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令和7年度の共通テストが終了しました。「公共」は初の共通テスト登場ということもあり、文科省の期待する学びがテストでどのように測られるのか、確認する貴重な機会となったのではないでしょうか。
教育図書では、共通テストを受験する生徒が多い高校の先生たちでオンライン座談会を実施しました。座談会には以下の先生5名(1名は後日追記)にご参加いただきました。
※令和7年度共通テストの問題は大学入試センターの著作権処理が整い次第掲載予定です。
目次
「公共」は単独での試験はありません。「公共,政治・経済」「公共,倫理」の組み合わせでは「公共」から25点、「政治・経済」「倫理」から75点が配分となります。「地理総合/歴史総合/公共」から2科目を選択する場合、50点ずつの配点となります。
テストでは「公共」として大問4つが登場しました。
うち2つは「公共, 政治・経済」および「公共,倫理」で共通の問題で、「男女共同参画社会」と「公共空間の作り方」。「地理総合/歴史総合/公共」では共通問題2つに加えて、政経分野を補う「経済活動」と「裁判所の役割」が加わっています。各大問につき、それぞれ所感を語っていただきました。
A先生 ジェンダーの問題自体に驚きはないが、大問1から登場したことにはインパクトがあった。問2の表は純粋に興味深い。「同程度の実力なら、まず男性から昇進させたり管理職に登用するものだ」への肯定的な回答が、男性60代よりも男性20代の方が多いという結果になっている。解答と直接関係はないが、授業で取り上げたらこの表だけでたくさん議論ができそうだ。自分で作る場合も、正解できなかったとしても解いていて楽しい問題が良問だと思って作っている。
B先生 「新聞記事の要約」という設定からも、学習活動に影響を与えたいという意図が窺える。学習指導要領の想定する資料や統計を用いた授業を意識したのだろう。
C先生 問2の資料の読解は日本語力によるところが大きく、授業を受けていなくても解けてしまう問題とも言える。とはいえ、公共的な話題に関心があればよりスムーズに内容を把握できるものであり、授業や知識に加えて普段からニュースなどに興味関心を向けているかどうかで理解度は変わったはずだ。
B先生 問1は思考力を問う文章問題にみえて、形式としては誘導付きの一問一答。公共空間を考える上で非常に重要な思想家であるハーバーマスやアーレントを豪勢に登場させたわりには、使い方が雑に思える。この流れだと来年はサンデル、ロールズあたりか(笑)
C先生 出題側も、問題を作るのに苦労しているのだろう。明確な解答にするためという意図もわからないでもないが。
E先生 思想分野の学習は人物名とキーワードの暗記に偏りがちだが、本校では公共の趣旨をいかして、哲学者の思想を手がかりに現代社会で起きている問題を考える授業を行っている。マーク式の試験という制約もあるだろうが、今後は思想と現代社会の結びつきが重視される問題も登場してほしい。
B先生 問2のグラフも「読めばわかる」問題といえるが、今ちょうど読んでいる『読めば分かるは当たり前? ―読解力の認知心理学』によると、テキストベースで書いてある文章の通りに読むのか、そこに知識を加えて状況や構造も理解しながら読むのか、「読んでわかる」にも水準があるという。残念ながら、公共の問題は表面的に読んで論理的に答えを出す形式が多い。もう少し概念や理論を活用して解く問題になってほしい。
一方、問3は意欲的な問題。「帰納的に推論されているものを選べ」という問いによって、「帰納」という概念と具体とを行き来して物事を考えさせ、言葉の深い理解ができているかを測っている。このような問題には今後も期待したい。
B先生 問1ではパットナムや宇沢弘文の重要な考え方が紹介された。社会的共通資本については触れていない教科書がほとんどであるが、ここで登場したことで授業づくりにも取り入れていけるという、ある種お墨付きを与えたのでは。
D先生 本校では社会関係資本、社会的共通資本という言葉は扱ってこなかったので、自分も解けないかもしれないと身構えたが、解けてしまった。いわゆるこれも「読めばわかる」問題だったわけだが、正直これでいいのだろうかと疑問に思う。最近のテストは読む量も増え、その中からキーワードを引き出していけば解けるようになっている。もちろんそれも必要な力だが、「思考力」とはこういう力を指すのだろうか? せっかく発展的な用語を出すのなら、もう少し生徒たちが伸びる問題に改善してくれたらいいな、という期待が込められた一問だった。
A先生 問3はよく読めば難しくないが、貿易や金融は多くの生徒にとって理解に時間がかかる分野。授業でも基礎的な部分を理解させることで精一杯であり、具体的な計算まではやっていない。うちの生徒には厳しかっただろうなと思う。
