電動工具を安全に活用するための授業づくりのポイント

中学 技術・家庭

次期学習指導要領の改訂に向けて、技術科の実習でも電動工具の活用が求められるようになっています※。

しかし一方で、多くの先生方が「危険ではないか」「本当に中学生に扱わせてよいのか」といった不安を抱えているのではないでしょうか。

今回、飯能市立第一中学校で行われている電動工具を用いた木材加工の実習を見学しました。
実際の教室の様子は非常に落ち着いており、生徒はそれぞれの作業に集中して取り組んでいました。複数の生徒が同時に作業を行っていても、混乱や危険を感じる場面はほとんど見られませんでした。

授業後、技術科の横山駿也先生に話を伺ったところ、この実践は単に注意を促すだけではなく、授業設計・指導方法・環境づくりが一体となったものであることがわかりました。

本稿では、その具体的なポイントをQ&A形式で紹介します。

※中央教育審議会「情報・技術ワーキンググループ」配付資料(文部科学省)を参考に記述。


 Q:電動工具を扱う授業はどのように設計されていますか

A:1年生の材料加工の場合、導入段階では8時間ほどかけて、測る・けがく・切るといった基礎技能を丁寧に指導しています。さらに、題材を複数設定し、同じ技能を繰り返し使わせることで定着を図っています。

また、電動工具は本題材で初めて使わせるのではなく、その前の導入題材で一度経験させています。最初は手工具、次に電動工具、最後は工具の選択という題材製作ごとの流れにすることで、生徒が慣れた状態で本題材に取り組めるようにしています。

電動工具のみで製作する導入題材の例。レーザーカッタで箱を作る課題を設定することで、技術科の実習としてのレーザーカッタの活用方法を生徒が具体的にイメージしやすくしている。


 Q:電動工具の使い方はどのように指導していますか

A:授業は「動画→プリント→教師の実演」という流れで進めています。

まずグループで動画を見て使い方を確認し、気づいたポイントをプリントに整理させた後、教師が実際に見本を示します。

このねらいは、「迷ったり困ったときに何を見ればよいか」を生徒にわからせることです。動画や教科書に戻ることで、生徒自身が確認しながら作業を進められるようになります。

また、過去の授業で見られた失敗事例も積極的に共有しています。

例えば、ベルトサンダで角が丸くなってしまう、まっすぐ削れない、帯のこ盤で切断がずれてしまうといった、よくある失敗です。こうした事例は、自分のクラスだけでなく他のクラスや先輩の例も含めて提示しています。

そのうえで、「なぜこのような失敗が起きたのか」「どうすれば防げるのか」を授業の導入で短時間でも考えさせるようにしています。作業に入る前にこうした問いを設定することで、単に作業を進めるのではなく、考えながら取り組む姿勢を育てることを意識しています。

なお、必ずしもすぐに答えを示すのではなく、まずは生徒に考えさせ、場合によっては発表を通して気づきを共有する形をとっています。

工程ごとの動画をロイロノートで共有し、生徒が作業中に随時確認できるようにしている。


 Q:教室環境や配置ではどのような工夫をしていますか

A:切断・穴あけ・研磨といった工程ごとに作業場所を分けています。これにより、生徒が一箇所に集中するのを防ぎ、安全性を高めています。また、工程ごとにスペースを区分することで、教師が「どこで何をしているのか」が一目でわかるようにしています。

また、機械は原則として一人で使うこととし、周囲に人が集まらないようにしています。逆に、機械周辺に生徒が密集するような配置は、危険につながるため避けています。


 Q:安全指導で最も重視していることは何ですか

A:最も重要なのは「材料をしっかり固定すること」です。

帯のこ盤、卓上ボール盤、ベルトサンダなど、どの加工でも、作業中に材料が動くことが事故につながります。そのため、細かな注意事項を増やすのではなく、「固定」という共通原理を徹底しています。

また、安全については約束事なので、「こうやりなさい」と教師が明確に示し、確実に守らせています。危険な場面があれば授業を止めて全体に共有し、その場で指導します。

作業中はすべてに目が行き届かないため、機械の音にも注意しています。ベルトサンダや帯のこ盤は不適切な使い方をすると異音が出るため、危険な音がした場合にはすぐに声をかけて確認するようにしています。特に、材料がしっかり固定されていないと大きな音が出るため、その点を重視しています。

手で持ち上げて使う電動工具は特に危険性が高いため、材料と工具の両方を固定して使用できるよう、ジグ(補助具)を自作している。


 Q:生徒が技能を身に付けるための工夫はありますか

A:導入題材の段階ではグループ単位で進度をそろえています。例えば、「全員がけがきができたら次へ進む」という形にすることで、生徒同士で教え合う関係を生み出しています。

また、苦手な生徒には、まずグループで支え合い、それでも難しい場合に教師が支援する形をとっています。動画や資料に戻れる仕組みがあることも、自立的な学習を支えています。

作業が早く終わった生徒が、工具の使い方に関する掲示物を作成することも。生徒の言葉でまとめられており、理解を助ける教材となっている。


 Q:工具選びで意識していることは何ですか

A:中学生の手の大きさや体格に合っているかを最も重視しています。

大型で重い工具は扱いにくく危険につながるため、小型で扱いやすい電動工具を選んでいます。手工具についても同様に、必要に応じて扱いやすいサイズや形状のものに替えています。

従来の標準的な工具にとらわれず、「生徒にとって使いやすいか」という視点で選ぶことが、安全性を高めることにつながります。

生徒が握りながら回しやすい形状の電動ドライバ


 Q:その他、工具の保管で気を付けていることはありますか

A:工具の数にぴったり合わせた棚を作り、数を数えなくても不足が一目で分かるようにしています。こうした工夫により、管理を簡単にするとともに、安全確認につなげています。また、両刃のこぎりには木製のケースを自作し、刃によるけがを防ぎながら保管しています。


 Q:これからの授業づくりで大切にすべきことは何ですか

A:「生徒を信じて、一歩レベルの高い課題や題材に挑戦させてみること」です。

電動工具や3Dプリンタ、レーザーカッターなどを扱う際に、教師自身が「これは生徒にはできない」と決めつけないことが大切だと考えています。

適切な課題設定や活用方法の工夫、補助となる治具の用意などによって、生徒が安全に取り組める環境を整えた上で、チャレンジさせることが重要です。


 まとめ

今回の実践から見えてきたのは、電動工具の活用が決して特別なものではなく、授業の設計次第で中学校段階でも十分に成立するという事実です。

重要なのは、

  • 段階的に技能を積み上げること
  • 「材料固定」という安全の原理を徹底すること
  • 動画や資料によって生徒が自ら確認できる仕組みを整えること
  • 教室環境や動線を含めてリスクを設計すること
  • 生徒の手や体格に合った工具を選ぶこと
  • 明確な見本を提示し、生徒にゴールを具体的にイメージさせること

といった要素を、個別ではなく一体として機能させることにあります。

そのうえで改めて感じたのは、
「危険だから使わせない」のではなく、「安全に使えるように設計する」という視点の重要性です。

横山先生の実践は、電動工具の導入に不安を感じている私たちに対して、
「条件が整えば、中学生でもここまでできる」という具体的なイメージを示してくれます。

これからの技術科に求められるのは、道具を制限することではなく、
授業設計の段階で、生徒が安全に扱える環境や指導を構想することではないでしょうか。

生徒が本題材で製作した作品とワークシート。廊下に展示することで、学習の見通しを持たせるとともに、ゴールを意識できるようにしている。


教育図書は、「人」と「暮らし」を学ぶ教科・科目の教科書発行者です。

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