平田オリザ×鈴木寛 後編「これからの学校教育、地域教育」

前半に続き、平田オリザさんと鈴木寛さんの対談をお届けします。
後半では平田さんが現在取り組まれている豊岡市での演劇教育、高校の先生に期待すること、日本人の共感能力についてなど、さまざまな話題に話がおよびました。

平田オリザ,鈴木寛

対談は8月下旬、オンラインにて収録された。(左上 平田オリザ/下 鈴木寛)

 

前編はこちらから

板挟みからドラマは生まれる

平田_前半で鈴木さんのお話にあった「板挟み」ですが、これは子供たちにとっては、なかなか理解しづらい。私が中学生向けに書いたテキストでこんなものがあります。「登校途中の生徒が外国人から道をたずねられました。外国語でうまく説明できないけれど、一緒に連れて行ってあげたい。でも学校に遅刻してしまう。そこに近所の人が現れて助けてくれる」という簡単な寸劇です。これを国語の授業の読解のような感じで「なぜこの人たちは困っているのでしょう?」と聞くと「外国人が道が分からないから」というような答えが返ってきます。いやそうじゃなくて、道案内をしてあげたいけど時間がなくて出来ない、だからみんなが困っているんですね。この「してあげたいけど、出来ない」という相反する2つ要素の板挟みが重要なんです。ここには簡単に解決できるマニュアルがあるわけではない、だからドラマも生まれるんですね。

あるいはこれも高校の演劇作りの授業で、よくする話なんですが「ある難病の子供がいるお話です。日本では手術ができず、アメリカで手術するしかない。親が必死になって手術費用2億円を貯めて手術をさせ、子供の命を救うことができました。さて、このドラマを面白くするために主人公である親の職業は何に設定したらいいか?」という問いを立てます。そうするとヤクザとか政治家、風俗嬢とかさまざまな答えが返ってきますが、私が用意している回答は「NGOのリーダー」です。NGOのリーダーは、お金を集めるノウハウもネットワークもあるけれど、その2億円を使って多くの難病の子供の命を救うこともできる、だから自分の子供のためだけにこのお金を使っていいのか、という葛藤が生まれるんですね。演劇の授業では“意地悪になって考えてみましょう”と教えています。普通は“良い子になりましょう”と教えられますから、真逆ですね。

今日の論点である「公共」の授業も意地悪になって、天邪鬼になって子供たちに考えさせることが重要なのかもしれません。

鈴木_確かに学校の先生も「いい人」は多いけれど「意地悪な人」って少ないですね(笑)

平田_そうなんです。先生って子どもが大好きだから本当に優しい人が多いですね。子どもに失敗させたくない、でも失敗から学ぶことの方が実は多いんですよね。

鈴木_おそらく、これまでの平田さんのお話を聞いて、そうはいっても演劇の指導なんか経験がないし、どうやっていいか分からないと感じる先生も多いのではないでしょうか。そうであれば脚本を作るところまででも充分効果があると思います。ふたば未来学園のエピソードでもそうでしたが、平田さんの授業では脚本作りをとても重視しています。これは演劇経験のない先生でも可能でしょう。生徒も興味を持って取り組むのではないでしょうか。

豊岡市の実践

平田_私が今住んでいる兵庫県の豊岡市では38校のすべての小中学校で演劇の授業を行っています。そのために必要な先生の研修も時間をかけてやっています。豊岡市の教育長さんは、演劇が子どもたちにとって有意義なのはもちろんだけれど、先生にとっても大変役に立つとおっしゃっていました。豊岡市の中学校では演劇は「総合的な学習の時間」でやっているのでクラスの担任の先生が教えます。つまり教科と関係なく演劇を教えなければならないので、みなさん僕の演劇教育のDVDなんかを観て一生懸命に勉強してます。とくに若い先生はアクティブ・ラーニングの授業をやりたいという意識が強いですから熱心ですね。先生たちは演劇を通して学んだこと、体験したことを自分の担当教科でも応用するようになります。だから演劇を通して先生たちの能力もすごく伸びています。最初は確かに、「演劇なんて無理、大変そう…」という先生も多かったのですが、やってみれば子どもたちにとっては、とても楽しい授業なんですね。子どもたちの笑顔を見ると先生たちも嬉しいし、やる気になる。実際に他の授業での発言率も上がるなど目に見える効果が豊岡市では出ています。

平田オリザ

豊岡市では小学生から高校生までの舞台芸術の学校を開講。コンテンポラリーダンス、演劇のワークショップやコンテンポラリーダンスを体験する。(写真提供:豊岡市民プラザ)

豊岡市アートチャレンジ!

中学生、高校生を対象に行われた平田オリザさんによる演劇のワークショップ。(写真提供:豊岡市民プラザ)

鈴木_先生たちをどうやってやる気にさせるか、先生たちの能力をどう引き上げていくかがこれからの重要な課題です。というのは今回、学習指導要領が大きく変わりました。それにともなって教科書なども変わってきています。つまり書面や書物で、大きい方向転換がなされたので、次のステージはそれらを使って「教えていく人」をどう育てるかという局面にあります。私のいる慶応SFCでも高校の先生たちを集めた研究会を今、計画しているところです。