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中学校 技術・家庭科 NEWS

見えてきたアフター・コロナ 家庭科の先生へ向けてのエール

今年5月から、新型コロナウイルスの感染症法上の分類が季節性インフルエンザと同じ5類に引き下げられました。今年度は調理や製作の実習を多く取り入れていきたい、とお考えの先生方も多いのではないでしょうか。コロナ禍でも、実習を積極的に続けてこられた西早稲田中学校の安川佳子先生に実習での感染対策を含め、お話を伺いました。


安川 佳子(やすかわ よしこ)
東京都新宿区立西早稲田中学校にて、家庭科の指導にあたる。
前職は食品業界にて営業企画に従事。衛生・在庫管理を行う工場管理の部署に配属。出産を機に、教員となる。コロナ禍でも、積極的に調理や被服製作の実習を実施。実習のための衛生マニュアルの作成に携わり、新宿区立の中学校で活用されている。

 



家庭分野教科書 – 教育図書 (kyoiku-tosho.co.jp)


シェフによるフレンチトースト調理実習

編集部:コロナ禍の調理実習で印象的だったことを教えてください。

安川先生: 昨年度卒業した3年生は2年間、ほとんど調理実習をすることができませんでした。どうにかしてあげたい、とずっと考えていました。そんな中、保護者の方からパークハイアット東京ホテルの管理職の方を紹介していただきました。地元で食育に貢献したいとずっと思っていたそうで、卒業前にシェフからフレンチトーストのつくり方を教えていただく機会をもつことができました。


シェフによるつくり方の説明
 
編集部:実際につくってみて、生徒の皆さんの反応はいかがでしたか?

安川先生 : たくさんの生徒から「本当に、おいしい!」という声が聞こえてきて、私もうれしかったです。シェフの方にも、中学生にわかりやすくなるようにとレシピを随分工夫していただきました。身近な材料とちょっとしたひと手間をかけると、ホテルのフレンチトースト並みにおいしくでき、自宅でもつくることができます。卒業時に生徒からもらった手紙には、ほとんどにこのときのフレンチトーストのことが書いてあり、印象に残ったようです。


フレンチトーストの調理中


フレンチトースト完成品

加熱とタッパーで感染予防

編集部:コロナ禍の調理実習で気をつけていたことを教えてください。
安川先生:加熱した状態のものを食べることと、飛沫がなるべくつかないようにタッパーを用いることです。1枚の食器を使いまわすことはリスクがあります。一方で、紙皿の場合はラップをするときに、バタバタしたやりとりが多く、飛沫がつく機会が増えます。生徒にタッパーを持参させ、加熱調理後すぐにタッパーに入れてもらい、給食のときに一緒に食べられるようにしました。また、調理後すぐに食べられるように、調理実習を4時間目にするなど、時間割を調整しました。

しょうが焼きを入れたタッパー

編集部:コロナ禍で一人ずつの調理を行っていたときは、準備が大変だったと思います。

安川先生:はい。1学年に約150人の生徒が在籍しており、1回の授業に調味料などの材料を7~8品、一人分ずつ用意していました。1時間でも準備が終わらないので、どうすれば効率よくできるかを考えて、たとえば味噌などの粘性のものは絞り袋に入れてから分けると早くできることを発見しました。調理台に二人しか入れないときは、被服室と調理室で1クラスを半分に分けて25分ずつの調理実習と課題を考えていました。今でも、タッパーは生徒に持参させています。洗い物が格段に減るからです。洗い物の時間や、ふきんで拭く時間を減らせば、選ぶ料理によりますが25分2セットの授業でも終わらせることができます。

体験による学びから得られるもの


しみ抜き 全体説明

編集部:衣服の手入れの題材では、しみ抜きの授業をされたそうですね。

安川先生:はい。あれはコロナによる制限が一番厳しかったときだったので、向かい合わせになる被服室ではなく、クラスの教室で行いました。一人1セットのしみ抜きセットをつくりました。小さな布に、しょうゆとラー油を3日前と授業中にそれぞれしみ込ませ、洗剤を混ぜた水溶液と水を用意し、歯ブラシで落としてもらいました。食品(しみ)・時間・液体(溶剤)による違いについて考えさせました。制限時間内にどこまで落とせるか取り組んでもらったところ、生徒は皆、必死になりながらも、楽しみながら取り組んでいました。歯ブラシのたたき方が甘い、水では落ちにくい、ケチャップなどのほかの調味料では落ち方が変わるのか、などいろいろな意見が出てきました。


しみ抜き中

 

タブレットで教科書の二次元コードを読み取り、界面活性剤の働きを学習中


教育図書『New 技術・家庭 家庭分野 くらしを創造する』より

 

編集部:調理実習のときもそうでしたが、学校内で家庭科の先生としておひとりしかいない中、準備など相当大変だと思います。コロナ禍でも実習を続けられてきた理由を教えてください。

安川先生:生徒たちに実体験して考えてもらうと、それぞれとらえ方も違うと思いますし、そこから新しい発見や、学びがたくさんあるからです。私が学生だったときも、やはり実習などで何をつくったかが、とても印象に残っています。しょうが焼きのときも、「今度は違う味つけでやってみよう」というように、いくらでも発展させることができます。たとえ炒めるだけの実習でも、「香りがよかった」「火加減が難しかった」など、生徒の感想はさまざまです。学校全体でも、生徒の活動をできるだけ止めないであげようという考え方がずっとあります。職場体験では、さきほどのフレンチトーストを教えてくださったホテルをはじめ、保育園やシニア活動館など、コロナ禍でもさまざまな地域の方にご協力いただきました。
これからも、体験をうまく生かして、よりよい生活につなげていってほしいと思っています。


職場体験/にじいろ保育園高田馬場


職場体験/セブンイレブン新宿大久保通店

授業をよりよくするには

編集部:最後に、家庭科の先生方へメッセージをお願いします。

安川先生:家庭科の先生は、一校に一人ということが多いと思います。私は、こちらの学校に来てから、全教科の先生方の授業を見学させてもらいました。本当に勉強になります。また、私立学校で講師をしていたときは、複数の教員がいたので、知恵を出し合っていました。そのときに学んだことがきっかけで、本校の調理室をユニバーサルデザインに変えました。誰が見ても、どこに何があるかがすぐにわかるように、時間をかけて整理しました。衛生マニュアルを一緒につくった先生方からも、アドバイスをいただいたりしています。
コロナも5類に移行し、マスク着用は個人の判断に任せられるなど、日常も変わりつつあります。今年も感染対策に気を配りつつ、実習をもっとおこなっていきたいと考えています。お互いアンテナを張りながら、頑張りましょう!

※西早稲田中のブログはこちらよりご覧いただけます。


 

家庭分野教科書 – 教育図書 (kyoiku-tosho.co.jp)

取材/武石暁子(教育図書編集部)


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