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公共 NEWS

この「公共」教科書ならできる!【眠くならない法分野の授業】

法に関わる事項は公民科のなかでも、とても重要な分野です。これから新科目公共を学ぶ高校生にとっては18歳成年が適用されることもあり、法的な権利や契約の概念をしっかり理解することは喫緊のテーマといえるでしょう。しかしながら一方で、法文や専門用語が並ぶ法関連分野の学習は高校生にとって馴染みがうすく、学習内容に実感が伴わないため、退屈で眠気を誘う授業になりがちなことも残念ながら事実でしょう。
教育図書の新しい教科書「公共」では、生徒の興味をつかめるようさまざまな工夫を凝らしています。法学分野の執筆・監修者である吉田俊弘先生(大正大学名誉教授)にポイントを解説していただきました。

教育図書 公共 こちらより教科書の詳しい内容がご覧になれます

 

〈探究し・共有し・実践する〉ための教科書

これまでの教科書は、学習指導要領の系統に即し、たくさんの語句を網羅的に提供するものが多かったように思います。しかし、この新しい「公共」教科書は、整理された基礎的知識を提供するだけでなく、学習主体である高校生の知的関心を触発し、〈探究し・共有し・実践する〉ための教科書をめざして編纂されました。そのため、具体的な「テーマ」や「マンガで考える公共」というページを設け、そこを切り口として問題の本質に迫っていくことができるような記述を心がけました。その結果、若い高校生が「読んで面白い」、「思わず考えさせられてしまう」ような教科書が誕生しました。授業においてぜひこの教科書を活用していただきたいと思います。

このような編集方針は、「法」の学習にも生かされています。教科書を手に取っていただければお分かりの通り、「法」関連学習は、①基礎的な知識を一通り学ぶことができる知識パートと、②「法」に関連した現代的な課題を取り上げ、探究的な学習ができるテーマパートによって構成されています。知識パートとテーマパートをどのように組み合わせて学習するかは、先生方の授業構想によってどのようにでも活用できます。例えば、テーマパートを用いて現代的な課題に取り組んだ後に、知識パートのページで学習内容を整理することもできますし、逆に、知識パートで基礎的な語句や概念を学んだあとに、その応用編として知識を活用しながら現代的なテーマに取り組み、より深く学習を進めることもできます。目の前の生徒さんの学習状況を見ながら、授業を運営できるところが本教科書の特徴といえるでしょう。

また、本書は、テーマ学習を進めるにあたり、DISCUSSIONのコーナーを設け、調査をしたり、論点を取り上げて話し合いを行ったりすることを推奨しています。さらに、学校で学んだことを地域に生かしていくような全国の高等学校の活動事例を紹介しています。

このように、本書は、生徒の皆さんが主体的にテーマに取り組み、学んだ成果をクラスメイトとともに共有し、実践に生かしていくことができるような学習をめざして編集されています。そのような学習のあり方をまとめて表現すれば、〈探究し・共有し・実践する〉ということになります。 そんな学習を進めるうえで、本書が少しでもお役に立てれば幸いです。

教育図書版「公共」 法に関する記述の特徴

具体的な事例やイラストを豊富に取り入れた「わかりやすい」教科書

インターネットの検索やSNS、雇用における男女平等、キャッチセールス、交通事故、冤罪などを切り口に、わかりやすく法というものの見方や考え方が記述されています。複雑な刑事手続きもイラストによってポイントが整理され、視覚的に見てもとても読みやすい教科書となっています。
テーマ学習においては、語句を断片的・網羅的に取り上げることを避け、論理的に筋道を立てて考えられるように記述しました。それにより、法の現象面から本質に至るまでわかりやすく理解できるようになりました。

知的好奇心を触発し、探究的な学習をサポートする教科書

具体的な事例を切り口としながら、「なぜ消費者を保護するのか」とか「なぜ疑わしいときは被告人の利益とすべきか」など、「なぜ」という問いを立てることにより、現代的な課題を把握したうえで、これを法的な問題として捉え直し、探究的に学習を進められるように配慮しました。例えば、消費者教育においては、訪問販売などで被害にあったとき、「すぐにクーリング・オフを」というような生活にも役立つ対処療法的な情報が必要となりますが、本書は、それだけでなく、「なぜクーリング・オフが認められるようになったのか」という問いを立てることにより、契約の本質にまで踏み込んで解説しています。

