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中学校 技術・家庭科 NEWS

学習情報の伝え方のQ&A

皆さん、授業で必要な学習情報のアナログとデジタルをどう使い分け、どう伝えたらよいか考えたことはありますか? 最近は、従来、主流であった板書からデジタルでの情報伝達が日常的に使われています。「Web版学習情報のQ&A」でアナログとデジタルでの学習情報を授業でどう使い分けるかの考えるきっかけを掴んで頂ければうれしいです。


中村祐治
元横浜国立大学教授。公立中学校4校で技術分野の教鞭を執る。その後、東京都の教育委員会や教育研究所及び区や市の指導主事、公立中学校2校と横浜国立大学附属中学校の校長を歴任。授業の直接的な指導の場を離れた現在も、授業目線・生徒目線の現場主義を大切にし、現場主義に役立つ問題解決型の授業づくりや学習評価などの研究課題に取り組んでいる。


技術702・703技術分野教科書


目次

1 「学習情報の伝え方」のイ・ロ・ハ

技術分野の学びに必要な学習情報は、指導計画にある学習指導のねらいや内容にそって、学習情報の伝え方を上手に使い分けて、生徒に伝えていきます。「学習情報の伝え方」のイ・ロ・ハを示してみます。

イ:学習情報は、アナログとデジタルの特徴を見極める

学習情報は、学習内容や授業展開の時期により、次に示すように、アナログ(アナログ化された学習情報)かデジタル(デジタル化された学習情報)がもつ特徴を見極めて伝えるようにしていきます。

○アナログで学習情報を伝えるのが有効である場合

・学習活動を通して押さえたい、授業のねらい、学習手順や活動内容などの学習情報は、アナログ手段の「板書」が有効です。

・「知識・技能」、「思考・判断・表現する問題解決」及び「実践的な態度につながる社会の発展と技術」の普遍的な内容の背骨となる根幹を学ぶための学習情報は、アナログの教科書が有効です。

・安全指導、工具や機械の使い方、技術に関する社会や産業の学習情報は、アナログなどが有効です。

○デジタルで学習情報を伝えるのが有効である場合

・アナログの教科書の学習情報を補完する時は、二次元コード(QRコード)のデジタルが有効です。

・「技能」などの動きを提供する学習情報は、二次元コード(QRコード)などのデジタルの手段が有効ですが、概要や全体像を知るときは、アナログである教科書(教育図書の場合「スキルアシスト」)が有効です。

・最新の「技術」に関する学習情報は、様々なメディアから得たデジタルが有効です。

・生徒同士の互いの意見交換や動画で説明した方が理解できる学習情報は、デジタルの手段が有効ですが、話しあった結論はアナログかデジタルのワークシート、自分の考えなどを学級全体に示す時ときは、アナログの「板書」が有効です。

 

ロ:「学力の3要素」に応じてアナログとデジタルを使い分ける

  「学力の3要素」のそれぞれの学力に応じて、下に示す例を参考にして、アナログかデジタルの学習情報がもつ学習特性を見極め、上手に使い分けることが大切です。

○知識

○技能

*日頃から常に心掛ける必要がある安全に関わる学習情報は、機械などの前や技術室前面の「板書」の上など技術室前面にアナログで掲示する。
(『5:どうしたらいい? 「技能」の学習情報の伝え方は?』参照)
なお、安全に関しては、学習指導要領解説「技術・家庭編」の「3 実習の指導」に示されている内容を参考にして下さい。

○思考・判断・表現

○主体的に学習に取り組む態度

 

ハ:学習情報は生徒との双方向を大切にする

教科書の1章の習得内容の学習情報は、「話したはずだけど、聞いていなかったの!」のように生徒へ伝えたつもりでは、学習効果が上がりません。生徒からの反応を読み取って、伝え方の速度や強弱・内容・時間などを変化させる双方向の授業展開により、はじめて血の通う授業展開が出来るようになります。もちろん、学習情報は、生徒が興味を持ち、考えさせるように伝える問いかけは、必須条件です。

 

また、教科書の2章や3章の学習課題の提示後の机間支援で、ワークシートの記載内容などの状況を見ながら、全体に必要な助言があれば一斉に小声で支援します。個別支援でつまずきを解消する糸口になるヒントなど、生徒から拾った情報を教師から支援(KR→深堀(フカボリ)!を参照)する双方向も大切にしたいです。

 

