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中学校 技術・家庭科 NEWS

中学校技術・家庭 技術分野「情報の技術」のQ&A
~情報教育の「不易」と「流行」

皆さん、「D 情報の技術」は、情報技術の進展に伴い、その内容が改訂のたびに変遷するため「A~Cの技術」と違った感覚が必要で、学習指導や学習評価に迷われる方が多いのではないでしょうか。この記事は、情報技術の流行の根底にある学習指導や学習評価で、大切にしていきたいものを追ったつもりです。この記事を参考にして、「D 情報の技術」で、自分なりにどんな学習指導や学習評価を模索したらよいかの指針を得て頂ければうれしいです。


中村祐治
元横浜国立大学教授。公立中学校4校で技術分野の教鞭を執る。その後、東京都の教育委員会や教育研究所及び区や市の指導主事、公立中学校2校と横浜国立大学附属中学校の校長を歴任。授業の直接的な指導の場を離れた現在も、授業目線・生徒目線の現場主義を大切にし、現場主義に役立つ問題解決型の授業づくりや学習評価などの研究課題に取り組んでいる。


技術702・703技術分野教科書


「D 情報の技術」のイ・ロ・ハ

「D 情報の技術」は、「A~Cの技術」とは違う学習指導や学習評価の感覚が必要です。また、「A~Cの技術」及び他教科との連携にも配慮する必要があります。

:情報の不易と流行を見極める

「D 情報の技術」は、社会の情報技術の急速な進展や普及に対応し、次の表に示すように、学習指導要領に示されている性格や内容が大きく変遷しています。

学習指導や学習評価は、上に示した「D 情報の技術」の性格や内容の変遷、あるいは、社会の情報技術の進展や普及に伴う流行に左右されず、次のポイントに示す不易なものを押さえていきたいものです。

ポイント①:文字・静止画・音声・動画などの情報は、デジタル化することで、コンピュータを使い同時に素早く処理できることを押さえる。

ポイント②:情報通信ネットワーク(インターネット)技術を使うことで、誰とでも・いつでも・どこでも・様々な情報を送受信できる双方向性の技術的な仕組みを押さえる。

ポイント③:デジタル技術や情報通信ネットワーク技術の仕組みの技術の面から、情報セキュリティと情報モラル(特別な教科「道徳」と差別化した)の必要性を押さえる。

ポイント④:コンピュータを使ったデジタルの処理については、全てプログラムの手順は「順次・分岐・反復」が基本であることを押さえる。

:技術分野「A~Cの技術」や他教科との連携を意識する

学習指導要領の総則「第2 教育課程の編成」の2の(1)には、情報活用能力(情報モラルを含む。)などの学習の基盤となる資質・能力を育成するため、教科横断的な視点から教育課程を編成することが示されている。「情報活用能力(参考資料1を参照)」は、他教科や技術分野で、次のような例の教科横断的な連携が考えられる。

「情報活用能力」は、「D 情報の技術」では、示された内容を学習内容として扱うが、他教科や「A~Cの技術」では、「Dの情報の技術」での学習成果を学習方法として活用したり、学習する内容の根拠として生かしたりすることに違いがある。

参考資料1

:小学校や高等学校との接続を意識する

小学校では、学習指導要領に例示されている、算数の正多角形をプログラムで描く、及び、理科のセンサを用いて電気の通電を自動的に制御する単元等で、プログラミングの体験を通して、プログラム的思考(参考資料2)を養う「情報の科学的な理解」の学習をしています。

また、国語、社会、音楽、図画工作、家庭及び総合的な学習の時間などで、学習手段として情報機器を使う経験を通して、「情報活用の実践力」や「情報社会に参画する態度」の学習活動を体験しています。

「Dの技術」を学習する足並みを揃えるため、どんな学習を経験してきたかを参考資料3の例にあるようなアンケートなどで調査するとよいでしょう。アンケート結果を生かして、学習内容に軽重を付けるとよいでしょう。

また、高等学校との接続は、各学科に共通及び専門学科の「情報」など学習内容が多岐になるため、どのような進路を選択しても、通用する、学習指導要領「D 情報の技術」に示されたプログラムを作成する手順やプログラム言語に共通する手順などの基礎・基本を確実に身につけさせておきたいです。

誕生した時から携帯電話やインターネットなどの情報環境に囲まれ育った中学生に、「情報の技術」を実践的・体験的に学習指導するには、苦労が多いと思います。是非とも、今の中学生が「情報の技術」で学んだ内容が社会に出たときに活用できるように、不易で普遍的な学習指導をいろいろと工夫を試みてはいかがでしょうか?