法の機能を重視し、法というものの見方や考え方を養うことができる教科書

「忘れられる権利」の保障の可否など、権利と権利の衝突という紛争解決の場面を設定し、どのように問題を解決すべきかを考えていくことができるように記述しています。裁判において当事者がそれぞれどのような主張をしているかを検討し、適切な紛争解決のあり方を考察することによって、法というものの見方や考え方を養うことができます。また、裁判員制度など、刑事司法過程においては、被疑者や被告人の権利保障など、憲法による「適正手続」の保障の要請の意味を真摯に考えられるように配慮した記述を心がけました。

さらに、男女平等の理念をどのように実現するかを考える際に、立法や行政、司法の役割を具体的に取り上げ、検討しています。三権分立を暗記の対象として捉えるのではなく、雇用における男女の平等をいかにして実現できるかなど、法の機能を重視した記述を行っています。

 

基礎知識編とテーマ学習によって構成される教科書

それでは、次に、「法」に関連する各項目を取り上げ、教授法や学習のヒントについて説明してみましょう。

1 法と社会

<基礎知識編>では、法という社会規範の特質のほか、法の支配や立憲主義、法の体系について解説しています。

<テーマ学習①>は、「『忘れられる権利』は認められるべきか?」というテーマが取り上げられています。スマートフォンやパソコンが急速に普及し、誰もがインターネットにアクセスできるようになった時代を背景に、「忘れられる権利」と呼ばれる権利がなぜ主張されるようになったのかを考えます。インターネットの検索エンジンがもたらす利便性とその問題を把握したうえで、これを法的な問題として捉え直し、権利の衝突とその調整について考えることで、法的なものの見方や考え方を養うことができます。

<DISCUSSION>では、インターネットの検索エンジンで自身の過去の犯罪歴が出てきてしまうとき、そのような過去を消去してほしいという訴えが認められるか、が問われています。すでに罪の償いを終えている場合、あるいは政治家などの著名人である場合に、自分の犯罪歴などの個人情報の削除は認められるべきでしょうか。その基準なども明らかにしながら大いに議論してみるとよいでしょう。

教育図書 公共 p48-49

<テーマ学習②>は、「雇用における男女平等」を切り口にして、「男女平等は法で実現できるか?」というテーマを取り上げました。本テーマでは、法の持つ多面的な役割を理解するとともに、男女平等という基本的価値が雇用においてどのように実現するのかを考えます。男女平等という基本的価値が憲法や条約に取り込まれ、さまざまな法律に充填されることによって社会的な変革を促していくプロセスをダイナミックに学ぶことができます。立法・行政・司法の三権がたんなる暗記の対象ではなくなり、現実の社会で三権がどのように機能しているかが見えてくるという点でも重要な学習となります。

<DISCUSSION>では、「法の下の平等」を達成するために、最高裁判所が違憲判決を下した事例を調査するように求めています。どのような事件において違憲審査権が行使されているか、調べてグループで発表してみるとよいでしょう。裁判所は、人権の保障のためにどのような活動を行っているかも考えてみるとよいでしょう。

 

2 契約と消費

<基礎知識編  多様な契約>では、契約の意味と種類、契約自由の原則とその例外、紛争の解決などに関わる基本的な語句を解説しています。とくに2022年から始まる18歳成年については大きく取り上げています。

<テーマ学習①>は、「なぜ未成年者は自由に契約できないのか?」という論点を掲げています。契約の拘束力の根拠は、申し込みと承諾という自由な意思の一致に求められますが、詐欺や強迫によって結ばされた場合は、その契約を履行しなければならないのか、あるいは、未成年者の契約に対し取消権が認められるのはなぜか、という問題を考えながら、私たちの社会が私的自治を原則としていることの意義とその限界を探究します。

<DISCUSSION>では、未成年者ができる契約とできない契約の違いを調べたり、未成年者は法的に意思能力が十分でないとされる理由を考えたりすることが要求されています。いずれのケースも調べたことをグループ内で発表し、話し合ってみましょう。

公共,教科書,法,契約

教育図書「公共」p52-53

 

<基礎知識編  消費者の権利と責任>は、前項の発展的な学習のページとなり、消費者の権利の歴史的な展開、消費者を守るための法律と組織について解説しています。また、商品に関する情報の非対称性や依存効果などが取り上げられ、よき消費者になるためのヒントが書かれています。

