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「性教育」といえば、女子生徒と男子生徒が別々の教室で、女子は女性の先生/男子は男性の先生から、二次性徴や妊娠・出産について教わる「あの授業」を思い出す読者が多いのではないでしょうか。
「女子だけ体育館に集められて授業、男子は校庭で遊んでいた」なんて経験をした人もいるようです。
海外には5歳から性について幅広く学ぶ国もありますが、日本は学習する期間も内容も限定的です。
性教育にかける時間も、海外は年12〜20時間であるのに対し、日本は年3時間程度といわれています。
2023年に全国の15〜29歳を対象として実施されたある調査では、半数以上(51.0%)が「性に関する情報源はネットやSNSである」と回答しました。
そのあとは、友だち(33.7%)、恋人・パートナー(27.7%)、学校の授業や教科書(24.4%)、アダルトビデオ・サイト(23.7%)と続いています。
参考:国際協力NGOジョイセフ「性と恋愛 意識調査2023」
これでは、子どもも大人も、十分な性教育を受けられていないといえそうです。
「性教育は大切だと思うけれど、どのように教えたらいいかわからない」とお悩みの先生や保護者もいるのではないでしょうか。
昨今、このような現状に疑問を感じた人々による性教育活動が広がりを見せています。
その活動の主体や活動に関心を示しているのは、女性であることがほとんどです。
しかしその中に、男子だけで性教育団体を結成した3人の高校生たちがいました。
彼らはなぜ、「男子なのに」性教育をテーマに活動しているのでしょうか?
今回は、神奈川県・横浜市にある公文国際学園の生徒であり、「タブーを超え、面白くクリエイティブに」をモットーに、性教育の授業や講演などを行うボランティア団体「セクテル」のメンバーへのインタビューを、前編・後編に分けてお送りします。
性について教えている、もしくは、これから性教育を始めたいみなさんに、ぜひお読みいただきたいと思います。
セクテルのメンバー紹介
目次
ーーセクテルを結成したきっかけは?
瀬戸さん
2023年の夏休み前に、泌尿器科医の岩室紳也先生が、学校で性教育の講演をしてくださったことがきっかけです。
そのときの僕はまだ性教育なんて興味がなくて、「つまらなそうだな」とまったく期待していませんでした。
先生はまず、男子に「こんにちは」と挨拶し始めたんですよ。
中には挨拶を返さない生徒や声が小さい生徒もいて、それで先生が「挨拶しない男はモテない!」って言うんです。
その導入が印象的でした。
先生は、自分自身の日常生活のエピソードに性の知識を織り交ぜて話されて、「これはおもしろいぞ」といつの間にか引き込まれていました。
自分には関係ないと思っていた性教育が、そのとき初めて、一気に身近に感じられて。
「自分は何も知らなかったんだ」と衝撃を受けると同時に、「めちゃめちゃおもしろい!」と魅力を感じて、もっと知りたくなりました。
それで2人を誘って、いっしょに探究活動を始めました。
福田さん
海外と比較して日本の性教育は遅れている、日本では性教育はタブー視されている、ということに僕はなんとなく気づいてはいたものの、そのまま受け流してしまっていたんですよね。
真明空と本久に誘われて、「やっぱりおかしいよね。日本の性教育を変えたい!」と考えるようになり、活動に参加しました。
本久さん
最初はあんまり乗り気じゃなかったんですが、真明空が「性教育やったらモテるぜ」って言うからモテたい一心で…というのは冗談です(笑)
もともと「なんで男性って、女性のことをまったくわかってないのに、平気でいられるんだろう?」とモヤモヤを感じていたので、「性教育って男のマナーじゃん!」と思い、誘いに乗りました。
団体名は僕がアイデアを出して、「Sex education(性教育)」と「Tell(教える)」から「セクテル」に決めました。
キャッチーだし、性に関する団体だとすぐにわかってもらえますよね。
ーー校内でのワークショップから活動をスタートしたそうですね。
瀬戸さん
同級生の男子生徒15名ほどを対象にワークショップをやりました。
当初、僕たちには、性について生徒どうしで率直に話し合い、コンドームやアダルトグッズも教材とするような、海外の性教育に対する憧れがありました。
「理想の性教育をやろうぜ!」と意気込んでいたというか。
僕たちは「実践的な内容」と呼んでいるんですけど、学校では教わらない、だけど高校生は気になっているであろうことを授業にしました。
ーー「実践的な内容」について具体的に知りたいです。
瀬戸さん
たとえば、ローションと潤滑剤の違いを知るとか。
違いを理解していないと、女性の膣内環境を荒らしてしまうおそれがあるんです。
あと、コンドームの選び方と装着体験もやりましたね。
装着体験は、筒にコンドームを装着するんです。
最初は、あえて何も教えずに装着してもらうんですが、だいたい失敗します。
それで、袋の切れ端を切り離さないとコンドームを傷つけちゃうよとか、精液だまりをつぶしてからつけるんだよとか、僕たちが説明したあとにもう一度やってもらいます。
グループで話し合ったり指摘し合ったりしながら装着していて、みんな楽しそうでした。
ーーそれは盛り上がりそうですね。男子生徒のみを対象にした理由は?
