【公民科×家庭科】「18歳成年」授業事例案 〜コラボ授業のススメ〜

高校家庭

4回に分けて公民科×家庭科のコラボ授業例を紹介させていただいたが、忙しくてコラボ授業に取り組む余裕はないと考える教師は少なくないと思います。
コラボ授業を行うには様々な準備が必要であるが、学校では通常の業務以外にも突発的にいろいろなことが起こり、教師は常にその対応に追われます。学校では、教師は自分の授業は自分の責任で行うことが一般的で、他の授業とのコラボは、同じ課題意識を持つ教師同士でないとむずかしい。さらに、同じ課題意識があったとしても、履修学年や学習時期を合わせることがむずかしいという問題があります。
そんな中、東京都立農業高等学校で公民科の塙枝里子先生、家庭科の河合寿子先生によるコラボ授業「経済的自立:投資」を実施しており、コラボ授業のきっかけ、生徒の反応、金融教育のこと、カリキュラム・マネジメントのことなど、國學院大學栃木短期大学教授で仲田郁子先生が対談したページを特別にWeb公開します。

『高等学校公民科×家庭科コラボによる「18歳成年」教育教材の開発」』

家庭科と公民科との『金融コラボ』を通して

コラボ授業のきっかけ

2024年 8 月  東京都立農業高等学校  社会科教室にて(左:河合先生、中:塙先生、右:仲田先生) 

仲田 今日はよろしくお願いします。昨年の2月にコラボ授業を見せていただいたのがきっかけですが、その後12月にもなさったとのことなので、両方の授業に関連させてお話いただければと思います。その時の授業がとっても面白かったんです。投資がテーマで、抽象的な内容も多かったんですが、生徒さんがとても意欲的に、自分で考えて発言していたのが印象的でした。今日のねらいは、皆さん、ぜひコラボ授業をやりましょう!と発信することなので、まずはあの授業について、どんなふうに計画したのか、きっかけは何だったのか、そのあたりからお聞きしたいなと思います。

 もともとは雑談だったと思います(笑)。河合先生に家庭科の授業内容をお伺いしたところ、共通事項がかなり多いなということに気づいたんですね。公民科では金融経済分野について、株式学習ゲームを中心に授業を組み立てていたのですが、 河合先生が「それ面白いんじゃない?」と言ってくださったことがきっかけになって、お互いに「どんな授業をしてるんですか?」と情報交換を始めました。

河合 雑談しやすい環境でした!お互い大職員室にいる時間が長かったので、恵まれていました。2022年4月から本格的に金融経済教育を家庭基礎でもしっかりやることになって、当時必死で勉強していたので、塙先生によく質問しました。そこを拾ってくださって、「じゃあ一緒に授業やりませんか」となったように記憶しています。

仲田 塙先生は以前から家庭科の内容はご存知だったんですか。

 そうですね。公民科の教科書執筆に関わる仕事を通して、家庭科の教科書には何が書かれているかを調査したので、家庭基礎と家庭総合の教科書を見る機会はありました。ただ範囲が広いので、実際に授業をどういう風に展開しているのかというのは河合先生と話をするまでは知らなかったです。

仲田 なかなかコラボできない人が多いのは、やっぱり時間がない、忙しいっていうことでしょうかね。

河合 それは大きいと思います。学校ではいろんなことが起きるので、時間がなくて何もないところか
らコラボ授業をやるのは難しいと思いますね。

 実は本校では2022年度から2023年度の2年間、教科横断的な取り組みをしようというプロジェクトに学校全体で参加していました。東京都には「西部支援センター特別研究指定校事業」という制度があり、予算措置がついたため、「教科間連携及び地域連携による深い学びの授業」をテーマに研究に取り組んでいたのです。そのテーマの一つが教科横断的な取り組みでした。農業高校は5つ学科があるのですが(都市園芸科、緑地計画科、食品科学科、服飾科、食物科)、それぞれが別の学校みたいで…。

河合 確かに、専門教科の先生は専門の生徒しかみないから、他のクラスの生徒を全く知らないということもありましたよね。私や塙先生は普通科目を担当しているので、5クラス全て受け持つことが出来ますが。

