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家庭科 NEWS

新しい学習指導要領と家庭科 -令和4年度家庭科教科書執筆者による解説

令和2年の小学校,令和3年の中学校に続き,いよいよ令和4年度から高等学校でも新しい学習指導要領の教科書が使用されます。今回の指導要領のポイントと家庭科との関係について,教育図書高等学校家庭科教科書の監修者である,東京学芸大学名誉教授の小澤紀美子先生にお話を伺いました。

令和4年度高等学校「家庭基礎・総合」教科書/教育図書

この度,大きく教育課程が変革されました。いわゆる受験学力ではなく,「“生きる力”に磨きをかけ,しっかりと“根っこ”を育み,持続可能な社会の創り手を育成する」ということが打ち出されました。文部科学省はいきなり,方向を変えたのではなく,この方向性については1996年から議論されていたことで,約25年かかっています。

新しい指導要領(平成30年告示)においても,小・中・高校ともに,前文で「持続可能な社会の創り手を育成する」という理念が示されました。それと同時に,2015年には国連のサミットで「2015年から2030年までの長期的な開発の指針として、『持続可能な開発のための2030アジェンダ』」が採択されました。この文書の中核を成す「持続可能な開発目標」をSDGsと呼んでいるのです。その中の「4.質の高い教育」の目標(すべての人々に包摂的かつ公平で質の高い教育を提供し,生涯学習の機会を促進する)が注目されています。また,ユネスコ平和と持続可能な開発ウィークにおいては,「SDGs達成に向けたESD(持続可能な開発のための教育)の重要性について言及されました。

持続可能な社会のための教育の歴史は,『環境教育(EE)』から『持続可能な開発に向けた教育(ESD=Education for Sustainable Development)』を経て『ESDの実践を通してSDGsへ貢献する』と変化してきたのです。

 

  • 現代社会の問題点と教育

今の時代の課題は「“外なる自然”の破壊“内なる自然”の破壊である」ととらえています。“外なる自然”の破壊とは現代の地球環境の危機的状況のことで、“内なる自然”の破壊とは神谷恵美子さんが述べていることにヒントを得て(神谷恵美子著作集2『人間をみつめて』)人間性の解体ととらえています。今の社会は効率化重視の社会システムによってさまざまな「分断」が起こっています。みなさんも「壁」がこれまで以上に顕著になっていると感じているのではないでしょうか。また,地球環境の危機的状況の裏には,グローバル化や高度情報化があると考えられています。

今回の新型コロナウイルス(COVID-19)についても,ここまで蔓延してしまった要因に,自然との関わりの希薄化自然破壊があるのではないかと考えています。

日本の子供たちの自己肯定感の低さは,以前から指摘されている問題です。それは一体なぜでしょうか?自己肯定感は,他人との関係の中で築かれるものではないでしょうか。ここに,友人や同僚など家族以外の人と交流が無い人の割合を比較した調査があります。その割合を見ると,OECD加盟国(20か国)の中で,日本は他の国と比べて最も高い結果が出ています。

 

「家族以外の人」との交流が無い人の割合

(注)友人,職場の同僚,その他社会団体の人々との交流が「全くない」または「ほとんどない」と回答した人の割合

(OECD「Society at a Glance2005edition」より作成)

このように見ると,コミュニティの再生・共創こそが処方箋なのではないかと感じます。他者との交流や人との関係づくりは,これまで以上に困難になっています。そう考えると,オンライン授業だけで良いのか?と疑問を覚えてしまいます。

 

  • 今の時代の学びに重要な要素

中教審第一次答申(1996年)によれば,求められていることは一言でいえば「不易流行」です。「不易」は時代を超えても変わらない価値のあるもの,「流行」は変化の激しい不確実性の高い社会へ柔軟に対応できることです。21世紀に入ってもう20年が経過しました。この変化の激しい時代,不確実性の高い社会をこれからの生徒さんたちは生きていかなければなりません。そのためには柔軟な対応が求められます。そのような中で「総合的な学習の時間」が2000年から始められ,「生きる力」の重要性が示されたのです。「生きる力」は,単に過去の知識を記憶しているということではなく,自分で課題を見つけ,自ら考え,自ら問題を解決していく資質や能力ということでしょう。そこで高校の新しい教育課程では『総合的な探究の時間』と「探究」が付加している意味を考えて下さい。

今の情報化社会においてとても重要な要素は,理性的な判断力や合理的な精神だけでなく,美しいものに感動する柔らかな感性や,正義感,公正さを重んじる心,生命を大切にする人権尊重などの基本的な倫理観なのだと思います。

 

  • 家庭科教育に求められるもの

家庭科は,家政学をベースとした「生活」にかかわる事象を包摂的に扱うことができる貴重な教科です。「家庭科で何を学ぶか」は教科書に書いてありますが,それだけではなく「どう学ぶか」がとても重要です。

家庭科教育の魅力は,社会に参画し,家庭生活とともに身近な人々とよりよい人間関係を築くための「コミュニケーション力」を身につけるというところにあります。また,学んだことを活用する力や,社会で自立的に生きる力を養うことができます。さらに,資源や環境に配慮したライフスタイルについて考え,自ら作り出すことができます。地域や日本の暮らしの知恵と豊かさを継承し,発展させる力を育むこともできるでしょう。そのようなところに家庭科教育の魅力があると考えます。

 

  • 持続可能な社会・地域づくりに向けて必要なものは?

1972年のストックホルムで開催された国連人間環境会議の人間環境宣言の前文で「自然環境と人為的(人工的)環境は,共に人間の福祉,基本的人権ひいては生存権そのものの享受のために基本的に重要」であり,「人間環境を保護し,改善することは世界中の人々の福祉と経済発展に影響を及ぼす主要な課題」と,持続可能な社会づくりへむけての方向性が示されました。このことは,「人と自然」「人と文化」「人と歴史」「人と地域」「人と社会・経済」「人と地球との関係」を再構築して,持続可能な社会づくりにむけて,環境的側面にのみならず,社会文化的な関係性,経済的な意味づけを考慮して行動できる市民を育成することと解釈できます(下図参照)。

私たち一人ひとりの「生活の質(Quality of Life)」を向上させることも同時に求められており,家庭科の重要性はこれまで以上に増しているのです。

持続可能な発展に向けて

今回,持続可能な社会づくりに向けて,『生活の質』を向上させるという視点から新しい教科書を作成しました。ぜひお手にとってご覧ください。

 

今回のお話の動画も以下よりご覧いただけます。

教科書の詳細はこちらから!

 

教科書紹介パンフレット

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小澤 紀美子東京学芸大学名誉教授

文部科学省・環境省にて、小中高教育に係わった後、現職。
こども環境学会会長、日本環境教育学会会長、
NPO 法人こども環境活動支援協会代表理事などを歴任。
専門は、住環境教育、環境教育。

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