さらに、問題解決型の授業では、生徒が困った時に支援するタイミングが大切です。早すぎると生徒は考えないで解決策を知ってしまいますし、遅すぎると生徒が学習をあきらめたり、遊んだりしてしまいます。生徒が困っているタイミングを見極めるのがプロ教師の見せどころになります。

深掘(フカボリ)!
<教師の情報提供による応答(KR)>

①のみの指導から、②生徒の反応状況を読み取り、③応答(KR:Knowledge of result 下記の*を参照)を取り入れる。

*授業での学習者の反応に対して、教師が評価し、その評価結果を教育情報として、言語的・非言語的で、学習者に与えることをKRという。KRには、知的KRと情的KRとがある。

 

2 必読! 「板書」の達人になるための3つのカナメ

チョークだけを使うアナログの「板書」だけから、フラッシュカード、実物や掲示物で学習情報の提供、あるいはデジタルの情報を示すスクリーンして使うなど「板書」は様々な使い方があります。技術室の前面に位置する物体としての「板書」から血の通った教具として学習情報を伝える「板書」にしていくためのカナメを示していきたいと思います。

 

☆授業の基本である学習情報を伝えるのは「板書」がカナメ

「導入」での学習のねらいや実習の作業手順、「展開」での知識の習得を促す内容や「思考・判断・表現」の学習に必要な情報、「まとめ」でのふり返りで、生徒が必ず押さえる必要がある内容を目に焼き付けて押さえるには、技術室の前面にあるアナログとしての「板書」が最適です。「板書」以外の情報手段を用いた場合でも、大切なキーワードだけは、「板書」に提示するようにします。「板書」を使って学習情報の内容を、授業の導入→展開→まとめの進行順序に沿って、次に示します。
(アナログとしての手段は、チョークやフラッシュカード、あるいは実物の提示などがあります。)

☆生徒とやりとりしながら思考速度と合わせて「板書」するのがカナメ

アナログとしての「板書」は、デジタルの情報と違い、生徒と応答しながらの「思考・判断・表現」する思考速度や反応の程度などに合わせて活用していけるのが利点です。

下の部品の寸法を決める時の例のように、生徒とやりとりしながら「板書」に示すことで、生徒の思考速度反応の程度なに合わせることが出来ます。

先生:「ここの寸法を決める時に、考えなければならない条件って何かな?」

反応を見ながら返答を待つ

生徒:「板の厚さかな!」

先生:「板の厚さは、条件に入れる必要があるね」
→「板の厚さ」を板書→「ワークシートに書いておくといいよ。その他は?」

 

☆チョークだけから抜け、多様な手段を活用するのが「板書」のカナメ

チョークだけのアナログだけの「板書」から抜け、デジタル時代に対応した「板書」の有効な活用方法を、次の例を参考にして探ってはいかがでしょうか?

例1:「板書」の一部をスクリーンにして、展開で技能のポイントを「デジタルのプレゼンテーション作成ソフト(PowerPointなど)」で示したり、授業のまとめでワークシートの記載例などを示したりする時に利用します(スクリーンは、大型のディスプレイなどでも可です。)。(写真1)

写真1 スクリーンにする

例2:使用する材料を実物の部品の見本(写真2)、作業工程毎の写真で示した作業工程(写真3)を示します。

写真2 使用する材料の見本


写真3 写真で作業工程を示す

例3:チョークだと表現できない教師による技能の演示、加工の失敗例、作業する服装例、電源・制御・負荷を枠で囲った電気回路図例などは、実物を提示するや板書に示したりします。また、チョークで書くと時間を要する次の例のようなプログラムなどは、デジタルで提示します。


写真4 順次や反復の例

チョークだけを使った「板書」が主役から、多様な「板書」の使い方を含めたデジタル時代を生きる生徒にどう学習情報を伝えていくかを研究してはいかがでしょうか?

3 おさえよう! 学習活動を豊かにする周辺情報をいかすポイント

技術分野は、直接的な学習活動にストレートに働きかける学習情報だけでなく、体験的・実践的な学習活動を豊かにする周辺情報も大切にすることが必要です。周辺情報を上手に授業運営に生かすポイントについて触れていきたいと思います。

 

ポイント1:周辺情報は、五感を生かすのがポイント

生徒が教師の話しを聞きながら、「板書」を見る、教科書を見るだけの直接的な学習情報だけでなく、実践的・体験的な活動を重視する技術分野では、生徒がもつ五感から得る間接的な学習情報を大切にする必要があります。五感から得る「周辺情報」には、生活の場で見聞き観察する、生活にある技術の対象物を実際に触れて見る、テレビや新聞・雑誌、インターネットからの情報から得るなどがあります。直接的な学習情報を核にしながら、間接的な周辺情報をはさむことで、授業展開が豊かになり、学習効果が高まっていきます。

