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公共 NEWS

【授業レポート】定時制の教室  
夕方開く「公共」の扉  

栃木県立真岡高等学校の定時制では、多様な背景をもつ生徒たちが学びに励んでいます。ここでは、生徒同士が声を掛け合いながら進める協働的な学習スタイルが特徴です。
今回は「国家の多様性」をテーマに、世界の文化や歴史に触れる授業をのぞいてみました。先生の柔軟な授業設計のもと、自らの考えを深め、対話を通じて新たな視点を得る力を育む「公共的な学び」が展開されていました。

学校紹介 新たな学びの場で

栃木県立真岡高等学校は、男子のみの全日制と男女共学の定時制のふたつの課程を有しており、定時制課程では、教育図書の「公共」の教科書を使用しています。
授業は15時30分から始まる「夕間」、17時45分から始まる「夜間」に分けられ、定時制の全校生徒46名が各自の生活スタイルに合わせて自ら選択しています。高等学校では珍しく17時過ぎから「給食」が提供され、生徒たちが交流する場にもなっています。夕間の生徒は授業の途中に、夜間の生徒は授業前に食堂で同級生と食事を共にし、多くの生徒がこの時間を楽しみにしています。

【給食例】麦ごはん、味噌汁、照り焼きハンバ-グ、切り干し大根の煮物、ポテトとブロッコリ-のツナサラダ、牛乳

定時制には、中学時のさまざまな事情で新たな学びの場を求めてきた生徒が集います。生徒は日本人に限らず、1年生19名のうち4名は外国籍の生徒です。こうした生徒への対応として、日本語教師が週4回来校し、2時間程度の日本語指導も行っています。

5年前、この定時制課程に赴任したのが石川善行先生です。宇都宮高校、栃木高校と複数の男子校での勤務を経て、「公共」科目は定時制でのスタートでした。石川先生は、3つの柱を軸に授業を展開しています。

授業では、人権消費者教育社会保障といった生徒の日常生活に直結するテーマを優先的に扱います。たとえば、1学期に行った功利主義を考える授業では、高齢ドライバーは運転免許を返納すべきかどうかをクラス全体で考えました。

【授業資料】「高齢ドライバーは運転免許を返納すべきか」※画像クリックで拡大表示

国際社会は「近所付き合い」

今回は公共教科書p.84〜93にあたる、国家と領土についての授業を見せていただきました。
授業では国際社会を「近所付き合い」とたとえ、国と国との関係を人と人に置き換えながら進められました。国の成立要件、世界の国旗、そして民族という主要なテーマを土台にしながら、国際関係や文化、歴史を幅広く学ぶ授業です。生徒たちは、国旗や国家の象徴について、以下のような問いに取り組んでいました。

国旗のデザインが各国の文化や宗教と深く関わっていることが、歴史の裏話もあわせて紹介されました。生徒からはさまざまな意見が出ますが、「じゃあ日の丸はなぜ太陽?」「アフリカ諸国の国旗は色が似ているのはなぜだと思う?」といった問いかけによって先生はキーワードをつないでいきます。

また、スラブ民族やクルド民族などの例を挙げ、民族の多様性が説明されました。たとえばバルカン半島におけるスラブ民族が、過去に奴隷として扱われた歴史をもつこと等の指摘は、生徒たちの視野を広げるような内容でした。

国際社会を考える授業で国旗を選んだ理由について、石川先生は「生徒にとって国旗は、幼稚園や小学校の運動会で青空に浮かぶ万国旗を何度も目に焼き付けているので身近な教材になります。授業でも触れましたが、国旗にはその国の文化や歴史が表現されており、各国憲法と同様に国際社会においては自己紹介のための名刺代わりになります。国旗の色やデザインにはすべて意味があります。機械的な暗記ではなく、事象を結びつけて理解すること。記録と記憶に残る授業を意図しました」と教えてくださいました。

先生の問いに一人で答えなくてもよい

国籍も就学歴も異なる生徒が集まる教室では、全員が同じ内容を身につけているわけではありません。日本語能力にも個人差があるため、生徒たちは授業中に声をかけ合いながら先生の伝える内容をシェアします。
授業中には、相談して生徒3人一緒に答える場面がありました。先生の問いかけに対して必ずしも一人で答える必要はなく、時には周囲の生徒と集団解答も認められています。こうして、一度学びから遠ざかった生徒にも発言を促していきます。

石川先生曰く、いわゆる進学校の場合には生徒が教科書本文の表面的な説明に興味を示さないこともあり、行間を掬って深堀りするような別の切り口が必要になるそうです。一方で、多様な生徒が同席する場では、小さな問いを積み重ねることで学びが進みます。ゲーム感覚での穴埋め作業やテンポの良い発問を効果的に使うことによって、教室全体の発言回数を増やします。

授業では地図や国旗の画像だけでなく、国旗が使われる運動会、マリーアントワネットが持ち込んだクロワッサン(トルコ国旗の三日月)など、関連資料がふんだんに使われ、柔軟な発想を生んでいました。

【授業資料抜粋】※画像クリックで拡大表示

最後に石川先生は「学習を通して世界を知ってください。日本と世界の関わりを意識し、将来、関心の高い国にはぜひ足を運んでください。改めて日本を見つめ直す大切なきっかけになります」とまとめました。

世界史、地理、古典など多彩な分野を組み合わせて展開される授業は、学びの楽しさを存分に味わえるものでした。石川先生、ありがとうございました!

 

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