 そうなんです。各科の独自性と独立性が強調され、学校全体としての統一性が確立されていないという課題もありました。一方、新学習指導要領では「教科等横断的な視点に立った資質・能力の育成」が謳われていることもあり、大義名分としてもやりやすくなりました。

河合 今まで忙しいことを言い訳にやっていなかったことが、忙しくてもやってみたほうがいいよねという流れに変わってきたことによって、取り組みやすい雰囲気になったと思います。


コラボ授業の良さ~新鮮さ、そしてつながること!

仲田 それでは具体的にどう進めたか教えてください。

 年間授業計画における単元の位置付けや単元構成はそれぞれの科目担当者が考えました。昨年 2月に行った 1 年家庭基礎は河合先生、12月に行った2年公共は私ということになります。もともと、万が一出来なくなってもいいように(笑)、単元の最後にコラボをすることは決めていました。そして2人ともせっかくやるんだったら何か今までやったことないことにチャレンジしたいという思いがあり、 1年生の家庭基礎では長期、積立、分散の中でも行動経済学の視点を入れて、2年生の公共の社会保障の分野では、今まであまりやっていなかった私的年金で単利と複利の考え方を取り上げることにしました。複利の理解は結構難しいので、 一発でうまく見せられるような Excel のワークシートを作ろうということになって、その時は数学と理科の先生にも協力を仰ぎました。

仲田 2教科だけではなくて数学や理科にも協力してもらって実現したんですね。複利の計算なんてそんな簡単にできませんよ。生徒さんの反応はどうでしたか。

河合 印象としては、多分生徒は新鮮だったんじゃないかな、私や塙先生がいることで。だからあっという間の50分だったんじゃないかなって思います。ちょっとショー的な感じで(笑)。

仲田 誰でもできることじゃないですよね。

河合 生徒にとっては愉快な時間になったかなって思いますね。あと、これまでに聞きかじった言葉がつながっていくタイミングとなった。断片的なところがつながっていったような気がするんです。

仲田 前年の2月に河合先生のお金の授業を受けた生徒が進級して、12月に2年の公共で塙先生の授業を受けているんですね。

 その通りです。コラボするといっても、全ての授業に二人がいけるわけじゃないんですが、関係を作って一緒に単元計画や授業内容を考えておくことは、実際にはできなかったとしても結構大事だし、私自身の学びになっています。さっき河合先生はショーっておっしゃってましたけど、生徒は「公民はこう、家庭科はこう」っていう感じで、教科によって知識が分断してるんですよ。それがコラボ授業のおかげで繋がったと思ってくれたみたいです。「今、公共でやってる多くのことって去年、家庭基礎でやったこととつながっている」とリアクションを書いてくれた生徒がいたので、それはとても良かったですよね。


教員同士のつながりが大事

仲田 塙先生は教務主任になったら少し持ち時間は減りましたか?

 はい、でも別の仕事が増えました。それでもやろうとしていますから、コラボ授業!

仲田 どんなに忙しくても、隙間時間見つけてでもコラボ授業はするんですね。その原動力は何ですか?

 本当にその先生と仲良くなれると思うからでしょうか。普通に職員室で話したりとか、飲みに行ったりとか(笑)、そういうことで仲良くなることは可能だと思うんですけど、私は真の仲の良さっていうのは、何か一つの物事を達成した時に生まれると思っているので、何か一つの目標を一緒に達成するっていう経験がかけがえのないものになっています。それに信頼関係が生まれますよね。色々な情報交換を通して、これまでも河合先生のことを尊敬することが何回もあって…すごいなあと思いますし、よし、私も頑張ろうと思えるところが良いんです。

河合 褒められたので、褒め返しですけど(笑)、塙先生がこうやってどんどんコラボ授業ができるのは、だいぶ先のことでも予定を入れて、そういう状況を作っているからだろうなって思いましたね。 いつかそのうち…だと絶対できない。

