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『ロールプレイングを導入した新しい家庭科授業』著者インタビュー

教育図書の新刊『ロールプレイングを導入した新しい家庭科授業~知識構成型ジグソー法の教材開発~』が発売されました。
代表著者である野中美津枝先生(茨城大学教育学部教授)のインタビューをお届けします。

Q1.「ロールプレイングを導入した知識構成型ジグソー法」とは、どのような学習方法なのでしょうか?

「ロールプレイングを導入した知識構成型ジグソー法」は、本書の執筆者である「対話的で深い学びをつくる家庭科研究会」が開発した授業設計モデル(本書9頁表2)です。21世紀の子どもたちが社会を生きていくために必要な力として、協調的問題解決が重視されている中、高い学習効果が期待されます。
まず、「ロールプレイング」「知識構成型ジグソー法」のそれぞれについて簡単に概要を説明します。

【ロールプレイング】
ロールプレイングは,家庭科では家族や消費生活分野で用いられる馴染みがある学習方法ですが、学習内容に応じた場面設定をし、学習者が役割を分担して当事者となって演技することにより、様々な立場の人の意見や考えを理解し、多様な視点を育てることができます。

【知識構成型ジグソー法】
知識構成型ジグソー法は、東京大学の大学発教育支援コンソーシアム推進機構(CoREF)が協調的な学びを教室に取り入れる1つの型として開発されました。ある課題を解決するために、それぞれ違う資料を読んだ学習者同士が、それぞれが得た知識を持ち寄り、グループ内での課題への答えを作り、クラスで発表したり、個人で振り返ったりする学習方法です。
上記を組み合わせた「ロールプレイングを導入した知識構成型ジグソー法」の授業は、次のような流れで行います。

授業設計モデル

p.9(第Ⅰ部)

①役割分担

班で家族などの役割を分担し、ロールプレイングで当事者になって問題を見つけ、解決策について話し合います。

②エキスパート活動

同じ役割で集まってその立場での解決策につながる情報についてのエキスパート資料を自分たちで読み解き、知識を得ます。エキスパート資料には、情報だけでなく問いを2つ(Q1.Q2)設けることで、生徒が情報から何を考えたらよいのか悩まずに自分たちで進められるようにしました。

③ジグソー活動

元の班に戻ってエキスパート活動で得た情報を発表し合い、それらを活かして最終的な問題解決策を決定します。

 

④クロストーク

各班の解決策をクラス全体に発表し、最後に、個人で自分たちの班の解決策で良かったのかを振り返ります。

本誌P.28-29

本誌P.30

生徒によるワークシートの記入例

※本書の内容のうち、以下のデータをダウンロードしてお使いいただけます。
・第Ⅱ部 事例1「リスク管理」 ロールプレイング、ワークシート、エキスパート資料/事例2〜5 ワークシート
・第Ⅲ部 事例1「ライフステージの食生活」ロールプレイング、ワークシート、エキスパート資料/事例2〜4 ワークシート
ダウンロードサイトはこちら

Q2.どのようなきっかけ、目的で、「ロールプレイングを導入した知識構成型ジグソー法」が誕生したのでしょうか?

新学習指導要領では、これからの新しい時代を生きる子どもの未来を見据え、変化の激しい社会を生きるために問題発見・解決能力の育成が重視されて、「主体的・対話的で深い学び」の実現を目指した授業改善の取り組みを活性化していくことが求められています。家庭科は、生活に必要な知識と技能を習得するために様々な活動を取り入れて「主体的な学び」を特徴としていますが、「対話的な学び」「深い学び」については、これまであまり検討されておらず課題があるといえます。

そこで、家庭科の授業で扱う生活や社会における問題を取り上げて、ロールプレイングを導入して家族などの役割になって知識構成型ジグソー法で問題解決することを考えました。

当事者として主体的に対話する場面が設定され、メンバーが得た知識を建設的に相互に働かせて協調的に問題解決することで「対話的な学び」になり、解決策をクラス全体に発表することで別の解決策を再発見し、最後に自らの解決策を省察することで実生活へつながり、「主体的・対話的で深い学び」となると考えたのです。

Q3.「ロールプレイングを導入した知識構成型ジグソー法」は、新学習指導要領に沿った家庭科授業でどのような効力を発揮するのでしょうか?

