学校の先生が知っておきたい、コロナワクチンの安全性(上 昌広寄稿)

毎日多くの生徒と接する学校の先生にとって、新型コロナウイルス感染は何としても避けなければならないリスクです。この1年あまり緊張の日々を過ごされているかと思います。

そんな中いよいよ日本でもコロナワクチン接種が始まろうとしています。海外では教職者を優先接種させる国があったり、ワクチン接種場所として学校体育館が候補にあがったりなど、学校関係者にとってコロナワクチンは重要な課題です。また生徒に対して正確な情報を伝え、的確な判断が求められる立場でもあります。

本記事は臨床医として医療の現場に向き合う傍ら、テレビや新聞でコロナ問題について発信されている上昌広先生(医療ガバナンス研究所理事長)にコロナワクチンの安全性について特別寄稿いただきました。


コロナワクチンが世間の関心を集めています。外来診療をしていると、「私はワクチンを打つべきでしょうか」と聞かれることが増えました。

政府はワクチン接種を推奨しています。米ファイザー・独ビオンテックや米モデルナのワクチンは、95%程度の感染予防効果を示しました。まだ観察期間が短く、効果の持続期間など不明な点が多いのですが、私は、コロナワクチンは世界の医学史に残る画期的なワクチンだと考えています。

ただ、問題はあります。それは安全性です。多くの国民が不安を抱いているようです。外来で受ける質問も、多くはワクチンの安全性に関するものです。

このような質問を受けたとき、私は「若くて健康な人は問題ありませんが、持病があったり、高齢の人には一律に推奨しません」と説明することにしています。本稿では、コロナワクチンの安全性について解説しましょう。

ノルウェーのワクチン接種者の死亡報告

1月15日、衝撃的なニュースが世界を駆け巡りました。ノルウェーでワクチンを接種した高齢者23人が死亡したというのです。接種したのは、日本でも2月から接種予定の米ファイザー・独ビオンテックのワクチンで、ノルウェー医学庁によると、死者13人は剖検されており、ワクチン接種との関連が示唆されると言います。

ワクチンの副反応の認定は困難です。ワクチン接種後に何らかの異常が生じたときに、それがワクチン接種によるものか、それとも単なる紛れ込みかは判断できないからです。多くの先進国で、ワクチン接種の主体は政府です。明確な根拠がなければ、政府は責任を認めたがりません。ノルウェーもそうでした。

19日にはノルウェーの保健当局が「これまでのところ、ワクチン接種が死亡リスクを高めたという分析結果は出ていない」と発表し、ノルウェー医学庁の発表の火消しをはかりました。そして、その理由を「死亡者の多くが施設入居の高齢者で、その平均余命は短く、毎週300人以上が亡くなっており、ワクチン接種によって死亡リスクが高まったとは言えない」と述べました。その後、ノルウェー政府は、高齢者へのワクチン接種の方針を変えないことを表明しました。

確かに、ノルウェー政府の見解は正論です。現時点で「安全性に懸念がある」というはっきりした根拠はありません。ただ、高齢者に対するコロナワクチンの安全性について結論を出すには、大規模な臨床試験が必要です。現時点で「安全です」と断言する根拠もありません。

私は臨床医です。患者さんから「コロナワクチンを打つべきか」と相談されれば、エビデンスが確立されるのを悠長に待っていることはできず、その場で自分なりの助言をしなければなりません。私はノルウェーの報告はもっと重視すべきだと考えています。

ノルウェーの報告を議論する上で、注目すべきは、多くの高齢者が、ワクチン接種後、数日の間で亡くなっていることです。ノルウェーを含むEU諸国でコロナワクチンの接種が一斉に始まったのは、昨年の12月27日です。少なくとも23人は接種後2週間以内に亡くなっていることになります。がんの終末期など基礎疾患が悪化し、余命幾ばくもない病人にはワクチンは打ちませんから、亡くなった人の多くは接種時には体調は良かったはずです。この意味で死亡者は全員が急死したといっていいでしょう。ノルウェー保健当局の「死亡者の多くが施設入居の高齢者で、その平均余命は短い」という説明には説得力がありません。

2009年新型インフルエンザワクチン接種との比較

実は、高齢者へのワクチン接種の危険性が注目されたのは、今回が初めてではありません。2009年の新型インフルエンザの流行時にも同様の問題が起こったことは、厚労省の公開データを用いて、我々の研究チームが報告しています。

新型インフルエンザの流行では、2009年10月19日から12月21日までの間に約1,500万回のワクチンが接種されましたが、2010年1月7日現在、107例の死亡例が報告されました。98例が60才以上で、全例が基礎疾患を有していました。

注目すべきは、この時も死亡のほとんどが接種後早期、具体的には接種後4日以内に起こっていたことです。接種から時間が経っての死亡例は、厚労省に報告されなかった可能性は否定出来ませんが、当時、新型インフルワクチンは社会の関心を集めており、死亡宣告した医師はワクチン接種後1-2週間に亡くなっていれば、厚労省に報告しなかったとは考えられません。何らかの関連があると考えた方がいいでしょう。

さらに注目すべきは、22例の死因が基礎疾患の悪化として処理されていたことです。このあたりノルウェーの報告と同じです。ワクチン接種時には体調は問題なかったのですが、接種を契機に基礎疾患が急速に悪化したこととなります。

