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公共 NEWS

能登半島地震で考える 自助・公助・共助

地震大国である日本では、自然災害への備えも重要な社会課題です。ある日突然自宅や学校を失ってしまったら、生活再建のための「お金」はどの程度まで国が負担してくれるのでしょうか。今回は能登半島地震を例に、「自助・公助・共助」の観点から考えてみましょう。

教えていただくのは、安心安全な社会の構築を目的に、事故・災害などの防止や軽減、損害保険の普及啓発等に取り組んでいる日本損害保険協会です。

公共において自助・公助・共助は、少子高齢社会における社会保障制度のあり方の文脈で取り扱われることが多いと思いますが、地震のような具体事例を切り口として扱うこともできるので、ぜひ参考にしてみてください。

はじめに

近年、台風や大雨、地震などの自然災害が多発し、大きな被害をもたらしています。中でも、本年1月に発生した能登半島地震では多くの方が被災し、12万戸以上の住家に被害が生じています。発災時、まずは自らの命を守ることが最も重要ですが、災害から素早く立ち直るために、被災後の「お金」について事前に考えておくことも大切です。

学習指導要領では、「家庭科」で生活設計やリスク管理の観点から、「公共」で社会保障と自助の関係性の観点から民間保険に触れられています。これを踏まえ、お金という切り口で震災後の生活再建に関する社会保障(公助・共助)と自助について考えましょう。

公助・共助による「支援」と、自助による「備え」

(1)公助
国や自治体などによる公的な支援を「公助」と言います。被災者への公助としては、「被災者生活再建支援制度」があります。この制度は、自然災害で生活基盤に著しい被害を受けた人に対して支援金を支給することにより、生活再建を支援するものです。
住宅の損壊の程度に応じて支給される「基礎支援金(最大100万円支給)」と住宅の再建方法に応じて支給される「加算支援金(最大200万円支給)」の2種類があり、最大で合計300万円が支給されます。世帯主の年齢や所得による制限はなく、一定以上の被害を受けた被災世帯全てが対象となります

(2)共助
地域や周りの人たちと助け合うことを「共助」と言います。例えば、被災者へのお見舞いとして寄せられる「義援金」があります。義援金は、自治体、日本赤十字社や共同募金会などが窓口となってお金を集めたあと、自治体に設置された義援金配分委員会で定めた配分に基づいて被災者に支給されています。
支給額は寄せられた義援金の総額や被災者数などによって異なるため、あらかじめ定められた金額が支給されるものではありません。この点が、公助における被災者生活再建支援制度と異なります。

(3)自助
自分で自分の身を守ることを「自助」と言います。例としては、貯蓄や保険による備えが挙げられます。
例えば地震保険は、地震や地震による火災・津波などでの建物や家財の損害を補償する保険で、建物の損害は最大5,000万円まで補償範囲とすることができます。「地震保険に関する法律」に基づき、政府と損害保険会社が共同で運営する公共性の高い保険であり、大地震による巨額の保険金の支払いに備えて政府が損害保険会社をバックアップしています


Q.  貯蓄と保険の違いとは?

A.  貯蓄は三角、保険は四角
貯蓄は自分で管理できますが、もし途中で事故にあったら、その時点で貯まっている金額分しか損失をカバーできません。一方、保険は加入直後から保険金を受け取ることができますが、事故が起きなかった場合でも保険料の支払いは生じます。

社会保障だけでは2,100万円赤字 ⁉︎

●東日本大震災のケース
2011年の東日本大震災では、全壊被害に遭った住宅の新築費用は平均約2,500万円でした(内閣府公表)。
全壊被害に遭った被災者は、被災者生活再建支援制度(公助)から300万円、義援金(共助)から約100万円を受給できました。残り約2,100万円は社会保障で賄うことができなかったため、約2,100万円は自助で備える必要があったということになります。

(出典:内閣府)

●能登半島地震のケース
能登半島地震で特に被害が大きかった石川県では、被害を受けた住宅のうち約1割が全壊被害に遭ったと公表されています。石川県では、全壊被害に遭った被災者は被災者生活再建支援制度から300万円、義援金から100万円を受給できる旨公表されています(※)。
住宅再建にかかる費用は公表されていませんが、昨今の物価高の影響から、前述した2,500万円よりもさらに費用がかさみ、不足金額が2,100万円より大きくなることも考えられます。自助でカバーすべき範囲は大きいと言えます。
※地域や世帯によって受けられる公的支援制度が異なる可能性があります。

おわりに

地震で大きな被害を受けた場合、被災前の生活を再建するには、社会保障(公助・共助)があるとはいえ、自助によるお金の備えは必要です。
わかりやすさの観点から住宅再建費用のみを例に挙げましたが、生活再建にあたっては、損壊前の住宅のローンから、一時避難に必要な引っ越し費用、家具の買い替え、当面の生活費など、さまざまな費用が生じます。

人生にリスクは必ず存在します。人生を安心して過ごすために、生徒の皆さんが人生で直面し得るリスクを正しく認識し、そのリスクに対して適切な備えが何かを判断できるようになることは必要不可欠です
高等学校での学習を通じてそうした判断力を身に付け、希望をもって社会へと羽ばたいてくれることを願っています。

 


参考:授業に役立つツールのご紹介
日本損害保険協会では、上記のような生活上直面し得るリスクへの備えを学ぶことができる「明るい未来へTRY!」という高校生向け副教材を作成し、学校には無償で提供しています。是非ご活用ください。
●「明るい未来へTRY!〜リスクと備え〜」

<副教材の内容>
公民科用……社会保障制度の指導領域において、保険の仕組みや日本の社会保障制度の課題、自助・共助・公助の適切な組み合わせ等について学ぶ内容としています。
※冊子、パワーポイント、動画、教員用手引書あり。手引書は家庭科および公民科の教科書との対応表を掲載し、どのタイミングでどのような内容を教えればよいかがわかりやすく明記されています。