<テーマ学習②>は「消費者はどのように保護されているのか?」を取り上げます。一見、消費者の意思で申し込みがなされているように見える契約も、その実態を見ると、その意思が本当の意思なのかどうかが疑わしいケースが見られます。なぜ現代の消費社会において、契約による被害を救済するための特別法が制定されるようになったのか。このテーマについて論理的に考えながら消費者保護の本質と消費者の権利がどのような制度のもとで保障されているかを探ります。

<DISCUSSION>では、インターネット通販でクーリング・オフが認められない理由を考えてもらいます。クーリング・オフが認められている訪問販売などと比べ、インターネット通販にはどのような特徴があるのでしょうか。契約を結ぶ点では同じですが、その契約を締結しようとする環境はどのように違っているのでしょうか。ぜひ考えてみてください。

3 司法と裁判

<基礎知識編 日本の司法制度>では、司法権の独立、裁判の種類、違憲審査権を解説しています。コラムとして司法制度改革が取り上げられています。

<テーマ学習①>は、「刑事裁判と民事裁判の違いは何だろう?」を取り上げています。信号無視、スピード違反、飲酒運転によって引き起こされた交通事故について、加害者にはどのような責任が発生するかを考えます。また、「刑罰は何のために科されるのか」を取り上げ、刑罰の意義を論理的に明らかにしていきます。そのうえで、刑事裁判における大原則である「罪刑法定主義」と「適正手続の保障」を取り上げ、刑事司法においてはなぜ刑事手続が重視されなければならないかを探究していきます。犯罪が発生した後、「犯人が逮捕されました」という報道がなされるときがありますが、このような報道にはどのような問題が潜んでいるかも理解できるようになるはずです。

<DISCUSSION>では、刑事と民事の裁判の違いを考えてみることが求められています。刑事責任と民事責任を問う場合、それぞれの裁判の目的に即して考えてみましょう。また、死刑を刑罰の一つとして捉えたとき、何のために死刑が設けられているのかを考え、そのうえでクラスメイトと話し合いをするとよいでしょう。

<基礎知識編 国民の司法参加>は、司法への参加制度が取り上げられ、裁判の公開、最高裁判所裁判官に対する国民審査、裁判員制度、検察審査会、被害者参加制度について解説しています。

テーマ学習②は、「なぜ疑わしいときは被告人の利益とすべきか?」というテーマを取り上げています。「無罪の推定」とは、検察官が犯罪事実の存在を合理的な疑いを入れない程度にまで立証しない限り、被告人を有罪とできないという原則です。刑事裁判は、国家権力を担う検察官が一個人である被告人の刑事責任を追及する仕組みであり、そこには圧倒的な力の非対称性がみられます。なぜ被告人や被疑者に黙秘権が保障されるのか、あるいは「無罪の推定」が認められるかを刑事手続きの原則から論理的に考えてみるとよいでしょう。

<DISCUSSION>では、被疑者や被告人に黙秘権が認められている理由を考えます。自分の感覚を大切にして率直に意見を述べるとともに、なぜ憲法が「自己に不利益な供述を強要されない」(第38条①)と定めているのか、クラスメイトとともに話し合ってみてください。

教育図書 公共 P66


とっつきづらく自分事として体感しづらい法関連分野の学習も、生徒が身近に感じられるようなテーマを選び、知的好奇心をかきたてる「問い」を立てることでアクティブな授業にすることは十分可能です。
教育図書の「公共」教科書が、そのための一助となれば幸いです。

(了)

 

 

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教科書の内容解説資料を見る

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公共の解説動画はこちら

「心が動かされる教科書を作りたい」公共教科書・経済分野執筆者による解説

 

鈴木寛×佐渡島庸平「なぜ僕たちは公共の教科書を作ったのか?」

 

「公共」で経済をどう扱うか ―現場のアクティブ・ラーニング論―

 

吉田俊弘

1955年新潟県生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科および教育学研究科修了。東京都立高校教諭、筑波大学附属駒場中高等学校教諭を経て、大正大学名誉教授。早稲田大学・東京大学非常勤講師も務める。専攻は法教育、憲法教育論。著書に『探検する憲法――問いから始める道案内』(共著)、『未来の市民を育む「公共」の授業』(共著)ほか多数あり。高校の公民科教科書の執筆・編集にも携わる。

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