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公共 NEWS

模擬裁判、裁判傍聴、どうすすめる? 
体験がひらく司法教育 

裁判員制度の導入や少年法の一部改正に伴い、公民科における司法教育の重要性も増しています。2013年から法教育プログラムを続けてきた初芝立命館高等学校(堺市)では、模擬裁判や傍聴にとどまらず、弁護士会との協働プロジェクトまで、司法教育をより実践的な学びへと進化させています。限られた授業時数の中で効果的に体験学習を行うには、何を意識したらよいのでしょうか。同校の川本秀樹教頭先生にお話を伺いました。
教科書の法部門監修者である吉田俊弘先生による解説もあわせてご参照ください。

はじめに 法教育プログラムの歩み

初芝立命館の「法教育プログラム」は、2013年に中学生を対象に始まりました。目的には論理的思考力、多角的視点、社会性スキルの育成などを掲げていますが、加えて、学校で起こる日常トラブルは個人の視点や先入観に従った言動によって起こることが多く、そういった問題を防ぐねらいもありました。
当初は中学3年生が対象だったので、公民の司法領域の学習を事前学習とし、学習後に発展として特別授業を実施していました。

当時行っていた模擬裁判は、大阪弁護士会と大阪地方検察庁から提供を受けた模擬裁判用判例を使用していました。まずは弁護側・検事側に分かれて該当事件について有罪・無罪の判断(主張・根拠)をし、裁判終了後はそのまま弁護側・検事側を入れ替えて同じ内容を実施します。異なる視点を経験させ、各立場での判断根拠を整理したら、「裁判員」の視点で各自の有・無罪の判断とその根拠をまとめます。模擬裁判後は弁護士、検察官の方による特別授業を行いました。
裁判傍聴も行いましたが、裁判によっては、裁判終了後に裁判官の方が残られて生徒に対して質疑応答の時間を設けてくださる場合もありました。

こうした取り組みを続けるうち、2021年には大阪弁護士会より「被疑者・被告人の入退廷時における手錠・腰縄問題」をテーマとしたプロジェクトの提案を受け、これをきっかけに対象を高等学校1年生(グローバル特進コース118人)に切り替え、探究授業における課題研究の一環として組み込むようになりました。昨年度は約半年で校内授業を6回行っています。

現在、プロジェクトは「総合的な探究の時間」(2021年度)や希望選択制の「土曜講座」(2023年度)で行っています。もし通常授業期以外に設定すると、生徒のクラブ活動や教員の出張などによって、全員そろわせることが困難です。また、プロジェクトは原則として担当教員からの説明を極力最小限にとどめ、調査方法や視点・助言提供も要点にしぼり、生徒の主体性やグループ内の対話・協働性を重視しています。

模擬裁判で「判決」に参加

①模擬裁判
昨年の模擬裁判は、大阪弁護士会の弁護士9名にご協力をいただきました。
この活動では裁判を自分ごととして捉え問題意識を養うことが目的なので、裁判内容はわかりやすいものに精選されていることが重要です。今回はコンビニ強盗を裁く裁判とし、教頭である私が被告人を演じました。
なお、裁判官、弁護士、検察官は大阪弁護士会所属の弁護士の方々が行い、生徒は裁判員の視点で参加する「裁判員裁判」としました。これは生徒が被告人となることを避ける意味もあり、限られた授業時数の中で「考える」時間を充実させるためです。生徒が役割を行うと、その分準備時間がかかってしまいます。一方、弁護士の方々の方はやはり上手に演じてくれます。おかげで実際の法廷さながらの緊張感に満ちた空間になりました。


生徒は裁判員の立場から参加し、最終判決で被告人(私)は無罪となりました

模擬裁判は1時間ほどで終了し、裁判後には各自のワークシートに判断とその根拠、気づきなどを記載しました。弁護士の方との意見交換・質疑応答も行いました。

シミュレーションを経て裁判傍聴、探究へ

②裁判傍聴
模擬裁判後、同月に傍聴に行きました。前日までに裁判の注意事項などは確認しておき、当日は昼食後から大阪地方裁判所に向かいました。
※夏休み期間の傍聴は裁判所も混雑し席の確保が困難です。本校では校内プログラムの流れと大阪弁護士会の方の都合の中から日程を調整しました。

どの裁判を傍聴するかは、同行の弁護士会の方にファシリテートしていただきました。刑事裁判は1日で結審しないこともあり、内容を見て生徒にわかりやすいものを選ぶ必要があるため、弁護士の方に相談して良かったと感じています。なお、刑事事件を選ぶ理由としては、民事は内容が複雑で当日の審理がどの段階によるかによってかなり複雑になるからです。また、離婚など生徒が抱えている事案にも配慮しています。
実際に傍聴した裁判は、①道路交通法違反・過失運転致死、②業務上横領、③麻薬取締法違反、④覚せい剤取締法違反、⑤強盗致傷、殺人未遂の5つです。

傍聴後は大阪地方裁判所で裁判官の方から質疑応答の機会を与えていただきました。
ある生徒からは「判断の間違い」について質問があり、裁判官からは「人は間違いを犯すので、そのための三審制なのだ」と説明がありました。この答えから、私たちは裁判は融通の効かないものではなく「間違いもありえる前提で」作られていることが理解できました。
最後に、所属弁護士の方より「被疑者・被告人の入退廷時における腰縄・手錠問題」に関する特別授業を受け、この日は終了しました。


質疑応答を通じて、被害者だけではなく「加害者側が今後どう生きていけるのか」を考えるきっかけにもなりました

③ポスターセッション
年末年始は、傍聴を行なった日に特別授業としてうけた「被疑者・被告人の入退廷時における腰縄・手錠問題」について探究活動を行いました。
発表はポスターセッションという形を取り、グループにわかれて賛否とその根拠についてポスターにまとめました。大阪弁護士会より5名の弁護士の方が来校され、各グループの発表時には各所を見学しながら質疑応答も行いました。生徒たちも自身ほかのグループを自由に見学して質疑応答に参加しました。

後日、ポスターセッションでまとめた自班の主張・根拠の改善内容を改めてパワーポイントに整理し校内発表を行いました。大阪弁護士会HP上にもパワーポイントを成果物として掲載していただきました。

まとめ 裁判を通して感じた「対話」

プロジェクトを進めるうち、私たちは裁判の要素の中に「対話」があると感じるようになりました。司法体験は、正誤を超えて関係者各人のことをその背景まで含めて考えることになります。自然と多角的な視点で考えが深まり、これが「公共」で求められる対話そのもののように感じました。

● 生徒からの意見
完全な賛成・完全な反対でなく、ケースごとに対応策や制度を考えるなど、1つの答え(対応・制度)ではない提案が増加する傾向があると感じる。
世界の中の日本の司法制度(良い・悪い両面)という視点が大きくなっている。」

法教育プログラムは裁判の仕組み理解や、論理的思考・多角的視点の育成に役立つと考えていたのですが、それだけではありませんでした。
たとえば、グローバル化により外国人犯罪が目につくようになったこと、昨今の人権意識の急速な高まりなど、私たちは裁判を通じて現代社会に直面しました。考える/触れる経験(課題研究)によって、時事的課題への解像度が上がっていくのを実感しています。
本校では、模擬国連や株式学習ゲームなども実施しています。法教育プログラムのような方式や内容を含めプログラム化していきたいと考えています。

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