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家庭科 NEWS

SDGsと家庭科カリキュラム・デザイン|著者インタビュー

SDGsが世界的課題として注目される中、SDGsと家庭科の関連を理論と実践で示す『SDGsと家庭科カリキュラム・デザインー探究的で深い学びを暮らしの場からつくる』(教育図書発行)が発売されました。代表編著者の荒井紀子先生に、SDGsと家庭科の関わりや、新学習指導要領に対応した授業づくりについて伺いました。

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Q1 家庭科とSDGsはどのような関わりがあるのですか?

SDGsは未来の見取り図

SDGs (Sustainable Development Goals: 持続可能な開発目標)は、2015年に、国連が採択した「持続可能な開発のための2030アジェンダ」のなかで示された具体的な達成目標です。それぞれの目標について、2030年度までの実現を目指し、「地球上の誰一人として置き去りにしない」ことを理念とし、各国で取り組みを進めることが求められています。具体的には、17の目標と169のターゲットが示され、こんな世界を創ろうという「未来の見取り図」を示したものといえます。

SDGsと家庭科カリキュラム・デザイン,SDGs,持続可能な開発のための17の目標

『SDGsと家庭科カリキュラム・デザインー探究的で深い学びを暮らしの場からつくる』p.9 図1

これら17の目標を眺めてみると、家庭科の学習内容となじみの深いことがみえてきます。
目標1「貧困をなくそう」2「飢餓をゼロに」3「すべての人に健康と福祉を」は、家庭科の家族・家庭の学習や生活設計、生活経済、健康・快適・安全な衣食住の生活の実現、児童や高齢者・福祉の学習などと関わっています。目標5「ジェンダー平等の実現」8「働きがいと経済成長」は男女の平等な社会参画やパートナーシップ、ワーク・ライフ・バランスの学習がまさにその内容にあたります。目標6,7、の「安全な水とトイレ」「クリーンなエネルギー」、14、15「海の豊かさを守る」「陸の豊かさを守る」は、省エネや身近な環境への配慮の学習とつながります。11「住み続けられるまちづくり」は住まいやバリアフリー、12「つくる責任、つかう責任」は商品の選択・購入やリサイクル、リユース(5R)の学習など、消費者にかかわる学習全体とつながります。いわば、SDGsは家庭科の学習が目指す「より良い生活(ウェルビーイング)」とほぼすっぽり重なるのです。(本書p.15 図5) これは何を意味するのでしょうか。

家庭科には日常の生活行動を未来の社会設計につなげる視線がある

SDGsは、持続可能な世界をつくるため、地球上の課題の解決にむけて、各国が環境政策や産業、経済の在り方、社会の制度設計などの変革に取り組むことを促しています。と同時に、この社会の変革を担うのはひとり一人の意識や判断であることを忘れてはなりません。
たとえば、2「飢餓をゼロに」は食料の適正な自給や配分の平等性などの問題と共に、各家庭での栄養バランスの取れた食事作りや食品選択、食品ロスの徹底などが関わります。これらは12「つくる責任、つかう責任」や14,15の「海、陸の豊かさを守る」の環境保全ともつながります。つまり、ひとり一人が持続可能な社会のあり様を日常の生活レベルで考え、具体的にイメージし行動できることがその基本となります。家庭科が関わるのは、このひとり一人の生活に対する意識や行動、いわば根幹の部分といえます。と同時に、日常の生活行動を未来の社会設計につなげる、家庭科はこれを見通す視線を内包しています。

SDGsと家庭科カリキュラム・デザイン,SDGsと家庭科学習内容との関連

『SDGsと家庭科カリキュラム・デザインー探究的で深い学びを暮らしの場からつくる』p.15 図5

 

Q2 今の時代において家庭科を学ぶことの必要性とは

家庭科はこれからの暮らし方について学ぶ教科

家庭科は、今日、明日、そしてこれからの暮らし方について学ぶ教科です。自分や家族の生活を安全で快適に整えたり、健康を保つ食生活を送るには、知識やスキルが必要ですし、それを応用したり活用したりする力も欠かせません。生活をより良くする力、つまりウェルビーイングを実現する力は、誰にとっても、生涯にわたって必要な力であり、このことを学校教育の中で学ぶのが家庭科という教科です。

