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中学校 技術・家庭科 NEWS

中学校技術・家庭 技術分野「問題解決」のQ&A


学習指導要領の「目標」や「内容」に示された「問題解決」は捉えどころがなく、皆さん、何をどう指導したらよいか迷われているのではないでしょうか。また、学習内容を指導するのに慣れている皆さんは、「問題解決」という学習方法に戸惑いがあるかもしれません。この記事を参考にすることで、技術分野で「問題解決」を学習指導する醍醐味を感じられるようになってもらえればと思います。


中村祐治
元横浜国立大学教授。公立中学校4校で技術分野の教鞭を執る。その後、東京都の教育委員会や教育研究所及び区や市の指導主事、公立中学校2校と横浜国立大学附属中学校の校長を歴任。授業の直接的な指導の場を離れた現在も、授業目線・生徒目線の現場主義を大切にし、現場主義に役立つ問題解決型の授業づくりや学習評価などの研究課題に取り組んでいる。


技術702・703技術分野教科書


目次

技術・家庭の技術分野の「問題解決」のイ・ロ・ハ

他教科とは異なる、技術分野固有の「問題解決」の特徴をイ・ロ・ハで見ていきたいと思います。

:生活上の問題を扱う

技術分野は、身近な生活や社会にある「不便だ」「もっと便利にしたい」などの問題を発見し、技術を手段として、自分や社会のため解決していく課題を設定します。これに対して他教科は、教科内の問題を扱います。技術分野で扱う「生活」とは、主に、家庭や学校生活などの身近な社会生活ですが、話題や事例として、産業生活を扱うことも考えられます。「生活」の範囲が、人間生活だけでなく、地球を取り巻く自然環境を含めた広い意味であることに目を向けることが大切です。

:技術の手段を使う

技術分野は、問題解決していく手段として、「A 材料と加工の技術」(以下、「A」)、「B 生物育成の技術」(以下、「B」)、「C エネルギー変換の技術」(以下、「C」)、「D 情報の技術」(以下、「D」)、の「……技術」を使うのが特徴です。そのためにはまず、技術の手段に対する「知識・技能」を学ぶことが大切になります。

本来は、様々な技術の手段を組み合わせた手段で問題解決しますが、技術分野では、「A」「B」「C」「D」それぞれの技術の手段内で、1年次からスモールステップで問題解決していきます。

:設計・計画通りの具体物を生み出す

技術分野の特徴は、問題解決した結果として、設計・計画した通りの生活に必要な具体物を生み出すことです。他教科は、頭の中にある課題を、言語・身体・芸術などの活動により真理・原理の検証・確認、科学的な見方や考え方及び豊かな情操などのため、解決結果を出しますが、技術分野は図面や計画通りの成果を生むのが特徴です。

教科書のガイダンスのページなどを活用して、上記に示した3点について、技術を活用する具体例を示しながら説明するとよいでしょう。

また「技術」は、設計・計画したものを「技術」の手段を使って、設計・計画した通りの作品をつくるという、美術の作品や理科の実験との違いの例を、適切な場面で軽く説明し、他教科との違いを説明したりします(深掘(フカボリ)!参照))

深掘(フカボリ)!
<関係の深い教科との「問題解決」の違い>

 

必読! 「問題解決」は、メリハリある学習指導がカナメ

「問題解決」の学習指導は、生徒自らが主体的に学習に取り組むよう、「学力の3要素」(参考資料1を参照)に応じた、メリハリある授業展開がカナメになります。

☆三方向からのメリハリある学習指導が「問題解決」のカナメ

「問題解決」に必要な「知識・技能」は、「上」からしっかり習得させ、「問題解決」する「思考・判断・表現」は、「横」から生徒自らが主体的にする個別学習を支援し、「問題解決」する「実践的な態度(参考資料1を参照)」は、「下」から導入することで学習意欲を喚起し、まとめで学習成果の生活での活用を促し刺激する、と三方向からのメリハリある学習指導がカナメです。

