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皆さん、毎日の授業で学習評価をどうしようと感じながらも、学期末になって、あたふたと処理している方が、ほとんどではないでしょうか。この機会に、指導と評価の一体化が叫ばれている学習評価について、一から見直してはいかがでしょうか? この記事を参考にして、日頃から感じている学習評価への疑問などに正対し、生徒が技術好きになる学習評価を確立してはいかがでしょうか?
なお、ワークシートやペーパーテストの作成に当たっては、各研究会のメンバーの先生方から多くの資料提供を頂きました。この場をお借りして、ご協力に対してお礼を申し上げます。
中村祐治
元横浜国立大学教授。公立中学校4校で技術分野の教鞭を執る。その後、東京都の教育委員会や教育研究所及び区や市の指導主事、公立中学校2校と横浜国立大学附属中学校の校長を歴任。授業の直接的な指導の場を離れた現在も、授業目線・生徒目線の現場主義を大切にし、現場主義に役立つ問題解決型の授業づくりや学習評価などの研究課題に取り組んでいる。
目次
「観点別学習状況の評価」で学習評価(本稿では「評価の3観点」)する際のイ・ロ・ハを示していきます。
「評価の3観点」での学習評価は、学習指導で育てた「学力の3要素」と一体化を図るのがポイントです。そのために、次の表で示す「学力の3要素」毎の「評価の3観点」の特性を意識する必要があります。
*Web版Q&Aシリーズでの評価の観点「主体的に学習に取り組む態度」は、学習指導要領で育つ技術分野の目標(3)に示されている「よりよい生活の実現や持続可能な社会の構築に向けて、適切かつ誠実に技術を工夫し創造しようとする実践的な態度を養う。(本稿では「実践的な態度」と称する)」に相当させています。
学習評価する資料は、客観性を担保し信頼される学習評価にするため、「評価の3観点」別に少なくとも3つは用意したいです。用意したい資料を下の表に示します。3種類用意するのは大変でしょうが、慣れるとプロ教師としての高揚感を得られ、苦労が楽しみになってくるでしょう。
なお、学習評価する資料を扱う際のポイントを次の表にまとめてみました。
「評価の3観点」は、生徒により、作品の出来がよくて「技能」が「A」でも、「思考・判断・表現」が「B」、「主体的に学習に取り組む態度」が「C」となる場合があり得ます。この生徒は、つくる技能は得意だけれど、考える力はおおむね普通で、生活に生かす「実践的な態度」は不得意だと推定出来るのが特徴です。
「観点別評価」は、生徒一人ひとりが技術分野で示す個性の違いを大切にしながら、「評価の3観点」の特性に応じて、生徒一人ひとりの学習状況や身に付いた学力を見つめながら、個別支援することが大切です。
また、「評価の3観点」の特性を尊重しつつ、学期単位の区切りで学習評価する方法を、教科の課題として受け止めることも大切です。特に観点「主体的に学習に取り組む態度」は、本来題材の区切りで学習評価すべきですが、学期単位で「評価の3観点」とも学習評価せざるを得ないときは、『「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料-中学校 技術・家庭』(令和2年3月 文部科学省 国立教育政策研究所)を参考にして、学習指導要領の内容(1)、(2)、(3)毎の評価規準を定めておく必要があります。
「評価の3観点」毎の問いかけの語尾を無意識で決めていませんか? 問いかけの語尾は、評価の「評価の3観点」(「学力の3要素」)により、次の例のように明確にする必要があります。
☆「知識・技能」
・「知った」「分かった」「覚えた」「出来た」がキーワード
・ワークシート例:「(用語を)書こう」「出来たことを書こう」「(知識内容を)調べてみよう」「知識・技能の内容をまとめよう」「関係あるものを線で結ぼう」
・テスト例:上記語尾が「答えなさい」「結びなさい」「当てはまる用語を書きなさい」
☆「思考・判断・表現」
・「……を考えた」「(条件や状況に合う)……を選ぶ」「(自分で)決める」がキーワード
・ワークシート例:「条件にあうものを選ぼう」「寸法を決めよう」「あなたが工夫したことを書こう」「あなたの考えたことを書こう」
・テスト例:上記語尾が「(条件に合うものを)選びなさい」「目的に合う適切なものを書きなさい」「(条件に合うものは)いくつですか」
☆「主体的に学習に取り組む態度」(本稿では技術分野の目標(3)で示された「実践的な態度」で扱っています)
・「感じた」「思った」「どう生かしていきたいか」「どう実践していこうとするか」がキーワード
・ワークシート例:「あなたは生活でどう生かして(実践して)いくか」「学んだことを生活でどう生かしていくか」
・テスト例:「どのように、いかして、実践して、いきますか?」「簡単に説明しなさい」
作品が完成した時点での出来・不出来だけで学習評価していませんか? 生徒が苦労して完成した作品は、たとえ出来が悪くとも、学習過程で様々な学びの成果が隠されています。
完成時点だけでなく、様々な方法で学習評価
