「哲学対話」先生と生徒が共に考えるアクティブラーニングな授業

哲学対話を実施する際の注意点

ここでは哲学対話を実施する上での注意点や進行方法などについて解説します。

まず対話の適正人数は10~15名程度、多くて20名程度です。ですから、1クラス40名の場合、クラスを2つに分けて実施するのが良いかと思います。

図3 授業内で提示したスライド(対話の進め方)

次に、全員で輪を作ります。教室であれば、机をどけて、お互いの顔が見えるように椅子を並べて輪の形に座ると、より対話に集中しやすい環境になります。1クラスの人数が多ければ、グループを複数作って、お互いの声が混ざらないように、教室内の離れた位置で輪を作るといいかと思います。

哲学対話では、一度に多くの人が話さないように、コミュニティボールというものを使います。基本的にはボールをもっている人だけが話すことができます。もし話したくなったら手をあげて、ボールを受け取ってから話します。

材料は、毛糸玉4~5個と結束バンド1個、毛糸をまくための筒1個(なるべく固いもの、たとえばラップの芯などがおすすめです)、そしてはさみをご用意ください。全て100円ショップで調達できる材料です。もちろんコミュニティボールではなく、クッションやぬいぐるみなど、投げやすいものを代用しても大丈夫かと思います。

図4 コミュニティボールのつくり方 出典/p4c Japan ホームページより http://p4c-japan.com/about_tool_ball/

準備が整ったら、参加者それぞれが考えたい問いを出していきます。問いの決め方については、次のような方法があります。ひとつは私が実践したように生徒同士が出し合った問いを1つに絞っていくやり方です。話し合ったり、多数決で決めたり、最終的に1つの問いに絞り込みます。ふたつめは、教師が提示したテーマに基づいて生徒が問いを立てていく方法です。こちらはひとつ目の方法よりも思考の幅が限定的になるため、より短時間で決めることができるかと思います。他には、教師があらかじめ問いを考えたり、いくつか問いの選択肢を提示したりするといった方法があります。完全に生徒に裁量を与えて自由に考えさせるか、それとも教師の裁量を増やすのか、時間や人数、カリキュラムのどこに組み込むか、といった要素との相談で決めていくのが良いかと思います。

そして、問いが決まったら対話スタートです。対話中の教師の役割はファシリテーターです。ですが、議論を促進するために、教師自身が長く話してしまったり、誰かを指名して無理やり話を拡げたりすることは好ましくありません。哲学対話におけるファシリテーターの役割は、参加者が安心して話せる場を作ることであり、だからこそ「わからなくなってもいい」など対話のルールを体現することが重要です。教師自身が、意見がまとまらなくても話したり、分からないことはわからないと正直に伝えたりすることで、生徒たちの安心感が育まれます。もちろん、対話を促すために質問をぶつけたり、反論したりすることは大いに結構だと思います。対話の終わりには結論は出しません。

最後に対話を振り返ります。対話に心地よく参加できたかどうか、対話を通じて自分の考えが深まったかどうか、など自分の思考の軌跡をメタ的に認知してもらいます。輪のまま対話形式で振り返ったり、振り返りシートなどのプリントで振り返ったりするなどの方法があります。

哲学対話のイメージをつかみたいという方は、哲学カフェに参加してみるのもいいかと思います。「哲学カフェ」や「オンライン哲学カフェ」で検索すると、たくさんイベント情報が出てきます。興味のあるテーマの哲学対話に一度参加されてみると、対話を進める上での雰囲気が実感できると思いますので、ぜひご参加ください。

哲学対話で何が育てられるのか?

さて、続いて哲学対話とカリキュラムについて考えていきたいと思います。新学習指導要領は育成すべき資質・能力に基づいて編成されています。汎用的な資質・能力を育成する上で、哲学対話はどのように位置づけられるのでしょうか。

哲学者の河野哲也氏と得居千照氏によれば、哲学対話には以下の4つの効果があるとされています。[注2]

第1に、批判的・創造的思考力の向上という意味での思考力向上です。意見が大きく異なり、あるいは対立する意見を持つ人の意見も尊重した上で、議論を進めていくのは中々難しいことです。でも、そうした相手とも批判的に検討を加えながら合理的に考えを深めていくことで、批判的思考力や問題解決という創造的な思考力が養われると言います。

第2にケアの能力です。対話を進めていく中で、相手の主張や意見を傾聴し、さらにはその発言を尊重する中で相手を気遣うケアリング能力が磨かれていきます。

第3に、集団的な問題解決力です。対話を通じて、集団での課題を共に考えていけば、集団での問題解決効果があるとされています。第4に、集団への帰属意識の向上や社会参画意識の向上という点での集団形成・維持力です。哲学対話によって、参加者同士が同じ悩みを共有していることがわかって親近感がわいたり、相手を尊重する態度が養われていったりします。こうした中で集団へ参加しようという意識が醸成されていきます。

こうした資質・能力は、新学習指導要領でも重視されています。育成すべき資質・能力は「知識・技能」、「思考力・判断力・表現力」から構成されていますが、たとえば第1の批判的・創造的思考は、まさに「思考力・判断力・表現力」の例として文部科学省の解説ページに記載されています。また、第2のケアリング能力についても、やさしさや思いやり、多様性の尊重などが「学びに向かう力・人間性等」の例として示されています。

このように新学習指導要領でも哲学対話は非常に有用ですが、2022年から社会科の新教科として始まる「公共」においてはどうなのか、次に考えていきたいと思います。

[注2] 河野哲也・得居千照(2017)「子どもの哲学の評価法について-理論的考察と江戸川区立子ども未来館での実践を踏まえた提案-」立教大学教育学科教育年報、P44-46