☆一人三役でメリハリある学習指導がカナメ

下図の示すように、教師が一人三役の「上」「横」「下」からの三方向から、メリハリある学習指導をします。

☆特に「横」からの学習指導がカナメ

特に、問題解決の学習活動では、「横」から「思考・判断・表現」する生徒の主体的な「問題解決」する学習活動への個別支援の工夫が大切です。「横」から個別援助する工夫のポイントは、①待ちの姿勢で、頃合いを見て助言する(頃合いのタイミングがカナメ)、②短い言葉の「これを参考にしたら」などの適切な援助資料で助言する、③生徒目線より低い後ろの「横」位置から個別支援する、などです。

☆「下」からの学習指導の重視もカナメ

問題解決の学習指導は、生徒一人ひとりの主体性の発揮がカナメになります。

授業の「導入」では、問題解決する技術へのワクワク感などを持たせる関心の喚起である「下」から刺激することが出来るかが、次以降の主体的な問題解決の学習活動へ影響します。

授業の「まとめ」では、学習成果を生活に生かすため、学習活動の成果を撮影した映像教材を大型ディスプレイで紹介するなど、様々な方法で生徒の「実践的な態度」への「下」からの気持ちで、心情を刺激します。

授業の問題解決の「展開」での「横」でも、「下」的な要素である励ますなどが必要です。

「上・横・下」の三方向からの学習指導を少し意識して、メリハリある学習指導を意識して若干のトレーニングをすれば、誰でも問題解決の学習指導を上手く展開できるようになります。

参考資料1 「学力の3要素」と教科目標との関係

「学力の3要素」を、下記に示すよう、技術・家庭科の目標(1)(2)(3)と照らして、目標(1)を「知識・技能」、目標(2)を「思考・判断・表現」、目標(3)を「生活を工夫し創造しようとする実践的な態度(以下「実践的な態度」と称する)」を主として用いています。

○「知識・技能」の教科の目標

(1) 生活と技術についての基礎的な理解を図るとともに,それらに係る技能を身に付けるようにする。

○「思考・判断・表現」の教科の目標

(2) 生活や社会の中から問題を見いだして課題を設定し,解決策を構想し,実践を評価・改善し,表現するなど,課題を解決する力を養う。

実践的な態度」の教科の目標(評価の観点では「主体的に学習に取り組む態度」)

(3) よりよい生活の実現や持続可能な社会の構築に向けて,生活を工夫し創造しようとする実践的な態度を養う。

押さえよう! 「問題解決」5つのポイント

「問題解決」の学習指導や学習評価は、習得型の一斉指導で一斉学習とは違った感覚が必要になります。次に示す習得型とは違う、「問題解決」型の学習指導や学習評価のポイントをつかめば、生徒が面白いほど学習に取り組むようになります。

ポイント1:「問題解決」の手順や学年進行を大切にする

「問題解決」の学習指導は、「問題の発見→課題の設定→設計・計画→製作・育成・制作→成果の評価」の手順を踏むのが大切なポイントです。手順については、「中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 技術・家庭編」のP23を参照して下さい。

しかしこの手順は、生徒にはピントこないと思われるので、生徒向けには、具体例を示すなどしていく必要があります。また、授業展開の際は、内容「A」~「D」まで同じ手順を踏むようにします。教育図書の教科書では、「問題解決」の手順を、生徒向けに具体例を示しながら、わかり易く説明しています。

次に学年進行ですが、いきなり「自由に問題解決していいよ!」と言っても生徒は戸惑います。学年進行で制約条件の幅を少しずつ広げていくことを大切にしたいです。例えば、「1年次では、指定した設計・計画を改良する」、あるいは「加工する機械や工具や道具を自分で選ばせる」。2年次では、「少しだけ自由に設計・計画するか、いくつかの例から選ばせる」。3年次では、「ある程度に自由設計・計画する」などのように1年次から徐々に制約条件の幅を広げるようにしていきます。

ポイント2:「学習評価」する教師の姿勢を大切にする

「問題解決」の学習評価も工夫が大切です。特に、問題解決していく観点「思考・判断・表現」と、「主体的に学習に取り組む態度」の学習評価がカナメになります。これについては、「学習評価のQ&A」を参照して下さい。