新学習指導要領では、家庭科に少子高齢化、家族や地域福祉、食育、消費者教育といった、「持続可能な社会」に向けて様々な社会問題に対応するための課題解決能力の育成が期待されています。特に高校家庭科は「よりよい社会の構築」を目標としています。開発した本書の第Ⅱ部「リスク管理」「子育て支援」「介護」「持続可能な消費」「共生社会」は、高校家庭科で扱う内容でこれからの社会を生きる子どもたちに問題発見・解決を考えてほしい題材を取り上げました。そして、教材開発のために、「対話的で深い学びをつくる家庭科研究会」では、問題シナリオ、エキスパート資料を作成して、授業実践、授業改善を繰り返して教材を完成させました。

2018年7月には、茨城大学で開催された日本家庭科教育学会第61回大会のラウンドテーブルにおいて、大学教員、小・中・高校教員等を対象に「ロールプレイングを導入した知識構成型ジグソー法」の授業として開発した「リスク管理の問題解決」(本書掲載第Ⅱ部事例1)の模擬授業を実践しました。模擬授業実践後の全体会で、参加者から模擬授業について、「楽しかった。のめり込んでしまった。」「エキスパート資料で気づくことが多かった。」「初め、課題だらけで暗い気持ちが、エキスパート資料で自信になり、ジグソー活動で晴れやかに問題解決できた。」などの感想が述べられ、開発授業の社会への発信が期待されました。

「ロールプレイングを導入した知識構成型ジグソー法」は、新学習指導要領や家庭科が目指すこれからの社会を生きる子どもたちがよりよく生きるために問題発見・解決能力を育成する新しい学習方法として効果的だと考えます。

Q4.この本の活用の仕方、見どころなどを教えてください

本書では、第Ⅰ部に「対話的で深い学びをつくる家庭科授業」の理論、第Ⅱ部に研究会で開発した「ロールプレイングを導入した知識構成型ジグソー法」の教材、第Ⅲ部に研究会メンバーが開発に係わって中学校・高校で実践された教材を掲載しています。開発した教材は家庭や社会に関わる様々な問題を扱い、協調的に問題発見・問題解決能力を育むため、家庭科のカリキュラムに応じて学習したことを活用するパフォーマンス課題として取り入れると効果的です。一方で、エキスパート資料は、家計管理、家事分担、子育て、バリアフリー、介護保険の理解、商品の背景、共生社会など多岐の内容を扱っており、授業内容に応じて単体での授業資料としての活用も考えられます。

Q5. 現場の先生方へのメッセージやアドバイスなどをお願いします

家庭科は、子どもたちが生涯を通してよりよく生きるために学びます。子どもたちは社会に出ると様々な困難に直面し、氾濫する情報から自ら問題解決につながる情報を読み解き、判断力と実行力が必要となります。新学習指導要領では、21世紀を生きる子どもたちのために学びの過程が重視されて、「主体的・対話的で深い学び」の実現を目指した授業改善の取り組みを活性化していくことが求められています。「ロールプレイングを導入した知識構成型ジグソー法」は、教師が知識を教えるのではなく、生徒が当事者となって問題を発見して協調的に問題解決策を考えて、問題発見・解決能力を育成することができます。今回、教材開発のために授業実践、授業改善を繰り返しましたが、あらためて授業づくりの楽しさと家庭科の可能性、そして授業改善の必要性を実感しました。
本書の開発教材を多くの先生方にご活用していただき、家庭科における「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善の活性化に役立てていただけることを願っています。

(了)

●判型:B5判 ●160ページ
●3080円(税込み)

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野中美津枝

(のなかみつえ)茨城大学教育学部教授。博士(教育学)。管理栄養士、消費生活アドバイザー。公立高等学校教諭、私立高等学校教諭として約18年間高校で家庭科を教える。2008年4月より大学教員になり、九州女子大学、愛媛大学、茨城大学において家庭科教育法等を担当し、教員養成に務める。専門は、授業研究、消費者教育、食育。

主な著書:「家庭科への参加型アクション志向学習の導入-22の実践を通して-」(共著、大修館書店)、「新しい消費者教育-これからの消費生活を考える-」(共著、慶應義塾大学出版会)、「生活課題解決能力を育成する授業デザインの実証的研究-授業評価・改善に関するモデル」(単著、福村出版)など。

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