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公共 NEWS

工藤勇一×鈴木寛「これからの学校の話をしよう」part4最終回

校長として麹町中学を大胆に改革し大きな話題を集めた工藤勇一氏。政治家、研究者として長年、教育改革に尽力してきた鈴木寛氏。お二人の対談をお届けします。

PART1 工藤勇一×鈴木寛「これからの学校の話をしよう」
PART2「教育はサービス産業産業ではない」「自己決定できない日本人」
PART3 「世界基準からずれた日本の教育」「コミュニティ・スクールはなぜうまくいかないのか」

最終回PART4では、これからの学校の理想像について何を最上位の目標とすべきか、議論を深めていただきました。

左/鈴木寛氏、右/工藤勇一氏。対談は11月2日にオンラインで収録された。

民間と公教育はどう連携していくべきか

工藤:今日のテーマは「これからの学校」というお話ですが、とにかく今の学校教育はいろんな意味で時代にマッチしていないことが多い。明治から150年大きな部分は変わっていないのが大問題だと思います。

たとえば一斉講義型の座学中心の授業は、テクノロジーが進化した現代においてはデメリットの方が多い。もっと子どもたちの個性にあったやり方が可能なはずです。読んだり書いたりすることが苦手な生徒には、音声や映像で学ばせた方がずっと効率はいいはずです。実際に民間の教育は、それを取り入れてどんどん進化しています。ところが大学の教育学部で教えているのは、いまだに板書の書き方だったり、一斉講義型の学習指導案の立て方だったりするわけです。

鈴木:まったくその通りですね。私も講演の度に言っているんですが、学校の先生はもう授業案なんて作らなくていい。たとえばNHK for Schoolという番組とウエブサイトがありますが、これは本当によく出来た教材です。一流のスタッフと出演者が作っていますからクオリティはかなり高い。授業でこういったものをどんどん活用していけばいいと思います。ただし、その後こそが先生の腕の見せ所です。生徒から湧いて出てくる質問、学習意欲にどう答えるか、生徒ひとりひとりの学びをどうしたらより伸ばしていけるか、これこそが先生の役割なんですね。だから先生はいろいろな引き出しを持って、それに応えていかなければならない。

工藤:それから授業や科目や内容も、ニーズに合っていないものが多い。この間高校の理科の授業を見ましたが、遺伝子に関するかなり高度な内容を扱っていました。教科書に載っている内容もどんどん増えています。また現代において古文や漢文を必修科目にする必要があるのかも疑問です。学問として重要であることは理解しますが、全員が学ぶべきことでしょうか。

子どもたちは、常に勉強しろというプレッシャーの中にいて、自律や主体性がどんどん失われています。限られた時間のなかで、どうしたらミニマムに効率よい教育ができるか、という発想がそもそもないんですね。これは一般の民間企業であれば、普通にやっていることです。だからまず学校教育のあり方、考え方を一般社会のそれに近づけることから変えていきたい。

また教員も同様です。今の流れは教員資格のハードルを上げる方向に動いていて、大学院卒の高学歴を求める傾向にありますが、私の考えはまったく逆です。校長が認めたら、民間企業の社員でも経営者でも、研究者、専門家をどんどん学校に入れて、門戸を広げるべきだと思います。

鈴木:民間との連携については、賛否両論さまざまな議論がありますが、公と民を対立させるアジェンダの立て方がそもそも間違っていると思います。今日のお話のキーワードは「自己決定」ですが、誰が決定するかを問うべきです。文科省が決めたということは、つまり国会が法律で決めたということですが、国会と学校の現場は、かなり遠いところにありますよね。これを可能な限り学校が自己決定できるようにしていくために、何が必要なのかを問うべきなんです。私は経産省の出身ですが、文科省と比べれば課長や係長の裁量が大きい役所だったと思います。文科省は背負っているものがとても大きいこともあり、大臣ですら容易に自己決定できず、なかなか前に進んでいかない。このことからも分かるように、民間の方が国や地方自治体よりも、自己決定力が強い。その力を取り入れることで学校現場が独自の判断でより良い学校を作っていく可能性が高まる。そういう観点で、この問題は考えるべきだと思います。


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学びとは学び方を学ぶこと

鈴木:今日のお話のもうひとつの重要ワードは「最上位目標」ですね。つまり物事を上位と下位のレイヤー構造として捉えることが、重要だという工藤先生のご指摘は、まったく同感です。「学びとは学び方を学ぶことだ」とすずかんゼミでも教えていますが、個別の事柄を暗記しても学んだことにはならなくて、その上位にある概念を掴まなければならない。そうすることで今目の前に起こっていることをひとつ上のレイヤーから見ることができる。これが本当の学びだと思います。

