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公共 NEWS

「哲学対話」先生と生徒が共に考えるアクティブラーニングな授業

「主体的、対話的で深い学び」が文部科学省から新しい教育の指針として示され久しく、言葉としては定着してきた感があります。しかし現場ではその実践に四苦八苦されている先生も多いのではないでしょうか。本稿では「哲学対話」という手法を授業に取り入れ、アクティブラーニングを実践した公民科の先生のレポートをお届けします。


2022年度新科目「公共」教科書 教育図書より発刊


 

哲学対話と新しい学習指導要領

哲学対話という対話の手法をご存じでしょうか。

哲学対話とは対話の参加者が輪になって問いを出し合い、一緒に考えを深めていくという対話のあり方のことです。近年においては、日本でも哲学対話の実践が普及するようになりました。日本における実践は、アメリカで始まった「子どものための哲学」やフランス発の「哲学カフェ」などが原点とされています[注1]。「哲学カフェ」に参加した方もいらっしゃるのではないでしょうか。

哲学対話の良さは、一人ではなく他者と共に考える点にあります。一人で考えると行き詰まることがしばしばあり、そこで思考を放棄してしまうこともあります。けれども、他者と共に考え合うことは、思考を共有し、視野を広げ、意見を深める効果があります。そして、根本的には他者と共に考え合うことは楽しいものです。

新学習指導要領では「主体的・対話的で深い学び」が重視されています。当然新しく導入される新科目「公共」においても、随所に対話を重視する文言がちりばめられています。たとえば、内容A「公共の扉」では「対話を通して互いの様々な立場を理解し高め合うことのできる社会的な存在であること」「自らの価値観を形成するとともに他者の価値観を尊重することが出来るようになる存在であること」について「理解すること」が一つの目標とされています。

こうした点から、哲学対話は「公共」との親和性が非常に高いと感じています。

大学院では「熟議民主主義」について研究していました。どうすれば教室を熟議の空間に出来るか、現場での思案の中で哲学対話に出会い、その可能性を大いに感じています。

ここからは哲学対話の私の実践事例と実施する際の注意点、そして哲学対話の「公共」における可能性についての考えを紹介したいと思います。

[注1] 堀越耀介(2020)『哲学はこう使う 問題解決に効く哲学思考「超」入門』実業之日本社、P131

哲学対話の授業実践

私は現在、公民科教師として3年目を迎えました。現在の勤務校は2校目です。今回ご紹介する実践は、初任校での取り組みで、科目内ではなく、土曜日に定期的に開講される教養講座的な時間で実施したものです。時間は1コマ80分。参加者は10名程度でした。ちなみに哲学対話の適正な人数は10~15名程度、多くて20名と言われています。

さて、まずは授業冒頭で哲学対話の趣旨やルールを説明します。何のために行うのか、どのように行うのか、対話の目的とルールについての共通理解が対話を促進する土台になります。思考を深めるための知的な環境を整備する上でも、ここは念入りに説明しました。

図1 授業内で提示したスライド(対話のルール)

その後、参加者それぞれに問いを考えてもらい、多数決でその日の問いを決めます。哲学対話では、参加者が考えたい問いをそれぞれ出し合います。本気で考えたいからこそ、参加者が議論に集中するのです。

結果、「死ぬってどういうこと?」、「天然な人に罪はあるのか?」、「なぜ勉強するのか?」など個性あふれる問いが出てきました。ちなみに私の問いは「なぜ働くのか」。最終的に決まったテーマは「死ぬってどういうこと?」でした。

生徒との対話に考えを揺さぶられる

対話が始まります。

まず、私から問いを考えた生徒に「なぜその問いを考えたかったのか」を尋ねました。

曰く、夜寝る前とかに人類とか地球がいずれなくなってしまうのなら勉強する意味がないなと思ってしまって、死がとても怖いなって。保育園の頃からずっとこういうことを考えてしまいます」との回答が。

