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家庭科 NEWS

お父さんは新聞をとるだけ!? 家事・育児の分担をどう教えるか

ある国際調査によれば日本男性の家事負担率は18.3%しかなく主要先進国で最下位という不名誉な結果が出ています。(国際社会調査プログラム(ISSP)が2012年に実施した「家族と性役割に関する意識調査」)
男女平等参画社会を目指す日本にとって、これを是正していくことは大きな課題であり、また家庭科教育においても重要なテーマになっています。本稿では家事負担率の偏向を分かりやすく「見える化」し、意識改革を図るユニークな授業を実践している茨城県立古河第二高等学校・菅谷美沙希先生の授業レポートをお届けします。

はじめに

古河第二高等学校は、普通科と福祉科の2つの学科で構成されており、普通科は2・3年次に家庭総合を計4単位、福祉科は2年次に家庭基礎2単位を学習しています。どちらの授業でも、一番初めに学習するのが家族・家庭の分野になります。今回は普通科と福祉科で実施した『家庭科55資料集』のp.16「家事や育児は誰がする⁉」を活用した「私たちの生活を支える労働と生活時間について」という授業についてご紹介したいと思います。

家庭科55資料集

 家庭科55資料集 p16 より「家事や育児は誰がする!?」

授業の導入「労働の種類」

まず、はじめに労働の種類について確認します。「労働」というと生徒たちは「会社で働くこと」や「仕事をすること」というイメージがあり、家事や育児などの「無償労働」を「労働」として考えていません。家事・育児の分担について考える前に、「労働」は外で働くことだけを指すのではないことを確認します。

ワークノート

菅谷先生作成のワークノート

授業の展開①「共働き世帯の増加とワークライフバランス」

労働の種類を確認したら、ワークに入る前に、今日本では働く女性が増え、共働き家庭が多くなっていることをデータから確認し、そして女子労働力率の海外比較から日本にどのような特徴があり、なぜ「M字型就労」(注1)になっているのか、その理由を考え共有します。

また、最近よく「ワークライフバランス」や「働き方改革」という言葉をよく聞きますので、仕事と家事・育児に関連付けて話しました。もし自分が結婚して子どもがいたら、夫婦でどのような働き方をしたいと思うのか、共働きがいいのか、専業主婦や専業主夫がいいのか、子どもができるまでは働いてその後は仕事を辞めて子育てに専念したいのかなど、今の自分の理想を考えてもらいました。

下の写真は、生徒が書き込んだワークノートの一部です。

本校生徒は卒業後に就職を選択する生徒が約半数であり、このような将来についての構想が就職先を選択するうえでも関わってくると思いますので、生徒たちには先を見越した進路選択の材料が少しでも多くなるよう話しました。

※注1:女性の労働人口を年齢別に見ると、20台前半が高く、結婚・出産が増える20代~30代前半に下がり、子育てが終わる40代以降に増える傾向にある。これをグラフで表すとM字型のカーブを描く。

授業の展開②「家事や育児は誰がする⁉」

ここまで日本社会の現状を知り、自分の未来を想像しました。では実際に、結婚し夫婦共働きで保育園に通う子供がいる場合どのように家事を分担していくのかを、家庭科55資料集p.16「家事や育児は誰がする⁉」を使用し、生徒それぞれに考えてもらいます。

昨年度までは1時間使って2人1組で夫婦の分担を話し合い考えてもらっていましたが、今年度はコロナウイルスの影響もあり、グループワークではなく個別で将来の家庭を想像しワークを行ってもらいました。

家庭科55資料集を開き、P16の「共働きの家事育児100タスク表」をみると、「え⁉こんなにやることあるの⁉」、「多すぎ!」などの声がどのクラスでもあがっていました。100個ってとても多いですよね。資料集を見る前に「家事って何個くらいあると思う~?」と聞くと、「えーっと、ご飯作って掃除して洗濯して…5個くらいかな?」なんて言うのです。一般的に家事と聞くと料理・洗濯・掃除などが出てきますが、料理するといっても、買い物から献立を考え作って食べて食器を洗うまで作業がありますし、洗濯も洗濯物の仕分けから洗って干し、畳んでしまうまでの工程があります。このような料理や洗濯以外にも「名もなき家事」といわれるような特定の名前がない家事ってたくさんあるのですが、生徒たちは家でほとんど家事をしないのでわからず、この多さに毎年本当に驚くのです。「家庭でやることはこんなにもたくさんあるんだ」このことがわかるだけでも十分かなと思うくらいです。