とくに数学はこのレイヤー構造を学ぶための学問です。あるいは法律もそうです。憲法、基本法、法律、政令、省令、県の条例、市町村の条例、さらに学校規則にいたるまですべてレイヤー構造になっている。最上位から個別具体の下位まできれいにつながっているわけです。最上位の概念さえしっかり把握しておけば、さまざまな領域で応用できるんですね。この抽象度を上げた概念思考、あるいは哲学的思考の面白さは、これからの教育で重視されるべきですね。実際、慶応義塾大学で私がやっている公共哲学の講義は、最近受講生が急増しており、抽象的思考への関心が高まってきているという実感があります。

工藤:なるほど、とても勉強になります。私はもともと数学の教師で哲学にも関心が高かったので、物事を階層で考えるということはおそらく自分の中で習慣化しているように思います。

階層化できていないことで、教育現場でもいろんな混乱が起こっているように思います。たとえば習得主義と履修主義のどちらを取るか、という議論がありますが、これは本来、二項対立ではなく違う階層にあるものです。習得主義が上位にあり、その下に履修主義があるはずです。「誰ひとり取り残さない教育」を掲げるのであれば、学習内容がどれだけ身に付いたかを重視する習得主義に立つはずです。その前提の下に授業時間、出席日数を重視する履修主義をどうするか、という問題設定があるはずなのに、なぜか全員横並びの履修主義vs個別最適化の習得主義という二項対立で問題が語られてしまっています。

麹町中学では、数学で先生が教科書を使って一斉に教えるという授業はやめました。教材も生徒が自由に選び、問題集を使う子もいれば、塾の教材で勉強する子、教科書を使う子などさまざまです。先生はそれぞれの生徒が解からないところを教えています。その結果、どうなったかといえば全員の学力が向上しました。数学が得意な子どもは、教科書レベルであれば20時間くらいでマスターしてしまいます。1年生で3年生のレベルまで行く生徒もいるほどです。一方で数学が苦手な生徒もいます。同じ授業を受けていなくても、同じ教室で学ぶことでクラス内でいろんなアクションが起こり、さまざまな学び合いが行われています。この授業スタイルで誰一人取り残さない教育を実現できています。同時に先生の負担も大幅に軽減することができました。文科省が定めた数学の年間授業時数は140時間となっていますが、履修主義にこだわり全員に同じ授業を行うことがいかに、時間の無駄か分かると思います。

今日はいろいろお話させていただきましたが、やはり日本の教育は時間とお金の無駄が多い。改革すべき点はたくさんあり、もはや待ったなしだと思います。私がお役に立てることがあれば、どこへでも行きお手伝いしたいと考えています。

鈴木:今日はこうした機会をいただき、多くの部分で工藤先生と問題意識を共有できて、とても心強く感じました。これから横浜創英をどんな風に改革していかれるのか、とても楽しみにしています。

工藤:こちらこそ、渋谷区でのご活躍を楽しみにしています。私に何か協力できることがあれば、ぜひ、お声かけください。どうもありがとうございました。

工藤勇一

学校法人堀井学園 理事/横浜創英中学校・高等学校 校長
1960年山形県生まれ。東京理科大学理学部応用数学科卒業。山形県公立中学校教員、東京都公立中学校教員、東京都教育委員会、目黒区教育委員会、新宿区教育委員会教育指導課長を経て2014年千代田区立麹町中学校校長。20年4月から現職。内閣官房教育再生実行会議委員。著書に『学校の「当たり前」をやめた。―生徒も教師も変わる! 公立名門中学校長の改革―』(時事通信社)、『麹町中学校の型破り校長 非常識な教え』(SB新書)、『麹町中校長が教える 子どもが生きる力をつけるために親ができること』(かんき出版)ほか多数ある。

鈴木寛

東京大学公共政策大学院/慶應義塾大学政策・メディア研究科教授
1964年兵庫県生まれ。東京大学法学部卒業。通商産業省、慶應義塾大学助教授を経て参議院議員(12年間)。文部科学副大臣(2期)、文部科学大臣補佐官(4期)などを歴任。教育、医療、スポーツ、文化、科学技術イノベーションに関する政策づくりや各種プロデュースを中心に活動。現在、大阪大学招聘教授、千葉大学医学部客員教授、神奈川県参与、OECD教育スキル局教育2030プロジェクト役員、World Economic Forum Global Future Council member, Asia Society Global Education Center Advisor, Teach for All Global board member、日本サッカー協会理事、ユニバーサル未来推進協議会会長なども務める。2020年より渋谷区参与。1995年より今も続く私塾「すずかんゼミ」では多数のIT・メディアベンチャー、社会起業家、アーティスト、教育改革者などを多数輩出している。

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