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家庭科 NEWS

LIFE INTERVIEW WEB版「おとな」って楽しいですか?

航空会社の客室乗務員から料理人へ転身した、異色のキャリアをもつ秋元さくらさん。
食べることや作ることの魅力から、家庭と仕事を両立する秘訣まで、人気シェフのお話には、人生のヒントが満載。
どんな仕事にも共通するのは、“目の前の人をどう喜ばせるか?”というおもてなしの心でした。

※この記事は高等学校家庭科資料集『LIFE おとなガイド』に掲載のインタビュー記事を再構成しています。

Q.なぜシェフになったのですか?

航空会社の客室乗務員からシェフへ転身した、秋元さくらさん。「街のスポーツ用品店を営んでいた」という家業の影響で、昔から“お客様とのコミュニケーション”が身近にあったと言います。

「昔からたくさんの人が訪れる環境で育ったので、子どもの頃からお話や接客が好きでした。とにかく人が訪れる環境が心地よく、大学時代のアルバイトで接客業やサービス業の面白さを知ったこともあり、おもてなしの技術をもっと極めたいと航空会社に入社しました。客室乗務員として国際・国内線ともに経験できたことで、いろいろな国の様々な食の楽しさに触れ、日本の食文化の素晴らしさにも気づくことができました。日本の食は、美味しさや安全性はもちろん、深夜でも数百円で食べられる牛丼屋さんが営業していたり、カジュアルなお店から高級レストランまでさまざまな価格帯で、和食、アジア料理、フランス料理などジャンルも幅広く選べるという利便性の魅力もあると思います」

食への興味が高まったのと同時に、飛行機はお客様と一期一会で「次にお会いできるかわからない」という想いが徐々に強くなっていったそう。

「実家のお店のような『ここへ来ればいつでも会える』という温かい場所を作りたいと思い、料理人の世界へ入門しました。料理の面白さは、レシピ通りに大さじ1、小さじ1まで計っても、毎回異なる味に仕上がることです。料理人は仕事中に計量しませんが、たとえば昨日採れたピーマンと3日前に採れたピーマンでは水分量や味わいが全く異なり、レシピは1つでも、調味や火入れの時間などを変えたりしますし、そういった素材の変化をいかに自分の料理で調整・昇華できるかが醍醐味ですね」

Q.料理の楽しさって何ですか?

料理の魅力は、美味しいものを作るという結果だけでなく、そこにたどり着くまでの素材や味の化学反応が楽しい。高校時代の失敗談も、懐かしむように語ってくれました。

「家庭科の授業で、塩・こしょう・油・酢だけでフレンチドレッシングを作ったのですが、『酸っぱくて美味しくない!』と失敗した記憶があります(笑)。今思えば、混ぜただけで“乳化”という化学反応が起こらず、油が分離したことが原因ですが、料理ではこのように素材の反応を見越し化学的な要素を入れ込むことが重要です。とはいえ、高校時代は仲良しの子とお弁当や購買のパンを食べるだけでとても美味しかったですし、味わい以上にその時の楽しかったシーンがよみがえりますね。食べる上で肝心なのは何を食べるかだけではなく、誰とどう食べるかなので、家族や大好きな人と食卓を囲む時間を大切にして欲しいです」

Q.お店の人気メニューを教えてください

「当店はフランス料理店なのですが、いつの間にかハンバーグが人気メニューになってました(笑)」という『モルソー』のスペシャリテ。こだわりの牛肉と豚肉を半々で組み合わせ、塩を入れてこねていくことでタンパク質が変質し、旨みが生まれていくという、まさに素材の化学的な反応を見越した上で調理された一品。季節によって喉の乾きや汗は異なるため、塩分量はこまめに調整し、夏と冬とで、素材の配合は変えているのだそう。透けるほど薄いチーズをたっぷり乗せ、牛骨から丁寧に引き出したソースを惜しみなくかけることで、家庭の味とは差別化。

Q.家庭で作る料理と、お店で作る料理の違いは何ですか?

プロの料理人として活躍する秋元さんも、家庭では一児の母。「家で作る料理は、こんなに『難しい!』と思ったことはないくらい、“毎日作る”大変さを感じています」と言います。

「お店の料理は“いつも同じで、いつも美味しい”が良しとされていますが、“家庭料理はたまに塩っぱい、たまに酸っぱい、だから飽きない”と思っているので、家で作る料理はまた違うんですよね。出来合いのものもちろん利用しますし(笑)。うちの実家も商売をしていたので、母がたくさん料理をするタイプではなかったですし、私が幼い頃から外食の味わいに慣れていたことが、料理人としての非常に大きい要素になっていると感じています。友人のシェフの中でも、お母さんの料理より外食する方が多かったというシェフはたくさんいますし、“母の味”を知っている方がいい料理人になるかというと、一概にそうは言えないんですよね。もちろん、小さい頃に自分の舌に味覚を植え付けるという意味では、母の手料理も大事だと思いますが、今の時代、共働きのご夫婦も多いので、どうしても手料理でないといけない理由はありません」

Q.家庭と仕事を両立させる秘訣を教えてください

2009年、29歳の時にソムリエでもあるご主人とともに『モルソー』をオープン。夫婦で昼夜一緒に働きながら、さらに仕事と家庭を両立する秘訣とは?

