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書道 NEWS

教えて!書道教育のあれこれ 第1回

高校の書道の先生は、学校の中で1人ということが多いのが現状です。特に若い先生や講師の先生が、授業の進め方や指導方法などで困った時、誰に相談すればいいのでしょうか。そんな悩める先生方のために、教員歴30年超のベテラン先生が、書道教育のあれこれを連載で紹介していきます。

はじめに ~書道教育の現状~

高校の書道の先生は、学校に1人しかいないという場合が多いのが現状です。大学で教員免許を取得したとしても、教育実習の経験だけで、いざ現場に出ると、学校の中では自分1人になってしまいます。他の教科は、1つの学校に複数の先生がいて、周りに「初めての授業ってどうやったらいいですか?」「先生はこの単元どんな風に授業してますか?」など聞くことができますが、書道の初任の先生はそういうわけにいきません。気の毒に思います。

どんな職業でもそうかもしれませんが、特に教員は、経験が大切です。そもそも授業というもの自体、1人ではできません。生徒がいて、教材があって、そういうものがうまく絡み合って初めて、授業は成り立つのです。また、自分がいくら頑張っても、授業で空回りすることがあります。一生懸命やっているのにうまく成果に結びつかない、ということもよくあります。特に、若い先生や経験があまりない先生、また、とても意欲のある先生の方が、逆に壁にぶつかる可能性が高いということもあります。大学を出て、採用されたら、「はい今日からこの授業を持って」と言われていきなり教室に放たれ、自分以外は生徒しかいないという状況。困っても教えてくれる人が近くにいるわけでもないし、色々な情報もなかなか入りにくい、というのが、高校書道の現場の実状だと思います。

—全国や各都道府県の研究会や、他の学校の授業を見学に行ったりなど、先生同士の交流は活発にありますか?

例えば、高校の先生が集まる全国大会とかで、時流に合ったテーマを設けて研究授業を公開するということは、毎年各地でされていますが、参加する方はあまり多くありません。交通費や宿泊費などのコストもかかりますし、非常勤講師だと特に、ぽんと遠方の開催地へ行くわけにもいかない。おそらく意欲があり、条件が整った先生しかそういうところには行かないのが現状かと思います。また先生たちが集まるようなコミュニティも、それほど多くはありません。一部の都道府県で、芸術四科合同など、若手の先生方の育成を目的とした研究会をやっているところもありますが、都道府県間の温度差が大きいのも課題です。特に東京の都立高校は、専任の先生が1人もいません。ある程度専任の先生を確保している県とそうでない県というのがあり、世代交代や若手の研修など、うまく回っているところと回っていないところがあります。県によってはさらに、定年した先生方が、指導教諭として新任の先生達のサポートをする県もありますが、とてもそこまで手厚くできないという県は多いと思います。専任がいない東京都は1番厳しい状況です。

学習指導要領と授業の関係

—学習指導要領をどういう風に位置づけて、普段の授業を行うとよいでしょうか?

私の場合、学習指導要領は、活用するものだと思っています。学習指導要領を踏まえて授業の計画を立てることは大切ですが、それにしばられるのではなく、学習指導要領は、授業に活かすことができるものという位置づけて読んでいくと良いのではないかと思います。例えば、観点別学習状況の評価を学習指導要領の文言から見ていく。 それがどのように芸術科書道の中で位置づけられているのか、落とし込まれているのかということを読み取っていく、指導に活用していくということが大事なのです。
学習指導要領は、指導すべき学習事項の最低基準ですから、全てに触れる必要があります。ただ、どのように扱うか、どこに重きを置くかというのは様々に考えることができます。そういう目線で、学習指導要領に書かれている内容をその授業の中にいかに落とし込めるかということを考える。これを必ずやらなくてはいけないというのではなく、これならやれるのではないかという発想の方が楽だし、現実的なやり方なのではないかなと思います。活用となると、多分先生方それぞれの個性が出てくると思いますが、それはそれでいいと思います。生徒も1人1人みんな違うわけで、学校によっても地域によっても違う。学習指導要領というのは、一律の授業をしなさいということではなく、あくまでもある程度の学習の保障をする、国が生徒の学習を保障するためのものなので、それを逸脱してはいけませんが、柔軟に考えることも必要です。学校によっては、多くの生徒が何かを言語化するのが苦手な学校もあるでしょうし、反復練習の方が馴染む学校もあるかもしれない。また、ディスカッションを多く入れるというのがあってもいいだろうし。そういうところは、学校現場で先生自身がそれぞれに判断することだと思います。私の授業も、10年前、20年前とは変わっています。生徒の質も変わりますし、教師である私自身も変わってきていますから。

—学習指導要領解説に年間指導計画の基本的な考え方が書かれていますが、先生方は、どこまでこれを元に指導計画を作成しているのでしょうか?

