法的視点から社会を問い直す力 「公共」法分野解説
高校公民

学習指導要領によると、「公共」の法分野では、現実社会の課題を手掛かりに、法や規範にもとづいて各人の意見や利害を公平・公正に調整し、紛争解決などを通して、権利の保障や社会秩序の形成について理解することが求められています。
では、そのように法の意義や役割を多面的に考察するには、授業でどのように学びを進めていけばよいのでしょうか。今回は、新訂版「公共」の法分野の執筆・監修者である吉田俊弘先生(大正大学名誉教授)にお話を伺います。教科書のページを一部お見せしながら、授業で押さえたいポイントを解説していただきます。
法と社会
「法と社会」では、法の支配、立憲主義など、法に関する基本的な考え方を養うとともに、現実の社会問題と法との関係を取り上げ、法の役割や社会的な機能について考察を加えていきます。
そのような学習を進めるために、「テーマ学習」においては、具体的な事例を切り口としながら、法による紛争解決のあり方を考察したり、法の理念や価値が実現していくプロセスをダイナミックに学んだりできるように教材を用意しました。課題に取り組み、考えるうちに、現実の社会で法がどのような役割を果たしているか、また、立法・行政・司法の三権がそれぞれどのように機能しているか、深く認識できるように取り組んでいきましょう。

▼ テーマ学習①「忘れられる権利」
スマートフォンやパソコンが急速に普及し、誰もがインターネットにアクセスできるようになった時代を背景に「忘れられる権利」がなぜ主張されるようになったのかを考えます。本テーマでは、インターネットの検索エンジンがもたらす利便性とその問題を法的な問題として捉え直し、権利の衝突とその調整について考察できるように課題を設定しました。
検索エンジンで自身の過去の犯罪歴や不良行為が出てきてしまうとき、そのような過去を消去してほしいとの訴えは認められるでしょうか。最後の設問「OPINION」では、すでに罪の償いを終えている場合はどうか、あるいは政治家などの著名人である場合はどうかなど、個々の事例に即しながら個人情報の削除が認められるべきかどうかを検討し、法的なものの見方や考え方を育んでいきましょう
▼ テーマ学習②「男女平等」
日本国憲法は男女平等という基本的価値を採用し、憲法14条で法の下の平等を宣言しています。しかし、現実の社会では性別による不合理な差別的な取り扱いがなされていました。本テーマでは、男女平等という基本的価値が憲法や条約に取り込まれ、さまざまな法律に充填されることによって社会的な変化を促していくプロセスを具体的な事例に基づき学んでいきます。国際法と国内法との関係、三権が相互に果たす役割などにも注目してください。
解決策の一つとして、近年はクオータ制に注目が集まっています。ここでは、各国で採用されるクオータ制の動向を取り上げ、その意義や課題を検討します。私たちは、どのような社会を構想し、どのようにその社会を実現するのか、そのために法はどのような役割を果たすのか、話し合ってみましょう。

テーマ学習②「男女平等は法で実現できるか?」※画像クリックで拡大
契約と消費
「契約と消費」では、最初に契約と紛争解決に関する基礎的な知識を学び、その発展的な内容として消費者の権利の歴史的な展開、消費者を守るための法律と知識、消費者の責任について検討します。また、商品に関する情報の非対称性や依存効果などを手がかりに、よき消費者になるための条件について考察していきましょう。
テーマ学習では、法的責任(民事責任・刑事責任)と道義的責任、成年と未成年の法的責任の違いなどを詳しく取り上げ解説しました。未成年から成年への過渡期を生きる高校生に向け、成年になることの意味を法的な観点から捉え、検討することができます。
▼ テーマ学習 「子どもの過ちは親の責任か?」
高校生は、未成年から成年へと至る過渡期に学校生活を送ります。しかし、子どもと大人の違いを意識的に取り上げ、法的な観点から考える機会はほとんどないのが実情です。そこで、高校生が、成年として権利を有し法的責任を負うことの意味について考えることができるように本テーマを設定しました。
テーマ学習を進めるには、最初に、法的責任と道義的責任を取り上げ、その二つの責任の相違点を考えます。次に、法的責任には民事責任と刑事責任があること、さらに成年と未成年の権利と責任の違いを整理していきます。また、少年法や「特定少年」についても詳しく取り上げましたので、その意味を深く考察することができます。
「OPINION」では、18歳になった高校生が自転車事故で相手にけがを負わせてしまった場合に、本人や親の責任はどうなるのか、という問題を出題しています。法的な責任や道義的な責任とも関連づけながら考えていきましょう。
司法と裁判
「司法と裁判」では、司法制度の基礎的な知識として、司法権の独立、裁判の種類、違憲審査権のほかに国民の司法参加を取り上げ、詳しく記述しました。なかでも刑事手続と刑事裁判の仕組み、裁判員制度、「無罪推定の原則」については「COLUMN」で詳しく取り上げ、わかりやすい図解を用いて詳細な解説を試みています。考える学習を進めるために活用してください。
テーマ学習では、刑罰の目的を考えることを通して犯罪にどのように向き合い、どんな社会を構想するとよいのか、考えてみましょう。