「夫とは大学時代からの付き合いで、結婚後16年経ちますが、一緒にお店に立っているため、ほぼ24時間一緒です。仕事ではお互いに真剣勝負なのできちんと言い合うようにしている分、家庭では大体のことは許そうと思えて(笑)、自分で言うのも恥ずかしいですが、プライベートではとても仲が良いです。夫婦でお仕事されている方々は大体、同じようにおっしゃることが多いですね。現在、5歳の子供が1人いますが、妊娠した時にスタッフが真っ先に『店のことは任せてください』と言ってくれたことで頼もしく感じ、頼れる部分は頼ることで、子育て・家庭とのバランスをとっています。女性の料理人は増えつつあり、家庭と仕事の両立は難しいものですが、私は女性料理人のキャリアを二つに分けて考えています。最初は料理人として見習いや研修を重ねて、結婚・出産・子育てが落ち着いてから、セカンドキャリアはもう一度料理人として上を目指す。料理人は“手に職”が付くので、経験値さえ高めていけば、育児が離れた段階で再度トライでき、需要も多いにあると思います」

Q.秋元さんにとって「仕事」とは何ですか?

「客室乗務員時代に訓練で学んだことや感じたことは、お店で若いスタッフにサービスの基礎を教える上でも生かされているんです。接客は、もともと向いている人もいれば、勉強がバッチリできても型にハマってしまって向いていない人もいますし、サービスって形がないものなので、自由度が高い分、若いスタッフはどこまでやるべきなのか、どれが正しいかたちなのかがわからないことが多いんですよね。そんな時は『ここまではうちが提供したいサービスで、お客様はここまですると、価格帯以上のサービスが受けられてとても贅沢な気持ちになってくれるはず』といったアドバイスをするようにしています。大学生のアルバイトの子でも、サービススタッフとしてお客様からお褒めのお言葉をいただくことが多いので有り難いですね」

どんな仕事にも共通するのは、『いかに目の前の人を喜ばせるか?』ということなのだそう。

「家庭の中においても、この“相手を思いやる気持ち”はとても大事なことだと感じています。たとえば、『お母さんは忙しそうだから洗濯物を取り込んでおいてあげよう』と、どんな瞬間でも『自分がいいと思う』ことではなく、『他人にいいと思ってもらえる』動きができるように、広い視野で生活していれば、学生生活でも社会に出てからも、より豊かな時間を過ごせるのではないかと思います。意識しなければなんとなく受け身になりがちですが、ぜひ自主的に、目の前の人を喜ばせようという仕掛けをしてみてください」

Q.高校生でもできるプロのテクニックを教えてください

「ちょっとした工夫で、料理は一気に美味しそうになるんですよ」と秋元さん。今回は特別に、家庭でも簡単にできる、“映える盛り付けテクニック”を教えてもらいました。

【フレンチシェフの映える盛り付けテクニック】

ポイント①シンプルなお皿が料理を際立たせる!
お皿は、できるだけシンプルで平なお皿を選びます。『モルソー』で実際に使っているお皿も、サラダから前菜、お肉まで、何にでも合うシンプルなお皿。

ポイント②サラダは高さを出すように盛り付ける
ご家庭でも簡単にできるのが、サラダを盛り付ける時のテクニック。意識せずにお皿に盛る(左)よりも、高さを出すように盛り付ける(右)ことで、お店のような見栄えに! ポイントは、葉物野菜の間に空気を含ませるようにふわりと重ねて高さを出すこと。ぜひ真似してみてください!

完成
高さを出すことでお皿の余白が生まれてさらに見映えよし。とっても簡単なのでぜひ試してみたください。

〈了〉

 

 

 

秋元さくら『モルソー 日比谷』シェフ

1980年生まれ、福井県出身。航空会社で客室乗務員として勤務後、料理人を目指し調理師学校を卒業。新宿「モンドカフェ」、白金「オー・ギャマン・ド・トキオ」で修行後、29歳の時にソムリエでもあるご主人とともに「モルソー」をオープン。主な著書に『もてなし上手のオードブル・レシピ―予約が取れないビストロ「モルソー」の特製メニュー』など多数のレシピ集を上梓。

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