D先生 為替レートが出てきた時点で、多くの生徒は嫌悪感を感じる。600万円の商品を例に出すより、もっと高校生の身近な例にしたほうがとっつきやすかったのでは。自分の授業では、海外旅行や輸入菓子を例にしている。
B先生 自分の授業でも計算問題などは行わず、株価と関連付けてゲームで理解させるなど実践的な学習につなげている。ただ、こうした問題に強くなるのかは、ちょっとわからない。反復学習は必要であるかもしれない。
C先生 続く問4は金融政策や経済の基本的な動きが頭に入っていれば、解ける生徒は解ける。ひねりもなくスタンダードだが、そういう意味では知識を試す正当な問題だった。
D先生 問1の一票の格差は、都市圏ではリアルな問題かもしれないが、我々のような地方では自分でさえ実感が湧かないので、きついかもしれない。議論しようと思えば時間はかけられるが、ほかにもいろいろ取り上げたい事例はあるので、授業でもそこまで時間はかけていない。これが出題されたかぁというのが正直な感想。
B先生 問2では細かい判例も問われた。学習指導要領ではこれまでのように判例を大量に扱って教えていく形式にこだわっていないとはいえ、受験としては知識面も重視されるということか。確かに判例学習を中心に憲法を扱ってきた先生にとっては教えやすい。反対に、自分で判例を調べていく学習へのシフトを理想とする考え方もあると思う。
E先生 冤罪・犯罪少年の矯正など、新聞で多く取り上げられるテーマが題材となった。今回の問題は文章を読めば解くことはできたが、単に制度を暗記するだけでなく、今世の中で何が起きているかという観点から授業をすることが重要であるというメッセージだと受け取った。
A先生 SNSでは「これは国語の問題では」という意見も見られたが、自分としては社会科で積極的にこのような問題を出していくことに賛成。これからの公民は議論する力、相手を理解する力がますます求められていく。ただ、「読めばわかる」問題は、どうすればその読解力を生徒につけさせられるのか。本校の生徒は一問一答は比較的解けても、資料の読み取りは苦手。この手のテストでは学力差が開くかもしれない。
全体的には、これまでのテストよりもテーマにおいて現実社会との乖離が減ったように思う。好意的に受け止めている。
B先生 全体を通して新聞記事、白書、探究活動などが取り上げられており、授業改善を強く意識していると感じた。資料問題への対応は、ただ資料を読ませるのも有効だが、例えばディベートをする前に根拠となる資料を調べるなど、目的意識のある活動に取り組ませたい。
読解力に対する完全な処方箋はまだないようだ。なぜ、読んでもわからなかったのかを探っていくことが授業改善につながると思う。読解力の強化を目指すにしてもテストのためではなく、現実社会の判断ができるようになるために読解力が必要なんだということを理解しながら学べるようにしていきたい。教科書や共通テストの中に閉じるような学力には、決してならないようにしていかなければいけない。
C先生 生徒たちを見ていると、瞬発力はあって覚えたものを瞬時に出すことはできる。中学校まではおそらくそれでやってきた。しかし、考える作業は総じて苦手で、読み込む問題は早々に諦める傾向にある。資料の読み取りは、公共に限らず全教科横断的にやるべき課題だ。とはいっても、我々としては知識を伝えた上での読解として、しっかりと思考をさせたい。その過程が「読む」能力にもつながっていく。
公共はこれまでの価値観が揺らいだ激動の時代に登場した。民主主義とは何か、正義とは何か、いま全員が問い直している。考えるきっかけとなっていく教科であると再確認できた。
D先生 「読めばわかる」と感じる背景には、無意識に知識のベースがあったのかもしれない。今回のキーワードである読解力だが、自分としては知識や読解力はあくまでも判断材料に過ぎず、生徒たちが課題に対して「どうしたいのか」「どう判断するのか」を重視している。そこを思考し続けることで自然と成長するはずであり、テストのための対策よりも、これから先どう生きていくのかを念頭に置いた学びがあり、その付加価値としてこうした問題もさらっと解けるようになっていくというのが理想。テストの傾向は変わっても本質は変わらない。生徒とともに研鑽しながら取り組んでいきたい。
E先生 公共をはじめとして共通テストでは資料の読み取りを中心とした問題が多く出題されている。文章・グラフを正確に読み取ることは大学進学後も求められる能力であるため、本校の公共の授業では資料を読み取る授業を多く入れている。授業の内容に関連する新聞記事を必ず読ませる工夫をしているためか、文章を読むこと自体には抵抗はなくなっていると感じる。
一方で、読解の時間を授業内で確保することによって教科書の内容の網羅は難しくなっているため、必修の公共では資料の読み取りを中心とし、高3の受験のための選択授業において知識を網羅するというすみわけをしている。知識の習得と資料の読み取りの両立を目指した授業づくりが課題であると感じる。