具体と抽象の往復で学ぶ「政治・経済」

教育図書では、「公共」に引き続き、令和8年「政治・経済」の教科書を発行します。監修は東京大学の鈴木寛氏ほか11名。高等学校の現場教員の割合も増やし、より実践的で授業がイメージしやすい教科書となりました。今回は、新規参入となる「政治・経済」の教科書のご紹介です。

令和8年度教科書「政経006-091」

教科書の特徴

高校3年生で履修することの多い「政治・経済」は、社会に出る直前の学びの集大成です。「政治・経済」では、「公共」で身につけた対話的相互的な学びを応用し、課題をさらに鋭く掘り下げます。政治・経済の知識習得とともに、多様な意見や背景をもとに問題を分析し、自らの手で解決に向けて行動できる力を養うことに重点を置いています。

鈴木寛氏による「まえがき」より抜粋します。

具体と抽象の往復

本教科書では、無機質な制度学習に陥りがちな政治・経済という科目において、当事者意識をもって課題を捉えられるよう工夫を施しました。

各節は、生活の身近な問題や今話題のニュースを扱う「Prologue(プロローグ)」から始まります。まずは半径数メートルの具体的な課題を考察し、一歩ずつ抽象度を上げながら実社会の複雑な課題に立ち向かうためのクリティカルシンキングを育みます。

たとえば、第1章は「地方自治」が出発点です。
ここでは、国政や民主主義制度を学ぶ前の導入として、高校生の日常と政治のつながりが感じられるように「部活動の地域移行」を例に挙げています。部活動の地域移行について生徒・保護者・教員それぞれのメリットとデメリットを整理しながら、利害が対立する政策の意思決定は、どのように進められるべきかを考えます。
プロローグを通じて、高校生も市民の一員として国の重要な意思決定に関わることができると実感できるはずです。

▲p.012〜「地方自治と国政」prologue  ※画像クリックで拡大

このように、入口で解像度を上げておくことで後に続く仕組み学習の理解が進み、具体と抽象の往復によって社会構造を多面的に捉えやすくなります。

プロローグでは、課題に対して自分の意見をもち、表現するところまでを目指します。
末尾の「OPINION」に記載されている二次元コードをスキャンすると、Webページから自分の意見を書き込み、PDF ファイルにすることができます。

保存したPDFは、Google classroom、Microsoft teams、ロイロノート・スクールなどの学習⽀援ツールから、課題として提出できます。提出された意見を生徒同士や先生が共有することで、また新たな考えが生まれることを期待しています。

●プロローグ一覧   
学校から地域へ、部活動の未来を考える/ブラック校則は人権侵害か?/大谷翔平の年俸100 億円は高すぎる?/選挙は人気投票なのか?/くじ引き民主主義の可能性を考える/奨学金の金利はどう決めるべきか?/女性の賃金はなぜ低いのか?/日本の経済成長を考え /「親ガチャ」問題をどう解決するか?/国際社会の犯罪者を裁くのはだれか?/ 慢性デフレとアベノミクス/経済成長とウェルビーイング/日本は世界の核軍縮をどう進めていくべきか?/気候変動問題のジレンマをどう解決するか?

学習のねらいを軸に知識を積み上げる

知識のページは、学習分野を見開き2ページごとに区切って学びます。
左ページの冒頭には、「POINT」として学習の方向性を明確に提示しました。これにより、「今、何を学んでいるのか」「どのような知識を身につけるための学習なのか」が常に目に入ります。

▲p.110〜111「日銀と金融政策」  ※画像クリックで拡大

まずはこの授業で達成すべき知識のラインを示し、それを軸に概念を整理していきます。随所で目的を振り返る機会となり、学習の終わりに再確認することで、得た知識をもう一度整理し、理解度を確認することができます。
このように、学習のねらいを明確にしながら進めることで、学習者が途中で目的を見失うのを防ぎます。

全体像のビジュアル把握、思考を深めるコラム

VISUAL IMAGE
教科書ではイラストや資料を活用し、知識を直感で理解しやすくなるよう工夫しています。
単元の冒頭では「ビジュアルでつかむ政治(経済)のしくみ、基本のき」として、見開きイラストのページが現れます。ここで「公共」で学んだ内容を振り返り、全体像を掴みながら政治・経済の学びに入ります。また、複雑な仕組みや制度の学習では、時系列や影響関係を整理できるよう適切に図を配置しています。

▲「経済のしくみ、基本のき」。公共で学習した市場経済の内容を振り返ります。※画像クリックで拡大

COLUMN
本文の補足として、興味をかきたてるコラムを多数掲載しています。たとえば、「保守とリベラル」「古代アテネのくじ引き民主制」「形式的平等と実質的平等」「労働組合の今」「サンデルの能力主義批判」など、近年話題になっている事象から生徒にとってリアルな問題まで、22本コラムで生徒の知的好奇心に応えます。

官民学の垣根を超えた制作陣

社会や大学とのつながりを意識し、執筆には大学の研究者、現場を知る現役教員、地方公共団体、民間企業などから多彩な人材を集めました。全体イラストは「公共」に引き続き、『哲学用語辞典』でもおなじみの田中正人氏、漫画は若者に人気の漫画家・田中光氏にお願いしています。


気になる令和8年度教科書「政治・経済」(政経006-901)の中身は、引き続き教育図書ニュースでご紹介していきます。どうぞお楽しみに!