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中学校 技術・家庭科 NEWS

中学校技術・家庭 技術分野「授業運営」のQ&A

皆さんは、毎日の授業で疑問などを感じていることがありますか?
校内研究などで技術分野以外の教科の授業を見ることはあっても、技術分野固有の授業研究をする機会はなかなかないと思います。
この記事を参考にして、授業で感じている疑問などを解決し、生徒が技術好きになる授業を確立してはいかがでしょうか?


中村祐治
元横浜国立大学教授。公立中学校4校で技術分野の教鞭を執る。その後、東京都の教育委員会や教育研究所及び区や市の指導主事、公立中学校2校と横浜国立大学附属中学校の校長を歴任。授業の直接的な指導の場を離れた現在も、授業目線・生徒目線の現場主義を大切にし、現場主義に役立つ問題解決型の授業づくりや学習評価などの研究課題に取り組んでいる。


技術702・703技術分野教科書


 

授業の構成のイ・ロ・ハ

授業は、次に示すように「導入」「展開Ⅰ」「展開Ⅱ」「まとめ」の4つの要素で構成されています。

「知識・技能」の習得の場合は、「展開Ⅰ」の割合が多く、問題解決の学習の場合は、「展開Ⅱ」の割合が多くなります。「導入」と「まとめ」は、展開内容により、取る時間は若干異なりますが、どんな学習内容の場合でも必ず取るようにします。従って、「展開Ⅰ」と「展開Ⅱ」をどの場合でも必要な「導入」と「まとめ」で挟むので、サンドイッチ型の授業構成になります。

(教育図書の教科書の例では、「導入」が「見つける」、「まとめ」が「ふり返る」に相当します。)

 

授業の構成のいろいろなパターン例を次に紹介します。次の例を参考にして、あなたの学校に合った構成を意図的に考えてから授業を展開してはいかがでしょうか?

深掘(フカボリ)! <いろいろなパターンの授業の構成例>

例1 教科書1章の「知識(技能)」が中心の場合

・「展開Ⅰ」では、一斉指導・一斉学習の割合が多くなりがちですが、できるだけ生徒が主体的に学習できるように工夫します。「展開Ⅰ」を主体的に進める方法は、「必読! 授業展開の4つの要素」を参照して下さい。

・「展開Ⅱ」の割合を「0」にしないで、「展開Ⅰ」で学習した内容をどこで活用するのか、2章の頁をめくって確認したり、「学習指導要領の内容(1)イの技術に込められた問題解決の工夫について考える。」の関連する内容と関連付けて軽く触れたりするようにします。

例2 教科書2章(D編は3章も含む)の「思考・判断・表現」が中心の場合

・授業の冒頭では、学習課題についての説明などを一斉指導・一斉学習しますが、「問題解決」の学習に入ったら生徒一人ひとりに対する個別支援や生徒同士の相談活動が中心になります。

・設計・計画は、「展開Ⅱ」が主となります。1章の「展開Ⅰ」は時間的には存在しませんが、内容的に、「展開Ⅱ」で活用する「知識(技能)」の参考頁を板書や授業用のプリントで準備すると良いでしょう。

・「展開Ⅱ」の製作・育成・制作は、2つの場合があります。

場合①:Q1で示した授業構成の基本パターンで、「展開Ⅰ」で製作・育成・制作に関する基礎内容を習得させて、「展開Ⅱ」で具体的な実習作業に入ります。

場合②:「展開Ⅱ」と「展開Ⅰ」とが平行するパターンで、「展開Ⅱ」に必要な「技能」を実習作業します。(教育図書「技術ハンドブック」を参照。)

例3 教科書3章の「主体的に学習に取り組む態度」が中心の場合

・この場合の「展開Ⅱ」は、技術分野の目標(3)の「よりよい生活の実現や持続可能な社会の構築に向けて、生活を工夫し創造しようとする実践的な態度を養う。」に相当します。

・この場合の「展開Ⅰ」は、「知識・技能」及び「思考・判断・表現」に相当します。

・技術分野の目標(3)を達成する「展開Ⅱ」の学習には、「展開Ⅰ」の1章や2章で学習した技術のプラス面とマイナス面の「知識・技能」や、プラス面とマイナス面を比較して上手な使い方を考える「思考・判断・表現」の学習が必要になります。

1章や2章の大切なポイントをワークシートにまとめておくと良いでしょう。(教育図書の教科書の3章(D編は4章)には、それらの概要が示してあります。)

