指導と評価の一体化のQ&A
皆さん、指導と評価の一体化は大切と感じながらも結果としての学習評価になっていないでしょうか? 結果としての学習評価でない意識で、指導と評価の一体化に努めると、生徒は生き生きと授業に取り組むようになります。この「Web版 指導と評価の一体化のQ&A」を参考にして、生徒が真の技術好きになる授業づくりにチャレンジしてはいかがでしょうか?
中村祐治
元横浜国立大学教授。公立中学校4校で技術分野の教鞭を執る。その後、東京都の教育委員会や教育研究所及び区や市の指導主事、公立中学校2校と横浜国立大学附属中学校の校長を歴任。授業の直接的な指導の場を離れた現在も、授業目線・生徒目線の現場主義を大切にし、現場主義に役立つ問題解決型の授業づくりや学習評価などの研究課題に取り組んでいる。
1 指導と評価の一体化のイ・ロ・ハ
指導と評価の一体化を図るための基本のイ・ロ・ハを示していきます。ここでの「指導と評価」を、教師の立場からの指導や評価と生徒の立場の学習指導と学習評価とで扱っていきます。
イ:指導後に学習評価する流れを変え一体化
指導と評価の一体化の「イ」は、図に示すように、教師側と生徒側の2つあります。生徒側は、「学力の3要素」の能力・資質を発揮する学習指導し、その成果を「評価の3観点」で学習評価する「一体化」になります。教師側は、学習指導と学習評価するために必要な教材研究や準備する「一体化」になります。
ロ:指導と評価を改善する流れを双方向にして一体化
指導と評価の一体化の「ロ」は、学習指導後に学習評価をする一方通行の流れを、図に示すように、双方向の流れにすることです。
双方向を意識した指導と評価の改善は、忙しくて時間がないと感じられるでしょうが、少しだけ双方向を意識すればよいのです。慣れると、負担を感じなくなってきますし、学習活動の状況を把握するセンサーの感度が良くなり、より客観的に学習指導と学習評価ができるようになります。また、全体の流れがループするようになれば最高です。
ハ:「上」「横」「下」三方向からメリハリある指導と評価で一体化
指導と評価の一体化の「ハ」は、「学力の3要素や評価の3観点」がもつ特質を意識して、「上」「横」「下」の三方向からメリハリある学習指導・学習評価と、それに応じた教材研究や準備をしていくことです。従来の一方向でなく、「上」「横」「下」の三方向を意識して、次の図に示すように、指導と評価の3つの「一体化」を図るようにしていければ最高です。
2 必読! 「学力の3要素」を意識した指導と評価が一体化のカナメ
指導と評価の一体化のカナメは、指導内容の教材研究だけでなく、「学力の3要素」や「評価の3観点」を意識して、学習する内容の学力要素(観点)を考えて、教材研究や教材準備をしていくことです。以下に「学力の3要素」と「評価の3観点」ごとに指導と評価の一体化のカナメとなる基盤を示していきます。
☆「知識及び技能」の「概念化」の過程を知るのが「一体化」のカナメ
第1章や2章の学習活動で習得した「知識及び技能」の内容は、「思考力・判断力・表現力等」及び「主体的に学習に取り組む態度(「工夫し創造する実践的な態度」)」の学習活動で活用して、次の図に示すように、「習得」から「理解」につながりながら「概念化」していきます。
「知識及び技能」は、「思考力・判断力・表現力等」や「主体的に学習に取り組む態度」で理解し概念化していくことを承知しておくことが指導と評価の一体化のカナメの基盤になります。観点「知識・技能」の学習評価は、習得の段階でしたほうが、生徒にとってわかりやすいと思います。
☆「思考力・判断力・表現力等」の意思決定する「力」を決めるのがカナメ
「思考力・判断力・表現力等」を一体化するには、下に示す「思考力・判断力・表現力等」の内容を明確にするのがカナメになります。
*それぞれの詳しい「内容」は、深掘(フカボリ)!<「思考力・判断力・表現力等」の「力」の内容>を参照して下さい。
生徒自身が意思決定して身につける「思考力・判断力・表現力等」の「内容」は、授業時数の制約を考慮して、学年進行にそって自由度を増やすなどしていきます。学年進行で自由度を増やしていく例は、下の表に示してあります。
学年進行で問題を発見する「力」の自由度を増す例
学年進行で問題を捉える範囲を広くしていく例
学年進行で選択できる「力」の自由度を増す例
従って、「思考力・判断力・表現力等」は、具体的な上に示した「内容」で観点「思考・判断・表現」で評価していきます。
