家庭科の先生必読!『家庭や地域と連携・協働する家庭科授業』

教育図書より中国地区での家庭科授業研究の成果をまとめた本が出版されます。
『家庭や地域と連携・協働する家庭科授業』 共同執筆者の代表である正保正惠先生に、本書のねらいと内容について解説いただきます。

新型コロナ(COVID-19)時代の家庭科

2020年は、AIなどの技術によって社会が大きく変化する転換期にあって、年頭よりCOVID-19(新型コロナウィルス)が世界中を恐怖と不安に陥れた忘れられない年になりました。このことに言及しないでは何も語れないほどの大きな出来事ではありますが、長引く影響の中で言われるようになった「新しい生活様式」はどのようなものになっていくのか?家庭科教育を専門とする我々にとっても大きな課題を突き付けられた思いがしています。

そのような中で『家庭や地域と連携・協働する家庭科授業』が出版されます。世界中でステイホームが呼びかけられ、ある意味で「家庭での生活」がかつてないほど重要視されている今、家庭科教育の果たすべき役割はさらに大きくなることでしょう。
本書は総勢32名の小中校の家庭科教員、大学の研究者が共同執筆し、豊富な授業実例を掲載しています。指導案や授業の様子や板書の写真、生徒が記入したワークシートなど貴重な資料もふんだんに盛り込みました。ぜひ実際の授業で活用していただけたらと思います。

ページの一部をご紹介します。

『家庭や地域と連携・協働する家庭科授業』

『家庭や地域と連携・協働する家庭科授業』P46-47 小学校家庭科の調理実習の授業実践

『家庭や地域と連携・協働する家庭科授業』

『家庭や地域と連携・協働する家庭科授業』P88ー89 中学校家庭科のエシカル消費についての授業実践

学校と家庭、地域社会の連携

わが国の教育政策の歴史の中で、初めに子どもの状況に危機感を覚え、その方策について言及したのは、第15期中央教育審議会(平成7年4月~平成9年4月)による「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について(中央教育審議会 第一次答申、平成8年7月)」であったように記憶しています。その大きな柱は、「ゆとり」であり、その中で、子どもたちに「生きる力」を育むということがめざされ、そのためには、「学校・家庭・地域社会が十分に連携」し、具体的には、学校の教育内容を厳選するとともに、家庭や地域社会における教育力を高めていくことも同時にめざされました。
その目次は、以下の通りでした。

第1部 今後における教育の在り方
(1)子供たちの生活と家庭や地域社会の現状
(2)これからの社会の展望
(3)今後における教育の在り方の基本的な方向
(4)過度の受験競争の緩和
(5)いじめ・登校拒否の問題
第2部 学校・家庭・地域社会の役割と連携の在り方
第1章 これからの学校教育の在り方
(1)これからの学校教育の目指す方向
(2)新しい学校教育の実現のための条件整備等
第2章 これからの家庭教育の在り方
(1)これからの家庭教育の在り方
(2)家庭教育の条件整備と充実方策
第3章 これからの地域社会における教育の在り方
(1)これからの地域社会における教育の在り方
(2)地域社会における教育の条件整備と充実方策
第4章 学校・家庭・地域社会の連携
第5章 完全学校週5日制の実施について
(1)今後における教育の在り方と学校週5日制の目指すもの
(2)完全学校週5日制の実施に当たって特に留意すべき事項 (以下略)

ゆとり教育は誤りだったのか?

この第15期中央教育審議会の答申から20年以上を経た現在、改めて見直してみると、答申の目的であった学校での「ゆとり」をきっかけに「家庭や地域との連携」を図り、「家庭の教育力」を高めるという方向は、実際には「ゆとり」が注目され、やがて学力低下の元凶として批判を浴びる中で、次第に全体の取り組みが低下していくという末路を辿っていったことが確認できます。

COVID-19による影響も含め、社会がグローバル化、少子化、AISDGsをインパクトとして大きな転換期にあると言われる中で、学校教育全体も大きな岐路にある現在、「ゆとり」そのものの成果について否定的な側面ばかりではなく、実は当時はまだ見えていなかった新しい時代を先行していたという評価も出てきているので、この答申のめざした方向はやっと今になって動き始めた、という見方もできるのではないでしょうか。さらに、この時にいわれていた「家庭や地域との連携」は、「ゆとり」と両輪となって動き出すはずでしたが、「ゆとり」への注目と批判の中で実質的には後退し、積み残されてしまっていたのではなかったかと思われます。それらが、20数年の時を経て、新しい指導要領として別の形で新たに動き始めています。

周知のことではありますが、この度、平成29年度小・中学校・平成30年度高等学校指導要領改改訂に際して、平成28年度の中央教育審議会答申を踏まえて以下のような重点項目が挙げられています。

