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2021年の4月に都立高校としては初となる家庭学科・福祉学科を専門とする高等学校が開校します。都立赤羽北桜(あかばねほくおう)高等学校の富川麗子校長にお話を聞いてきました。
Q.新しい学校ができる経緯についてお聞かせください
富川校長(以下、富川):はい、平成28年2月に東京都教育委員会では、「都立高校改革推進計画・新実施計画」において、調理師の養成や、不足が見込まれる保育人材を育成する家庭科と、超高齢社会に対応した介護人材を育成する福祉科を併せもった高校として家庭・福祉高校(仮称)の設置について示し、平成28年5月に「家庭・福祉高校(仮称)基本計画検討委員会」を設置し、その教育理念や教育課程について検討してきました。
令和元年度に、開設準備室を設置し、2年間かけて開校の準備をしています。
Q.今、新たな学校を創っていく上で考えなければいけないことはどのようなことであるとお考えですか?
富川:高大接続改革や学習指導要領改訂など、教育改革の背景を考えることが大切だと思います。少子高齢化、グローバル化の進展、科学技術の進歩などで社会や職業の在り方が大きく変わりつつあるという社会的な要請があります。新しい学習指導要領でもこの点は強調されています。
これからの日本は、少子高齢化が進み、生産年齢人口の減少、つまり、労働力の中心となる15歳以上65歳未満の人口が減少するといわれています。
また、社会構造や雇用環境が大きく、急速に変化し、予測が困難な時代になってきていますので、一人一人が持続可能な社会の担い手となっていかなければなりません。
また、2年後の令和4年度からは、成年年齢が18歳へと引き下げられていき、自ら考えることが益々重要になります。高等学校では、このような社会で生き抜く力を身に付けていくことが求められています。
今ある職業の45%はロボットやAIにとってかわられると言われています。
野村総合研究所の資料によれば、代替可能性の低い職種として、医療ソーシャルワーカー、ケマネジャー、社会福祉施設指導員、保育士、フードコーディネイター、幼稚園教諭などがあげられています。これらはとくに赤羽北桜高校で学んだ先にある職業であると考えています。
また、「令和の学問で最も重要なのは『家庭科』」であると、パナソニックの馬場渉さんが特別講演の中で話をしています。このことは、私も全く同感です。家庭科で学ぶことは、食べる、住む、着る、子どもを育てる、介護など、人が生きていくことに直接関わることばかりです。さらに環境問題や共生社会の実現とも深く関わっています。家庭科は人々の幸せな生活の基礎となる学問ですし、さらに私たち専門高校は、先ほどあげたような社会の幸福に直接携わる人材の育成を目指していますので、まさに時代のニーズにマッチした高校だと思います。
Q.私たち教育図書の社是も、家庭科を「人生の必修教科」としていますので、とても共感します。具体的にはどのような学校を目指していますか?
富川:教育目標として次の3つを掲げています
1 家庭、福祉分野における専門的知識・技術とともに倫理観、広い視野を育成する
2 自ら学び、自ら考え、自ら行動できる力と逞しさを育成する
3 社会に貢献する意欲をもち、人との関わりに喜びを感じる社会性を育成する
家庭分野や福祉分野に興味のある、本校へ入学した生徒が、専門学科高校で学んだことを生かして、家庭・福祉分野のパイオニアとして社会で貢献出来る人材になってほしいと考えています。その実現のためのコンセプトは「スペシャリストの育成」、「探究活動の充実」、「地域との連携」の3つです。
第一のスペシャリストの育成については、家庭分野、福祉分野のスペシャリストを育成するために、専門分野について深く学び、体験的な活動を行うことで、その分野の基盤を創っていきます。
第二の探究活動の充実については、家庭科におけるホームプロジェクトや学校家庭クラブ活動、総合的な探究の時間などをとおして探究活動の基本を身に付け、2年生、3年生の課題研究において、分析力、実践力、表現力を育成し、総合型選抜や学校推薦型選抜による上級学校への進学の実現を図っていきます。
第三の地域との連携については、企業等におけるインターンシップや施設実習、スクールレストランや「親子サロン」、「高齢者ふれあいカフェ」等の運営を通し、地域の方とともに生徒を育成する取組を行っていきます。
Q.学科は3つに分かれていますね
富川:はい。私としては同時に3つの学校を運営するような気持ちです(笑)。
※資格については申請中。カリキュラムの詳細についてはパンフレットを参照。
1の保育・栄養科は高校卒業では保育士や栄養士の資格が取れないので、進学を前提にしていて普通科の授業も充実させています。
2の調理科は今、調理師養成施設として申請中ですが、卒業と同時に調理師の資格が取れます。また、東京の地の利を生かして、レストランやホテル、社員食堂などでの実践的な体験学習を予定しています。
3の福祉学科についても介護福祉養成施設として申請しており、介護福祉士国家試験受験資格を取得できます。こちらも福祉施設などでの実習授業を行う予定です。
すべての学科でとくに重視しているのが「探究的な活動」と「地域との連携」です。たとえば調理科では、学校ブランドの食の開発などを目指していきたいと思っています。またスクールレストランの運営や校内で子育てセミナー、栄養講習セミナーのようなものを開催して地域のみなさんともつながる学校にしていきたいと考えています。
Q.教員に求められる資質も普通の高校とはかなり異なりますね
富川:そうですね。調理科においては、高等学校の家庭科教員免許はもちろんですが、調理師免許をもち、5年以上の実務経験等が必要です。介護福祉科については高等学校の福祉の教員免許と介護福祉士、看護師の資格をもち、5年以上の実務経験等が必要です。スペシャリストによる専門性の高い教育を目指しています。
Q.すでに学校説明会を何度か開催されていると聞きましたが手ごたえはいかがですか?
富川:今年は、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、これまでの学校説明会とは異なり、人数制限をして、事前予約制で行っています。そのような中、家庭学科、福祉学科に興味のある中学生が参加してくれていて、嬉しく思います。
専門高校の良いところは同じ志をもった仲間と共に学べるところにあると思います。そして保育・栄養科、調理科、介護福祉科の3つの科があることが赤羽北桜高校の強みだと思っています。3つの科の生徒さんが学びを共有することで、相乗効果が生まれることも期待しています。ぜひ意欲のある生徒さんたちと素晴らしい学校にしていきたいと思います。
Q.最後に富川先生の教育理念についてお聞かせください
富川:私は家庭科のなかでも被服が専門ですが、被服製作の工程は、教育と似ている部分があると考えています。作品服をきれいに仕上げるための工程として「仕付け」や「仮縫い」があります。
「仮縫い」は、本番前に、失敗しないように異なるサイズ、異なる素材などで試してみる方法ですが、一度、リハーサルをしておくと段取りが分かり、完成度が高くなります。学校というのは、生徒が社会に出ていく前に、様々なリハーサルを積み重ねていく場であると考えています。
生徒一人一人のもっている力を、更に大きな力としていくことが、教育に携わる私たちの使命なのだと思います。