 人間が「やりたい」っていう気持ちを継続させることは難しいと思いませんか?私自身は難しいと思っています。なので、コミットメントをしてしまって、「やらなきゃ」っていう気持ちにならないとやれない。そういった行動経済学的な知見を自分に課しています(笑)。

河合 生徒にとっても、先生たちが仲良く協力し合っている姿って、嬉しいんじゃないかなと思います。学校に対して肯定感を持ってくれて、自分の学校を好きになる一つの要素だと思います。先生たちが一丸となって、ギスギスしている様子がない方が、授業は楽しく受けてくれてるんじゃないかな。推測ですけど。

仲田 教職員がコミュニケーションをとるようになると、 学校の雰囲気がよくなるんでしょうね。学校って違う教科の人が集まってチーム組んで仕事していくから。

足し算より引き算

河合 コラボ授業については、他教科とのコラボもあるけれど、同じ教科内のコラボもあるんじゃないですか。家庭科は一緒にやったりしています。他教科とのコラボが難しかったら、まずそこからでもいいのかなと思うんですけど。普通教科だとそういうのはあまりやらないですか。

 社会科の中ではコラボ授業はあまりないですね。でも話をすることは大事。どこの分野をどういうふうに教えているかとか、ここちょっと教えにくい んですけどどうやったらいいですかみたいな話はしますね。経済分野の質問を歴史の先生がして、ここは私はこれで解説してます、ああ、なるほどみたいなおしゃべりをします。逆に私が歴史のことを教えてもらったりして、よくコミュニケーションをとっていますね。

仲田 社会科の先生もそれぞれご専門があると思うんですけど、教育課程を組んでいく上で今までやったことがない科目を持たなくちゃいけないということがありますよね。ここの学校では、皆さんいろいろ積み重ねてこられ、今それがいい結果が出てきているということかもしれないですね。

河合 そうですね。特別指定校研究の2年間は大きかったですね。どの教科もやりましたから。

 誰でも何かコラボしなさいっていう校長からのお達し(笑)。

仲田 そういう学校ばかりじゃないけれど、ここの取り組みはぜひ多くの学校に知ってもらいたいですね。

 効果測定できてないから希望的観測ですけど、教科連携で分業できたことによってそれぞれの教科の中でも単元の深まりというのがあるのではないかと。今までパーソナルファイナンス分野で 3 時間ぐらい使ったところをカットして家庭科にまわして、その分を社会保障に当てたので、そっちにプラス 3 時間。そうするとより社会保障分野での深まりがあるし、コラボ授業も生まれて金融とつなげることができたから、これはメリットだと思います。

河合 生徒にとってのメリットは繰り返しになりますけど、断片的だったのが線でつながっていくようなイメージでしょうか。そうすると定着もしやすいだろうし、浅い理解が深くなるし、頭が整理されていく感じかな。そこが一番です。定着は期待できると思います。

 同じことを違う人が説明するって結構大事ですよね。同じこと言ってるんだけど違う先生が言うことによって、「あれ本当だったんだ!」とか生徒は言うんですよ(笑)。外部講師が来ると、「先生が言ってることと同じこと言ってた!」みたいなこと言われるんです。

仲田 今回の授業ではないのですが、自分ごとは難しいって言う話があって、家庭科って自分ごと中心で、何をやってもじゃあなたどうってところに行くので、自分ごとの難しさというのは日々考えています。やっぱりたまに違う教科で別の視点から見るとこうだよって聞いたら、きっと 1 聞いたことが 3 にも 4 にも繋がっていくんじゃないかな。そういうことが学校の良さで、毎日違う授業を受けるよさだと思います。家庭科の難しさも良さもそのあたりにあるかなと思うと、やっぱりコラボしないともったいないですよね。

河合 家庭科は圧倒的にコラボしやすい教科!それは思いますね。

仲田 もっともっとして欲しいです。

 公民との相性はすごくいいと思います。何かを生み出すっていうと難しいんですけど、引き算をしていくっていう考えだとコラボが生まれやすいのかと思います。連携するだけだとプラスですけど、分業するってなると引き算ができますから。