生徒たちが色塗りした家事・育児の夫・妻分担表の一部をご紹介します。

青が夫、赤が妻の分担で塗り分け。

分担作業が終わったら、夫と妻それぞれ何個ずつになったのかを集計し、自分の親の分担なんかも思い浮かべながら、自分の分担の結果について気づいたことを記入してもらいました。毎年同じなのですが、どの生徒も妻の役割が多く、夫の役割のほうが多くなる生徒は各クラスにいても1人でした。特に育児に関する項目は妻の役割にしている生徒がほとんどでした。

下は生徒が記入したワークノートの一部です。

 

ワークノート記入後に、夫と妻どちらの分担のほうが多くなったのか全体に挙手してもらうのですが、その前に私自身が自分の両親を思い浮かべて記入した表を見せます。これが本当に驚くのですが、「新聞をとる」以外に父がやっていることがないのです。子ども3人の共働き家庭なのに。これを見せると生徒たちは驚いて色々な反応を見せてくれます。

生徒たちには反面教師にしてもらいたくて、恥ずかしいですが毎年見せています(笑)

クラスの生徒のほとんどが妻の役割が多くなっていることを確認したら、資料集のp.17ページを見て日本の男性は世界で比べても家事をしないというデータを確認したり、最初に学んだワークライフバランスについても触れたりしながら、なぜそのような結果になったのかを考えてもらいました。

家庭科55資料集

家庭科55資料集 P17

授業のまとめ

最後に、本時の内容を振り返って、男女が協力して働きながら子育てをしたり、家庭を営むことができたりするためにはどうしたらよいのかを考えてもらいました。無意識に家事は女性がやるものというイメージが定着していると気づいた生徒が多くいましたが、自分の中で考えが変わった生徒や、家事・育児の分担から働く環境について考えた生徒まで、さまざまな意見がありました。

 

終わりに

日本では今、働く女性が増え、共働き世帯が増加していますが、それにともない男性の育休の取得や主婦の働き方など、家庭と仕事との両立について様々な問題が議論されています。このような問題は、これから新たな家庭を築いていくだろう生徒たちが直面する課題だと思います。

授業内容の中でも紹介しましたが、私は共働きの家庭で育ちました。両親とも正社員としてフルタイムで働いていますが、家事や育児に関してはほとんど母親が負担し、父親が家の中で家事をしている姿を見たことがほとんどありませんでした。そんな光景を見て育った私は、仕事の有無に関係なく、家事をするのは母親の役割なのだと思っていました。大学へ進学し一人暮らしを始めると、家事の大変さが本当によくわかり、卒業し教員として働き始めると、一人分ですが仕事と家事を両立することの大変さを身にしみて感じ、母の偉大さを理解すると同時に、「自分にはできない、このようになりたくない」と思いました。

だからこそ生徒たちには、授業の中で家庭での家事・育児の分担について考えてもらいたと思い、こちらの55資料集の「共働きの家事育児100タスク表」を活用して、授業を展開しました。「家事の見える化」することで、家事・育児ってやることがたくさんあることを理解し、共働きの場合夫婦どちらかに家事・育児の負担が大きくなってしまうことの大変さを想像・共感し、夫婦で協力することの大切さについて考えてもらうことができたのかなと思います。

いずれ生徒たちが家庭を築いたとき、この授業で感じたことや考えたことを思い出してくれたらうれしいです。

(了)

 

 


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菅谷美沙希 茨城県立古河第二高等学校・家庭科教員sugaya misaki

教員歴:3年目
実践女子大学(生活科学部食生活化学科)卒業
専門分野:食物
生徒たちの実態に即し,社会の変化に対応できるような授業を展開しようと日々奮闘しています。まだまだ未熟者ですが,生徒たちが「生きる力」を身につけられるような授業をするために,これからも邁進していきます!!

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