ここで対話がいったん止まります。間ができてしまいファシリテーターとしては焦りますが、ディベートやディスカッションと異なり、哲学対話においては沈黙が重視されます。それは対話の目的が共に考えることにあり、沈黙は参加者が考えていることを意味するからです。ですから、ファシリテーターは無理に話し合いを促すよりも参加者が考えやすい環境を整備することに注力します。でも経験も浅く中々慣れないものです。

そうこうするうちに参加者がぽつぽつと語り始めます。

「死は確かに怖いものだけど、怖がりすぎずに好きに生きていたい」

「明日死ぬとしたら何がしたい?」

「学校に来て授業を受けていたいかな。もしかしたら死なないかもっていう可能性にかけて、いつも通りの生活をしたいから。もし死ななかったり、地球がなくならなかったりしたら、その後が悲惨になるから」

「そもそも死は突然訪れるものだから準備なんか出来ない、だから悔いのないよう生きていきたい」

こんな風に生徒同士が聞きたいこと、話したいことを互いに語りあいます。哲学対話では、教師も生徒も参加者は対等です。白熱教室などは先生対生徒という構図ですが、哲学対話では参加者同士が自由に問い、語り合う点に特徴があります。

こうして対話が深まっていきましたが、ある生徒の次の問いで対話の空気が一変します。

「死に対して準備できないのはわかる。けど、余命宣告されたらどうかな?」

この問いに対して、私がまず答えたのは「余命宣告されたら死の恐怖が勝ってしまって何も手につかなくなる」というものでした。

けれども、ある生徒はこう答えました。

「余命宣告は残りの人生をどう生きるのか、残りの時間を教えてくれるものだからいいなあって思います」

この問いで私自身の考えが大きく揺さぶられました。

❝確かにその通りだ。でも、自分の命が燃え尽きるまで没頭できることって何があるんだろう。自分のやりたいことって何だろう。精一杯、後悔のないように生き抜くにはどんなことをしたらいいんだろうか❞

私の人生観が、対話によって大きく変わった瞬間でした。

また、この問いを受けて、ペットの死を思い出した生徒が、死ぬ時期がわかっていたらもっと一緒に過ごしたかったと、後悔の涙を流していました。生徒も、授業者である私自身も、授業で感情をここまで露わにすることはあまりないと思います。それほど対話に集中し、考えを深めることの出来る効果が哲学対話にはあると感じています。

こうして時間はあっという間に過ぎ去り、対話は終了しました。通常の授業ではまとめを提示することが一般的ですが、哲学対話では参加者の考えを深めることが目的なので、結論を出しません。最後に振り返りをして、授業は終了しました。

参加者の振り返りを一部引用します。ここから大いに学びがあったことが読み取れます。

図2 参加者の振り返り

この生徒は、哲学対話自体の意義をメタ的に認知しています。また、他者の意見を聞くうちに、自分自身の考えを相対化し、新たな自分を発見したと言っています。このように複数の意見を交換することで、視野を拡大し、自分が前提としてきた意見を変容させる効果が哲学対話にはあります。また、日頃あまり人前で話さないような生徒も、日頃から悩んでいることを考えるわけですから、かなり積極的に対話に参加します。こうした効果も、対話のルールや趣旨が参加者で共有されることが土台にあります。

哲学対話を実施する際の注意点

ここでは哲学対話を実施する上での注意点や進行方法などについて解説します。

まず対話の適正人数は10~15名程度、多くて20名程度です。ですから、1クラス40名の場合、クラスを2つに分けて実施するのが良いかと思います。

図3 授業内で提示したスライド(対話の進め方)

次に、全員で輪を作ります。教室であれば、机をどけて、お互いの顔が見えるように椅子を並べて輪の形に座ると、より対話に集中しやすい環境になります。1クラスの人数が多ければ、グループを複数作って、お互いの声が混ざらないように、教室内の離れた位置で輪を作るといいかと思います。

哲学対話では、一度に多くの人が話さないように、コミュニティボールというものを使います。基本的にはボールをもっている人だけが話すことができます。もし話したくなったら手をあげて、ボールを受け取ってから話します。

