その一撃で世界は変わる。株式会社ALE 岡島礼奈さんインタビュー

高校公民

起業家教育を行うとき、私たちは自然と「課題解決」をイメージします。しかし、世界を変える起業家たちは、「こういう世の中をつくる」という能動的なビジョンを掲げ、突き進んでいます。AIが多くの課題解決を引き受ける今、次の時代を切り拓くのは、既存の枠組みを超えてやりたいことを実現させる力なのかもしれません。

今回は、株式会社ALE代表取締役の岡島礼奈さんにご登場いただきます。

●株式会社ALE
2011年創業の世界初の「人工流れ星」をつくる宇宙スタートアップ企業。
独自の人工流れ星や小型衛星の技術を活用し、これまで観測が十分にできていなかった対流圏から中間圏のデータ取得に向けた研究も行っている。災害対策や船舶・航空の経路最適化、農業等の分野への技術活用も期待されている。

「課題解決」偏重への違和感

学校教育の現場では、起業家教育といえば社会課題を見つけて解決するという「課題解決型」のアプローチで語られます。おそらく高校での探究学習も、まずは課題に焦点をあてにいくでしょう。

しかし、私がこの教科書に取り上げていただいたのも多分その点にあると思うのですが、もう一つ、ハイリスクハイリターンではあるものの、ただ課題を着実に埋めていくだけではない起業の形があります。それは、「こういう世の中にしたいんだ」という明確なビジョンを掲げて突き進む「ビジョン型」です。

ビル・ゲイツやイーロン・マスク、スティーブ・ジョブズといった偉大な起業家たちは、まさにこの作りたいものを作るというビジョン型であり、課題解決型ではありません。

私は、今の日本でスタートアップから大企業へと成長し、世界で活躍するような企業が少ないのは、課題解決型に偏りがちな教育の弊害もあるではないかと考えています。

もちろん、目の前の課題を解決していくことでそれなりのビジネスは成立しますし、経済を回す上でも課題解決は重要です。しかし、本当に大きく跳ね上がり、世界に影響を与える存在になるためには、壮大なビジョンを打ち出して全力投球する姿勢が必要です。

昔はバランスの良い人間が求められました。そしてここ数年、減点方式から加点方式への転換が議論されてきました。

AIが登場した今、課題解決はAIが担える部分が増えてきています。であれば、「課題に気づける力」「問いを立てる力」、そして「どういう世界をつくりたいのか」という意志こそ大事にすべきです。

起業家教育で学校に呼ばれるたび、「起業家なんて人の話を聞いていない人が多いから、こうして授業を真面目に聞いている人は、そもそも起業家には向いていないのでは」なんて思います。同世代の起業家たちも学校に馴染めなかった人は多く、学校で起業家教育をすること自体、矛盾をはらんでいると感じることもあります。

私は学生時代たまたま勉強が好きだったので、高校まで周囲に合わせつつ過ごすことができましたが、やはりどこか窮屈さは感じていました。それが大学に入ってからは見事に偏った人だらけで、居場所を得た感じがしたんです。

以前に経済産業省が「未来人材ビジョン」をまとめる際、有識者として参加させていただいたことがあります。そこで印象深かったのは、経済産業省が主体となって「学校で求められる人材と、社会が必要としている人材には、少しギャップがあるのではないか」という議論がなされたことです。

学校での優等生が必ずしも社会で大活躍するわけではない、というのは皆さん感じることではないでしょうか。その学校教育と社会との接続をどうにかしないといけないのです。

仕組みを作り、価値を売る

受験、就活という流れを乗りこなすのが得意な人は、きっとサラリーマンとしても能力を発揮できるでしょう。そしてこの国はそういった仕組みも非常によくできています。

一方で、「仕組みを作る側」は弱い。日本人は優秀ですし、国全体のレベルも高いと思います。みんながきちんと人に気を遣えたり、識字率が高かったりする点は素晴らしいですよね。しかし、駆け引きが苦手で、ルールメイキングも弱い。世界で競争を仕掛けた時、良い技術があっても売り方で負けてしまうのはそのためです。

かつて東南アジアでは、日本の洗濯機は大きなシェアを占めていました。ところがあるとき、欧米企業がロビー活動を仕掛けました。「縦型洗濯機は中に人が入ってしまう危険があるから規制をかけるべきだ」というキャンペーンを勝手に展開し、自分たちの商品であるドラム式洗濯機を主流にしようと企てたのです。当時の日本はドラム式洗濯機の生産がまだ本格化しておらず、隙を突かれる形でシェアを奪い返されてしまいました。

この話を聞くと、卑怯に感じます。それは無意識のうちに染み付いた「清廉潔白であるべきだ」「正々堂々とすべきだ」という感覚があるからです。それが通用しない現実があります。

学校では「嘘をつくな」と教わったはずなのに、ビジネスの世界では、ある程度「うまく」立ち回ることも必要です。全てを包み隠さず話すことが良いわけではない場もあります。つまり、学校と社会ではルールが変わるのです。

