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貝印「包丁マイスター」× 東京女子学院高等学校 家庭科授業
家庭科では社会とのつながりやキャリア教育の観点から、外部講師を招いて授業を行う先生もいらっしゃいます。東京女子学院高等学校のフードカルチャーコースでは、包丁やカミソリ、爪切りなどを取り扱うグローバル刃物メーカー・貝印株式会社とコラボして、包丁研ぎの授業を実施しました。
包丁のスペシャリストである包丁マイスター・林泰彦さんを講師として招き、包丁の正しい使い方や手入れの仕方を学びながら、良いものを長く使う“サステナブルアクション”についても考えるきっかけになるようにとの思いから実現した包丁研ぎの授業。授業の様子と、東京女子学院高等学校 家庭科主任・保積栄理先生のインタビューをお届けします。
目次
貝印株式会社の広報宣伝部の林莉子さんから、貝印の会社概要や、包丁、カミソリといった商品の説明の後、包丁マイスター・林泰彦さんによる、包丁に関する授業がスタート。
まず、包丁には洋包丁と和包丁があると話し、さまざまな種類や用途についての説明をします。刃幅が広く万能型の三徳包丁が一般的に使われるが、プロは牛刀包丁やシェフズナイフも使い、併せて使うことで用途が広がるという林さん。
「良い包丁とはどんなもの?」という林さんの問いかけには、生徒から「持ちやすい」、「よく切れる」という意見があがりました。
また、価格の違いについても触れ、「品質、材料の違い、焼きの入れ方や刃のつけ方によって異なる。安い包丁でもきちんと研げば切れるようになるが、切れ味の持続性がちがう」と説明します。
どのような人が、どのように使うかによって良い包丁の基準は異なると伝え、良い包丁を選ぶには、自分の手に合ったもの、切れ味が続くことを加味して選ぶと良いと話しました。
包丁はどんなに良いものを使っていても、切れ味が落ちていきますが、日常の手入れの仕方によって、その程度が変わっていくという林さん。正しい手入れの方法を実演しながら伝授します。
まず、包丁に中性洗剤をつけ、刃をまな板に押し付けてスポンジで擦って汚れを落とし、刃体・柄を水洗いします。衛生を保つために刃体に熱湯をかけて、最後に乾いた布巾やキッチンペーパーなどで、みね側から刃体、柄の水分をよく拭きとります。清潔を保つことと、乾燥が大事とアドバイスしました。
洗剤にも注意が必要で、塩素系の漂白剤などは金属を腐食させてしまうので、使ってはいけないと教えます。また、洗うときに、包丁の刃の側からスポンジを当てると手を切ってしまう危険性があるので、背の方向からスポンジを当てるようにと注意しました(写真は刃の側からスポンジを当てる危険な例)。
続いて、砥石についての説明に入ります。林さんが「包丁を研いだことがある人?」と問いかけると、30人の中で手を挙げたのは数人程度。砥石を使ったことがあるのはその中でも1人でした。
棒砥石ヤスリ棒、簡易研ぎ器、角砥石、電動研ぎ器といった研ぎ器の種類と特徴を説明し、本日の授業で使用する角砥石について解説します。角砥石にもさまざまな種類があり、仕上げの区別は、砥粒の大きさによって分類され、包丁の状態に見合ったものを使い分けるといいと話しました。
まず、包丁を研ぐ前に、トマトを切り、包丁の切れ味がよくない状態を見せます。
「何回くらい研いだらいいと思う?」と林さんが問いかけると、生徒からは「100回?」「500回!」といった声が上がります。それから、林さんが実演しながら、以下の研ぎ方のポイントを教えていきます。
【砥石の研ぎ方のポイント】
●刃角度を固定し、ブレないようにする
研ぐ際には、砥石と包丁の角度を一定にして研ぐことが大事で、間に小指1本分(約15°)の角度を意識するといい。
また、砥石の縦幅全体を使いながら研ぐことで、効率的に包丁を研ぐことができる。力を入れすぎないこともポイント。
●バリが出るまで研ぐ
ある程度研ぐと、刃先にバリ(刃返り・返り・まくれ)が出るので、全体にバリが出るまで研ぐ。
●片側だけでなく、両刃ともに研ぐ
両刃の包丁なので、裏側もバリが出るまで研ぐ。
●バリを新聞紙で取る
新聞紙を平らなところに広げ、両面をこすり、バリを落とす。
●砥石の面を平らに直す
へこんだ砥石は、面直し用砥石を使って、平らになるまで削る。メンテナンスすることで、本来の砥石の機能が発揮できるようになる。
ポイントの説明が終わると、グループごとに分かれて、砥石を使った包丁研ぎがスタート!
