回答内容を反映したシートによって学習内容をふり返りながら、改めて消費者の責任について再考しています。
今回は、1時間目「消費者すごろく」参加と4者間関係の検討の授業の様子をご紹介します。

1時間目の授業は、以下のプリントに沿って進められました。


①まず、生徒の消費者についての考えや、生徒自身の消費生活についてふり返ります。
プリントの2では、生徒が日ごろ衣服を購入する場合に何を重視するか、ダイヤモンドランキング形式で記入します。
②プリントの3で、衣服商品の生産・流通・消費の流れを考え、「消費者すごろく」における参加者に割り当てられた役割を確認します。
③グループに分かれ、いよいよすごろくがスタートしました!
普段から活発な様子の駒場高等学校の男子生徒の皆さん、大盛り上がりですごろくに取り組んでいます。

すると、開始数分足らずで「先生! 僕たちもうゲームオーバーです!」との声が。
早くもグループの一人のポイントがマイナスになってしまったようです。
その後も、各グループはゴールを目指して、すごろくに熱中していました。
「消費者すごろく」には、「?カード」というアイテムがあり、該当するマスに止まると、そのカードに書かれたクイズに答え、正解者がいればポイントが増えるなど、すごろくの学習性とゲーム性を高める工夫が随所に凝らされているのが面白いです。

グループ間を巡回されている植村先生に質問をする生徒も多く、全員揃ってゴールにたどり着くためのバランスの難しさなどを実感している様子でした。
④楽しいすごろくの終了を惜しみつつ、生徒たちは、今度はすごろくで割り振られた役割ごとにグループをつくり、話し合いをスタートしました。

生産者の班では、「消費者と販売者が有利すぎる!」など、4者の関係性や問題点について的を射た意見が出ていました。
⑤最後に、植村先生より、プリントの裏面のフォームから、このすごろくでの「世界」について以下のことを一言回答するよう指示があり、授業が終了しました。
・自分の立場から見えたこと
・他の立場の人に言いたいこと
今回の授業を見学して、どのグループも、すごろくはもちろん、話し合いに全員が参加している姿が印象的でした。
高校生の反応と回答
今回の授業における生徒の皆さんのプリントへの回答例を一部ご紹介します。
生徒の皆さんの回答から、どの立場からも、このゲームにおける立場による不公平さを感じ取っていることが読み取れます。



公民科「公共」での「消費者すごろく」の活用
公民科「公共」では、「消費者すごろく」を「寡占や独占、外部不経済、情報の非対称性など市場機能の限界」などの理解を深めるために活用することができます。
こちらでは、すごろくでの4者の立場を市場経済の構造から捉えます。
また、すごろくの中で「?カード」を恣意的に2つのグループに振り分けることで「持続可能な社会」と「持続可能でない社会」の違いに気づかせます。
すごろくを活用した学習後、「この消費者すごろくの世界ではどんなことが課題か、それは何が要因なのか」という考えを導くために、「特性要因図(フィッシュボーンチャート)」という思考ツールを活用するという特徴もあります。

実践者 植村徹先生より
授業づくりでの苦労や工夫、消費者すごろくを使う意義、生徒の反応など
生徒は日常の生活で消費者側の立場しか体験していません。そのため「生産者の立場を考えてみよう」などと言われても、なかなか腑に落ちないのが現実です。この「消費者すごろく」では、消費者に加え、生産者・製造者・販売者という役割を疑似体験することができます。
すごろくを進める中で、自分の行動が他の立場に否応なく影響を与えることも見えてきます。またルールが明かされているため、立場による初期値の違い(資源配分の格差)や収入の隔たりがお互いにわかり、すごろく後の振り返りでは単に自分の立場からだけでなく、構造的な問題を踏まえた考察にまで生徒たち自身で踏み込んでいくことができます。
消費者すごろくの授業に興味がある先生方へ
公民科の先生との連携は直接相談はしていませんが、生徒を通して既習事項を確認しました。消費者すごろくの授業に興味がある先生方へ生徒たちが盛り上がって自然と楽しめる教材ですので、B領域やC領域のまとめのワークとして、ぜひ活用されてはいかがでしょうか。