自分や家族の生活を改善、改良する実践につながる

コロナの世界的な感染拡大により、この春から私たちは自粛生活を強いられました。長期にわたる在宅中心の生活のなかで、多くの人が、食べる、着る、住まうことに向き合い、丁寧に暮らすことの意味や、家族や他の人と助け合い、つながり合うことの大切さに気づかされたのではと思います。この間、ネット上には、部屋を整理する断捨離やベランダを活用した野菜づくり、様々な料理の工夫、手作りマスクなど、たくさんの生活の工夫や行動の様子がさまざまに発信されました。これら自分や家族の生活を改善、改良する実践に直結するのが家庭科です。
休校措置で家で過ごした期間、子どもたちもまた、家族に世話してもらう受け身の存在ではなかったはずです。食事作りや洗濯、部屋の清掃や、生活の中でできる問題解決など、学校で学んだことを実際にやってみる絶好の機会でした。家庭科の先生方が、休校中の学習として、生活実践の課題を出し、生徒の学習活動を支援する事例を多く耳にしました。生活のなかで判断し応用し実践することは、まさに教育が目指す「生きる力」にダイレクトにつながっています。家庭科は、児童・生徒の生活力を養い、生活を大切にする社会の一員を育てるという意味で、際立った特性を持つ教科であることが、このコロナの時代に、改めて明らかになったように思います。

Q3 新学習指導要領を家庭科の中でどう展開すればいいですか?

授業観の大きな転換が迫られている

新学習指導要領では、子どもの考え判断する力、表現する力を育てることを重視しています。そうした力の育成は、子どもに知識を教え、正確な知識の量で評価するという従来の方法ではなく、子ども自身が「主体的」に仲間と「対話」しながら学ぶ方法が適しており、それを通して「深い学び」が実現するということです。いうまでもなく、主体的・対話的な学びは、毎時間の授業の組み立てや教師の発問によって生まれるものです。またそれらは、毎時間ごとのぶつ切りの授業でなりたつものではありません。生徒の思考が自然に深まる一連の学習の流れを設計する必要があります。そうした学習のなかで生徒がどのように考えたり工夫したり表現したりするか、最終的な作品や結果だけでなくプロセスをみることが、評価においても大事になります。こうして考えると、今改訂は、私たち教師に、授業観の大きな転換を迫っているといえるでしょう。では、具体的にどうしたらよいでしょうか。

新たな「カリキュラム・デザイン」の枠組みを提示

本書では、こうした学びを「探究的で深い学び」と捉え、それを実現するための教科全体を見通した学習内容・方法の包括的な組み立てと授業の構想を、「カリキュラム・デザイン」として提示しました(本書、第Ⅰ部-2)。この組み立ては大きく2つの枠組みからなります。ひとつは、授業の題材を、学習内容ごとに羅列するのではなく、見方・考え方の4つの視点で見通してマトリックス図で示す(本書p.21 表3)ことです。こうすることで、学習内容を俯瞰的に見通し、領域を超えた学習をイメージすることが容易になります。もうひとつは、学習の流れを「学びの構造図」を用いて構造化することです。縦軸を学習の視野(個人から社会へ)を捉える軸、横軸を学習の深まり(問題解決のプロセス)を捉える軸として、そのなかに生徒の学習の流れを想定しながら、個々の学習活動を位置付けていきます。

SDGsと家庭科カリキュラム・デザイン,学びの構造図,SDGs

『SDGsと家庭科カリキュラム・デザインー探究的で深い学びを暮らしの場からつくる』p.22 図3

家庭科の限られた授業時間数の中で、たくさんの知識やスキルを詰め込むのではなく、生徒の探究的な学習のいくつかの大きなサイクルをデザインし、その学習プロセスの中で関連する知識やスキルを学べるような学習展開をつくることにトライしてみてください。学習内容については、各学習サイクルの中でマトリックス図のどこを押さえるか、全体を見通しながらデザインすることは、面白くて醍醐味のある取り組みになるのではと思います。

Q4 「SDGsと家庭科カリキュラム・デザイン」の誕生経緯は?

新学習指導要領とSDGsと家庭科の関わりを明らかにする

2020年という出版年にあたり、私たち執筆者には二つの想いがありました。一つは新学習指導要領の全面実施が順次開始される節目の年に、今改訂で強調されている思考力・判断力・表現力や「主体的・対話的で深い学び」を家庭科で具体的にどう展開すればいいのかについて、包括的な方法論を提示できないか、という想いです。もう一つは、地球的な課題である「持続可能な開発」の実現を目指すSDGsと家庭科とがどう関わるのかを明らかにして、それにつながる学習内容や授業を具体的に示したいという想いです。
これまでに述べたように、より良い生活をつくる力の育成という家庭科の目標とSDGsのめざす方向性とは無理なく重なります。日常の生活のなかでSDGsを踏まえた判断や行動をとることが、社会を変える力と関わることを家庭科の学習の中で子どもたちに理解させたいと考えました。その際の選択や行動は、言うまでもなく、知識、スキルの活用と主体的な思考、判断を伴うものです。その意味で、この2つの視点はつながっています。本書では、そのつながりが理解しやすいよう、第Ⅰ部、第Ⅱ部の理論編と第Ⅲ部の授業編の内容や構成を工夫しました。