参考資料2

参考資料3
小学校での情報経験のアンケート例①
小学校での情報経験のアンケート例②

必読! 双方向性の学習指導 三つのポイント

双方向性という用語は、一方向性と対比して、一般的に使われています。技術分野での双方向性は、情報の科学的な理解を前提として、技術的な仕組みとして押さえていきます。

①様々なメディアを同時に処理することを押さえるのがポイント

アナログでの処理は、文字や静止画の写真は紙媒体、音声や動画はCD やDVT媒体など情報の種類ごとに異なる伝達手段が必要であるに対して、デジタルでの処理は、文字・音声・静止画・動画など全てのメディアの情報を0と1のようにデジタルで処理することで、全て一元化して同時に双方向で処理できることを、具体例を示しながら押さえるようにします。

②単一方向性に対して双方向性を押さえるのがポイント

単一方向性には、ラジオやテレビ放送、公共行政機関の防災行政無線及び学校の校内放送などの例をあげるとよいでしょう。それに対して、双方向性には、電話やインターネットなどがあります。インターネットは、文字・静止画・音声・動画などの情報が、ほぼ同時に、双方向で応答できる機能があります。テレビ放送も、デジタルになり、一部双方向性の機能が付け加わったことに触れても良いと思います。


双方向性は、原理的には2つの方向ですが、インターネットの通信手段としては、有線や無線ともに、デジタルで処理した一つの回線であることに触れても良いと思います。

③オープンで透明性あるシステムであることを押さえるのがポイント

双方向性の機能をもつインターネットは、中央集権的なシステムでなく、互いに独立した自律分散型のオープンで透明性あるシステムで設計されています。誰もが、いつでも、どこにいても、自由に活用できるシステムであるというプラス面が、炎上や拡散などのマイナス面ともなりうることを押さえるようにします。技術分野での情報モラルは、道徳の時間とは異なり、技術的な仕組みの理解のプラス面とマイナス面を踏まえて、どう実践的な態度を取るかを描かせることがポイントです。

おさえよう! 計測・制御の学習指導 4つのポイント

計測・制御の技術をどう学習指導したら生徒にフィットするかを4つのポイントで示していきます。

「計測・制御」の概念を具体例で押さえるのがポイント

「計測・制御」には、「センサ」「コンピュータ」及び「アクチュエータ」の3つが必要なことを、身近な事例で生徒が調べて学習指導するのがポイントです。身近な事例は、教科書にある全自動洗濯機や電気冷蔵庫、あるいは信号機や自動ドアなど、生徒が身近に体験や見聞きする例で3つの技術の工夫例を調べると、学習活動がリアルになってきます。

「センサ」、「コンピュータ」及び「アクチュエータ」の概念を押さえないで、いきなりプログラムで問題解決するには、無理があります。

教育図書の教科書では、「センサ」「コンピュータ」及び「アクチュエータ」の3つの内容の概念を押さえるように編集してあります。

「C エネルギー変換の技術」との連携がポイント

「計測・制御」の概念は、「D 情報の技術」で学習指導するのが原則です。その前提として、「C エネルギー変換の技術」で、「アクチュエータ」にあたる機械の仕組みの知識を押さえるのが理想的です。

しかし、限られた授業時間でフィットさせるには、「D 情報の技術」の学習指導で、「アクチュエータ」にあたる機械の仕組みの理解を押さえるようにするとよいでしょう。

③「計測・制御」のプログラムの必要性を押さえるのがポイント

なぜ、プログラムを使うコンピュータで「計測・制御」するかを、街灯のCDS光センサを使った自動点滅器や機械式のタイマーなどONとOFFの単純な出力判断と比較し、触れるとフィットした学習指導になります。そうすることで、「しきい値」を定めて入力信号からの微妙な判断の境目をプログラムで条件判断することを押さえ易くなります。あるいは、出力する命令が2つ以上であれば、プログラムを使うコンピュータが必要になる例でも良いと思います。

IT技術の進展に耐えうる学力を学ばせるのがポイント 

IT技術の進展が著しい「D 情報の技術」の問題解決の学習のポイントは、「なぜ? もっと便利にするには?」など問題の発見とプログラムによる「計測・制御」でどう解決するかの課題を設定するとフィットする学習指導になります。そうした糸口を日常生活から見つけ、プログラムによる計測・制御で解決する課題の設定していくことを大切にすることで、将来IT技術社会で生き抜くために必要になった時にIT技術を学ぶ思考回路の枠組みを学ばせることを大切にしていきたいです。