 

ポイント2:周辺情報は、生徒から得るのもポイント

周辺情報は、生徒の何気ないつぶやき、机間支援で得た情報などから拾い、取捨選択して、学習指導に相応しい言葉に組み替えて、学習指導に役立てるのがポイントです。

生徒のつぶやき・机間支援で得た生徒から得た情報には、生徒が心底知りたい学習情報が豊富に含まれています。教科書や教師の「板書」で直接的な学習情報に、そうした周辺情報を加えることで、学習活動に膨らみがでてきて、技術分野の授業が豊かになっていきます。

 

ポイント3:周辺情報は、TVや新聞、インターネットからの情報を加えるのもポイント

技術は、日進月歩で進展し続けています。(特に情報の技術は) 教科書の内容は、不易流行の不易である普遍的な内容を扱っているので、進展する新しい技術に関する周辺情報を加えて学習指導する必要があります。

限られた授業時数で授業運営しているので、直接的な指導の合間に「わさび」を効かすように、「周辺情報」をチョット加えるのがコツです。そうすることで、普遍的な教科書の内容に、進展する技術の情報などの「周辺情報」を加えることで、現実の技術社会に近づけることが出来るようになります。

4 これでスッキリ! 学習情報の「核」を押さえるのがポイント

学習情報は、学習内容の機能に即して、多様な情報源を選ぶことが大切です。しかし、多様な情報手段を選ぶと学ぶ内容が拡散してしまう恐れもあります。拡散を防ぎ、学習のねらいに収束させるのは、次に示すような、学習情報の「核」を押さえる必要があります。

学習情報の「核」は、アナログの教科書でスッキリ

技術分野は、生活に根付いた教材を求める教科なので、生活の場にあるあらゆる事物、TV の放映内容、新聞や雑誌の記事などが教材になり得ます。多くの情報源を利用する時の、学習情報を拡散せずに、普遍的・客観的な根拠の「核」とするのが、アナログである主たる教材の教科書となります。

 

学習情報の「核」は、アナログの「板書」に集約してスッキリ

学習内容のねらいに即して、デジタルかアナログかの特質を踏まえて、情報手段を選ぶことは大切です。しかし、学習情報を拡散させずに、学力を定着させるためには、アナログで情報提供する「板書」への集約を「核」にしたいです。

 

学習情報の「核」は、「学力の3要素」に応じてスッキリ

「学力の3要素」の学力を定着させるには、様々な情報源から得た学習情報を次に示すような「核」を押さえる必要があります。

 

・「知識・技能」の核

「知識・技能」は、教科書の1章で学習して終わりではありません。下の図で示した「習得→活用→理解→概念化」の循環が、様々な生活場面で応用転移できる「知識」の「核」となっていきます。なお、「技能」の基本は1章で学習しますが、具体的な方法は2章で習得します。

その際の学習情報は、学習内容に即したアナログである教科書の太字部分で示された内容や教科書のデジタルの二次元コードの内容などになります。

 

・「思考・判断・表現」の核

「核」の一つ目は、A編~D編のどの編にも共通した「思考・判断・表現」する問題解決の流れの問題発見と課題の設定→設計・計画→製作・育成・制作→評価・改善などのステップです。その際の学習情報は、アナログの教科書、生徒が必要とするキット教材の説明書、教師が準備する様々な設計・計画の支援資料などになります。

「核」の二つ目は、解決する課題を「知識・技能」を活用し、示された制約条件や状況を考慮した解決結果を具体的に生み出す「思考・判断・表現」の学力の構造です。これは、「学習評価のQ&A」 Part2の「1 おさえよう! ペーパーテスト4つのポイント」の②観点「思考・判断・表現」作成のポイントなどに示してありますので、参考にして下さい。

 

・「主体的に学習に取り組む態度」の核

「知識・技能」と「思考・判断・表現」の内容は⑴~⑶ア・イに示してありますが、「主体的に学習に取り組む態度」の内容は示されていません。

「主体的に学習に取り組む態度」に相当する内容に示されていない理由は、下の図に示すように、技術への関心の喚起の種まき以降は、「知識・技能」「思考・判断・表現」「社会の発展と技術の内容」の学習指導の影響を受けて、その裏で、風船が少しずつ膨らむように、育っていく性格があるからです。従って、「核」は、間接的な影響をどう刺激するかになります。チョット難しいでしょうが、「この知識どう使えるかな!」「問題解決ってどう生かすかな!」とつぶやくように実践を刺激する・促すような独り言的につぶやくのがポイントになります。