このことを国内で報じたのは『週刊朝日』などの一部の週刊誌だけで、全国紙は取り上げませんでした。日本国内ではほとんど問題とならなかったのですが、我々の研究は『米国臨床感染症雑誌(CID)』が大きく取り上げました。臨床感染症の分野で世界最高峰の権威有る学術誌です。編集部は、世界の専門家は、高齢化がもっとも進んだ日本で、高齢者を対象に集団接種を行った場合、どのような問題が起こるか関心があると判断したのでしょう。

コロナワクチンで、同じような問題が起こると考えても不思議ではありません。それは、コロナワクチンの副反応は、新型インフルワクチンより遙かに強いと考えられているからです。

例えば、英アストラゼネカのワクチンの臨床試験では解熱剤であるアセトアミノフェン1グラムを6時間おきに内服することになっていました。1日の総投与量は4グラムです。日本での常用量は1回0.5グラム程度で、1日4グラムは最大許容量です。日本で、この量が高齢者に処方されることはありません。関係者は、当初から強い炎症反応が生じることを予想していたことが分かります。

副反応はアストラゼネカのワクチンに限った話ではありません。昨年11月18日、英『ネイチャー』と並び世界でもっとも権威がある米科学誌『サイエンス』は、ファイザーとモデルナのワクチンの接種には、強い痛みと発熱を伴うことを紹介する記事を掲載しました。この記事によれば、接種者の2%弱が39度以上の高熱を生じています。

この記事に登場するモデルナの臨床試験に参加した43才の人物は、「接種部位が「ガチョウの卵」のサイズまで腫脹し、38.9度の発熱があり、筋肉と骨が激しく痛んだ」と言っています。この人物は「一晩中電話の前に座り、救急車を呼ぶべきか迷った」そうです。この症状は12時間続きました。

このような炎症反応が高齢者に生じた場合、果たして、耐えることができるでしょうか。この発熱をきっかけに、持病が悪化して命を落とす人がいてもおかしくはありません。

コロナワクチン接種のメリットとデメリット

もちろん、コロナワクチンには私も期待しています。冒頭にご紹介しましたように、昨年11月に発表された臨床試験の中間解析結果で、ファイザー・ビオンテックのワクチンは90%、モデルナは94%、アストラゼネカは70%の有効性が報告され、短期的な有効性は、我々の期待を大きく上回りました。長期的な安全性・有効性は、現時点で評価出来ませんが、臨床試験の結果を見る限り、極めて有望なワクチンであることは議論の余地がありません。

ただ、問題は、このような臨床試験の参加者は基本的に若いことです。ファイザーの臨床試験の場合、参加者の年齢中央値は52才です。さらに重度の合併症を有する人は参加していません。この臨床試験の結果を、基礎疾患を有する高齢者にあてはめるのは慎重であるべきです。

では、どうすればいいのでしょうか。私は、持病がない現役世代にはコロナワクチンの接種を推奨しますが、高齢者や持病がある人には、リスクについて説明し、生活環境や全身状態を考慮して、総合的に判断するしかないと考えています。独居老人と高齢者施設で集団生活をしている人の感染リスクを同列に論じることはできませんし、どこまでワクチン接種のリスクを受け入れるかは、それぞれの価値観で異なってきます。

幸い、日本は欧米諸国よりワクチン接種開始が3か月遅れています。今春以降、日本で高齢者へのワクチン接種が始まるまでに、ワクチンの安全性について、相当のことがわかるでしょう。

例えば、『ロイター』は1月26日に「イスラエル当局は、ファイザー製ワクチンを接種したイスラエル人に深刻な副反応は生じていないと発表」という記事を配信しました。嬉しいニュースです。ただ、イスラエルの高齢化率(65才以上人口の割合)は12.2%で、タイやシンガポールと同レベルです。高齢化率が28%で世界一高齢化が進んだ日本に、どの程度参考になるかわかりません。ちなみにノルウェーの高齢化率は17.3%です。イスラエルよりは老いていますが、日本よりは遙かに若いのです。それでも多数の死亡例が報告されました。日本は注意すべきです。やがて、イタリアやドイツなど高齢化が進んだ国からも安全性について何らかの発表があるでしょう。そのような最新情報をベースに判断すればいいのです。

高齢者人口の割合(上位10ヵ国)2018年 ※総務省統計局資料より https://www.stat.go.jp/data/topics/topi1135.html

公衆衛生の見地に立てば、高齢者といえども、ワクチンで感染を防ぐことで救われる命は、副反応で亡くなる人より遙かに多いでしょう。政府がワクチン接種を推奨するのは、この意味で合理的です。ただ、臨床医は目の前の患者が全てです。私は、現状では高齢者に一律にコロナワクチンは推奨できないと考えています。それぞれの状況に合わせた個別対応が必要です。少しでも不安をお感じの方は、是非、主治医に相談してください。十分に説明を聞いて、メリットとデメリットを天秤にかけ、最終的には自分で決めるしかありません。

上 昌広 Masahiro Kami 医療ガバナンス研究所理事長
1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。
メールマガジンMRICでは編集長を務め、医療や教育に関するテーマを日々発信している。http://medg.jp/