福田さん
もちろん、女子からの参加希望もありましたが、男子が気まずくなってしまいます。
もし女子に参加してもらったとしても、女性少数・男性多数で比率が気になります。
本久さん
男子が女子に向かって「お前らはこれ知らないだろう」と教えるような状況も避けたかったんです。
「僕たちもわからないから、いっしょに学ぼう」という姿勢を示した方が、みんなの心に響くんじゃないかな。
ーーその後はさまざまなイベントに登壇やブース出展で参加されています。
福田さん
うれしいことに、誘っていただいて参加したイベントが多いんです。
僕たちは、ひとりでも予定が空いていたら行く!と決めていたので、これまでにたくさんのイベントに参加してきました。
僕たちの活動や意見を発表するだけでなく、たくさんの人との出会いがあり、アイデアや刺激をもらいました!
セクテルが参加したイベント
など |
ーーイベントでは発表する内容は?
瀬戸さん
おもに、「なぜ、今、性教育が必要なのか」について発表しています。
大人を対象に発表する機会が多く、若い先生、起業家、議員など層もさまざまなため、内容はイベントによってアレンジを加えています。
どこで話すときも高校生の「目線」と、「性教育を自分ごとにしてもらうこと」はいつも意識しています。
たとえば、スマートフォン所持の低年齢化についてです。
今、さまざまなマッチングアプリがありますが、中には4歳から登録できるアプリもあることを知っていますか?
子どもは、親がスマートフォンを使っているところをよく見ているので、すぐに使い方をマスターします。
もし、子どもがそのアプリに登録してしまったら、まだ脳が未発達な時期に、性について、過激な情報や誤った情報にふれるおそれがあります。
自分の裸の写真を送ってしまったり、知らない人と会う約束をしてしまったりするかもしれません。
ウェブサービスやアプリケーションはどんどん新しいものが登場しています。
日本の性教育は、インターネットの急速な発展に対応できていないのではないでしょうか。
ちなみにそのマッチングアプリの利用者のデータを集計したら、平均年齢は16〜17歳でした。
こういうアプリがあることを、大人は知りませんが、実は中高生は知っているんですね。
福田さん
これから大人になる僕らも、今後は置いていかれる側の人間になると思います。
ーー2024年の9月には、北海道の高校で2日間かけてワークショップを実施したそうですね。
瀬戸さん
先ほど「海外の性教育に憧れていた」と言いましたが、このときには「日本に合った性教育をやらなきゃ」という結論に至っていました。
日本で海外流の性教育を体験したら、多くの生徒は恐怖や不快を感じると思います。
ファーストステップとして、日本の実情に合う性教育を始めるべきです。
北海道の高校では、共学でしたので、女性と男性の身体の違い、性的同意、避妊方法などをテーマにしました。
まず、女性と男性がおたがいの身体について知るグループ・ディスカッションをしてもらいました。
「女性と男性がおたがいの身体について理解していない場合に、どのようなすれ違いが発生してしまいそうか」という質問に対して、参加した生徒のみなさんから次のようなリアクションがありました。
女性と男性のあいだで発生してしまいそうなすれ違い
* PMS:月経前症候群。月経前、3~10日のあいだ続く精神的あるいは身体的症状で、月経開始とともに軽快ないし消失するものをいう。 |
性的同意については、NOと伝える方法や相手を傷つけないコミュニケーションなどについて授業をしました。
たとえば、男子は家に女子が来る=セックスしてもいいと受けとってしまうけど、女子はただ2人きりで話したいと思っていただけだった、という認識の違いの例をあげました。
あとは、避妊方法についてです。
海外では低容量ピルやIUD(子宮内避妊用具)・IUS(子宮内避妊システム)のような女性主導の避妊方法も広く取り入れられていますが、日本では男性主導のコンドームが主流です。
であれば、男性はコンドームについて知る責任があると思います。
しかし、適切なコンドームの使い方を知らない高校生の男子がほとんどではないでしょうか。
後編では、セクテルの活動についてさらに深掘りします。