1.今回の改訂と社会の構造的変化-社会に開かれた教育課程の実現-
2.何ができるようになるか-育成を目指す資質・能力-
3.どのように学ぶか-主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニングの視点からの授業改善)
4.カリキュラム・マネジメント-教育課程を軸とした学校教育の改善・充実-
5.何を学ぶか-具体的な教育内容の改善・充実-
6.初等中等教育の一貫した学びの確立と子供の発達の支援
7.移行期間中の教育課程
8.何が身に付いたか-学習評価の充実-

新しい学習指導要領改訂と家庭科

これらの重点項目は、教育課程すべてにおいて取り組むべき項目ではありますが、教科教育という視点で見ると、手前味噌ではありますが家庭科という教科にとても親和的であります。逆に言うと、家庭科が長い間取り組んできたことが新しいインパクトの中でより重要度を増している、といういい方もできるかもしれません。家庭科の視点で眺めてみると、これらの8項目のうち、1の「社会に開かれた教育課程」を具体的にいうと「家庭や地域との連携・協働」ということになります。また2の「何ができるようになるか」は、具体的に家庭での仕事や団らんなどとつなげる必要があり、そのための5の「具体的な教育内容の改善」その方策として、今まさに家庭科においても積極的に取り組んでいる点です。

このような時代の転換点に、私ども日本家庭科教育学会中国地区会より『家庭や地域と連携・協働する家庭科授業-21世紀型スキルに向き合う―』という著書を出させていただきました。先に挙げた「社会に開かれた教育課程」、「何ができるようになるのか」、「具体的な教育内容の改善・充実」という3点を実現すべく、中国地区会でそれぞれに研究・実践を積み重ねているものとつなげて問いたいという意図から、地区会のメンバーに呼び掛け、多くの先生から研究実践が寄せられたものです。

たとえば、今回の指導要領改訂に際して検討された「カリキュラム・デザインのための概念」と、「学力の三要素」の重なりについて、21世紀型スキルをこれらの重なりであると理解することで、教育の歴史から紐解かれる「フォーキャスト的」(かねてから行ってきたからその延長線上におかれる)教育カリキュラムというよりは、未来の求められる姿から描かれる「バックキャスト的」(子どもたちが将来、ウェルビーイングに活動していく大人になるために、今何を教えていくべきかを考える)教育カリキュラムを考えれば、小学校低学年に向けた家庭科や学年・校種を超えた家庭科の提案はありうるのではないでしょうか。

「カリキュラム・デザインのための概念」と「学力の三要素」の重なり

さらに、家庭や地域と真摯に繋がっていこうと思えば、現実の中で起こっている様々な社会問題と向き合わざるをえないことも、本テキストの様々な論考・実践の中で言及されています。

21世紀型スキルと家庭科

「何ができるようになるか」のヒントとして、以下の21世紀型スキルを、われわれが育成を目指す資質・能力として想定しています。21世紀型スキルとは、国際団体の「ATC21s」(21世紀型スキル効果測定プロジェクト)によって提唱されている、21世紀以降のグローバル社会を生き抜くために必要な能力のことです。今回の著書に収められているそれぞれの研究・実践はこれらのうち、1つないしは複数、子どもたちに身につけられることを願った研究の成果です。

21世紀型スキル
◇ 思考の方法

1. 創造性とイノベーション
2. 批判的思考、問題解決、意思決定
3. 学び方の学習、メタ認知
◇ 働く方法
4. コミュニケーション
5. コラボレーション(チームワーク)
◇ 働くためのツール
6. 情報リテラシー
7. ICTリテラシー
◇ 世界の中で生きる
8. 地域とグローバルのよい市民であること(シチズンシップ)
9. 人生とキャリア発達
10. 個人の責任と社会的責任(異文化理解と異文化適応能力を含む)

現在の「新しい生活様式」を見つめなおしていくという課題の中で、家庭科はある意味リ・ボーン(生まれ変わり)を求められているのではないかとさえ思われます。これらの21世紀型スキルと結び付けて「社会に開かれた教育課程」「何ができるようになるのか」「具体的な教育内容の改善・充実」を問いながら育成されるとき、目的(21世紀型スキル)と方法(それぞれの題材での知識や技術的側面・向き合う姿勢)を重ねて学んでいくことで、家庭科は新しい時代をけん引する最も新しい教育のスタイルを提案できるのではないかと自負するところです。
かつて「ゆとり」教育「家庭・地域との連携」そして「家庭教育力」が謳われた教育の方向性は、現下ではさらに踏み込んだ形で学校が積極的に家庭や地域に向かって開きながら働きかける(協働)方向に動き出しています。そのためのカリキュラム・マネジメントや授業改善も、緒に就いたところですが、本書が新しい時代を準備するための、そして社会の中で自立を阻まれている可能性のある児童・生徒やその保護者たちを力づけることができる家庭科授業を構築しようとされるすべての実践者のためにとっての一助となれば幸いです。


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正保 正惠 Masae SHOUHO/福山市立大学 教育学部教授
(略歴)1983年奈良女子大学卒業,
2008年神戸大学大学院自然科学研究科博士課程修了
〔専門分野〕家政教育(家族生活教育),家庭科教育,家政学原論