必読! 授業展開の4つの要素

授業を構成する4つの要素「導入」「展開Ⅰ」「展開Ⅱ」「まとめ」と、「清掃活動や片付け」についてのポイントについて説明していきます。

「導入」:なるべく短い時間で、実物などを提示して、学習する気持ちに引き込むのがポイントです。取る時間は、3分~長くとも5分です。必要なら、学習のねらいや学習活動の約束ごとも入れますが、板書や大型ディスプレイに示すことで説明を短くして、学習意欲を喚起するよう工夫するのがポイントです。(教育図書の教科書の例では、「見つける」に相当します。)


「これが何かわかるかな?」生徒が生まれた時代の携帯電話を提示して興味をひく


先輩が作った作品を提示して興味をひく


左側に本日の流れと作業の流れを提示


大型ディスプレイに授業のテーマや目標を提示。
デジタルを活用することで学年が変わっても、技術室ですぐに提示できる特徴がある

「展開Ⅰ」:「知識・技能」の学習は、長い時間を取りますが、一斉指導・一斉学習をできるだけ避け、視聴覚機器などを活用して、自学自習や調べ学習など、主体的な学習活動を取り入れ飽きないような工夫が必要です。

「展開Ⅱ」: 「問題の解決」の手順に沿って進めるのがポイントです。(教育図書の場合は、4つの手順。)

授業では、「問題の解決」のどこを学習しているかを意識させることが重要です。指導のカタチは、学習課題や時間や使う工具などの制約条件の提示では、一斉指導・一斉学習を取りますが、「問題の解決」の学習に入った時は生徒一人ひとりに対しての個別支援が中心になります。個別支援は、下の例のように生徒目線より低い位置を取り、生徒の気持ちに寄り添うようにするのが、大切なポイントです。

「まとめ」:授業で学習した内容をまとめる時間です。授業で学習した内容を、できたら10分、少なくとも5分は取ります。授業での学習活動をふり返って、学んだ内容をまとめます。作業などの「問題の解決」の学習活動をした時は、学んだ内容を自覚していません。学習活動をふり返ることで初めて、学び取った内容を確認することが出来ます。(教育図書の教科書では、「ふり返る」に相当します。)

「清掃活動や片付け」:4つの要素以外に、清掃活動や片付けの時間が必要になります。「まとめ」の前か後に、清掃活動や片付けも含まれますので、その時間を考えた時間配分が必要です。

おさえよう! 授業運営の5つのポイント

技術分野特有の授業を運営するポイントは次のようになります。

①「技術」を意識するのがポイント
技術分野は、生活に密着した技術に目を向け、家庭・学校・地域・社会・産業などの生活で技術が果たす役割を理解し、将来自分自身が「技術」とどう関わっていくかの実践的な態度を育てることをねらいとしています。つねに「技術」を意識させるために、「『技術』の力を使って加工しよう。」などと、言葉の端はしで「技術」の用語を使うようにします。

② 板書など提示方法のポイント
授業を構成する4つの要素の学習機能に応じて、使用する情報手段がもつ特徴を生かします。また、板書などの提示方法を次のように工夫します。
詳しくは、次の「これですっきり! 情報提供の手段」を参考にして下さい。

③ 授業開始や終了の挨拶のポイント
技術分野の挨拶は、教師と生徒が「よろしくお願いします。」「ありがとうございました。」と互いの気持ちをかわすだけが目的ではありません。特に作業を安全にすること、休憩時間での自由な気持ちを「さあ、作業を安全にするぞ!」に切り替えることが大切な目的になります。

④ 準備や片付けの仕方のポイント
実習作業の準備や片付けは、技術分野の大切な学習です。適当に扱うのでなく、大切な学習内容であることを教師自身が自覚する必要があります。具体的な事例は、「生徒の『やる気』は技術室の準備で決まる!Part1」を参照して下さい。

⑤ 工具の管理方法のポイント
工具や道具などを使い易いように適切に管理することは、それらの大切さを暗に学習させる隠れたカリキュラムと言われる大事な技術の学習内容です。具体的な事例は、「生徒の『やる気』は技術室の準備で決まる!Part1」を参照して下さい。

これですっきり! 情報提供の手段のポイント

情報を提供する方法については、「導入」での学習のねらいや学習への意欲付け、「展開Ⅰ」での基礎内容を学ぶ、「展開Ⅱ」での生徒自らの力で学習する問題解決を学ぶ、「まとめ」での学習活動をふり返る、など、各要素の学習のねらいを達成するために適切な情報の手段を選ぶようにするのがポイントです。

板書などで提供する方法のポイント
「導入」での板書(ホワイトボード含む)などは、授業のねらいや作業の流れなどを明確に示す時に有効です。


作業の流れを板書する

「展開Ⅰ」で板書などを使う方法もありますが、国語・数字・社会のように知識内容を具体的・詳細的に板書すると限られた授業時数では、時間が足りなくなるので、フラッシュカードを予め準備しておくなど他の方法を用いるのが効果的です。