これですっきり! プログラムの学習指導のポイント

「D 情報の技術」のプログラムの学習指導は、「A~Cの技術」と違う学習指導の感覚が必要です。その学習指導のポイントを示していきます。

プログラム言語の扱い方の工夫がポイント

プログラム言語は、「A 材料と加工の技術」で例えると、加工する工具や道具に相当します。道具となるプログラム言語は、平成元年告示に基づき編集された教科書では、プログラム言語BASICが主流でした。平成29年告示に基づき編集された教科書は、Scratchや日本語プログラム「なでしこ」など多岐にわたっています。技術の進展に伴い道具となるプログラム言語が変わっても、順次・分岐・反復などアルゴリズムのプログラム作成の手順や構造の基本を押さえることがポイントになります。

双方向性と計測・制御のプログラムの系統化がポイント

本来は、処理する対象の目的や条件によって、最適なプログラム言語を選ぶべきでしょう。しかし、限られた授業時数で効果的に「D 情報の技術」の学習指導をするには、双方向性と計測・制御で使うものにプログラム言語を統一していくのが、ポイントになります。

また、双方向性と計測・制御の指導計画を下の例のように工夫する方法もあります。

「デバッグ」で完成度を高めるのがポイント

「A~Cの技術」は、製作などで大きな失敗をしたら、限られた授業時数では、やり直しはほぼ無理でしょう。しかし、「D 情報の技術」では、手軽に手直しできる「デバッグ」で完成度を高めることがポイントになります。

また、「A~Cの技術」の設計・計画に相当する手順や構造を示したアクティビティ図で、「A~Cの技術」の「製作・育成」に相当するのが、プログラムの「制作」になることを示すようにします。

「A~Cの技術」とは違う感覚の学習指導をプログラムの学習指導では身につけるようにしてみましょう。

どうしたらいい? 「D 情報の技術」の学習評価

次のポイントで示すように、「D 情報の技術」の学習評価は、観点「思考・判断・表現」と「主体的に学習に取り組む態度」が、「A~Cの技術」とは少し違った感覚でする必要があります。

「思考・判断・表現」の学習評価

ワークシートの記載内容からの学習評価は、方法1:「設計・計画」と「完成作品や収穫作物」、方法2:「完成作品の活用状況」と「課題の設定(問題の発見)」の2つを比較して、見える化(「学習評価のQ&A」参照)する必要があります。特に、方法1は、「デバッグ」を繰り返すことにより、設計した通りに近い作品が完成出来ますから、次に示すように「A~Cの技術」とは違うやり方が必要になります。

方法1のワークシート例は、「学習評価のQ&A」Part1の『必読!「作品」は、いつ学習評価するか?』の参考資料1を参照して下さい。

「主体的に学習に取り組む態度」の学習評価

スマートフォンなどを家庭で活用している操作の意味の理論的な根拠を押さえるのが学習評価のポイントです。生活で実践的な態度が、情報セキュリティや情報モラルの技術的な仕組みである原理・原則を踏まえて、取られているか実践を踏まえることで、生徒の生活実態に近づいていきます。例えば、何気なく使っている、文字・音声・静止画・動画による入力や出力の理論的な背景を処理方法の違いを認識させ、どう実践していくかの態度を学習評価します。

参考資料4に示す学習評価する際の読み取り項目の基準例を参考にして、あなたの授業でのワークシートの記載内容からの読み取り項目や基準をつくってみてはいかがでしょうか。

学習指導した実態に即して、次の表の「読み取り項目」のA・B・Cの判定例を参考にして、自校の読み取り基準を作成してみて下さい。
参考資料4 ワークシートの記載内容の読み取り判定の例

【用語解説】

○アクティビティ図とフローチャート
平成28年告示の学習指導要領から新たに示された統一モデリング言語の一つ。フローチャートが一つの情報処理の流れを示すのに対して、アクティビティ図は、複数の情報処理の流れを統合することで、プログラム全体の流れが示すことが出来る。平成元年告示の学習指導要領から新設された情報の学習内容が、ハードウェア→ソフトウェア→プログラム→プログラミン的思考と内容重視の方向が変わるにつれ、プログラムの学習内容も変化し、アクティビティ図が用いられるようになった。

○デバッグ
平成29年告示の学習指導要領から問題解決的な学習が重視され、示された用語。設定した課題に近づけるため、プログラムが上手く動作しない虫(bug) である誤りを探し出し、プログラム上の虫である誤りを取り除き(de)、修正・改善を繰り返し、設定した課題通り解決結果にするため、デバッグ(debug)が重視された。

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