一般的に先生方の多くは、学習指導要領を理解して指導計画を立てていると思いますが、中には学習指導要領に書いてあることを全部はやらなくていいと思っている先生もいます。最初から学習指導要領を読んでいない先生もいて、教科書を全部やっておけば、学習指導要領を全てクリアできるので、問題ないと思っている先生はいますよね。でも、教科書を無理やり全部やろうとするとこなすことだけに捉われて、時間が足りなくなってしまうというのが実状だと思います。

—高校の書道でICTを活用するとなると、どのような授業が考えられますか?

文科省が言う、生徒が制作した作品をクラウドにアップして、クラスの生徒や学年全体、さらに他校の生徒とコミュニケーションをとるというのをやっている学校もあるでしょう。私は、自分の学校の授業の中でしかやっていませんが、1番効果的だなと思っているのは、タブレットやパソコンのカメラ機能を使って、自分の書いている姿を生徒が自分で動画撮影できて、それを自分で見られるということだと思います。書いているところを自分自身で生徒に動画撮影し、自分で課題を見つけ出して、改善方法を検討させることなどはどうでしょうか。

授業の流れを作るために

—生徒が楽しめる授業の流れや、若い先生がそれを掴むためのポイントみたいなものはありますか?経験の浅い先生が陥りがちな授業のパターンなど、あれば教えてください。

教育実習生を見ていると、授業そのものが非常に説明的になってしまうというのはあるかもしれないですね。いわゆる指導しよう、知っていることは全部話そうみたいな感覚というのを感じることはあります。知っていることや教材研究してきたことを全部やろうとしているから、生徒たちの反応をあまり見ていないというか。そんなこと話しても、生徒は誰も聞いていないよみたいな。準備したからやらざるを得ないといったところを感じることはあります。臨機応変さがないんでしょうね。結局、学習内容に重み付けができていないということなんです。ここは大事なところで絶対外せないところだよとか、ここは言わなくても大丈夫とか。実習生にはよくそう話します。例えば、1番最初の授業で、筆の持ち方の指導をするとなった時、全員が正しく持っていたら、もうそれは指導する必要ないよと言います。なのに、それを事細かに、こういう持ち方があります、こういう持ち方の時はここが重要ですとか、それをやらなきゃいけないと思ってしまいます。全員がある程度出来ているのであれば、もうそれでオッケーなのです。あとは、書き始めた時に、ちょっと問題がある生徒がいたら、ピンポイントで指導していけばよい。いわゆる机間指導とかで指導していけばいいのに、初めから全員にやろうとするから、最終的に時間がなくなる。全体に指導した方がいいのか、それともピンポイントで指導したほうがいいのか、 グループ活動をさせて、その意見を抽出した方がいいのかというような、授業形態といっていますが、授業をフレキシブルに動かしていくということが重要で、生徒の集中力とか、興味関心を引き出す工夫みたいなのを意識してほしいですね。全体でディスカッションしているだけではなく、先生が話しているだけでなく、あなたどう思いますかだけではなく、これ興味深いことだね、ではグループごとに話し合ってみようよという感じで、次の展開へポンと行けるかどうかということですね。例えば教室をいくつかの班に分け、1班ずつ発表してみようと言って、いろいろな意見が出てきたら、それを教師がうまくまとめてあげるというような事をしてもいいかと思います。臨機応変さは、経験によってできることかもしれないのですが、そういうスタンスも必要だということは知っておかないといけないし、どこかの機会でチャレンジしてほしいです。でないと自分が一方的に説明して、はい書いてと言うようなことをずっとやってしまいます。確かに最初は怖いです。特に実習生を見ていると、怖いんだなというのはわかります。生徒からどういう反応が来るのか想定はしますが、それが想定できない時には、あえてそこに踏み込んでいく。
大事なところはどこなのか。その授業の目標に掲げているところが1番大事なので、そこを中心にしてどういう学習指導をちりばめていくかを考えなくてはいけない。授業の骨格をしっかり作り、その上で学習内容を焦点化することが大事です。それがないと、結局なんとなく同じような感じで、これやって次これやってと考えてしまいます。よく「発問」が大事と言いますが、 発問をするときにも、なんとなく発問するのではなく、学習目標に直接結びつくような、理解を促すような発問をしっかり考えることが重要です。あとは、生徒も人間ですから、調子がいいときも悪いときもあるし、何を言っているんだ?ということもあるし。生徒が多ければその通り行かないことも多くなるわけで、そこで授業が止まるのは当たり前です。生徒と共に授業を作っていく、これが授業の流れを創造するポイントの一つではないかと思います。


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