真剣な表情で包丁を研ぎ続ける生徒。「力加減がわからない」、「角度が難しい」という声が。
講師の林さんが各グループを見回りながらアドバイス。「どれくらい研げばいいのか難しい…」と迷う生徒も。
包丁を研ぎ終わり、トマトのスライスに挑戦。
「力を入れずにスッと切れる!」「ずっとやっていたい」「最初と全然切れ味が違う!」と笑顔の生徒たち。
真剣な表情で包丁を研いでいた生徒たちですが、包丁研ぎの作業が終わり、切れ味の変化を実感すると歓声が上がり、晴れやかな表情をしているのが印象的でした。
授業後、東京女子学院高等学校の家庭科主任・保積栄理先生にお話を伺いました。
Q. 今回、包丁研ぎ授業を実践した経緯を教えてください
授業で使う道具も大事ということを伝えたいと思い、調理器具や包丁などを扱う企業や専門家の方でお話をしていただける方を探していました。貝印さんのホームページを拝見して、子ども向けの動画配信や、出前授業などを行っていることを知り、授業にもご協力いただけるのではないかと思い、直接申し込みさせていただきました。
Q. 授業を実施していかがでしたか?
生徒たちの反応を見ると、やはり楽しそうだなと感じました(笑)。
私が教科書の内容や知識を伝えることももちろん大事なのですが、実際に社会で働いている方の思いや、製品の裏側の話などを直接聞けるのは、生徒にとってとても新鮮で、興味を感じるものだと思います。講師の林さんのお話も楽しそうに聞いていましたし、実際に包丁を研いで、研ぐ前より切れるようになった時の表情が違いましたね。実際にやってみて、感動するという体験は大事だと思います。
Q. 今後、どのような授業づくりをしていきたいですか?
本校のフードカルチャーコースでは、食に関する職業に興味を持つ生徒も多く、料理の専門家や食に関わる企業の方をお招きしてお話を伺う授業も行ってきました。普段、深く考えずに商品を選んだり、食べたりすることも多いですが、自分の元に届くまでには、どのような人が関わり、どのような思いや課題があるのかという、一連の流れを学んでほしいという思いがあり、外部講師の方に授業をお願いしています。実際に社会で働く人の声を聞けるのは、生徒が社会や職業に目を向ける、いいきっかけになると感じています。
本校は来年度から学校名も変わり、コースも新しくなりますが、探究型学習にも力を入れていますので、企業や外部との連携にも引き続き取り組んでいきたいと思っています。フードカルチャーコースでは、食に関わる企業さんにご協力いただいていましたが、引き続きつながりを大事にしつつ、食に限らずいろいろな分野の企業さんと連携しながら、社会につながる授業をしていきたいですね。
保積先生、ありがとうございました!
取材・文/教育図書編集部
【取材協力】
東京都練馬区の中高一貫校。2025年4月、創立90周年を節目に、「英明フロンティア中学校・高等学校」に校名変更を予定している。
包丁や砥石などのキッチン用品、カミソリや爪切りなどを取り扱うグローバル刃物メーカー。今回、講師を務めた包丁マイスターの林泰彦さんは、YouTube「貝印の切れ味チャンネル」で、包丁の研ぎ方やメンテンナンス方法などを、分かりやすく発信している。
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