また、人ひとりの実践していく技術が人間生活と環境への影響の両面から技術を見極めることも「核」となっていきます。その際の学習情報は、実際の様々な生活場面にある技術の活用例になります。

授業展開を豊かにするには、学習のねらいを達成するのにふさわしい学習情報を多くの情報源から選択し「学力の3要素」などの「核」をしっかり押さえる必要があります。是非とも、皆さんは、学習情報を選び抜き「学力の3要素」の「核」をしっかり押さえることができるプロ教師を目指しては、いかがでしょうか?

5 どうしたらいい? 「技能」の学習情報の伝え方は?

「技能」の習得が中心の以前の職業教育でなく、普通教育の技術分野としての「技能」の学習情報の伝え方のポイントを示していきたいと思います。

☆「技能」の学習情報をアナログとデジタルを使い分け伝えるポイントは?

「技能」の学習情報は、アナログである教科書(教育図書は『スキルアシスト』も含む)で扱っている道具・工具や機械の作業全体での役割やイメージを掴む静止画と、デジタルにある技能の具体的な使用動作のコツやポイント動画とを上手に使い分けて伝えることが出来れば最高です。

例えば、アナログでの演示は、生徒の反応を見ながら、リアル感ある方法が出来るのが利点です。デジタルでの提供は、生徒が作業の途中でも必要とする時にいつでも見ることができる利点があります。

アナログかデジタルかは、作業前か過程の提示時期、生徒の体験の有無、危険性の程度、A~Dの技術の種類、学習指導に配当する時間などを考慮して、指導の意図に沿って、最適な方法を選ぶようにします。

 

☆「技能」をアナログの演示で学習指導するポイントは?

演示のポイント①は、生徒がつまずきやすい「技能」で、何回か繰り返せる、ゆっくり動作したり、いったん止めて説明できる、生徒に作業とさせてみて助言するなど、教科書の文字情報では伝わりにくい微妙な動作のポイントが説明出来ることです。例えば、ボール盤などでの演示は、「切りくずは吹かずに、作業後にほうきではく」などを演示で、そうしてはいけない理由を交えて、教科書の文字情報では、伝わりにくい情報がリアル感を伴い伝えることが出来ます。

演示のポイント②は、生徒全員が見えるようにすることです。前の生徒を床に座らせる、次は椅子に座らせる、最後は椅子に立たせるなどして生徒全員が見えるようにするなどを工夫することです。技術室の中央位置で演示すれば、演示者を丸く囲んで多くの生徒が見えるようになります。生徒数が少ない場合は、教卓で演示することが出来ます。

演示のポイント③は、つまずきが多いと感じたときなど、必要に応じて、実際につまずきを解消する方法を「こうするとどうして、うまくいかないのかな?」などと生徒とやりとりしながら示すことです。

 

☆「技能」の学習指導で「板書」を使うポイントは?

「技能」のやり方をどんな方法で学習指導しても、安全、押さえるべき技能のポイント及び作業の条件やルールなどは、「板書」をするようにするとよいと思います。


写真5 授業の条件(ルール)の板書例

☆「技能」の安全に対して配慮するポイントは?

教科書本体にある「安全」マークは、必ず触れるようにするのがまずのポイントです。

安全作業を促す役目をする掲示は、必ず、下の例のように技術室の前面にするか、工作機械の近くにアナログで常時見える掲示物を貼るようにするのがポイントです。

また、安全作業の前提として、日頃常に心掛ける必要がある学習情報は、 機械などの前や技術室の前面にある板書上など前面に掲示するようにします。実習する時に守るべき内容の学習情報は、教科書の該当頁の板書やワークシートへの注意書きを記載するようにします。

さらに、安全指導の前提として、機械類の定期的なメンテナンス、普段からの道具・工具類の整理整頓も心掛ける必要があります。

 

技能は、技術分野の学習の一部の内容ですが、実践的・体験的な活動の中核になります。技能を上手に伝える最大の秘訣は、自分で体験してみることです。そうした点では、技能にたけていないことは、生徒の身になって学習指導できる利点につながります。

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