学習評価する教師の姿勢は、主体的に問題解決する学習活動に大きな影響を与えます。大切なことは、「問題解決」出来なかった=失敗した時こそ「問題解決」する力が育つ、という温かく見守る姿勢を示すことです。また、上手く問題解決出来た時は、さらに発展するために、どうするのか具体策を求める姿勢を示すことです。また上手くいった時は、大げさでなく、さりげなく褒めることも大切です。

こうした教師の姿勢などを「隠れたカリキュラム(ヒドゥンカリキュラム)」といい、問題解決の学習指導に大切な要素です(深掘(フカボリ)!参照))

ポイント3:学習意欲を喚起する「魔法のことば」を使う

問題解決の学習では、生徒のやる気の喚起が大切です。まず、授業の導入や前半では、「自由に」などのことばを使ってやる気を喚起し、その後に、制約条件などを示していくようにします。また、まずは認めたり励ましたりするなどして意欲を喚起し、次に、条件を示したり助言したりするという順序性が大切です。

例えば、「自由に選んで」→「この中から」、「自由に」→「ここだけは○○して」、「それいいね」→「だけど○○するともっといいよ!」、「失敗してもいいよ」→「修正すれば大丈夫だから」などです。

まず、やる気を喚起することばがけ、次に、条件を示すという順序が、「問題解決」の大切なポイントです。

ポイント4個別学習の割合を多くする

1~100まで教え込む習得型の授業展開から抜け、個別学習する「問題解決」型の授業展開の割合を多くしていくようにします。

また、個別支援では、「横」からの姿勢で、生徒目線より位置で個別支援するようにします。「授業運営のQ&A」の「2 必読! 授業展開の4つの要素」を参照して下さい。

もちろん、必要な基礎的・基本的な内容を押さえる習得型は必要ですが、その割合を出来るだけ少なくしていくのがポイントです。

ポイント5:生徒同士の学び合い活動を取り入れる

「問題解決」の学習活動では、意図的な生徒同士の学び合いも大切ですが、自然発生的な学び合いが生まれるような授業づくりを心掛けたいものです。自然発生的な生徒同士の学び合いは、仲間同士で気軽に相談できる「下」からの目線に近い活動です。

授業運営のQ&A」の「5 どうしたらいい? 生徒同士の学び合い」を参照して、生徒同士の学び合い活動を取り入れるようします。

以上、5つのポイントを述べてきましたが、実際の学習活動から指導手法を学ぶのが一番です。地域で「問題解決」を実践している先生の授業見学をして、「問題解決」の学習指導のポイントを掴んでみてはいかがでしょうか?

深掘(フカボリ)! <隠れたカリキュラム(ヒドゥンカリキュラム)>

隠れたカリキュラム(ヒドゥンカリキュラム)とは、学校が公的に示す教育課程であるカリキュラムに相対して用いられる、無意図的・無意識的な働きかけの概念です。技術分野の問題解決の範疇では、次のような内容が想定されます。

○生徒が感じる、教師自身が無意識的に醸し出す雰囲気(生徒の学習意欲の喚起を左右する)

○授業を受ける生徒集団が醸し出す雰囲気

○主体的な活動に影響を与える掲示、整理整頓及び技術室などの学習環境

主体的な学習を重んじる「問題解決」では、隠れたカリキュラム(ヒドゥンカリキュラム)が、学習活動に大きなウエイトを占めると考えられます。

これですっきり! 「問題解決」で、豊かな発想を育むポイント

「問題解決」の学習活動は、生徒の主体的な活動を重んじて、生徒の豊かな発想を育むことができれば最高です。それらのポイントを示していきます。

「問題の発見」を大事にするのがポイント

技術分野の「問題の発見」ですから、技術分野の目標(2)に「生活や社会の中から技術に関わる問題を見いだして」とあるように、「技術に関わる」に限定した範疇の「問題の発見」を問いかけます。限定した「問題の発見」ですが、「問題解決」の始めに位置しますので、学習意欲を喚起するのが学習指導のカナメとなります。ここが上手くいけば、「問題解決」の学習指導はスムーズに流れます。例えば、乱雑な机の写真の具体例(参考資料2)を見せ、「技術の力」で整理整頓して問題解決する作品のイメージが湧くようします。