▼ テーマ学習 「刑罰は何のためにあるのか?」
刑事裁判で有罪判決を受けた人に対し、刑の執行を一定期間猶予することができる制度があります。これが執行猶予です。執行猶予がつけば、有罪判決であっても刑務所に入らずに済み、通常の社会生活を送ることができるのです。さらに、猶予期間を無事に経過すると、刑の言い渡しの効力は失われます。本テーマは、このような制度をどのように評価したらよいのか、という冒頭の問いを手がかりに「刑罰は何のためにあるか」を考えます。
刑罰の存在理由を、犯罪という害悪を犯した人に対する「懲らしめ」と捉えるか、それとも社会復帰を後押しする「更生」と捉えるかによって、刑罰に対する評価は変わるかもしれません。
2022年の刑法改正によりこれまでの懲役と禁固は統合され、新しく拘禁刑が創設されました。その理由を考える時にも、刑罰の本質をめぐるこうした考察が求められることになるでしょう。安心・安全が重視される現代社会だからこそ、ぜひ考えてみたいテーマの一つです。最後の「OPINION」は、こうした学習を総括するためにおかれています。刑罰をめぐる本質的な問いに向き合いながら、執行猶予制度の意義や課題を検討し、意見交換をしてみましょう。

司法と裁判 テーマ学習「刑罰は何のためにあるのか?」※画像クリックで拡大
SIMULATION
本教科書では、刑事裁判の仕組みや刑事手続について教科書に書いてある重要語句を覚えるだけでなく、身に付けた知識や概念を実際に活用できるような教材を用意することにしました。その一つが、「SIMULATION」です。
▼ SIMULATION 「模擬裁判をしてみよう!」
模擬裁判の目的の一つは、何か問題が起きたときの解決のプロセスを理解することです。用意した「SIMULATION 」教材は、事件の概要に加え、被告人の供述、証人の証言、物証(現場検証報告書・医師による鑑定書)など、事件の記録を詳しく提示しています。授業では、これらの記録を丁寧に読み込み、どのような事実関係があったと認められるかという事実認定を行うことから始めます。続いて、その事実関係を前提とした場合、どのような刑罰を科すか、または科すべきではないかを判断します。
事件の記録を読み込み、そこに示された証拠の中から事実を拾い上げ、その事実が有罪を立証する方向に働くのか、それとも無罪を立証する方向に働くのか、それらの証拠の説得力はあるのかなど、検討していくとよいでしょう。
有罪・無罪の主張には論理的な根拠が求められるため、きちんと論拠を示し、事実や証拠としての裏付けを示していくことが求められるのです。さまざまな角度から事実を判断し、論理的に意見を構成すること、それを他者にきちんと伝えることを念頭において、判決を書いてみるようにしましょう。

SIMULATION「模擬裁判をしてみよう!」※画像クリックで拡大
▼ SIMULATION 「ルールメイキングをしよう!」
教科書には、「SIMULATION ルールメイキングをしよう!」というページも設けられています。教科書の構成上、政治分野の学習として組まれていますが、「ルールをつくる」という点に着目すれば、実践的な法教育の一分野としても位置付けることができます。そこで、ルールメイキングを法教育の観点から少しだけ取り上げてみます。
ルールは、社会においてある目的を達成したり、問題を解決したりするためにつくられます。したがって、つくられた当初は適切なルールであったとしても、時が経ち、不都合が生じるならば、新たなルールをつくったり、これまでのルールを改正したりすることが必要になります。ルールメイキング(ここでは「校則」の改正)を法教育の視点から捉え直すと、ルール(校則)を評価する基準を立て、検討していくことが求められます。
校則の評価基準としては、〈校則の目的は何か・その目的は正当か、目的達成のための手段は適切か・特定の人の権利や自由を過度に制約していないか(手段の相当性)、校則は誰が見ても明確につくられているか(明確性)、校則をつくる過程にみんなが参加したかどうか(手続の公平性)など〉をあげることができるでしょう。
教科書に示されたSTEP1~STEP4に至るルールメイキングのプロセスを通して、法を評価する視点(法的な見方・考え方)が育まれていくことが望まれます。

なお、「SIMULATION ルールメイキングをしよう!」には、「校則の改正」のほかに、「実際の法律・政策について考えてみよう」という特集が掲載されています。ここでは、高校生の政治参加に焦点を当て、私たちの意見を実際の法律や政策形成にどのように反映させることができるか、その手段を紹介しています。高校生が実際に取り組んでいる例も紹介されていますので、こちらは、「民主主義」や「政治参加」(教科書p.072~p.085)と関連づけて学習してみましょう。
イラスト:田中正人(MORNING GARDEN INC.)

●吉田 俊弘(よしだ としひろ)
1955年新潟県生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科および教育学研究科修了。東京都立高校教諭、筑波大学附属駒場中高等学校教諭、大正大学教授を経て、現在は大正大学名誉教授。早稲田大学・東京大学・東京都立大学・東京経済大学・法政大学で非常勤講師も務める。専攻は法教育、憲法教育論。近著に『憲法のリテラシー - 問いから始める15のレッスン』(有斐閣)『憲法を学び、教える -教師教育の課題- 』(学文社)など。noteでも連載「『公共』と法のつながり」(第1回~第14回)を執筆し、法と教育に関連する情報を発信中。