河合 これはこっちでやるから、それはそっちでって。ちょっと話ができればそれはできますよね。

投資について

仲田 今話題の投資についてはどうですか。

 投資の話をするとちょっと長くなっちゃうんですけど、私は投資をして欲しいっていうよりも、自らの在り方生き方を考えてほしいから金融経済教育やってるんです。なので金融経済イコール投資につなげるんじゃなくて、生徒たちにはお金とうまく付き合ってほしいと思っています。

仲田 今まで学校では、あまりにもこつこつ貯めるのが一番、としか言っていなかったから。それだけじゃないんだよって、私も言っていますが、学生に聞くとやってみたいとか言いますよ。

 そうですよね。

仲田 先生、やるの?とか、聞かれるけど、私は残された時間を考えるとねって(笑)。


カリマネ

仲田 そろそろまとめなのですが、カリキュラム・マネジメントについて。塙先生はいろいろ考えておられると思うのですが、カリマネの視点から、何かコメントをお願いします。

 いや、これ難しい話ですよね。学習指導要領において、「各学校においては、校長の方針の下に、校務分掌に基づき教職員が適切に役割を分担しつつ、相互に連携しながら、各学校の特色を生かしたカリキュラム・マネジメントを行うように努めるものとする」と書かれていると思うのですが、実際に高等学校でやろうと思ったら、重点的目標を定め、各教科の何年生で何を教えて学校で育成すべき資質・能力を育んでいくのかを検討することになり、パズルのような仕事が発生します。全国では様々な実践例がありますが、公立学校で異動等もある中で、具現化するのはとても難しいことなんですね。最終的にはそこに行き着くべきなんですが、まずは自分のできる範囲でやるとなったら、できることを一つひとつやるしかないと思っています。そのできることっていうのが、コラボ授業やいろいろな教科間連携なんじゃないでしょうか。小さな成功体験みたいなものを積み重ねていけば、最終的には逆転の発想でカリマネにつながっていくんじゃないかなと思ってます。

仲田 逆転の発想ですか。

河合 1つ1つの事例が組み合わさって、それが結果的にカリマネになってるってなるといいのかな。

  一教員としてみんなが出来る事って、それだと思います。 2 年間の取り組み(特別指定校研究)が終わった後も、活動を継続されている先生もいるので、本校の伝統になっていくのが理想です。

河合 5科あるから余計分断してたよね。お互いが何やってるかわからない。学年団って言っても、科の結びつきのほうが強くて、同じ学年でもほかの科の動きが見えてこない。でも、さあ何か一緒にやるよってなって、あ、こんなことしてたんだって見えてくることがありました。

仲田 そのあたりは、普通科で進学進学!って言っている学校とはまた全然違うでしょうね。

 普通科だったら分業の方が大事になってくると思います。それぞれの内容をすみ分ける。効率的にどう教えていくかを考えて。

仲田 何の授業でもやってみたいなということを話し合える状況があれば、何でもできる。それが教科連携の方向性でしょうか。

 あと、楽しいよ!!ですかね(笑)。

仲田 やっぱり生徒が面白そうにしてくれたら、多少大変でもひと仕事増えても、頑張れちゃうところってないですかね。教員してると。

 そうなんですよね。あとやっぱり金融経済関連は今、生徒たちもすごい興味関心が高まってるので。

河合 それも後押ししてる。

 河合先生が、「さあお金の話をするぞ」とテンション高めでやってらっしゃるんですよ。だから、お金と言えば河合先生!みたいに 1 年生の時に学習している生徒たちが、2年生になるので、その意味ではつなげやすいです。

仲田 生徒が楽しんで、生き生きとこちらを見てくれるような、そういう授業につなげていくためにいろんなことをやって行きたい。そう思うとやっぱり教科連携なんですね。しかも足し算だけじゃなくて、(引き算で)分担することも考える。分業をしましょうっていうのも、今日はお聞きできてよかったです。有意義なお話をありがとうございました!

塙・河合 今日は遠いところまで、ありがとうございました。



塙先生、河合先生、仲田先生ありがとうございました!


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