材料は、毛糸玉4~5個と結束バンド1個、毛糸をまくための筒1個(なるべく固いもの、たとえばラップの芯などがおすすめです)、そしてはさみをご用意ください。全て100円ショップで調達できる材料です。もちろんコミュニティボールではなく、クッションやぬいぐるみなど、投げやすいものを代用しても大丈夫かと思います。

図4 コミュニティボールのつくり方 出典/p4c Japan ホームページより http://p4c-japan.com/about_tool_ball/

準備が整ったら、参加者それぞれが考えたい問いを出していきます。問いの決め方については、次のような方法があります。ひとつは私が実践したように生徒同士が出し合った問いを1つに絞っていくやり方です。話し合ったり、多数決で決めたり、最終的に1つの問いに絞り込みます。ふたつめは、教師が提示したテーマに基づいて生徒が問いを立てていく方法です。こちらはひとつ目の方法よりも思考の幅が限定的になるため、より短時間で決めることができるかと思います。他には、教師があらかじめ問いを考えたり、いくつか問いの選択肢を提示したりするといった方法があります。完全に生徒に裁量を与えて自由に考えさせるか、それとも教師の裁量を増やすのか、時間や人数、カリキュラムのどこに組み込むか、といった要素との相談で決めていくのが良いかと思います。

そして、問いが決まったら対話スタートです。対話中の教師の役割はファシリテーターです。ですが、議論を促進するために、教師自身が長く話してしまったり、誰かを指名して無理やり話を拡げたりすることは好ましくありません。哲学対話におけるファシリテーターの役割は、参加者が安心して話せる場を作ることであり、だからこそ「わからなくなってもいい」など対話のルールを体現することが重要です。教師自身が、意見がまとまらなくても話したり、分からないことはわからないと正直に伝えたりすることで、生徒たちの安心感が育まれます。もちろん、対話を促すために質問をぶつけたり、反論したりすることは大いに結構だと思います。対話の終わりには結論は出しません。

最後に対話を振り返ります。対話に心地よく参加できたかどうか、対話を通じて自分の考えが深まったかどうか、など自分の思考の軌跡をメタ的に認知してもらいます。輪のまま対話形式で振り返ったり、振り返りシートなどのプリントで振り返ったりするなどの方法があります。

哲学対話のイメージをつかみたいという方は、哲学カフェに参加してみるのもいいかと思います。「哲学カフェ」や「オンライン哲学カフェ」で検索すると、たくさんイベント情報が出てきます。興味のあるテーマの哲学対話に一度参加されてみると、対話を進める上での雰囲気が実感できると思いますので、ぜひご参加ください。

哲学対話で何が育てられるのか?

さて、続いて哲学対話とカリキュラムについて考えていきたいと思います。新学習指導要領は育成すべき資質・能力に基づいて編成されています。汎用的な資質・能力を育成する上で、哲学対話はどのように位置づけられるのでしょうか。

哲学者の河野哲也氏と得居千照氏によれば、哲学対話には以下の4つの効果があるとされています。[注2]

第1に、批判的・創造的思考力の向上という意味での思考力向上です。意見が大きく異なり、あるいは対立する意見を持つ人の意見も尊重した上で、議論を進めていくのは中々難しいことです。でも、そうした相手とも批判的に検討を加えながら合理的に考えを深めていくことで、批判的思考力や問題解決という創造的な思考力が養われると言います。

第2にケアの能力です。対話を進めていく中で、相手の主張や意見を傾聴し、さらにはその発言を尊重する中で相手を気遣うケアリング能力が磨かれていきます。

第3に、集団的な問題解決力です。対話を通じて、集団での課題を共に考えていけば、集団での問題解決効果があるとされています。第4に、集団への帰属意識の向上や社会参画意識の向上という点での集団形成・維持力です。哲学対話によって、参加者同士が同じ悩みを共有していることがわかって親近感がわいたり、相手を尊重する態度が養われていったりします。こうした中で集団へ参加しようという意識が醸成されていきます。

