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生徒同士が高め合える家庭科の授業でのICT活用法

GIGAスクール構想により、生徒一人一台端末が普及してきています。しかし、デジタル機器をどのような場面で使い、どのように使わせるかは学校や教師によってさまざまです。

東京学芸大学附属高等学校で家庭科の指導をおこなう桒原(くわばら)智美先生は、一人一台端末になる以前から、学習アプリの「ロイロノート・スクール」を中学校で取り入れてきました。現在の赴任先の高校では「Google Classroom」を使用。桒原先生は、家庭科の授業時間数が減り、短い時間で深い学びにつなげていくためのツールとして、デジタルは大いに役立つといいます。中学校・高等学校での発達段階に応じたデジタル端末の活用方法についてお聞きしました。


桒原 智美(くわばら ともみ)先生

東京学芸大学附属高等学校で家庭科の指導をおこなう。今年5年目。前任は、同附属世田谷中学校にて、20年ほど家庭科の指導にあたる。

研究発表に「災害を意識した生徒による指導案作りの授業」「コロナ禍における現代的課題を含む授業における授業形態による生徒の意識変容についての考察: SDGs 関連授業の実践をふまえた授業形態の考察」「災害時を意識した住まいと暮らし」など。


 

家庭分野教科書 – 教育図書 (kyoiku-tosho.co.jp)


先輩の作品データが後輩のやる気を刺激する(中学校での実践)

編集部:本日は、家庭科の授業などでデジタル端末を長年活用されている桒原先生に、どんな方法でお使いになられているのかをお聞きしたいです。

桒原先生:今は生徒一人一台端末が当たり前ですが、以前は班で1台ずつ、話し合いのときなどに使っていました。デジタル端末やアプリのよさは、共有や発表、情報の蓄積がしやすいところです。中学校で、幼児に役立つおもちゃづくりを題材にしていたことがありました。代々、同じ学年におこなっていたので、授業の最初に、先輩の作品を後輩にデータで共有すると、「昨年の文化祭で見たことある!」などの声があがり、やる気が湧いてくるようでした。私がどれだけ口頭だけで「こんなによかったんだよ」と説明するよりも、写真などでリアルなものを目にする方が、生徒の反応は断然いいです。

出来上がったらおもちゃの作品は、写真を撮り、どこを工夫したかを音声で吹き込み、さらに動画にして使い方を紹介してもらいます。作品からだけではわからない、彼ら、彼女らなりの工夫を聞くこともできますし、毎年楽そうにプレゼンテーションする姿が印象的でした。

おもちゃづくりの情報収集のようす

幼児のおもちゃ作品/製作前に先生は「大切なのは大作をつくることではなく、工夫した作品をつくること」と生徒に伝えている。

詳しい授業の内容はこちら

編集部:班での話し合いのときに、端末を使った有効な方法はどのようなものですか?

桒原先生:「班ごとに提出」という場面では、教室の前の画面に提出されたものを映し出すようにしているので、他の班が提出すると「急いで出さなきゃ!」となるようです。目の前の写真を撮って他の班へ伝えたり、逆に教えてもらえたり、教員と生徒というよりは、生徒同士が学び合える点がよい※です。話し合いの場面では、一人一台よりも班で1台のほうが、やりやすかったです。

※育成を目指す資質・能力と個別最適な学び・協働的な学び:文部科学省 (mext.go.jp)

高校ではGoogle Classroomなどで意見共有

桒原先生:中学のときは、ロイロノート・スクールでしたが、高校ではGoogle Classroomなどを使用しています。1学期は、家で調理実習をしてSDGsに関わる取り組みについて記入してもらいました。この入力データをソートすれば、クラス順、出席番号順に並べ替えることができます。試験範囲のプリントに答えの赤字を入れたデータや調理実習のつくり方のオリジナル動画もGoogle Classroomへアップします。生徒の意見が入力されたデータをまとめて見ることができるのは便利ですし、「こんな意見が多かった」「先輩の時は、こういった意見があった」などと共有することができます。生徒の興味はそれぞれですが、興味のある子にとっては、さらに学習を深められると思います。個人差にも対応できると感じています。

エプロンの布を生徒一人一人に選ばせるときも、Googleの入力フォームを使うと便利です。エプロンとポケットの種類をそれぞれ選ばせると何十通りもパターンが出てきますが、データを集計して注文することができます。

エプロンの入力フォームの画面

編集部:紙のプリントで書かせるときと、データで記入させるときの違いは何ですか?

桒原先生:意見を書いてもらうときは、データのほうがよいです。紙のときは、観察して事実を書くときに向いていると感じます。たとえば、手洗いをしてどこに菌が付着しているのかを手のひらの形をしたイラストに塗ってもらうときや、米を10種類用意してその様子を記入するときは、紙のプリントを使いました。

採点には「百問繚乱(りょうらん)」を使用

編集部:成績処理はどのようにおこなっているのですか?

桒原先生:学校全体で「百問繚乱」を使用しています。「ブラウザ型採点システム」で、スキャニングした解答用紙を手元のPCで簡単に採点できます。解答用紙を取り込んだあと、キーボードの「z」などのキーを押すと、〇×をつけることができます。複数の生徒の同じ設問の答えを一覧表示して、一気に丸つけすることもできます。紙での採点のときは、何万個の〇をつけていたのでいつも手が腱鞘炎になっていたほどでした。こちらの採点方法の方が早くできますし、便利です。

今後は今までの実践を広め、共有し合えるようにしたい

編集部:今後は、どのようなことをおこなっていきたいですか?

桒原先生:私は中学と高校の司書教諭でもあります。図書館での授業は、さまざまな情報から選ぶことができますし、情報の幅も広がってきます。つねに生徒に興味・関心をもってもらえるような環境をつくり、選択できるものを用意してあげたいです。

研究資料に関しては、いろいろなところで発表した資料や、積み上げたものがそのまま埋もれてしまっている、ということが結構多いかもしれないと感じています。ですから、そういった資料をうまくまとめて、若い先生方などにも共有していけたらいいなと思っています。どんどん使えそうな資料は使っていただけると嬉しいです。


家庭分野教科書 – 教育図書 (kyoiku-tosho.co.jp)

取材・文/武石暁子(教育図書編集部)


桒原先生の教育研究の詳細は、「東京学芸大学リポジトリ」「先生のための授業に役立つ学校図書館活用データベース」で見ることができます。


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