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多くの学校で「キット教材」を活用されていると思います。「キット教材」はあくまで題材の素材であり、技術分野がもつ教育的な価値付けをして、はじめて題材になります。この記事を参考にして、「キット教材」に学習価値を付加して生徒に技術で学ぶ楽しさを味わう題材にしてはいかがでしょうか?
中村祐治
元横浜国立大学教授。公立中学校4校で技術分野の教鞭を執る。その後、東京都の教育委員会や教育研究所及び区や市の指導主事、公立中学校2校と横浜国立大学附属中学校の校長を歴任。授業の直接的な指導の場を離れた現在も、授業目線・生徒目線の現場主義を大切にし、現場主義に役立つ問題解決型の授業づくりや学習評価などの研究課題に取り組んでいる。
目次
教材のカタログを見て、どの教材にしようかと迷われている先生方、選び方の基本を考えてみませんか? これから理想的な選び方を述べますが、それを全て満たすことは出来ないでしょう。そこで、理想的な選び方を踏まえて、どこまで妥協した着地点を求めるかがポイントになります。もちろん、できる限り理想に近いことが良いのですが!
理想的な「キット教材」の選び方のポイントは次の5つです。
その1:技術分野の目標を達成できるか?
分野目標の趣旨である、「(1)基礎内容の理解、(2)問題解決能力、(3)実践的な態度」の3つの目標が達成できるかを検討します。分野目標の達成がゼロに近い場合は、選ぶ対象から外します。
その2:学習指導する学年に相当しているか?
1年次は、技術の授業に慣れること及び基礎内容の理解を重視し、学年進行につれ「問題解決」の度合いを高めていけるかを検討します。
3年次は、学年進行につれて問題解決のレベルを上げていくことと、授業時間との兼ね合いをどうするかを考慮します。
その3:技術室にある設備や工具で対応できるか?
「キット教材」は標準的な施設・設備での製作を想定しているので、この条件はクリアできると思いますが、念のため説明書で確認します。工具がない場合でも、「キット教材」が理想の着地点に近ければ、工具を新たに購入するのも方法の一つです。
その4:生徒が作品に興味・関心を示し、作品を生活に役立てることができるか?
完成した製作品が家庭や生徒の身の回りで活用できるかを検討します。技術分野は他教科と違い、生活に活きる力を養う実践的な教科ですから実用性が必須条件です。
その5:少ない授業時数で完成させることができるか?
生徒の作業能力で実習時間内に完成出来るかを検討します。赴任直後で生徒の実態が把握できない時は、無難な着地点を求めざるを得ないでしょう。
以上のように、カタログからの「キット教材」の選び方を検討し直すだけで、授業が生き生きとしてくると思います。
例えば木材では、決められた板材から数パターンのラックが製作できるキットがあります。これらを使用する際、「好きなラックを自由に選んで製作しよう!」では、作品が完成しなかったり、授業時数が足りなくなったり、生徒が出来上がった作品を家に持ち帰らず、学校に放置してしまったりすることになります。ここでは、生徒に選ばせるポイントを示します。
その1:選ばせ方の学習指導に配慮する
漠然と「この中から好きなものを選んでいいよ!」というだけでは、技術分野のねらいから外れる恐れがあります。本来は、①使用目的や使用条件、②授業時数や使用工具などの制約条件を踏まえ、条件を満たすものを選ばせるのが原則です。
しかし、はじめからこの条件を示すのは味気なく、生徒のやる気をそぐ心配があります。そこでまず、「自由に」という「魔法のことば」を使い、「好きなものを自由に選んでいいよ!」と投げかけます。次に、「でもね、○○時間でつくれるかな?」「技術室にある工具や機械を使って」と条件を示し、絞らせていきます。
その2:完成させた製作品の活用方法を考慮する
生徒が完成させた製作品を持ち帰らず学校に置いていくのは、製作品の活用方法を考えていなかったためであることが多いと思われます。
「キット教材」で何を製作するかを選ぶ時に、家庭のどこで活用するか「問題発見」を考えてから選ばせることです。そして下の例のような、完成作品の活用例の写真を掲載したレポートを提出させ、掲示すると良いでしょう。
活用例の写真を掲載したワークシート例
ポイントを2つ紹介しましたが、これ以外にも工夫例はあると思います。選ばせ方を工夫するだけで、技術の授業の雰囲気が変わってきます。「生徒への選ばせ方」にいろいろチャレンジしてみませんか?