<「思考力・判断力・表現力等」の「力」の内容>

☆「主体的に学習に取り組む態度」の育ち方を知るのが一体化のカナメ
「主体的に学習に取り組む態度」は、直接的な指導で育つのでなく、次の図の破線で示すように「知識及び技能」や「思考力・判断力・表現力等」の学習活動の「裏」からの間接的な影響を受け、徐々に育っていくことを知るのがカナメになります。従って、他の2観点とは異なる「指導と評価の一体化が必要になってきます。
一体化に必要な指導場面では、返答を求める「?」でなく、返答を求めない「!」の教師の独り言的な投げかけでよいのです。「知識及び技能」や「思考力・判断力・表現力等」の学習活動の裏でする指導の例1と例2を示してみます。
例1:「知識及び技能」の学習活動の裏での指導の例
「〇〇の技術ってどこで、使われているかな!」「〇〇の技術、身近な生活で見たことある!」「〇〇の技術の便利さは!」「〇〇の技術でつくられた製品は見たことあるかな!」など
例2:「思考力・判断力・表現力等」の学習活動の裏での指導の例
「この技術で開発するのは、難しいだろうな!」「設計するとき、どんなことを考えたかな!」「この製品、設計するとき大変だったろうな!」
評価は、「知識及び技能」及び「思考力・判断力・表現力等」の指導後に行います。観点「知識・技能」及び「思考・判断・表現」(教科書では1章や2章)で学習したことを思い出し、上の図で示した破線で囲んだ内容を学ばすようにします。
「主体的に学習に取り組む態度」については、「学習情報の伝え方Q&A」の「4 これでスッキリ! 学習情報の「核」を押さえるのがポイント」の「主体的に学習に取り組む態度の核」』でも示してあります。「主体的に学習に取り組む態度」は、学習指導要領の技術分野の目標には示してありますが、内容には示されていません。
3 押さえよう! 指導と評価の一体化の3つのポイント
指導と評価の一体化に必要なポイントを「学力の3要素」が、①習得・形成するスパン、②画一的か個性的か、③指導後に育った学力が見えるか・見えないかで示していきます。
ポイント1:指導と評価する「スパン」を意識するのがポイント
習得・形成されていく「スパン」を意識して指導し、スパン内で習得・形成された学力をスパン単位で形成的評価し、学期末にまとめて総括的評価していくことが、指導と評価の一体化につながります。
*本来は、技術分野の目標(3)の「よりよい生活の実現や持続可能な社会の構築に向けて,適切かつ誠実に技術を工夫し創造しようとする実践的な態度を養う。」ですが、ここでは、「評価の3観点」である「主体的に学習に取り組む態度」で示してあります。ポイント2と3でも同様です。
ポイント2:指導と評価する「個性」を意識するのがポイント
「個性的」な観点は、個性的な学力を客観性に担保することが、指導と評価を一体化のポイントになります。
「知識及び技能」は、『2 必読!「学力の3要素」を意識した指導と評価が一体化のカナメ』で示したように、理解し概念化していく段階では、「個性化」していきます。
ポイント3:指導と評価する「見える化」を意識するのがポイント
学習活動の時点では育った学力が見えない観点「思考・判断・表現」や「主体的に学習に取り組む態度」は、指導で身についた学力を様々な方法で「見える化」して評価して一体化していくポイントになります。
観点「思考・判断・表現」や「主体的に学習に取り組む態度」の「見える化」については、「Web版Q&Aシリーズ」の「学習評価のQ&A」を参照して下さい。
*「見える化」とは、学習活動の段階では、身についた学力が「見えない」ことを指します。詳しくは、「学習評価のQ&A」の「3 おさえよう! 「観点別評価」の3つのポイント」を参考にして下さい。
4 これでスッキリ! 指導と評価の一体化の働きかけを意識する秘訣
「学力の3要素」を意識して教材の準備をすると、指導と評価の一体化がたやすく図られるようになります。教材の準備に必要な「言葉がけ」や「働きかけ」する秘訣のいくつかを示してみます。
☆一体化に向け「言葉がけ」による働きかけを意識しスッキリ
様々な面での「言葉がけ」は、次の表を参考にして、「学力の3要素(評価の3観点)」に応じて意識して指導と評価の一体化をスッキリさせます。
□「知識及び技能」
学習指導の言葉がけ
・「覚えなさい」、「整理しなさい」、「図を見て名称を答えなさい」
