未来を創つくる「お金」の学び 金融教育の研修会報告      

令和4年4月、民法改正により成年年齢が18歳に引き下げられたことは、教育現場、特に高等学校の家庭科教育において極めて大きな意味を持っています。特に、家庭科における「消費生活」の領域、とりわけ「お金」に関わる内容について、指導のさらなる充実を図ることが強く求められています。こうした教育的ニーズに応えるべく、1月28日(水)、群馬県伊勢崎市にて「群馬県高等学校教育研究会家庭部会合同研修会」が開催されました。

今回の研修では、社会的金融教育家として著名な田内学氏を講師にお招きし、生活に欠かせない「お金」という要素を家庭科教育の中でどう扱い、生徒の中にどのような資質・能力を育んでいくべきかというテーマでの講演がありました。田内氏の講演内容、および後半に行われた活発な議論の様子をご報告します。


未来を創る「お金」の学び

田内氏は、東京大学大学院情報理工学系研究科修士課程を修了後、ゴールドマン・サックス証券に入社し、長年トレーダーとして最前線で活躍されました。2019年に退職された後は、執筆や講演活動を通じ社会的金融教育研究家として「お金と社会の関係」を解き明かす活動を続けています。著書『君のお金は誰のため』は、読者が選ぶビジネス書グランプリ2024で総合グランプリを獲得するなど、社会的に高い評価を得ています。

田内氏が多くの学校を訪れる中で痛感されたのは、現代の生徒たちが「お金に対する強い不安」を抱え、それに振り回されているという現実でした。田内氏は、「お金の授業で最初に教えるべきは、投資の手法や節約術ではなく、お金に対して自分自身の『価値基準』を持つこと」が大切と語っていました。

講演では、「いつも500円で売られている高級みかんジュースがある日、300円に値下がりしていて買って飲みました。ところが次の日200円に値下がりしていました。このとき得した?損した?」「日曜日に働かなくてもいいようにみんながやるべきこととして相応しくないものはどれか?』などのクイズ形式を交えて、身近な例から日本の物価高や人口減少といった社会問題に繋げていき、「お金の役割」「お金と社会の関わり」を分かりやすく解説していました。特に印象的だったのは、「金融」の定義に関するお話です。

金融とは

金融とは「お金を融通すること」。お金がある人がそれを融通し、お金のない人が融通してもらう。田内氏は、この融通し合う循環によって、社会の中で新たな価値が生み出され、人々が幸せになることこそが「金融の本来の目的」であり、社会を動かすエンジンであるという視点を強調しています。家庭科教育において「お金」を単なる個人資産の管理対象としてだけでなく、「社会との繋がり」として教える大切さを改めて示唆してくれました。
資産形成のための投資などは金融学習の本来の目的ではない。お金を「自分ごと」として捉えるのではなく、「社会をより良くするための循環の手段」として捉え直す視点を持つこと、教えることが大切と語っています。

講演の最後に田内氏は生徒に教えてほしい、知ってほしいこととして、
・自分自身の価値のモノサシを知る
・社会を支えているのはお金ではなく、お金を受け取った「人」であること
・「社会のため」を考えて働いた方が、うまくいくこと

を語り、講演会が終了しました。講演中は熱心にメモを取る先生方が随所に見られ、質疑応答では、どのように授業に反映させていくかなどの多くの質問がありました。

「金融教育」から「金融経済教育」へ

後半では、群馬県立伊勢崎高等学校長であり、群馬県高等学校教育研究会家庭部会長の高橋みゆき先生から、これからの授業における「お金」の学びは「金融教育」に留まらず、「金融経済教育」として教えていくことの重要性の話になりました。
ここで整理された両者の定義は、今後の指導方針を考える上で非常に明快な指標です。

  • 金融教育:主に個人の日常生活における、基本的な金融取引に関する知識を与える授業。
  • 金融経済教育:個人の金融行動が社会全体や経済にどのような影響を与えるかという視点を持ち、社会全体のウェルビーイング(幸福)について考える授業。

例えば、食生活分野の授業において、「我が家の夕食代はいくらか」「1か月の食費はいくらになるのか」という家計管理の視点を入れることで、食生活分野と金融教育の横断になり、さらに、フードロスや日本の農業の課題などの社会課題にまで広げ、自身の消費行動が社会に影響を与えていることに気づかせることで、金融経済教育となります。
心に揺さぶりがかかる金融経済教育を通して、主体的に考える姿勢が身に付くと言えます。
また、住生活の授業においては、例えば「35歳で家を買いたい。でも、今住んでいる自分の家は将来どうなるんだろう。そういえば最近空き家が増えてきている。そもそも自分が家を買う必要があるのだろうか」とか、「持続可能な社会の構築のためにより良い住生活ってなんだろうか」といろいろ考えることで、金融経済教育という風になると語っていました。

そして最後に「お金を稼ぐことは、自分だけが幸せになることではない。日々の消費行動は『お金を出して未来を選んでいる』お金の向こう側にある価値に気づき、考えさせて、未来と社会の目的を共有することや、自分がどんな仕事をして、なんのために働くのか、どんなお金の使い方をするのかを考える」ことの大切さを語っていました。

その後、金融教育、金融経済教育に関しての授業の振り返り、情報交換などを先生方がグループで話しあわれ、活発な意見交換が行われました。

最後に

今回の研修を通じ、金融教育は生徒たちが「自分のお金が、社会の誰を支え、どのような未来を構築しているのか」という想像力を養うことであると個人的には思いました。
田内氏の言葉にあった「自分自身の価値基準を持つ」ことを、今後の授業実践においても、生徒一人ひとりが「自分にとっての豊かさとは何か」を問い続けられるよう、お金というツールを介して社会と繋がることの必要性を教え、生徒が自信を持って未来へと踏み出せるよう、指導のヒントとなる実り多き研修会でした。

群馬県高等学校教育研究会家庭科研究部会の皆様、ありがとうございました。

X Twitter

メールマガジンを購読する

教育図書の最新情報をお届けします。

ご登録いただくと、教育図書の最新情報・オススメ情報をいち早くお届け!

このフォームに入力するには、ブラウザーで JavaScript を有効にしてください。