こうした資質・能力は、新学習指導要領でも重視されています。育成すべき資質・能力は「知識・技能」、「思考力・判断力・表現力」から構成されていますが、たとえば第1の批判的・創造的思考は、まさに「思考力・判断力・表現力」の例として文部科学省の解説ページに記載されています。また、第2のケアリング能力についても、やさしさや思いやり、多様性の尊重などが「学びに向かう力・人間性等」の例として示されています。

このように新学習指導要領でも哲学対話は非常に有用ですが、2022年から社会科の新教科として始まる「公共」においてはどうなのか、次に考えていきたいと思います。

[注2] 河野哲也・得居千照(2017)「子どもの哲学の評価法について-理論的考察と江戸川区立子ども未来館での実践を踏まえた提案-」立教大学教育学科教育年報、P44-46

「公共」における哲学対話の可能性

哲学対話では、様々な意見に触れることで、視野が広がり、意見の変容が度々起こります。「公共」でも「多面的・多角的な観点から考察する」ことを学習活動に取り入れることが期待されていますから、その点で哲学対話が非常に効果的な学習活動だと感じます。ただし、「公共」で実施する場合には科目の知識が前提になりますが、哲学対話は話し合いやすくするために基本的には知識を前提とせずに、参加者が日頃感じている「経験」をベースとすることが一般的です。

しかし、この問題は「テーマ」を設定することである程度回避できると考えられます。たとえば、今回の「死ぬってどういうこと?」という問いなら、ハイデガーの実存主義の単元のまとめ学習で導入することができます。他にも功利主義の単元で「幸せ」というテーマで問いを考えたり、フロムなら「愛」をテーマに対話をしたりことができるでしょう。こうした点から、内容A「公共の扉」における倫理分野で、各単元のまとめとして取り入れることが効果的かと思われます。ただし、テーマ自体をその単元に関係づければ、「地方自治」や「社会保障」など、どの単元でも応用可能だと思います。それほど汎用的な学習活動として、哲学対話は位置づけられます。

しかし、教科学習に哲学対話を応用することによって、参加者は問いを出しづらくなることが予想されます。というのは、哲学対話の前提は考えを深めやすくするために「経験」を思考の出発点においている点にあります。だからこそ、日頃の悩みや人生観など参加者が本気で向き合いたい問いを考えるわけですが、「知識」を前提にすれば、思考の幅は狭められてしまいます。そもそも知識が定着していなければ、考えたい問い自体が全く浮かばないかもしれません。こうした懸念はありますが、私自身は教科の中でも哲学対話を実施していますし、あくまでもどちらを重視するかというグラデーションの問題だと思います。学習者が「考えること」を重視するのか、「知識の活用」を重視するのかによって、テーマを設定するか否かを決めていけば良いのかなと思います。

私の専門である熟議民主主義においても、合理的な討議を通じて、より妥当な意見へと考えを変容していくことが重視されています。現代社会は直感やニセの情報をもとに意思決定をしてしまう「ポスト・トゥルース」の時代と言われています。そうした時代において、多様な観点から理性的に自分の考えを振り返り、不断に見直していく哲学対話は、主権者教育の中核的科目とされる「公共」において意義のある学習活動といえるのではないでしょうか。

参考文献

■梶谷真司(2018)『考えるとはどういうことか 0歳から100歳までの哲学入門』幻冬舎

■河野哲也・得居千照(2017)「子どもの哲学の評価法について-理論的考察と江戸川区立子ども未来館での実践を踏まえた提案-」立教大学教育学科教育年報

■特定非営利活動法人こども哲学 おとな哲学 アーダコーダ(2019)『こども哲学ハンドブック 自由に考え、自由に話す場のつくり方』アルパカ

■堀越耀介(2020)『哲学はこう使う 問題解決に効く哲学思考「超」入門』実業之日本社

島本優朗 広尾学園中学校・高等学校教諭

中央大学大学院法学研究科政治学専攻修士課程修了。
2018年より東京学館高等学校にて教諭(地理歴史・公民科)。2019年より現職(社会科・公民科)。
研究テーマは熟議民主主義、シティズンシップ教育。

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