導入での授業の流れは板書左端に示し、展開Ⅰで皆から出て記載した工具の特徴はフラッシュカードで示す

「展開Ⅱ」の設計・計画での板書などは、生徒と一緒に、寸法や電気回路などを考えながら学習を進める時に有効です。
「まとめ」での板書などは、生徒個々が様々に考えていることを消したり追加したりして考え方を練る時に、有効です。また、フラッシュカードと板書などを兼用すると、技術室を3学年で使うため授業ごとに板書を書き直す手間が省け、効率的な時間を使った授業運営するのに有効です。

大型ディスプレイなどで提供する方法のポイント
大型ディスプレイなどは、板書する時間が省け、少ない授業時間を有効に使えるなど、板書などの代用としてだけでない、様々な使い方があり有効です。例えば、授業の主題、ねらいや作業の流れなどを提示する時は、授業時間中提示し続けるようにします。また、 「導入」で利用したり、「展開Ⅱ」で収集したワークシートに記載された生徒の考え方の例を「まとめ」で紹介するのも有効です。実物が提示出来ない場合は、視覚に訴える実物や動画教材を大型ディスプレイや生徒個々の機器で情報提供するのが良いでしょう。


学習内容の主題を提示


「展開Ⅱ」で収集した参考となる生徒の記載例を紹介


工具の実物を提示

生徒のタブレットなどで提供する方法のポイント
「展開Ⅰ」では、ワークシートに基礎内容のポイントをまとめます。「展開Ⅱ」では、プログラムを作成したり、活動内容を撮影して「まとめ」の素材にしたりするのに有効です。「展開Ⅱ」では、生徒個々が記録・収集した学習活動のデータを、双方向性の機能を活用して生徒同士で交換することで、様々な考え方を知り、考え方の幅を広めたり深めたりするのに有効です。


コンピュータの画面を見ながら計測・制御のプログラムを考えている

実物を提示する方法のポイント
技術分野は、実践的・体験的な教科です。できるだけ、実物で提示したいのですが、実物をそろえて提示するのは、なかなか大変です。そこで、実物に変わる映像及び掲示などで実物を想像できる方法を選んではいかがでしょうか?


筆箱を設計・製作する参考となる市販の筆箱例


機械要素の動きを示す紙製の模型の例

掲示や展示する方法のポイント
先輩の作品例のレポートを掲示するのは、主体的に学習に取り組むための意識付けをするのに有効です。また、出来上がった作品を意図的に展示するのも、設計・計画のイメージを潜在的に持たせるのに有効です。


作品完成時点でのふり返りレポートを展示


完成作品を意図的に展示して紹

どうしたらいい? 生徒同士の学び合い

授業では、教師のみが一方的に教え込むのでなく、生徒がもついろいろな考え方を交流し高め合うことが、授業運営上のポイントです。なお、生徒同士の相互活動は、学習内容の学びの「高め合い」、切断作業などで材料を押さえるなどの「助け合い」、材料や工具・道具の準備や清掃や工具・道具の片付けなどの「役割分担」などがあります。

・生徒同士が「高め合う」対話的な学びは、下に示すように「個」→「集団」→「個」の流れを尊重するのが大切です。

・はじめの「個」では、「集団」に入る前に、自分の設計・計画や作業内容で上手くいったことや失敗したことを付箋などに書き、作業状況をふり返ることで、「集団」での活動の準備をしておく。
準備例1:完成直前の設計図や計画表、学習活動をふり返るワークシートなど

準備例2:作業毎のワークシート(切り始めがずれてしまう、うごくのが止まった、曲がると思ったがまっすぐに切れた、時間がかかった、少し斜めになった、最後が切れなかった)

・次の「集団」では、「個」の上手くいったことや失敗したことを記載したワークシートなどを材料に話し合い活動し、自分一人では気づかない原因やアイディアなどを「集団」で話し合い追求する。「集団」には、意図的な班活動と自然発生的な相談活動とがあります。


自席を離れ、自然発生的に2人や数人で相談する「集団」活動

・最後の「個」では、「集団」での話し合い結果を生かし、「個」で「学習のめあて」に照らしてワークシートの記載内容を赤字で修正したり、追加したりしてまとめる。

・「個」→「集団」→「個」の流れ最後の「個」では、班での話し合い活動以外に、自然発生的に自席を移動して相談する話し合い活動の形態もあります。


「個」の考えをまとめた後に、互いに「集団」で話し合い活動
       ⇓

「集団」での話し合いの結果を生かして「個」で真剣な姿勢でまとめの活動

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