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高校の書道の先生は、学校の中で1人ということが多いのが現状です。特に若い先生や講師の先生が、授業の進め方や指導方法などで困った時、誰に相談すればいいのか。そんな悩める先生方のために、教員歴30年超のベテラン先生が、書道教育のあれこれを連載で紹介していきます。第5回はICTと書道教育について語ってもらいます。
目次
2019年度から、「ICTの活用により個別最適化された学びをすべての子どもたちに提供する」ことを目的に始まったGIGAスクール構想ですが、先生の学校での状況はいかがですか。
まずはICTの環境について。一般の学校はタブレット端末がほとんどだと思いますが、私の学校では、数年前から、入学時に全員Macbookを購入してもらっています。大学や一般社会でパソコンを使用する機会が多いため、早くから操作に慣れておくことがねらいです。校内無線LANも数年前に整備され、現在では、多くの教科で、学習過程の発表や提出物などをCloudを使ってデータで管理しています。
私自身、Macbookを授業で日常的に使うなんてことは全然できていませんが、学期に1回何かで使うとか、月に1回使うというようにはしています。 生徒に、他の科目の授業ではどんな感じで使っているか聞いてみたところ、使う授業では結構使っているけど、使わない授業では全く使わないというように、先生の授業スタイルに任されているという感じです。
私の場合、授業で主に活用するのはパソコンのカメラ機能で、生徒に自分の書いている姿や作品などの動画や写真を自撮りさせて、課題点を自分で見つけ、どうやって解決したらよいのか考えながら学習を進めていくということをしています。生徒に聞いたところ、その時使用した画像の編集ソフトは、書道の授業で初めて立ち上げたと言っていましたね。他の教科科目では、動画や写真を撮るということはやっていないのかもしれません。そんなふうに、教科科目の特性に合わせてICTを活用することで、生徒の経験や知識の幅は広がっていくのだろうと思います。それが1年生の1学期の終わりの活用場面です。
どの教科科目も、最初はおそらくワードなどで文章を打ち込んだり、エクセルのセルへの入力などから始まるかと思いますが、その辺のソフトの操作なんかは、私の学校の生徒たちは、中学校でしっかりできるようになっていますね。また、生徒たちは、このアプリとかこのソフトは今年の何月でサービス終了になるとか、しょっちゅうそういう話をしています。パソコンの操作やソフトについて、詳しい子は本当に詳しいです。教員側が知らないことを生徒が知っているなんてことは、日常茶飯事です。ですから、途中でサービス廃止になるようなソフトを授業で使用するよりも、教員も生徒もある程度慣れているソフトを使うことから始めればよいのではないかと思います。
書道でICTの活用というと、何か特別なアプリやソフトを使わなければいけないの?と思う先生もいると思うのですが、ワードやエクセルを書道の授業の中で活用するとしたら、どのようなことが考えられますか?
ちょっと前まで、ワークシートなどに、手書きで生徒たちは学習過程を記録していました。現在でも、ワークシートやその他の記録用紙と成果物の両方を提出させたり、ポートフォリオを作成して、生徒全員のファイルなどを教室に保管している場合は多いと思います。手書きの記録資料から得られる情報も貴重ですので、全ての記録をデジタルに置き換える必要があるかどうかは、先生方それぞれに考えがあって当然だと思います。ただ、全てがアナログの管理方法だと、回収・返却の手間と保管場所のやりくり、未提出者等の把握、そして生徒一人一人の評価まで、教員の手間と時間は相当かかります。そんな労力を軽減し、生徒と向き合う時間をこれまで以上に確保するため、生徒自身に、エクセルやワードで作成した学習過程の記録シートや、臨書や創作作品などの成果物の写真をCloudなどにアップさせ、データで管理するというのは、生徒と教員双方に有益なことだろうと思います。データは、教員と生徒一対一だけではなく、生徒全員で瞬時に共有することもできるので、授業で即時に活用することが可能なだけではなく、生徒が教室や自宅に戻った後でも、自身のスマホやタブレットなどでアクセスすれば、いつでも学習内容を振り返ったり、ゆっくりと他者の記録に目を通すことができます。集めたデータの活用法として、キーワードによる検索というのがあります。蓄積されたデータを、臨書や創作といったキーワードで検索することで、それまで学習した内容のどことどこが関連しているのかや、例えば創作と言った時に、今まで創作でどんなことを学んできたかというのを、すぐに見ることができる。過去の授業をふり返ったり、これから始まる授業の見通しを立てることが容易になるといった利点がありますね。また、授業の中で、生徒同士互いの記録をもとに意見交換をしたり、他者の記録を参考にすることで、生徒が自分で自身の課題を見出し、改善の道筋を自分で考え行動するなど、「個別最適な学び」と「協働的な学び」を一体的に充実すること、つまり、主体的・対話的で深い学びの実現の視点からの授業改善につながるのだろうと思います。現にそのような実践が、すでに高校書道の現場で行われているとも聞きますし、生徒たちのデータをもとにした生成AIによる学習にまで踏み込んでいる実践も、わずかながらあります。
ICTを活用することによって、これまで以上に、生徒が自分で考えて行動し、自分がやってきたことで自分がこう変わったんだという自己認識ができれば、それが次の学びに繋がっていくというような好循環を生む、ということなのだろうと思います。
先ほども話題になりましたが、生成AIをはじめとするICTによって変わるであろう書道教育の未来について、現時点での先生のお考えをお聞かせください。
ICTを使いこなすというのは、多くの人の場合、やっぱり難しいのだろうと思います。あまり複雑なものにしてしまうと使い勝手が悪くなってしまいます。おそらく今は、小学生からプログラミングを始めているので、あと10年も経ったら世界は変わってくると思います。
IT関係の仕事をしている私の息子などに聞くと、AIに関しては、書道でもできる、活用できると言います。現時点では、まだまだ活用の仕方が悪いということなのだろうと思います。ただ、ITの専門家ではない私たちの場合、なかなかそこまで追い込んでいけていないという感じはします。ただ、理系で、そういうことに長けた人から見ると、 もっと教育の中でも使えるのにとか、芸術の中でこういう使い方をするとうまく活用できるのにというふうに見えるのではないですかね。 書もその他の芸術も、感性はもちろん必要ですが、それと、技術の両方を組み合わせて回していかなきゃいけないのではないでしょうか。感性は、おそらく経験と紐づいているので、たくさんの経験をすれば、どんな人でも多少なりとも上がっていくけれども、技術の方は、頭でわかっているけど自分の手ではどうしてもできない、そういう状況をどうやって解決するんだというところが実技科目にはあると思うので、AIがそこにうまく絡めるのかなと思います。息子に言わせれば、そういうことではないのかもしれないですけど。私のほうから色々疑問をぶつけるのですが、なんかパッチワークみたいに見えるとか、新しい発想出てこないではないかとか、 それこそ重み付けなんかもできてないないのではないかと言うのですが、基本的には全てに解決方法があると言われました。
正直、私にはちょっと難しい話です。息子の言っていることの半分も理解してないような気がしますね。
ただ、やっぱりICTは、使い込んでいかないといけないというようなことは言ってましたね。結局、これから先は、ICTを積極的に使おうと考えて使わないと、書道教育はそれで終わってしまうよと、そうことなんだろうと思います。