・「教科書の〇頁を見て、大事な箇所にマーカーで印をつけておこう」
・「問題解決に使う知識だから、ワークシートに整理しておこう」
などの強い感じ命令口調の語尾
学習評価の言葉がけ
「覚えたことを書きなさい」、「( )に用語を書きなさい」などの誰もが必要な同一の内容
□「思考力・判断力・表現力等」
学習指導の言葉がけ
・「考えたこと・選んだ理由をワークシートにかいてみよう」
・「△の〇を参考にしてご覧」などの思考促す口調。
・「そうか、それだったら〇〇を見ると、疑問が解決すると思うよ!」
・「そこは〇さんに相談するといいよ!」
などの思考などを促し背中を押すような語尾
学習評価の言葉がけ
・「よく出来ているけど、ここをもう少し考えると上手くいくよ!」
・「あなたが…について考えたことを書き選びなさい」
・「……をまとめよう」
「あなたの考え」がポイント
□「主体的に学習に取り組む態度」
学習指導の言葉がけ
導入:教科書の「見つける」を活用し、視覚的に問題解決の主体的な学習を短い時間で喚起する。
・「感じたこと・そう思ったこと・気付いたことを自由にかいてみよう」
・「口絵から探してみよう」「学習成果を活かす方法を書いてみよう」
まとめ:学習成果を代表生徒に発表させ、「よく頑張ったね! その成果を家でどう使う?」「今の〇さんが発表したこと、皆はどう思う?」「学んだ内容を社会に広げるには、どうしたらいいかな!」などの強い感じ命令口調の語尾
学習評価の言葉がけ
「あなたが(個人が)思った・感じた・気づいた・学習成果を活かしたいかなどの態度(行動表明)を自由に書きましょう。」ただし、実践場面や方法を設定した選択肢法で工夫しても可。
「あなたが」ポイント
☆一体化に向け「資料」による働きかけを意識してスッキリ
様々な面で活用する「資料」は、題材学習の指導と評価の流れとの関連を明確にして、次の表の例で示すように指導と評価の一体化を図ります。
*ここでのワークシートとは、学習内容や学習成果を記録・まとめるなどを生徒が記録・確認・まとめなどの学習機能を有するものを指します。
☆一体化に向け「視覚的情報」による働きかけを意識してスッキリ
板書及びワークシートやペーパーテストなどの視覚的情報は、「学力の3要素」の学習機能が発揮できるように、「視覚的情報」を工夫して見せ方をスッキリさせて働きかけする必要があります。特に、「思考・判断・表現」と「主体的に学習に取り組む態度」は、学習活動時点では、見えない学力であるので学習成果が「見える化」ができるような見せ方による働きかけを工夫する必要があります。
□「知識及び技能」の視覚的情報の見せ方
箇条書き、括弧書き、表などで、大切なキーワードがスッキリ浮き出る見せ方
□「思考力・判断力・表現力等」の視覚的情報の見せ方
設計・計画と完成作品の差異などで身についた学力が「見える化」する見せ方
□「主体的に学習に取り組む態度」の視覚的情報の見せ方
題材学習を通した学習活動をふり返り、身についた学びを、生活でどう工夫し創造して活用していくかの実践的な態度をふり返りなどで「見える化」する見せ方
5 どうしたらよい? 「学習のしぐさ」で指導と評価の一体化を図る
生徒が授業で見せる学習活動の姿である「学習のしぐさ」を切り口にして、指導と評価の一体化をどうしたらよいかを示してみます。
☆「学習のしぐさ」とは?
指導した結果を受け、生徒が見せる表情・手の動き・姿勢などの学習活動の姿を「学習のしぐさ」といいます。生徒が示す「学習のしぐさ」を指導面で評価して、授業改善し、指導と評価の一体化を図ろうとするものです。
☆「学習のしぐさ」で指導と評価を一体化した改善例は
「学力の3要素」で見せる生徒の「学習のしぐさ」で指導を評価して、評価結果により指導や支援していく、いくつかの例を示してみます。
☆「学習のしぐさ」で指導と評価の一体化を図るには?
同じ「学習のしぐさ」でも、「知識及び技能」と「思考力・判断力・表現」では、下の例で示すように、指導方法の評価の仕方が異なってきます。
深掘(フカボリ)!
<「学力の3要素」の「学習のしぐさ」の内容>
「学力の3要素」の違いにより生徒が授業で見せる、学習活動の姿である「学習のしぐさ」を紹介してみます。特に、「思考力・判断力・表現力等」は、通常、浅い思考 → 一次思考停止 → 深い思考 の3段階を踏んでいきます。次の表を参照して下さい。
表「学力の3要素」と「学習のしぐさ」