「問題の発見」から「課題の設定」をスムーズにするのがポイント

具体的な技術の例を示して、「問題の発見」と「課題の設定」とのギャップを、「技術の力」で縮めていくことを認識させることが大切です。例えば、使用する工具や機械の技術の例を見せ、整理整頓して問題解決する作品を、「技術の力」を使ってつくればよいかなどを考えさせます。「課題の設定」の段階で、授業時間や材料や工具や機械の制約条件をごく自然に示していく方法も考えられます。

また、参考資料2に示した「技術の力」で整理整頓する作品を作る例を示す方法もあります。参考資料3には、「問題の発見」と「課題の設定」の例が示してあります。

習得型オンリーから主体的活動型の授業スタイルにするのがポイント

一斉指導・一斉学習の習得型授業オンリーから抜け、いかにして生徒一人ひとりの豊かな発想を生むか、授業展開を工夫することです。そのためには、一方的に教師から情報を提供し、生徒が一方的に情報を受けるだけの授業スタイルから、生徒とのやり取りを取り入れた双方向の授業スタイルにしてみてはいかがでしょうか?

普段から「問題解決」を意識する環境づくりがポイント

技術室に先輩の完成作品例や、設計・計画例などを展示したり、壁面に作品のふり返りレポートを掲示したり、技術に関する話題の新聞記事を掲示したりして、「問題解決」に必要な豊かな発想を生む環境づくりを心掛けます。

設計・計画を援助する個別支援資料を準備するのがポイント

設計・計画の学習活動には、生徒の主体性を尊重しつつ、様々な個別支援資料が必要です。設計・計画例をさりげなく示すだけでなく、接合方法などの部分例の参考資料など、個別支援資料を準備すると、設計・計画が具体化できるようになります。

「問題解決」型の授業では、豊かな発想を主体的に具体化していくための個別支援する資料が重要なキーになります。

参考資料2

参考資料3 「問題の発見」と「課題の設定」の例

どうしたらいい? 「問題解決」での教科書の使い方

限られた授業時数で、「問題解決」の学習指導をするには、授業時間が足りなくなると心配されるなど「問題解決」の学習指導で困った方は、次に示すように教科書を上手に活用して、学習を効果的に進めてはいかがでしょうか?

やる気の喚起を教科書の「見つける」を活用して意識させる

問題解決の主体的な学習には、やる気の喚起が重要です。教育図書の教科書にある「見つける」を使い、学習の動機づけをサラッとします。

「問題解決」の手順を、教科書を活用し意識させる

教科書の、「問題解決」手順のどこを学習しているかを常に意識させるのがポイントです。「問題解決」の手順を理解することで、「問題解決」の学習をスムーズに進めるのに役立ちます。

「問題解決」の理論を、教科書を活用して押さえる

題材例をつくって終わりでは、技術分野を学ぶ意味がありません。題材例(*1)の「実践的・体験的な活動」の「理論的な内容」の裏づけを、教科書の問題解決の流れの本文を使って押さえることが、技術分野を学ぶために不可欠です。

「学力の3要素」の関連を、教科書を使って意識させる

学習評価では、「評価の3観点」を互いに独立させますが、「問題解決」の学習指導では、教科書を活用して「学力の3要素」のつながりを意識させるのがポイントです。例えば、「思考・判断・表現」する「問題解決」に必要な「知識」と「技能」とを連動させるため、教科書の参考ページを板書するなどして知らせると、学習がスムーズに進みます。(教育図書の教科書は、「技能」が別冊になっています。)

また、「実践的な態度」は、「問題解決」での「思考・判断・表現」や「知識・技能」が必要であることを認識させます。「学力の3要素」につながりをもたせることで、実際の生活に役立つ「問題解決」力になっていきます。

○ガイダンスでは、教科書を使って「技術」を意識させる

技術・家庭「技術分野」は中学校に入学して初めて学習する教科です。教科書のガイダンスのページなどを活用して、学ぶ内容、技術の内容、社会で果たす技術の役割などについて、身近な具体例を示しながら説明するとよいでしょう。

生徒に将来の生活で遭遇する新たな技術へ立ち向かう学力を身につけられれば、技術分野の教師冥利を感じることができるのではないでしょうか。

*1:教育図書は、「題材例」ですが、東京書籍は「問題解決例」、開隆堂は「実習例」としています。

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