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「技術・家庭科」は「未来を教える教科」


「技術・家庭科」が発足して65年が経ちます。 還暦を超えたともいえる「技術・家庭科」ですが、単に年数を重ねてきただけではありません。本教科は学習指導要領の改訂のたびに、目標や内容などが大きく変化してきました。私も若い頃は「またこんなに変わるのか。」などと思ったこともあります。それでも先生方は研修や研究等を重ね、変化に正対し 目標を達成のために全力で取り組んできました。よく考えれば「技術・家庭科」は「留まってはいけない教科」なのです。 その変換をたどりながら、本教科の特質や指導のあり方を考えてみてはどうでしょう。

生まれる・・・

 昭和22年に新制中学となり生徒に労働に対する態度、職業生活の意義と尊さ、 将来の職業を定めることへの能力などを育てることを主眼とした「職業化」が創設されました。 当初は「農業」「 商業」「 水産」「 工業」「 家庭」の内容で構成されていました。
昭和24年には職業化が「職業化と家庭科」となり同2年の第二次改定で「職業・家庭科」が発足しています。 第1節の「性格」を見ると「実生活に役立つ仕事を中心として家庭生活、職業生活に対する理解を深め、実生活の充実発展を目指した学習を行うとなっています。 その後の改定では「性格」が「生活における経済的な面、 技術的な面ならびに社会的な面に関する知識・機能・態度を主として実践的活動を通して学習する」と変化しています。「職業・家庭科」の時代には 実生活に役立つ知識や技能などが重視され、 身近な社会や生活の充実発展に役立つ力の必要性が社会的な背景としてあったのだと思います。
こうした時代を経て一層社会が大きく変わろうとしている昭和33年、これまでの「職業・家庭科」に代わる教科として「技術・家庭科」が発足しました。内容は「 男子向き」「女子向き」に分かれて、別々の内容になっていました。 男女別の時代は、途中相互乗り入れを経て、平成元年の学習指導要領の改定まで続きました。技術・ 家庭科が発足した昭和33年頃は東京タワーの完成、 国産ロケット第1号の発射、 世界初の旧ソ連による人口衛星の打ち上げ、 カラーテレビの実験を放送、テレビ局の開局、メートル法施行などがあり、 技術の進歩が日常の生活の中で身近に感じられるようになってきました。 さらに オリンピックとパラリンピックの東京開催も決まり、人々も社会も戦後の復興からさらにステップアップしようとする機運が高まってきていました。教育においても技術の急速な進展に対応できる人材の育成が強く 求められるようになってきたのは当然のことだと思います。

育つ・・・

 当時の学習指導要領 の第1節 「性格」には、「近年における科学技術や産業の目覚ましい発展に伴い、 国民全般の科学技術に関する教養を高め、我が国の産業や国民生活の発展 向上を図ることが、きわめて重要になってきた。このため 中学校に 技術・家庭科が設けられ、青少年の近代技術に関する教養を一層充実することになったのである。」とされ、この教科の大きな期待と意気込みが感じられます。
また目標には、「生活に必要な基礎的技術を習得させ、創造し生産する喜びを味わわせ、 近代技術に関する理解を与え、生活に処する基本的な態度を養う。」「 設計・製作などの学習経験を通して、表現・想像の能力を養い、物事を合理的に処理する態度を養う。」「製作・ 操作などの学習経験を通して、技術と生活の密接な関連を理解させ、生活の向上と技術の発展に努める態度を養う。」「 生活に必要な基礎的技術についての学習経験を通して、 「近代技術に対する自信を与え」、「 共同 と責任と安全を持ち重んじる実践的な態度を養う。」とあります。 「技術を習得させ」「 近代技術に関する理解を与え」「 生活の向上と技術の発展に努める」、「 近代技術に対する自信を与える」などという言葉からは、世界の技術の進展に遅れを取ることなく 社会や生活の中でしっかりと対応できる力を全ての子供たちに身につけさせようとしていることがわかります。 

育てる・・・

「職業・家庭科」が「技術・家庭科」に変わる時「 職業・家庭科」の教員は教科が廃止されたため、教員を続けるためには、免許を所有している他の教科に移るか、新設の「技術・家庭科(技術)」の免許状を取る かの選択をしなければなりませんでした。これほどのことをしても本教科を発足させる必要があったということです。 このように、内容が変わるだけでなく、教科名までも変わるという変換を経て、社会や生活の変化と課題に対応し続けてきた歴史があります。この誇るべき歴史は、学習指導要領の改訂だけで作られてきたのではありません。これまでの「技術・家庭科」の先生方が使命感と誇りを持って、力を合わせて研究や開発に取り組まれ、 本教科の良さを発揮するよう努力された結果の賜物であるわけです。
平成29年3月に現行の学習指導要領が公示されました。 残念ながら授業時間の増加はかないませんでしたが、 課題解決の力の育成が特に重視されており、 学んだ 能力や態度が今後の生活や社会での様々な問題の解決に生きて働く力として身につけることが強く求められています。「技術・家庭科」の授業がこれまでの生徒の課題の解決を重視した主体的な学びを重視してきました。 今回の学習指導要領で求められているアクティブ・ラーニングなども「技術・家庭科」にとっては 本来の学び方の一つであり、持続可能な社会の構築へ向けた力を育てる学びとして、さらに充実発展させながら確実にクリアにしていくことでしょう。

元全日本中学校 技術・家庭科研究会 会長
太田 達郎

※こちらの記事はてくテク第2号より加筆したものになります。

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