決められたルールに従って行動することを正しさとする教育では、都合よくルールを変える発想には至りません。

このことに気づくのが私はすごく遅かったんです。学生起業をした時、「あれ、学校で勉強したことと違う」と感じ、その都度アジャストしていった経験があります。学校の先生たちもきっと真面目な方が多いでしょうから、立ち回る方法や自分を売り込んで仕事をとってくる感覚は、もしかしたらあまりピンと来ていないかもしれません。

高校生には、好奇心を武器に社会に能動的に関わっていく感覚をもってほしいと思っています。

自由にやろうという意図で行われるプロジェクト学習でも、最近はフォーマット化されてきてはいないでしょうか? ビジネスコンテストでは、どういう人たちが受賞しているかを見て、それに合わせてくる傾向もあります。なぜ受賞したいかというと、推薦入試のため、と返答を聞くことすらあります。

宇宙にだって行けると思えるか

私が起業したきっかけは、学生時代にバイトを探していた時に理系学生にはプログラミングの需要があるらしいという話を聞き、「できます」と答えて仕事をもらったことでした。請けた仕事はそのまま同級生に振ったのですが、結果評判が良く、そこから会社化に至りました。当時は今ほどプログラマーも多くなく、コードを書ける人が少なかった時代です。私自身はプログラミングなんてできなかったのですが、周りにできる人がいるから請けてみようという感覚でした。

そんなふうだったので、高校時代も「起業」という選択肢はなく、ぼんやりと研究者になれたらいいなと思っていました。地元には起業家のロールモデルもいなかったので、自分はサラリーマンに向いてなさそうだから研究者かな、程度の曖昧な動機です。

ところが、進学した東京大学では、ノーベル賞を受賞するような研究者の先生と話す機会が、本当に身近にあるんです。そんな中で、偉い人も結局はただの人間なんだと感じた瞬間、ふと「自分もそこに行けるかもしれない」と思ったんです。

別に偉い人が良いということではなく、当時の地方では、大人と接する機会も少なかったんです。高校時代、社会で活躍できるイメージが湧かなかったことは残念に思います。

地方の子どもたちは、都会の子と比べて、自分が「発信する側」になれるとは考えもしません。できることに気づかず、なぜか遠慮しています。無理に発信しなくてもいいしキラキラする必要もないけれど、「やりたいことはできるし、自分のアクションには力がある」と感じてもらえるような社会との関わり方を示したいと思います。そうした経験を、特に地方でもたくさんできるといいなと願っています。

未来を動かす小さな一撃

私たちは現在、流れ星を使った面白い計画に取り組んでいます。2029年、ある小惑星が地球に接近するのですが、その惑星に私たちの流れ星をぶつけに行くのです。

これは「はやぶさ2」でもご活躍の橘省吾先生とのお話の中から出た案です。流れ星は直径約1cmの小さな粒から構成されるのですが、それを小惑星に軽く衝突させ、惑星の表面を削り取ることで、その構造や特性を測るというものです。橘先生によると、どのくらいの力を加えれば正確に惑星の軌道変更ができるかといった計算もできるようになるそうです。つまり、将来的には地球防衛にもつながるということで、各メディアに取り上げられました。

とてつもない計画に思えるかもしれませんが、実は予算規模はそれほど大きくありません。というのも、私たちの放出装置は、アメリカのスタートアップ企業の衛星に相乗りする形で宇宙に運ばれるからです。彼らも民間企業なので、「自分たちでやろう」という発想が根底にあります。

NASAやESA(欧州宇宙機関)も探査機を送る計画をもっていますが、予算の制約から実現が不透明な部分もあります。だからこそ、民間が動けるとなると、むしろ資金を集めやすくなるのではないかと考えています。

私が事業を通して成し遂げたいのは、科学貢献です。基礎科学に新しいお金の流れを作りたいと思っており、今回の取り組みはその大きな目標に向けた科学ミッションなのです。

アメリカのメンバーの中には、小型衛星を何百機も打ち上げてきたメンバーもいます。彼らが口を揃えて言うのは、「SpaceXの登場で、今は非常に大きなものを高頻度、低コストで運べるようになった。じゃあ今、自分たちに何ができるかと考えたとき、小さい衛星を作ってもつまらない。ならば小惑星探査だ」と。

ルールが変わったことにいち早く気づき、順応できる。彼らの素晴らしいところです。

2029年、小惑星アポフィスが地球に最接近します。距離はわずか3万2000キロ、気象衛星「ひまわり」が周回している3万6000キロよりも近い軌道を通るのです。私たちはそこに流れ星を放ちます。残念ながら肉眼では見えませんが、科学を動かすのは、その小さな一撃なのです。

岡島 礼奈おかじま れな

ALE代表取締役/ Chief Executive Officer。東京大学大学院理学系研究科天文学専攻にて博士号(理学)を取得。修了後、ゴールドマン・サックス証券株式会社へ入社。2009年から人工流れ星の研究をスタートさせ、2011年9月に株式会社ALEを設立。

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