「作品」は、下図の問題解決の流れに沿い、様々な方法で学習評価するのが望ましいです。なぜなら、技術分野の「作品」づくりは、単なる作品づくりでなく、「設計・計画」が「課題の設定」を満たしているか、「設計・計画」に沿って「製作・育成・制作」した結果の作品であるか、「課題の設定」が満たされた「成果の評価」としての作品であるか、などが本来のねらいだからです。
下の図に、いくつかの学習評価する方法を示し、そのうちの方法1と2について詳しく述べていきます。
なお、「知識」については、同じくPart1の『観点別評価で学習評価するイ・ロ・ハ』を参考にして下さい。
方法1は、完成した作品を設計図や計画書と比較し、その記載内容を読み取り学習評価します。ワークシート例は参考資料1に示してありますので、参考にしてください。そうすることで、失敗や上手くいった原因が追求でき、その失敗を諦めたか、失敗の原因を追及し修正を試みたか、上手くいった原因の追求の記載内容などから観点「思考・判断・表現」が読み取れるようになります。
そのためには、毎時間の作業内容や感想などをふり返る参考資料2のようなワークシートが必要になります。作品完成時点で、毎時間の作業内容や感想などのふり返りを串刺しにすることで、毎時間の授業では気づかなかった、上手くいった、失敗の理由や失敗が起きた原因が分かる、諸条件の折り合いの付け方の大切さが分かる、及び「思考・判断・表現」には「知識・技能」が大切なことが分かるなど、大切で貴重な「思考力・判断力・表現力」が見えてくるようになります。(「技能」が「C」の場合でも、「思考・判断・表現」は「A」になる可能性があります。)
方法2は、完成作品を生活の場で使ってみて、「問題の発見」が技術の力で「課題の設定」が満足できたかの記載内容を読み取り、学習評価します。ワークシート例は、参考資料3に示してありますので、参考にして下さい。この結果から、生活に生かす学力である「実践的な態度」の学習活動の成果であるが、観点「主体的に学習に取り組む態度」が読み取れます。
なお、完成作品を家庭で活用した結果の資料が必要なため、学習評価の資料と学習評価の結果でタイムラグが生じますので、学習評価する時期は工夫する必要があります。現実的に、学校での学習評価する時期と、技術分野の指導計画の区切りが一致しないなどの諸事情から、理想的な方法で学習評価できない場合は、その評価の機能の趣旨を生かした方法を工夫して学習評価していきたいものです。
工作教室と違い、技術分野の題材作品は、完成作品の出来・不出来だけで学習評価する方法から抜けて、実習過程での様々な「学力の3要素」の学びをサポートするものでもあるのです。以上で示した方法を参考にして、完成作品だけでの学習評価から抜け出してしてみては、いかがでしょうか?
苦情の原因として考えられる、保護者が学習の成績の対して無理解、学習評価の仕方が主観的で客観的でない、保護者と教師との互いのすれ違いによる誤解、の対応法のポイントを述べていきます。
☆まず、情を受け止め、次に理で丁寧に
まず、苦情を真摯な態度で時間をかけ聞き取り、次に、丁寧に説明するのがポイントです。この順序が大切です。たとえ生徒の言い分だけを保護者が真に受け、相手に否があっても、まず聞くことは、相手を話し合いの土俵に乗せるためのポイントです。次に、客観的な資料を示しながら丁寧に説明するしかありません。また、場合により先輩に対応してもらうのも一つの方法です。それでも解決しない時や保護者の要求が過剰な場合は、組織的な対応が必要ですから、管理職にお願いします。
☆見えない学力の客観性を担保する
「問題解決」で育った主観的になりがちで見えない観点「思考・判断・表現」と「主体的に学習に取り組む態度」の学習評価する方法は、客観性の担保を工夫する必要があります。
特に、観点「主体的に学習に取り組む態度」は、技術のプラス面とマイナス面との折り合いを考え、観点「知識・技能」や「思考・判断・表現」で育った学力を活用して、技術を工夫し創造しながら誠実で上手に活用していく「実践的な態度」になります。いかに客観的に学習評価するかを、専門職として研究する必要があります。
☆広報活動を
普段から広報誌や学年・学級懇談会などの機会を捉えて、学習評価がもつねらいや方法などを、教師向けの表現でなく、保護者向けの表現で説明する必要があります。学校が公開しているWeb上の情報を見ると、教師向けの情報のまま保護者向けにしている例を見かけます。保護者向けには、「評価の3観点」別に、どのような評価資料で、いつの時点で、どのように学習評価するかを保護者が分かる表現にする必要があります。観点「主体的に学習に取り組む態度」は、「関心・意欲・態度」を、忘れ物・提出物の有無・授業態度などの間違った学習評価を経験した保護者には、私の子どもは「真面目で忘れ物をしないのになぜ評価がCか」という苦情が予測されます。
情報伝達は、伝える相手にわかりやすい表現方法に変えることが必須条件です。教育関係者向け、生徒向け、保護者向けに表現方法を変えることを考えていくのは、「情報の技術」に関した内容を学習指導する技術分野の教員に求められる必須条件だと思います。
<参考図書:授業づくりKARUわざP60-63>
Part2.はこちら
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