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中学校 技術・家庭科 NEWS

「ロイロノート・スクール」歴8年の教師から学ぶ、 ICTを活用した家庭科の授業

文部科学省が全国の小中学生に一人1台の端末を配る「GIGAスクール構想」が本格スタートして3年目。
教材や授業の進め方にも変化が求められてきています。今回は、ロイロノート※使用歴8年の私立中高一貫校の家庭科の先生にデジタルを使った家庭科の授業の進め方についてお話を伺いました。

※教室内でインターネットを使って学習支援を行うためのプログラム·システム·アプリ。


平山 朝子(ひらやま ともこ)

東京都武蔵野市にある聖徳学園中学·高等学校にて18年間、家庭科の指導にあたる。
教師歴20年目。8年前からiPad·電子黒板·ロイロノートが学校に導入される。女子栄養大学にて、教職課程の学生に向けてデジタルを使った授業案作りなどの指導もおこなう。情報の教員免許も取得。


 

家庭分野教科書 – 教育図書 (kyoiku-tosho.co.jp)


まずは写真を使った授業から

編集部:平山先生は、家庭科でロイロノートをお使いになられて8年目。今日はデジタルを使って、家庭科でどのような授業をされているのかお聞ききしたいです。

平山先生:生徒も年々デジタルに触れる機会が増えてきていて、慣れるまでの時間も短くなってきたと感じています。すぐに始められそうなものは、写真を使った授業です。ある日のメニューや、お弁当などの写真を生徒に撮ってきてもらい、6つの基礎食品群に分類し、どんな問題点があるかを考えさせる、というものです。自分の食べているものが題材だったので生徒は楽しんで取り組んでくれました。生徒一人一人にiPadがなかったころは、写真を持参させるのは難しかったのですが、「写真が撮れる」という機能を使うと、授業で扱える話題が増えるのでとてもよいと思っています。
また、被服課題のときのレポートも写真を撮ってもらいました。私がPDFで提出用のシートを用意し、タブレット内に生徒が手書きやキーボード入力で記入します。写真も簡単に貼り付けることができます。

 


写真上・下/お弁当課題。当時、学食はコロナ禍で使えず、弁当を注文して教室で食べる生徒もいた。「6つの基礎食品群で不足しているのは何群か。どんな食材を加えたらよくなるか。」「たりない食品群を補えるのは、どんな料理か。インターネットから、レシピや写真を探してみよう。」などを考えさせる。


被服課題のふり返りシート。PowerPointやWordを使ってパソコンで作成し、データをPDFに変換してからロイロノートを使って課題として生徒へ送る。生徒は自分が取り組んだ作品の途中経過の写真を撮り、自己評価をして毎回提出する。

教科書の指導書などについている写真を利用することもあります。プリントをPDFで作り、その上に教科書データの写真を移動できる形で貼り付けます。生徒は写真の画像を動かしながら考えることができるため、パズルのような感覚でとても盛り上がります。

 


行事食の課題。進度の早めのクラスなどに残った時間に取り組ませることもある。

パワポとデジタルのプリントで効率UP

編集部:「効率面」で、紙のプリントで授業をされていたときとの違いはどのようなことですか?

平山先生 : 授業プリントをPDFで用意して、画面上で生徒に書かせることで、すべてをノートに自分で書かなくて済むので、記入する量と時間が短縮され、考えさせる時間を増やすことができました。私が答えを板書しなくても、あらかじめ答えを入力し、隠しておいて、答えを示したいときに表示することもできます。ただ気をつけないと、私もホワイトボードに書く量が減るため、進度が早くなりすぎて生徒が追いつけなくなることがあるので、注意しています。
PowerPointは、おもに説明用に作っています。文字の大きさや体裁にこだわりすぎると、時間がかかってしまうので、その点は割り切っています。手書きで書いた方が早く作れるときは、そうしますし、教科書内のここの図を見てほしい、というときはパワポのスライドに画像をあらかじめ貼り付けておきます。
見てほしい資料が、紙のときに比べてたくさん扱えるようになりました。毎回印刷してプリントにしなくても、資料としてiPad上へ送ることができます。カラーで印刷できずに白黒印刷で配っていたものも、気軽に送れるので便利です。
被服製作で、どのデザインを希望するかを生徒に選んでもらうときにも役立ちます。以前は被服教材のカタログをコピーして、生徒一人一人にどれがよいか希望を取っていたものも、画面上で見本をみせて、どれがよいか〇をつけて提出してもらっています。この方法だと、集計が早くできますし、生徒も自分が何を選んだのかが履歴として確認できます。


どのキットにするか〇をつけてもらい、集計する。

 

わからないときは周りの力を借りながら

編集部:弊社の教科書は、新任の先生にも広くお使いいただいています。先生になられて間もないころ、授業案のヒントなどはどこから取り入れていましたか?

平山先生:新任の初めのころは、校内で家庭科について教えてくれる先生がいなくて、いちから全部自分で組み立てなければならず大変でした。理科の先生に実習の流れや注意事項などの相談をしたり、母校の家庭科の先生へ指導案や年間指導計画のことについて「これは実行可能であるか」と聞きに行ったりしていました。学生のころからとても先生に恵まれ、幼小中高大の先生方と連絡をとっています。特に中高大の先生方には今でも相談して、助けていただいています。

主体的に考える力を養いたい

編集部:家庭科を学んだ生徒さんが、どのようになってほしいと考えていますか?

平山先生:自ら考えることができるようになってほしい、といつも思っています。家庭科は受験科目ではないので、丸暗記だけではもったいないです。内容をすべて覚えていなくても、この先の人生で少しつまずいたとき、「そういえば平山が昔あんなこと言っていたぞ」と少しでも思い出し、何かを調べたり、周囲の人に相談するきっかけになってくれたらうれしいです。
ですから、定期試験は丸暗記で100点が取れるようなテストにならないように、知識をもとに自分の考えを導くような200文字程度の記述問題を毎回出題しています。1学年100人以上もいるので、採点が大変だと頭ではわかっているんですけどね。
授業で話を聞いたときに、ただ理解するだけではなく、「いや、私はこう思う、僕はこう思う」など自分の考えをもってほしいなと。今後はもっと、授業内でグループワークを取り入れて、自分以外の人の考えについて興味をもつ時間を取り入れたいと思っています。普段はあまり話したことのないクラスメイトとも話し合って、多様な考え方にふれたり、自分の思っていることを相手に伝える時間をもてるよう努めていきたいです。


聖徳学園中学校·高等学校
住所:〒180-8601 東京都武蔵野市境南町2-11-8
JR中央線・西武多摩川線「武蔵境駅」より徒歩3分

本校では一人1台のiPad環境で、ICTを活用した教科横断型の学びとして「STEAM」「SDGs」に取り組んでいます。課題解決型の授業を通して、現実社会の問題や課題について身近なところからグローバルな視点を持ちながら、解決策について検討·実践しています。

編集部より

デジタルを活用することで、生徒も先生も効率的に授業を進められている印象を受けました。生徒には考える時間や機会が増え、まさに「主体的な学び」がこれからますます大切になっていくと感じました。

 

家庭分野教科書 – 教育図書 (kyoiku-tosho.co.jp)

取材・文/武石暁子(教育図書編集部)


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