「家庭分野」×「技術分野」 生成AIを効果的に活用した献立学習

日本女子大学附属中学校 遠山先生

次の学習指導要領では、「情報活用能力」をすべての教科で横断的に育てることが求められています。ここでいう「情報活用能力」とは、情報の技術を使いこなし、自分や社会の課題を見つけて解決していく力のことです。

日本女子大学附属中学校の家庭科では、この力の育成を目的として、家庭科と情報の技術を組み合わせた授業が行われていました。授業では、生徒がデータを活用しながら自分の食生活の問題を見つけ、その解決に向けて生成AIと対話を行うという学習活動が展開されていました。

生徒たちは、自ら課題を発見し、情報の技術や生成AIを対話相手として活用しながら主体的に解決に取り組んでおり、「情報活用能力」の育成が実践されている様子がうかがえました。

※掲載している授業スライドは、NPO法人みんなのコードが作成した教材をベースに、遠山先生が一部改変して使用したものです。

問題解決における課題の設定――理想と現実の「ギャップ」を可視化する

問題解決の第一歩は、現状を客観的に把握することから始まります。

本授業に先立って、生徒たちはまず食品を6つの食品群に分類し、それぞれの食品群の働きや望ましい摂取量について学習しました。続いて、自分が実際に食べた1日分の食事を記録して6群に分類し、各食品群の摂取量が基準を満たしているかを分析しました。さらに、不足や偏りが見られた場合には、基準を満たすためにどのように献立を改善すればよいかを考え、手直しを行いました。

こうした学習を通して、生徒たちは自分の食生活の現状を客観的に捉え、自分の生活における「問題」を明らかにしていました。ここでいう「問題」とは、「理想(あるべき姿)と現実との間にある差」を指します。そのうえで、生徒一人ひとりが問題の解決に向けた具体的な「課題」を設定することから学習がスタートしていました。

AIの活用――AIのしくみを正しく知り、自ら判断する

課題が明確になった生徒たちの前に、相談相手として登場するのが生成AIです。一方で、生徒の中には生成AIを「魔法のように何でも答えてくれる存在」として捉えがちな面もあるため、授業の冒頭では、AIには決まったしくみがあって回答を生成するものであることが説明されていました。生成AIは学習データを元に確率に基づいて文章を生成するため、生成された内容が正しいとは限らないこと(=ハルシネーション)についても説明されました。そのうえで、生成AIから得た情報は必ず人間が内容を確認する必要があることや、個人情報保護などのルールを守って利用することの重要性について指導が行われていました。

(授業スライド)

その理解を深めるための体験的な活動として、授業では遠山先生が「日本で10番目に高い山は何か」と生成AIに問いかけるデモンストレーションが行われていました。生成AIは「仙丈ヶ岳」と回答しましたが、その後、生徒たちが資料や複数の情報源をもとにファクトチェックを行った結果、実際には「大喰岳」であることが判明しました。この活動を通して、生徒たちは、生成AIが一見もっともらしい内容であっても誤った情報を提示することがあるという「ハルシネーション」の特性を具体的に体験していました。

(授業スライド)

(授業スライド)

さらに、生徒たちは自分の「推し」に関する質問についても同様にAIに問いかけ、その回答の正確性を検証する活動に取り組んでおり、AIの出力をそのまま受け入れるのではなく、批判的に吟味する姿勢の重要性を学んでいました。

解決策の構想――AIとの「壁打ち」で納得解を導く

いよいよ、生成AIとの対話を通した解決策の構築に入ります。ここで特に重視されていたのは、一度の質問で終わらず、生成AIとのやり取りを繰り返す「壁打ち」のプロセスでした。

(授業スライド)

生徒たちは、生成AIに対して「野菜をあと100g増やしたい」「2群の食材を多く摂りたい」といった具体的な条件(プロンプト)を提示し、それに基づいて提案された献立を出発点としていました。さらに、その内容を自分の好みや家庭の事情に合わせて修正し、再び生成AIに問いかけるという試行錯誤を重ねていました。

このように、先生一人では対応しきれない生徒一人ひとりの多様な生活課題に対して、生成AIが「個別の相談相手」として機能することで、生徒は納得のいくまで改善案を検討し、より現実的で実行可能な解決策へと磨き上げていく様子が見られました。

外化と評価――解決の足跡を記録し、技術を俯瞰する

磨き上げられた解決策については、ワークシートを用いて「改善度(%)」や「改善アイディア」、「私だけの最強ポイント」などの形で外化する活動が行われていました。

(授業で使用されたワークシート)

生徒は、生成AIとの対話を通して課題を解決した内容をもとに、それを自分の言葉で具体的に記述することが求められており、この過程を通して自らの意思決定のプロセスを可視化することができていました。こうした一連の授業を通して、生徒たちは生成AIとの対話を通じて問題を解決する方法を学んでおり、生成AIという「情報の技術」を媒介として、自らの日常生活の質を主体的に調整し、よりよくしていく力を養っていることがうかがえました。

(授業スライド)

日本女子大学附属中学校の生徒たちは、「情報の技術」を活用することで、自らの人生をよりよく舵取りするための確かな一歩を踏み出している様子が印象的でした。

授業を終えて――遠山先生に聞く

遠山先生によると、本授業では、これまで学習してきた食物に関する知識を生かしながら、自分にとって適切でバランスのよい献立を作成することを目標としていたといいます。その際、前時までの学習で明らかになった自分自身の食生活の課題を改善することに加え、自分の生活スタイルや好みを反映した「自分仕様の献立」にすることを重視しました。

生徒たちはこれまでの学習で、食品群別摂取量の基準を満たした献立を考える難しさを経験していました。そこで今回は、生成AIを「良き相談相手」として活用しながら課題解決を進めることをコンセプトに授業を設計したそうです。ただし、AIに頼るだけではなく、必要な知識は自ら学び、生成された情報はファクトチェックを行うことを前提として、実生活と結び付けて活用することを大切にしたといいます。

一方で、授業を通して新たな課題も見えてきました。遠山先生は、「生徒が判断までAIに委ねてしまう場面も見られた」と振り返ります。そのため今後は、生徒一人ひとりが自分なりの判断基準を持ったうえで、AIの提案と向き合えるような学習が必要だと感じているそうです。

その実現に向けて、AIへの指示(プロンプト)を整理し、構造的に伝える力の育成も重要だと考えています。例えば、「バランスのよい献立を考えて」と漠然と依頼するのではなく、「どのような条件を重視したいのか」「何を改善したいのか」を言語化する力を養うことで、生成AIをより主体的に活用できるようになるのではないかと、次回以降の授業に向けた展望を語ってくださいました。

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