Q5 本書の活用方法を教えて下さい

どこから読んでも全体像が見えてくる

この本の特徴は大きく分けて4つあります。 ひとつは、前項でも触れましたが、第Ⅰ部の学力やSDGs、思考を深めるカリキュラム・デザインの解説と、第Ⅱ部で、「見方・考え方」やSDGsと家庭科学習内容との関連、そして第Ⅲ部(思考を深めるSDGsの授業実践)がつながっていることです。どこからでも、関心のある所から自由に読み始めてください。あちこちを読み進めるうちに、カリキュラムの背景となる理論から細部の授業づくりの方法までの全体像がみえてくるのではと思います。
二つ目は、前述の質問3でも述べたように、探究的な学習をデザインする方法として「学習題材のマトリックス」「学びの構造図」の2つを提示している点です。このうち、「学びの構造図」は、教師が授業の全体像をイメージし、プロセスの流れを考えるためのスケッチブックのようなものです。一連の授業当初のデザイン図としてだけでなく、途中で授業の現状に合わせて修正したり、あるいは最後に実際の流れをまとめてみたりなど、自在に使うことが可能です。また1時間分の探究の流れを書いてみることもできます。私たち執筆者は、探究の結果だけでなく子供の考える道筋やプロセスを大事にする授業を創るうえで有効な方法のひとつと考えています。この「学びの構造図」については、本書の第Ⅰ部1~4でその方法や有効性について検討し、第Ⅲ部で、実際に構造図を活用した授業を紹介しています。
三つ目の特徴は、第Ⅲ部の授業編において授業の流れや実践中の生徒の様子などできるだけ細部にわたって紹介していることです。現場の先生方がご自分の授業の参考にしたり、あるいは一部を取り入れたりすることができるだけやりやすいように配慮しました。

SDGsと家庭科カリキュラム・デザインー探究的で深い学びを暮らしの場からつくる

『SDGsと家庭科カリキュラム・デザインー探究的で深い学びを暮らしの場からつくる』p.128-129 第Ⅲ部

生活を考える家庭科にとって重要な視点

最後の特徴として、家族や暮らしの問題に関わって活動しているNPOや専門家の方々に、これからの生活で大事にしたい視点や意見を「コラム」欄に書いていただきました。生活を考える家庭科にとってどれも新鮮で重要な視点であり、参考にしていただければと思います。また、特別寄稿では、SDGsを地域で推進している国連大学サスティナビリティ高等研究所の永井三岐子氏からのメッセージを掲載しています。「家庭科はSDGsを生活目線で切り取ったSDGs生活版とも言えるもの。家庭科の学びから率先して、SDGs的なあり方、学び方の導入が生まれることを期待している」との言葉を受けとめ、この教科の可能性に挑戦していきましょう。

Q6 現場の先生へメッセージをお願いします

本書の出版は、期せずして新型コロナの広がりの時期と重なりました。その中で、学校現場の先生方と同様、私たち執筆者も、改めて子どもたちにとっての家庭科教育の大切さや果たす役割について考えさせられることが多かったように思います。 しかし、これは日本に限ったことではありません。
私の米国の友人、オハイオ州の高校で家庭科を教えるメリベスさんが、彼女のフェイスブックのなかで、最近次のように書き込みました。
「家庭科の生活経済や食物、家族学習の必要性が、新型コロナによって一層はっきりした。私の授業を受けた生徒たちは、これからの生活を充実させる知識やスキルを身につけて卒業していく」
「コロナは家庭科がもともともっている重要性を改めて浮き彫りにした」
全世界を同時に襲ったコロナのもとで、各国の家庭科教師たちはまさに同様の想いを胸に抱いたということでしょう。「そちらもですか!」と、何か元気が湧いてくるような気がします。
本書では、新学習指導要領に対応して、新たなカリキュラム・デザインやSDGsに関わる授業実践を詳細に紹介しています。探究型の授業といっても、いざ実践しようとすると困難な点も多々あると思います。できるところから少しずつ試してみて、自分なりの方法を見つけていってください。ここで紹介した米国の教師メリベスさんは家庭科の近隣の仲間たちと、フェイスブックやLINEなどで、活発に授業の相談やアイデア交換をして、学校内に同じ教科の同僚がいない不便さを克服しているようです。
家庭科授業の充実に向けて、自ら学び、つながり、発信し合って、パワーアップしていきましょう。

荒井 紀子/大阪体育大学特任教授Noriko ARAI

福井大学名誉教授。博士(学術)。1989年より福井大学で家庭科教育の研究と教員養成に携わり、この間、大学附属特別支援学校と附属中学校の校長を務める。H.30年度版文部科学省「高等学校学習指導要領家庭編」専門的作業協力者。専門は家庭科カリキュラム理論と授業研究、市民性教育、北欧・米国の家庭科カリキュラム研究など。単著「生活主体の形成と家庭科教育」、編著「新版生活主体を育むー探究する力をつける家庭科」(ドメス出版)、共著「考えるって面白い―家庭科でつなぐ子どもの思考」(教育図書)、Reforming Teaching and Teacher Education (Sense Publishers, Finland) 他。

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