SDGsと家庭科カリキュラム・デザイン|著者インタビュー

Q4 「SDGsと家庭科カリキュラム・デザイン」の誕生経緯は?

新学習指導要領とSDGsと家庭科の関わりを明らかにする

2020年という出版年にあたり、私たち執筆者には二つの想いがありました。一つは新学習指導要領の全面実施が順次開始される節目の年に、今改訂で強調されている思考力・判断力・表現力や「主体的・対話的で深い学び」を家庭科で具体的にどう展開すればいいのかについて、包括的な方法論を提示できないか、という想いです。もう一つは、地球的な課題である「持続可能な開発」の実現を目指すSDGsと家庭科とがどう関わるのかを明らかにして、それにつながる学習内容や授業を具体的に示したいという想いです。
これまでに述べたように、より良い生活をつくる力の育成という家庭科の目標とSDGsのめざす方向性とは無理なく重なります。日常の生活のなかでSDGsを踏まえた判断や行動をとることが、社会を変える力と関わることを家庭科の学習の中で子どもたちに理解させたいと考えました。その際の選択や行動は、言うまでもなく、知識、スキルの活用と主体的な思考、判断を伴うものです。その意味で、この2つの視点はつながっています。本書では、そのつながりが理解しやすいよう、第Ⅰ部、第Ⅱ部の理論編と第Ⅲ部の授業編の内容や構成を工夫しました。

Q5 本書の活用方法を教えて下さい

どこから読んでも全体像が見えてくる

この本の特徴は大きく分けて4つあります。 ひとつは、前項でも触れましたが、第Ⅰ部の学力やSDGs、思考を深めるカリキュラム・デザインの解説と、第Ⅱ部で、「見方・考え方」やSDGsと家庭科学習内容との関連、そして第Ⅲ部(思考を深めるSDGsの授業実践)がつながっていることです。どこからでも、関心のある所から自由に読み始めてください。あちこちを読み進めるうちに、カリキュラムの背景となる理論から細部の授業づくりの方法までの全体像がみえてくるのではと思います。
二つ目は、前述の質問3でも述べたように、探究的な学習をデザインする方法として「学習題材のマトリックス」「学びの構造図」の2つを提示している点です。このうち、「学びの構造図」は、教師が授業の全体像をイメージし、プロセスの流れを考えるためのスケッチブックのようなものです。一連の授業当初のデザイン図としてだけでなく、途中で授業の現状に合わせて修正したり、あるいは最後に実際の流れをまとめてみたりなど、自在に使うことが可能です。また1時間分の探究の流れを書いてみることもできます。私たち執筆者は、探究の結果だけでなく子供の考える道筋やプロセスを大事にする授業を創るうえで有効な方法のひとつと考えています。この「学びの構造図」については、本書の第Ⅰ部1~4でその方法や有効性について検討し、第Ⅲ部で、実際に構造図を活用した授業を紹介しています。
三つ目の特徴は、第Ⅲ部の授業編において授業の流れや実践中の生徒の様子などできるだけ細部にわたって紹介していることです。現場の先生方がご自分の授業の参考にしたり、あるいは一部を取り入れたりすることができるだけやりやすいように配慮しました。
SDGsと家庭科カリキュラム・デザインー探究的で深い学びを暮らしの場からつくる

『SDGsと家庭科カリキュラム・デザインー探究的で深い学びを暮らしの場からつくる』p.128-129 第Ⅲ部

生活を考える家庭科にとって重要な視点

最後の特徴として、家族や暮らしの問題に関わって活動しているNPOや専門家の方々に、これからの生活で大事にしたい視点や意見を「コラム」欄に書いていただきました。生活を考える家庭科にとってどれも新鮮で重要な視点であり、参考にしていただければと思います。また、特別寄稿では、SDGsを地域で推進している国連大学サスティナビリティ高等研究所の永井三岐子氏からのメッセージを掲載しています。「家庭科はSDGsを生活目線で切り取ったSDGs生活版とも言えるもの。家庭科の学びから率先して、SDGs的なあり方、学び方の導入が生まれることを期待している」との言葉を受けとめ、この教科の可能性に挑戦していきましょう。

Q6 現場の先生へメッセージをお願いします

本書の出版は、期せずして新型コロナの広がりの時期と重なりました。その中で、学校現場の先生方と同様、私たち執筆者も、改めて子どもたちにとっての家庭科教育の大切さや果たす役割について考えさせられることが多かったように思います。 しかし、これは日本に限ったことではありません。
私の米国の友人、オハイオ州の高校で家庭科を教えるメリベスさんが、彼女のフェイスブックのなかで、最近次のように書き込みました。
「家庭科の生活経済や食物、家族学習の必要性が、新型コロナによって一層はっきりした。私の授業を受けた生徒たちは、これからの生活を充実させる知識やスキルを身につけて卒業していく」
「コロナは家庭科がもともともっている重要性を改めて浮き彫りにした」
全世界を同時に襲ったコロナのもとで、各国の家庭科教師たちはまさに同様の想いを胸に抱いたということでしょう。「そちらもですか!」と、何か元気が湧いてくるような気がします。
本書では、新学習指導要領に対応して、新たなカリキュラム・デザインやSDGsに関わる授業実践を詳細に紹介しています。探究型の授業といっても、いざ実践しようとすると困難な点も多々あると思います。できるところから少しずつ試してみて、自分なりの方法を見つけていってください。ここで紹介した米国の教師メリベスさんは家庭科の近隣の仲間たちと、フェイスブックやLINEなどで、活発に授業の相談やアイデア交換をして、学校内に同じ教科の同僚がいない不便さを克服しているようです。
家庭科授業の充実に向けて、自ら学び、つながり、発信し合って、パワーアップしていきましょう。
荒井 紀子  Noriko ARAI /大阪体育大学特任教授。福井大学名誉教授。博士(学術)。1989年より福井大学で家庭科教育の研究と教員養成に携わり、この間、大学附属特別支援学校と附属中学校の校長を務める。H.30年度版文部科学省「高等学校学習指導要領家庭編」専門的作業協力者。専門は家庭科カリキュラム理論と授業研究、市民性教育、北欧・米国の家庭科カリキュラム研究など。単著「生活主体の形成と家庭科教育」、編著「新版生活主体を育むー探究する力をつける家庭科」(ドメス出版)、共著「考えるって面白い―家庭科でつなぐ子どもの思考」(教育図書)、Reforming Teaching and Teacher Education (Sense Publishers, Finland) 他。

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荒井紀子、高木幸子、石島恵美子、鈴木真由子、小高さほみ、平田京子

B5判 160ページ カバー付き/定価:2,600円+税

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