ここでは、生徒が満足する「キット教材」にするための工夫例を紹介します。
その1:完成させた製作品の用途を考えさせる
「キット教材」の製作品見本を提示するとき、「生活の問題の何が解決できるか」という具体例を示します。自分の好みではなく、家庭などでの使用目的を考えて自分が満足するものを選ぶようにします。参考資料1にワークシート例を示します。
その2:言葉がけの工夫で生徒の満足感を促す
教師の言葉がけは、生徒が学習に意義を感じ、学習活動に対する満足感や達成感を促す、大切な要素です。「上から目線」ではない主体的な学習を促す言葉がけにすると、生徒が学習活動に満足感を味わい、主体的に行動できるようになります。
主体的な学習を促す言葉がけの例
その3:学校独自のワークシートにする
「キット教材」に添付されているワークシートをそのまま使うのでなく、学校独自のワークシートにすることで、生徒は自分の学校の題材として受け取るようになっていきます。生徒氏名欄に所属する学校名を入れるのも、工夫例の一つです。(参考資料1参照)
これ以外にも工夫例はありますが、教師自身が「キット教材」をそのまま利用するのでなく、「キット教材」+「あなたの学校のあなたの授業らしい学習活動の工夫」をすることで、「キット教材」があなたの学校だけの題材となり、生徒にとって満足できるものになっていきます。
最近は、「問題解決」を意識した「キット教材」が開発されています。しかし、学習指導する教師が「問題解決」型の授業を意識しないと、習得型の「キット教材」になってしまいます。「キット教材」で「問題解決」に取り組むための工夫例を紹介していきます。
その1:「問題の発見」と「課題の設定」を逆にする
「キット教材」を使用した時、『この題材でどんな「問題が解決」できるかな?』と手順を逆にして、「『課題の設定』→『問題の発見』」とすることで、「キット教材」でも「問題の発見」を位置付けることが出来ます。
その2:作業手順を実物で提示し、習得型から脱皮する
丁寧に一から十まで作業手順を教える「習得型」でなく、生徒が自ら学習活動する「問題解決」型の授業形態になるよう、製作などの作業手順を実物で提示します。生徒は、それを見ながら自分で作業を進めるようすることで「問題解決」型の学習展開になっていきます。
作業手順を示す例。上はA「材料と加工の技術」、下はC「エネルギー変換の技術」
その3:手順の一部を「問題解決」型にする
学習活動の流れの全てを「問題解決」型にするのではなく、次の事例のように、問題解決の流れの一部だけを問題解決型にします。例えば、仮組み後に「組み立て」に関する問題を発見させ、そこで発見した問題を実際の組み立てで解決していく方法です。
仮組み立てで問題を発見
「キット教材」はあくまで題材の材料や素材であり、生徒自身が問題を解決していく意識を持たせる授業展開を心掛けることが大切です。
ここで紹介した例以外にも、各先生方が知恵を絞って工夫してみてはいかがでしょうか? 教師自身が学習指導を工夫することが、生徒の「問題解決能力」を伸ばすことにつながると思います。
「キット教材」は添付の説明書を見てつくることから、だいたい同じ作品が出来て、完成度も皆同じようになるために、学習評価をするのに困るという声を聞きます。
下の例を参考にして、学習評価の方法を工夫してはいかがでしょうか?
その1:生徒が「思考・判断・表現」できる余地のあるキット教材を選ぶ。個々が工夫して作品をつくるので、「思考・判断・表現」の学習評価が難しいと感じるでしょうが、工夫点に注目すると評価しやすくなります。
その2:「問題解決」する評価の観点である「思考・判断・表現」の要素を、学習評価する項目に「工夫」や「製作時間」などとして組み入れる(下表参照)。ワークシート例は、参考資料2に示します。
*留意点は、工夫する内容が「技術」的であり、「美術」的にならないことです。
「思考・判断・表現」学習評価のポイント
その3:キット教材に添付された学習評価の資料を、「何の内容」を「どう学ぶか」と、学力形成の流れの基本を踏まえながら、学校独自の書式などを決めたワークシートを作成していきます。一度学校独自の書式を決めておけば、後は著作権に配慮しながら、教材の内容をコピーアンドペーストすることで、労力をあまりかけずに学校独自のワークシートを作成することが出来ると思います。参考資料3を参考にして自作すれば、「キット教材」が、あなたの学校独自で学習評価できる題材になってきます。また、各「キット教材」に添付された様々な書式のワークシートでなく、統一した書式のワークシートを使うことで、生徒にとっては慣れた書式で学習活動がふり返りやすくなるメリットもあると思います。
「キット教材」を単に組み立てて完成させるだけの授業では、工作教室と同じになってしまいます。上記で述べた工夫例を参考にして、あなたの学校のあなたの授業に合う、「キット教材」を利用した学習評価を工夫してみてはいかがでしょうか? そして、技術分野がもつ教育力である「技術を工夫し創造していける力」や「技術の問題を生活から発見する力」などが生徒に身に付くように工夫しましょう。
<参考図書:授業づくりKIMEわざ P46-47、授業づくりSUGOわざ P18-23>
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